「「「「できたー!」」」」
放課後の整備室に、私達の声が響いた。
いやー、いつもは陸君や簪ちゃんが作った武装を私が試してたけど、たまには開発側に回るのも悪くないわねー!
あら? シャルロットちゃんどうしたの? すごい目がブラックホールになっちゃってるけど。
「これ、僕が乗るんだよね……?」
「そりゃそうだろ、デュノアのISなんだから」
「うん、キャノンボール・ファストで優勝する、そのための『第1回・リィン・カーネイション改造大会』」
「もうこれで、でゅっちーの勝利は揺るがないね~」
「ええ~……」
シャルロットちゃんが胡乱な目でこっちを見てくるけど、正直お姉さんも本音ちゃんと同意見よ。セシリアちゃん達の実力もある程度把握してるから言えるけど、この機体ならまず優勝は固いわね。
「あんなトンデモナイ改造機で飛ぶ僕の身にもなってよぉ……」
「「「え?」」」
「え?」
私達の目が点になった。シャルロットちゃんの目も点になった。
「トンデモナイ改造機って、大して弄ってないだろ。なぁ簪?」
「うん。今回はレースだから、機動力を上げる改造だけで武装追加とか全くしてないし」
「むしろ、りったんは手持無沙汰だったんじゃないかな~って」
「そうねぇ、実際1時間ぐらいで終わっちゃったし」
「おかしいっ! この人達絶対おかしいから! えっ、まさか僕の方がおかしいの!?」
頭を抱えて混乱してるシャルロットちゃんを見てると、前世の自分を思い出すわねー。私も虚から『打鉄弐式が1日で組み上がった』って報告を聞いて絶叫したもの。
「まあ武装とか据え置きの分、機動力……というより、速さに関してはガッツリ手を入れたわけで」
「これにはクーガー兄貴もニッコリ」
「情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さは、でゅっちー自身に補ってもらうとして~」
「何それ日本のことわざか何か!?」
「3人とも、『スク〇イド』ネタは必修科目じゃないから、当たり前のように使わないように」
そう私が注意してる間にも、展開されていたリィン・カーネイションが待機状態になり、シャルロットちゃんのペンダントに戻る。それじゃあ後は……
「な、何はともあれ、改造自体はありがとう。それじゃあ僕は……」
「のほほん」
「ばっちり~、第4アリーナを予約済み~」
「そういうことだから」
――ガシッ
「へっ?」
いっそ可哀そうなぐらい怯えた声を上げるシャルロットちゃんだけど、その程度で掴んだ腕を離す簪ちゃんじゃない。むしろ平常通りの顔で
「テスト飛行、行くよ」
「れっつご~」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
まるで『お前は最後に殺すと約束したな あれは嘘だ』と言われた時みたいな絶叫を上げながら、シャルロットちゃんは簪ちゃんと本音ちゃんに引き摺られていった。
「別に、拷問するわけでもないんだがなぁ」
「そうなんだけどねぇ。何分この世界じゃ、陸君の技術力は篠ノ之博士レベルに理解が追い付かないものが多いから」
「俺は束ほどぶっ飛んじゃいねぇぞ……」
周りに誰もいないから博士の名前を出したりしたけど、向こうも陸君にぶっ飛んでるとか言われたくないと思うわよ? 以前博士と2人で話をする機会があったけど
『りったんの技術というかアイディアぶっ飛びすぎ。光子対消滅反応魚雷? 月光蝶? 知らん、何それ怖……』
とか言われてたし。それと
『学園祭の映像、ハッキングして見てたけどさぁ……りったん自体が怖っ! いくらいっくんが相手だったからって、絶対防御以外の機能ほぼほぼ切った状態で完勝とか何それぇ!?』
私から見ても、結構ガチで慄いてたわよ。……陸君でこれなら、私と簪ちゃんが尸解仙だってことがバレた時には博士、白目剥いて卒倒するんじゃないかしら?
ーーーーーーーーー
シャルが更識さんにお米様抱っこされて姿を消した翌日、食堂のテーブル席に座る俺達の前には
「……」
「シャルロットさん?」
まるで生気が抜かれたかのようなシャルロットの姿が。いや、朝からずっとこんな調子なんだが。
セシリアが揺すってもまるで反応なし。鈴やラウラが肩を叩いてみてもだ。い、一体あの後何があったんだ……?
「しかし、こんな調子で山田先生はともかく、千冬さ、織斑先生によく注意されなかったな」
箒も首を傾げているが、俺は知っている。千冬姉がシャルを見た時、叱るどころか憐みの視線を向けていたことを。いや、マジで何があったんだよ?
そんな感じで皆が首を傾げていると、やっとシャルが動き出し……
「……ねぇ、一夏……」
「ど、どうしたんだシャル?」
突然呼ばれて、動揺しながらも聞き返した俺に、シャルは片方の口角を上げて
「僕達が今まで乗ってたISって、何なんだろうね……」
「しゃ、シャル?」
「vanitas vanitatum et omnia vanitas……」
「ばに……え?」
「ちょっとアンタ本当に大丈夫!?」
それでもシャルは、皮肉めいた微笑をこちらに向けてくるだけ。目の焦点も合ってない。
「ええいっ! いい加減目を覚ませ!」
――スコーンッ!
「へぶっ!」
「「「「ええっ!?」」」」
ら、ラウラ!? さすがにカラトリーケース(ラウラが注文したステーキに付いてきた、フォークとナイフが入ってたあれ)で殴るのは……
「あぅぅ……はへっ!? こ、ここどこ?」
「おおっ、元のシャルロットに戻ったぞ!」
「うっそぉ……」
「完全にギャグ展開ですわ……」
箒が驚き、鈴とセシリアが唖然とし、殴ったラウラが胸を張る。どうしてこうなった? っていやいや! まずはシャルのことを気にしなきゃ!
「おいシャル、大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫……ごめんね、ちょっと昨日、色々ありすぎて……」
「マジで昨日、何があったんだよ……」
「あはは……更識さんと模擬戦というか、模擬レースをしただけだから……」
「模擬レースって、キャノンボール・ファストの練習か? 本当にそれだけか?」
「ほ、本当にそれだけだから。うん、それだけ、それだけ、それだけ……」
「だ、大丈夫なのこれ……?」
「むしろ、わたくし達からは触れない方がいいかもしれませんわ……」
俺もセシリアの意見に賛成だな。下手に話を聞こうとして、地雷を踏みそうな気がする。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「ということがあったんだよ」
「さもありなん。しばらくはそっとしておけ」
その日の夜、千冬姉に呼ばれて寮監室でシャルの話をしてみたところ、そんな言葉が返ってきた。千冬姉は事情を知ってるっぽいんだが、俺に話す気はないようだ。
「それで? 聞きたかったのはそれだけか?」
「デュノアのことが半分、そして……残りはお前のことだ」
「俺の?」
「ああ。……正直に答えろ。一夏、お前はキャノンボール・ファストに出場したいか?」
「出場したいかって? いや、特に出ない理由が」
「ほう、なら『白式』に乗って出るんだな?」
「ぁ……」
改めて聞かれて、俺は答えに窮した。
自由国籍のこととかもあったが、本当に俺が気にしていたのは『また白式に乗らなければならない』ってことだった。
学園祭の時、あれほど『信用出来なくなった』とか言っておいて、まだ俺は、その白式に乗ってISのレースに、キャノンボール・ファストに出ないといけないのだ。
「……正直、出たくはない。いや、出たくないんじゃない。白式に、『倉持技研の機体に乗りたくない』んだ」
本当は声を大にして言いたくて、それでも周りの気持ち――入学当初は分かってなかったけど、皆、ISに乗りたくて、自分の専用機が欲しくてこの学園に来てるんだよな――に気付いて、胸の内にしまい込んでいたこと。
千冬姉から『正直に答えろ』と言われ、絞り出すように答える。
「……そうか」
そんな俺に、千冬姉は怒らず、ただただ頷いた。
「お前の正直な気持ちが聞けて良かった」
そしてフッと笑っていたのが真顔になり、
「本来なら、お前も私も今頃はイタリア国籍を得て、お前も白式ではなくイタリア企業の専用機に乗っているはずだった。それをあのレイモンドの妨害があったとはいえ……すまない」
「ち、千冬姉!?」
まさか千冬姉が、俺に向かって頭を下げて謝ってくるなんて……!
「なんだ、私がお前に謝罪するのがそんなにおかしいか?」
「いや、だって……」
「イタリアの役人どもが国籍移動の保留を口にする前に奴を殴って、意識を飛ばしておけばよかったんだ。私の落ち度なのだから、謝るのは当然だろう」
「あ、そこなのか」
目も口も笑ってないあたり、本心なんだろう。
「ま、まあとりあえず、キャノンボール・ファストは出場するよ。それさえ乗り切ればいいって分かってるだけマシだ」
俺も本心を外に出したからか、今度はすんなり口に出すことが出来た気がする。傲慢な言い方になるが、それまで白式に乗ることを"我慢"すればいいだけだから、気持ちは多少楽だ。
だが、そんな俺に千冬姉は首を振った。
「いや、その必要はない」
「え?」
「キャノンボール・ファストは高速バトルレースだ。今までの模擬戦とは違って、一瞬の操縦ミスがコースアウトからの負傷に繋がる。信が置けない機体に我慢して搭乗しても、碌なことにならん」
「いやでも、だからって欠場するわけには……」
「いいや」
ニヤリッ、と千冬姉が笑った。
「私に一つ策がある。もし日本政府や倉持の連中が抗議してきても、問題のない策がな」
「そ、そんな策があるのかよ?」
「ああ」
そしてその策を聞いた俺は
「( ゚д゚)チ、チフユネェ?」
とても情けない声と顔をしていたと思う。
リィン・カーネイション、改造完了!
内容については次回以降、レース本番で。
そしてすぐにテスト飛行するのは、前シリーズからの伝統ですね(笑
シャル、ᓀ‸ᓂ
なお、ちーちゃんは現場に出くわしていた(のほほんがアリーナの使用申請を出した相手がちーちゃんだった)ため、シャルがバニった理由を知っています。
『あんな機体に乗せて喜ぶか、変態どもが!』
次回、キャノンボール・ファスト当日(予定は未定)