第6話 入学初日、そしてこの世界の一夏
4月。日本では入学やら入社のシーズンであるこの月、IS学園も入学シーズンと相成っていた。
しかし今年は例年と違い、否、例年以上に上から下までドタバタが続いていた。
理由は簡単、『ISを起動させた男』が現れたからだ。しかも2人も。言うまでも無く、俺と一夏のことだ。
日本政府、というより倉持技研は研究対象として。そして女性権利団体は2人のうちの1人、自分達が崇拝する織斑千冬の弟を欲した。もう片方? 『男の穢れた手でISに触れるな! 死ね!』だそうな。
当然、他国も貴重なサンプルとして、俺達の引き渡しを要求していた。人身売買だろって思うが、連中曰く『世界規模の交流』とのこと。俺達当事者に拒否権は無いらしいが。
そんな話が出たらしいんだが、もちろん全て却下された。織斑千冬と更識家、槍峻さんにボコボコにされて。
『私の弟を研究サンプルになぁ……ふざけるなよ?』
『宮下陸君は、更識家に婿入りする予定の子なんですがねぇ。……ウチに喧嘩売る気ですかな?』
世界最強と日本の裏を取り仕切る男に睨まれ、倉持技研と女権団、各国のアホ共は沈黙した。そこから日本政府が助け舟を出す形で、IS学園入学が決まったそうだ。
ーーーーーーーーー
――IS学園、1年4組の教室
さて、前世に引き続きIS学園に入学した俺だが、居心地は‥…やっぱ悪ぃわ。
「陸、大丈夫?」
「おう。ある程度覚悟はしてたからな」
「あれが2人目の男性操縦者なんだってー!」
「1組の織斑君はハンサム系だったけど」
「こっちのワイルド系もいいかも~!」
教室内の女子生徒の視線が突き刺さる。しかも上野のパンダを見るかのような、好奇の視線ってやつだ。
前回も入学当初は、こんな視線を浴びせられてたなぁ。というか、ほぼ全員があの時と同じだからな。ある意味懐かしさすら覚える。
「簪はどうなんだ?」
「私は何もない。今回は代表候補生じゃないから」
「そうか。そのわりには、お前にも視線が集まってるみたいだが?」
「うん。……陸が原因」
「俺ぇ?」
「あの子、彼と仲良く話してるけど……」
「知り合いなのかしら?」
ああ、なるほど。俺に視線が向いてて、そこに簪もいるからか。でも俺、悪くないよなぁ?
「SHRを始めますよー」
教室の前ドアから教員が入ってくると、今まで騒がしかった教室が静まる。
「まずは皆さん、入学おめでとう。私が1年4組の担任になったエドワース・フランシィよ。よろしくね」
「「「「よろしくお願いしまーす」」」」
先生もお変わりなくってか。
「それじゃあさっそくなんだけど、皆に自己紹介をしてもらおうかしら」
そう先生が言うと、前回と全く同じように名前順で自己紹介が始まった。
そして1人2,3分もかからず進み、あっという間に俺の番に。どうすっかな~、無難に前回と同じでいいか。
「先月の全国検査に引っかかってIS学園に来ました、宮下陸です。趣味も特技も機械弄りです。これからよろしくお願いします」
「「「……」」」
あ、あれ? ノーリアクション?
「せんせー、宮下君への質問タイムが欲しいでーす!」
「許可します♪」
「うぉぉい!?」
なんかトンデモナイこと言い出したぞ!? ってか許可出すな!
「宮下君と更識さんって、どういう関係なの~?」
「それ、私も知りたかった!」
「さっきも色々話してたよね」
「あらそうなの?」
いや先生、あらそうなのじゃないから。
――ガタッ
えっ? なんか急に簪が席から立ち上がってこっちに……
「んっ……❤」
「むぅ!?」
「「「「え~~っ!?」」」」
か、簪さん!? 舌入れるのは無しだって! あっ、なんか
「陸は私の許嫁。誰にも渡さないからそのつもりで」
「さ、更識さん、かっこいぃ……」
「ダメだ、これは勝てない」
「ざんね~ん」
半分残念そう、半分ニヤニヤしながら、クラスメイト達は静かになった。いや、もうなんというか……
ーーーーーーーーーーーーー
「かんちゃ~ん、入学早々やらかしたみたいだね~」
「どうしてあんなことしたんだろう……」
「俺が聞きてぇよ」
前世で通い慣れた、今世では初めてのIS学園の学食。そのテーブル席で、今回も簪がかき揚げうどんを前に頭を抱えていた。
簪の『陸は私のもの』宣言によって、4組の話題は簪が総取りしていった。
おかげでクラス代表も、あれよあれよと簪に決まってしまった。お前ら、それでいいのか?
「かんちゃんがクラス代表か~。でも、専用機は使わないんだよね~?」
「うん。表向き、私は持ってないことになってるから」
「俺もだな」
入学に際して、俺はもちろん簪も専用機を申請していない。
待機状態のソフィアー達はうまく誤魔化したし、実技試験もラファールに乗って受けたしな。
「なぁ、ちょっといいか?」
「ん?」
知ってる声の方を向いた。おや、今回のファーストコンタクトは随分と早いな。
「あ、おりむーだ~」
「のほほんさんも一緒だったのか」
のほほんと話しているこいつこそ、言わずと知れた織斑一夏だった。
「俺は1組の織斑一夏だ」
俺への挨拶も最初のまんまだな。
さて、問題はこいつが、真っ白世界で見せられたようなクズかどうかって話だ。パッと見だと、前回の世界と変わらないように感じるが……
「4組の宮下陸だ」
とりあえずまた、前回と同じ返答をしてみた。
「よろしくな陸。俺の事は一夏って呼んでくれていいから」
「そうか。よろしく一夏」
そう言って握手をすると、一夏は元居た席に戻……る前に、今回は俺が呼び止めた。
「なぁ一夏、挨拶ついでに一つ聞いていいか?」
「ん? なんだ?」
目の前の男がどういう認識をしてるか判断するために、一つ質問を投げかけることにした。
「ISって、女しか乗れないよな」
「? ああ、そうだな」
「そして俺達が初めてのケースなわけだが……今後ISで試合とかするってなると、男女で分かれて、なんて出来ないわけだ」
「そうだろうな。じゃなかったら、ずっと俺の相手は陸になっちまうし」
「そうそう。その時、お前的には女子相手に武装を振るうってどう思う?」
ちなみにここで『女は守るべきものだ、女相手に本気出すべきじゃない』とか言い出したらアウトだ。
俺の質問に、一夏は『う~ん』と考える仕草をしていたが
「仕方ないんじゃないか? それで手加減するのもおかしな話だし」
お? この反応はいいのでは?
「むしろ織斑君は、手加減される側」
「げふっ!」
おぉっと、ここで突然簪の奇襲が! 綺麗に一夏にぶっ刺さったな。
「え、えっと、君は?」
「更識簪。陸と同じクラス」
「そして、私の幼馴染なのだ~」
「そ、そうなのか。よ、よろしく」
「ん、よろしく」
前世と違って打鉄弐式の件が無いからか、特に荒れることも無く簪と一夏のファーストコンタクトも完了したようだ。
そして改めて一夏は元居た席に戻っていった。その先で『遅い! 一体何をしていたのだ!』という、これまた聞きなれた怒声が。
「篠ノ之さん、相変わらず……」
「この時期だとなぁ」
「あれ~? 二人ともしののんのこと知ってるの~?」
おっといけねぇ、この時点では俺達は篠ノ之箒のことを知らないんだった。
「ISの生みの親、篠ノ之束の妹が入学するとは聞いてたから」
「そうなんだ~」
ナイスだ簪! そしてのほほんに見えない位置で、こっそりハイタッチもした。
「(この世界の織斑君はまとも)」
「(ああ。おかげで余計な心配をしなくてよくなった)」
この世界の一夏なら、前回と同じようにつるむことも出来そうだ。いやぁよかったよかった。
ーーーーーーーーーーーーー
「それで二人とも、放課後に寄る場所がここなの?」
「なんというか……」
「うん」
「まったく……」
お姉ちゃんが呆れるのも分かる。だってここは……
「たぶん学園史上初めてよ。入学初日で整備室に籠る新入生って」
仕方ない。だってここが私達の定位置だから。例え打鉄弐式が無くっても、ここにいると何か安心する。
ちなみにちゃんと許可は取ってある。虚さんから。
「虚も呆れたわよ。『工場にいた時と何も変わってないです』って」
「ある意味平常運転だな」
「も~!」
お姉ちゃんとしては、先に生徒会室に来て欲しかったんだと思う。だってさっきから陸にくっ付いて離れないし。
「お姉さん寂しかったんだから~!」
「はいはい。学園内なんで少しは自重してください、
「おっぐ! わ、分かってはいたけど、この呼び方は心に刺さるわね……」
お父さんが現役とはいえ、今はお姉ちゃんが『楯無』の名前を更識家当主の座とともに引き継いでいる。だから、他の人がいる前では楯無で呼ぶことになっているんだけど……陸はいいとして、お姉ちゃん本人が慣れてないっていう。
「他の人に呼ばれるのはいいのよ。けど、陸君に呼ばれるとダメージが……」
「分からなくはない」
「簪ちゃん、交代……」
「無理」
「デスヨネー」
お姉ちゃん、更識家当主の座を妹に押し付けるのはNG。
「ぶーぶー。あっ、そうだった」
突然、お姉ちゃんが何か思い出したかのようにスカートのポケットをまさぐる。
「え~っと……あったわ! はいこれ」
「これ……」
「鍵、だな」
「二人の寮の部屋の鍵よ」
渡された鍵をまじまじと見る。キーホルダー部分に部屋番号が書かれている、ごくごく普通の寮部屋の鍵だ。
陸に見せると、向こうも持っていた鍵を見せてきた。……うん、同じ部屋番号だ。
「苦労したのよ~、同じ部屋にするの」
「お姉ちゃん、グッジョブ」
「ありがと♪ ああ、それとね」
「まだ何かあるのか?」
「この部屋、私も住むことになってるから」
「「……ん?」」
ワタシモ、スム? わたしも、すむ……私も住むぅ!?
「いやぁ、さすがに3人部屋って前例が無くて大変だったけど、生徒会長権限で押し通してやったわ!」
「うわぁ……」
「何やってんだよ……」
そこで強権発動とか、どんだけ~……でも、これでまた3人でイチャラブ生活が始まる。ならヨシッ!
ーーーーーーーーーーーーー
初日から濃い1日だった……と思ってた俺は、めちゃくちゃ油断してたんだろう。
「……くん」
「ん?」
3人で寮に戻ろうと廊下を歩いていたら、1組の教室から誰かの声が。
「あら、こんな時間にまで誰か残ってるのかしら?」
刀奈が教室の中を覗き込み……そこで固まった。
「お姉ちゃん、一体どうし――」
えっ、簪も固まった? お前ら、一体何を見た――
「真耶さん……」
「一夏君……」
な、なんだ今のは!? いやいやあり得ないから! だってあれ、一夏と、1組の副担任やってる山田先生だよな? その二人が教壇の前で、抱き合ってててててて
「まさか、一夏君がIS学園に入学するなんて思ってませんでした」
「俺もですよ。けど、それで真耶さんと一緒にいられるなら結果オーライかな」
「んもう、先生を揶揄っちゃいけませんよ?」
「俺としては副担任より、千冬姉がいない間お世話になったお姉さんっていうのが強いんですよ」
「そして、俺が好きな女性です」
「あ……っ」
くさいセリフで顔を真っ赤にした山田先生の顔に、一夏の顔が近付いて……
「「んっ❤」」
(((ほ、ほげぇぇぇぇぇぇ!?)))
「(ななな、何やってるのよ織斑君! 山田先生もっ、教師と生徒が、キキキ、キスゥ!)」
「(これは、想定外……)」
「(山田先生が織斑先生の後輩だって話は聞いてたし、一夏と以前から面識があってもおかしくはないとはいえ……)」
あれ? けど昼間一夏の奴、普通に篠ノ之と飯食ってたよな? 山田先生が恋人だって言うなら、あんな風に……
「(もしかして織斑君、篠ノ之さんの好意に気付いてない?)」
「「(あっ)」」
篠ノ之の好意に気付かず、ただ幼馴染として接してる……あの朴念仁ならやりかねない……!
そうなると、オルコットや凰達ハーレム組が続々やって来るものの、一夏の心は山田先生オンリー……
「(簪、刀奈)」
「(うん)」
「(分かってるわ)」
3人で顔を見合わせ、頷いた。
「「「(オラ、ワクワクすっぞ!)」」」
簪は当然として、刀奈もノリいいな。さっき『教師と生徒がぁ!』とか言っといて。
「(それとこれとは話が別よ! それと、この件で胃薬飲むのは織斑先生だけでいいから)」
胃薬? あの人なら胃袋も最強だから問題ないだろ。
前作、まーやんはハーレム入りしそうでしなかったので、今作でメインヒロイン(強制)となりました。
今後、すっとぼけ(無自覚)一夏君をお楽しみください。
今後しばらくは、楯無(刀奈)の専用機改造が主になる予定です。
(簪の専用機は周りに隠してる設定なので)