キャノンボール・ファストの当日。市が運営するアリーナの観客席は熱狂に包まれていた。普段ISと接点のない俺達一般人にとって、キャノンボール・ファストはISを間近で見ることが出来る数少ないイベントだからな。
……で、そんな観客席をウロウロしている変なのがここに……
「……お兄」
「な、なんだよ?」
「まさか、迷子になったなんて言わないわよね」
「ま、まさかぁ……」
一夏からチケットをもらった俺達五反田兄妹は、さっそく迷子になりそうになっていた。蘭が俺をジト目で見てくる中、俺は内心冷や汗を流しながら空笑い。や、やべぇ……
しかし、そんな俺に救世主が――!
「弾君?」
「え?」
突然声をかけられて振り向くと、そこには学園祭で出会った、あの女性が!
「虚さん!」
「え、お兄の知り合い?」
「あら、ご家族の方ですか?」
「あ、はい! 五反田蘭って言います! 兄がお世話になってます!」
いやお前、いきなりその自己紹介はどうなんだよ。……確かに学園祭の時には、色々案内までしてもらってお世話になったけどよ。
「布仏虚よ。今は生徒会のお仕事で、来賓の方達の誘導をしているのだけど……チケットを見せてもらえる?」
「あ、はい」
携帯端末からチケットデータを表示して虚さんに見せる。
「今回も織斑君からチケットをもらったのね」
「はい。2人まで入れるって書いてあったので、それで妹と」
「そうなのね。えっと……L-81なら、向こうの中列になるわね」
そう言って指さす方を見ると、柱の上部に小さく『L』の字が見えた気がした。ああなるほど、そこを見ればよかったのか。壁際ばっかり見てて見逃してた。
「(お兄、迂闊すぎ)」
「(お前だって見逃してただろ)」
「ふふっ」
うっ! 蘭と小声で言い合ってたら、虚さんに笑われちまった。恥ずかしい……
これ以上変なところを見せちまう前に、お礼を言って席に――
「ごめんねのほほんさん、案内までしてもらって」
「いいよいいよ~。かずっちが迷子になったら大変だもんね~」
「僕、のほほんさんにそう思われたんだ……どっちかって言うと、のほほんさんの方が迷子になりそうだけど」
「え~? そんなことないよ~」
聞き覚えがある声な気が……は?
「……数馬?」
「へ?」
思わず声が出た俺に、男の方が振り向く。
やっぱり間違いねぇ! 『楽器を弾けるようになりたい同好会』の同志、御手洗数馬だ! なんで? どうしてお前がここに!?
「本音?」
「お、お姉ちゃん?」
「「は?」」
虚さんが多馬と一緒にいた女の子に驚きの表情を向けていた。その女の子も、虚さんを見て『お姉ちゃん』って……
「おい多馬、どうしてお前がここにいんだよ?」
「ぼ、僕はのほほんさんにチケットをもらったからだよ。弾の方こそ、どうしてここにいるのさ?」
「いや、俺は一夏の奴にチケットをもらって、でもお前が今日予定があるって言うから蘭と……」
俺も多馬もシドロモドロしながら言い訳っぽい説明をし始める。すると
「ええ~! 君とかずっちって、おりむーとお友達だったの~!?」
「おりむーって、もしかして織斑一夏のこと?」
「そうだよ~。私と同じクラスなんだ~」
おおう……さっきから情報過多で、何が何やら……
「えっと、貴方は本音の友達、ってことにいいのかしら?」
そんな中、いち早く頭の中の整理がついた虚さんが多馬に話しかける。
「は、はい。いつもはネットゲームで、リアルで会ったのは最近、学園祭に誘ってもらって――」
「か、かずっち~、それ言っちゃだめ~!」
多馬が口走った学園祭って、もしかしてIS学園のか? えっ、お前あの場所にいたのか!?
そして女の子の方が、顔を真っ赤にしてダボダボの袖で多馬の背中をパタパタと叩き始める。こ、これってまさか、女の子の照れ隠しってやつ、なのか……?
「お、お姉ちゃんこそ、そっちの人達とどんな関係なの~!?」
「関係って、だ、だだだだ弾君とはっ、学園祭で会って、蘭ちゃんはその妹さんでででで!」
虚さん! 虚さんも顔真っ赤にしてよく分からない反論始めたら収拾がつかないですから!
「だ、弾君とは……」
「かずっちとは……」
「「
「「ちょっと~~~~~っ!?」」
やめてぇ! 強制的に聞かされてる俺達まで恥ずかしい! ほらっ、他の観客達がこっち見てるから!
『次のレースは、専用機の部になります』
「あれ? 次のレース、専用機の部なのに……一夏さん、どこ?」
らぁぁぁぁん! 俺達のことは完全無視かよぉぉ!
『ここで、皆様にお知らせいたします。専用機の部に出場予定だった織斑一夏選手ですが、急病により欠場となりました』
「急病!? 一夏さん!?」
ーーーーーーーーー
「け、欠場だとぉ!?」
来賓席に座っていたレイモンドが勢い良く立ち上がる。そして奴の目が、私の方を向いた。
「どういうことですか織斑千冬! 織斑一夏が欠場など!」
「はぁ……放送を聞いての通りです。昨日の真夜中から発熱し、今朝確認した結果レース出場は危険の判断されました」
まあ実際は、保健室の先生に口裏を合わせてもらって、一夏を寮の部屋に押し込めただけなんだがな。まさか政府や倉持の連中も、一夏の体調を確認するために学園島へ乗り込んだりはしないだろう。
下手に機体トラブルだと言ったら、予備の機体を出されかねんからな。白式ではないにしても、倉持の息がかかった機体には乗せられん。
すると、レイモンドの隣に座っていた日本政府の役人がため息交じりにこっちを見てきた。
「はぁ……織斑先生、織斑一夏君をここに連れてきてください」
「は? ですから、やつは急病で」
「関係ありません。彼には"日本の専用機持ち"として、このレースに出場する義務があります」
「その通りだ!」
ゴミ役人の意味不明なセリフに乗って、レイモンドが臭い顔を近づけてくる。
「急病だろうが関係ない! 死んでもいいから我々のISに乗って優勝しろぉぉ!」
――ぐしゃぁぁぁぁ!
「ごぺあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「お、お前なに」
――ゴスッ!
「おぺっ!」
レイモンドが潰れたカエルのように床へ突っ伏し、ゴミ役人が一瞬浮いたまま壁に激突、重力に従い床へ向かって落ちていく。そして私は、レイモンドに膝蹴りを、ゴミ役人には鳩尾に拳を叩き込んだ姿勢で停止していた。
(ああ、やった……)
堪忍袋の緒が切れた結果とはいえ、無駄に権力だけある奴らにやらかしてしまった。減給で済めがいいのだが……
そんな私を見ながら、アメリカ政府の来賓が頭を掻いた。
「ん~……ミズ・オリムラ、蠅でも飛んでいましたかな?」
すると、中国の来賓も
「ああ、さっきまで特大のが飛んでましたよ。それを彼女が見事な一閃で叩き落してましたね」
「ぶひぶひ、いえブンブン五月蠅かったですから、落としてもらえて何よりですよ」
さらにドイツの来賓も乗っかり、来賓席にいた全員がHAHAHAと笑い出す。どうやら、私のやらかしを"無かった"ことにしてくれるようだ。なら、私もありがたく乗らせていただこう。
「お騒がせいたしました。開催地である『日本の来賓』が来られる前に処理しておきたかったもので」
『そこでノびてる阿呆は日本の来賓ではない』と言ってるに等しいセリフに、先ほどの笑い声がドッと大きくなった。これは彼らから見た私の評価の表れなのか、それともレイモンド達の評価の表れなのか。
「おっと、そろそろ始まるようですよ」
イギリス来賓の声に、全員が私からコースに視線を移し始めた。
一夏を……いや、宮下と更識妹も除外されてるから、5人の1年専用機持ちがスタートラインに並ぶ。……何か言い争ってるようにも見えるな。大方、一夏が欠場することをこのタイミングで知って、あれこれ言いたいことを言い合っているのだろう。まったく……
やがて言い合いも収まったのを確認してか、シグナルランプが点灯する。そしてランプの色が変わった瞬間、5機が一斉にスタートダッシュをかける――
ーーーーーーーーー
スタートダッシュはセシリアがトップ、その後ろを僕と鈴、ラウラ、箒の順で追う形になった。
箒は専用機に乗り始めて日が浅いせいか、第4世代機の性能を生かし切れていないのかな? ラウラに関しては高機動パッケージを載せてるとはいえ、シュヴァルツェア・レーゲン自体が重装甲だし、仕方ない部分もある。
そしてそうなってくると、鈴の甲龍とセシリアのブルー・ティアーズが目下の敵ってことになるね。
「もらったわよ、セシリア!」
衝撃砲を連射しながら、鈴が前を行くセシリアに肉薄していく。その弾丸を横ロールで回避したセシリアの横を、加速した鈴が追い抜いていく。
「やりますわね!」
「へへーん! 追いつけるかしらぁ?」
「甘いよ鈴、セシリア」
「えっ、きゃあ!」
「あぶなっ!」
トップのセシリアを抜いて油断した鈴と、抜き返そうとこちらも油断したセシリア目掛けて、マシンガンの弾をプレゼントしてあげると、僕は一気に2人を抜いてトップに躍り出た。
「こんのぉ、待ちなさいよ!」
――ドンッ!
セシリアにやったように、僕にも衝撃砲を連射してきた。でも残念。
――ヒュンッ!
「そ、反れた!?」
「これがリィン・カーネイションの新武装、
実体弾はもちろん、レーザーの軌道すら曲げる、鉄壁の守り。今のところ機体前面にしか展開出来ない都合上、後ろ向きで飛ばなきゃいけないのが欠点と言えば欠点だろう。
……宮下君から設計図を買ったからって、こんなすごい武装と機体を2,3カ月で作るとか、自分の実家の会社ながらどうなってるんだろう。
「あ~もう! 全然当たらないじゃない!」
「まずいですわ! このままでは最後のストレートコースに――!」
セシリアが焦りだした通り、あとはゴールまで直線コースだ。このまま、
<<所定のコースを通過を確認>>
「へ?」
突然バイザーに表示された文字列に、変な声が出た。な、なにこれ? 僕、ナビゲートプログラムの類を入れた覚えないんだけど?
すると僕の心情を察知したのか、レースを邪魔しない程度に眼前に文章が表示される。
『もし日和って切り札を切らなかった時用に、ラストのストレートで自動起動するようにしておいた by宮下』
<<
リィン・カーネイションの背部に、僕の背丈の数倍はありそうな金属の塊――計13門ものブースターを無理矢理組み合わせたようなものが(勝手に)量子展開される。
「は、謀ったなぁ!」
宮下君は、僕がこの
<<ブースター、点火>>
「くそったれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「「はぁぁぁぁ―――――――――」」
後ろを飛ぶセシリアと鈴の声が、ドップラー効果のように聞こえて消える。
PICが効いてるはずなのに、まるで風圧に押されているかのように顔を引きつらせた状態で、僕とリィン・カーネイションは音速の壁を突破。ゴールをしても止まることなく、VOBが使用限界で自動パージされるまで地獄を味わうこととなる。
自分でパージ? ロックされてたんだよ宮下君のアホォォォォォ!!!
オリムラフレンズ×ノホトケシスターズ
前作では弾と虚だけが美味しい思いをしていたので、本作ではのほほんさんと御手洗君も裏イチャです。
同じモテないブラザーズなのに、弾だけ優遇されすぎだと思ったのは自分だけじゃないはず。
一夏病欠(保護者公認の仮病)
そしてレイモンド(と日本政府)のゲス度合いが光る回。
そして当の一夏はどうなっているかは次回にご期待。
僕らの考えた、最速のIS
シャル「だから僕を含めないでってば~!」
多少方向調整は出来たため、前作の箒達のようにエジプトの壁画にはならなかった模様。
※VOBの推進剤にコジマ粒子は使用されておりませんのでご安心ください
次回、お姉さんのターン。それと原作準拠でマドカが邪魔してきます。(淡々とネタバレ