お前がブリュンヒルデになるんだよ!   作:シシカバブP

8 / 39
先月からの咳が小康状態になってきたので、ぼちぼち再開しようかと思います。

4/12追記
消し忘れを修正


第8話 地雷処理はしっかりと(他人事

 一夏に陽炎を貸し出し始めて数日。金曜日の今日も特訓したいと言ってきたから、俺は陽炎だけをアリーナに置いていくことにした。

 

「りったんとかんちゃんは?」

 

「俺達は別の用事があってな」

 

「別の用事?」

 

 アリーナを出た廊下で、のほほんが首を傾げる。

 

「うん。本音、前にお願いしてたやつ」

 

「あ~! 用事って"それ"なんだね~。もちろん用意してあるよ~」

 

 ドヤァ! と言いた気に胸を張って、のほほんがボイスレコーダーを簪に差し出す。

 俺達がここに来たのは陽炎を置きに来たのもそうだが、のほほんからこれを受け取るためだった。

 

「お姉ちゃんにも?」

 

「うん。たっちゃんにも渡してあるよ~」

 

「分かった。そんじゃ行くか」

 

「りょうか~い。それにしてもおりむー、山田先生と特訓するのはいいけど、勉強の方は大丈夫なのかな~?」

 

「さすがにそこまでは面倒見切れん」

 

 この世界の一夏も、初日で参考書を捨てちまったのは同じらしい。で、織斑先生から『再発行してやるから1週間で覚えろ』とのお言葉をいただいたと。

 その初日を除いて、あいつは放課後山田先生と特訓に勤しんでいるわけだ。

 

『ISを用意出来たんですか!? な、なら私が特訓に付き合います!』

 

 と、山田先生が興奮気味に立候補したので譲って差し上げた。もうね、目がハートマークになってるんだもん。あれで拒否ったらどうなってたことやら……

 篠ノ之? 一夏と山田先生の特訓(仲睦まじい)を見て魂抜けてたな。南無南無。

 

「とはいえ、山田先生も元代表候補生、師事する相手にピッタリ」

 

「だな。っと、ここだここ」

 

 話しながら歩いてたから、気付けば目的地に到着していた。

 

「え~……りったん、ここって……」

 

「まあ、俺達はあんまり用事はないよな」

 

ーーーーーーーーー

 

 本音ちゃんからもらったボイスレコーダーを手に、私はとあるクラスの教室にやって来ていた。

 

「サラちゃ~ん、いる~?」

 

「更識さん?」

 

 教室の入口から声をかけると、帰り支度をしていたイギリスの代表候補生、サラ・ウェルキンが顔を上げた。

 

「生徒会長が私に何か用ですか?」

 

「ええ、ちょっとお話があるんだけど、時間もらえる?」

 

「いいですけど……」

 

 同級生というぐらいしか接点の無かった私に呼ばれて、首を傾げながらも彼女は私の後を付いてきた。

 そして場所を教室から食堂に移すと、お互い紅茶をテーブルに置いた。

 

「さっそく本題なんだけど、まずはこれを聞いてもらえるかしら」

 

 開口一番、私はボイスレコーダーを差し出した。

 

「これは?」

 

「まあまあ、まずは聞いてちょうだい」

 

「はぁ」

 

 釈然としない表情をしながら、サラちゃんがレコーダーの再生ボタンを押した。

 

『大体、男がクラス代表なんていい恥晒しですわ!』

 

「っ!?」

 

 突然流れた罵声と、その声に聞き覚えがあると気付いた途端、彼女は慌てて一時停止ボタンを押した。う~ん、一度聞いたけどやっぱりすごいこと言ってるわよね。

 

「こ、これ……セシリア?」

 

「ええ。来週、1年1組のクラス代表を決める模擬戦があるのは知ってるでしょ? これはそうなった理由。まだ続きがあるわよ」

 

「……」

 

 私に促され、音量を限界まで小さくして再度再生ボタンを押した。

 

『わたくしはこのような文化として後進的な島国までIS技術の修練に来ているのであって、極東の猿を相手にサーカスをする気は毛頭ありませんわ!』

 

『イギリスだって大して自慢できるものないだろ。料理が世界一まずいぐらいか?』

 

『あっ、あっ、あなたねぇ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?』

 

『最初に侮辱したのはお前だろ』

 

――バンッ!

 

『決闘ですわ!』

 

 そこで録音内容が終わった。あ~、サラちゃん頭抱えちゃったわ。

 

「セシリア……なんてことをぉ……」

 

 彼女からしたら、後輩が思い切り国際問題起こしたようなもんだからねぇ。頭も抱えたくなるわ。

 

「とまあ、トンデモナイ事になったわけなんだけど、私としてはあまり事を大きくしたくは無いのよねぇ」

 

「……どうしろと?」

 

「セシリアちゃんが1組の皆、特に日本人に対して謝罪すること。それが最低条件ね」

 

「そうでしょうね……これを私に聞かせたということは、私がセシリアを叱責して、謝罪するよう促せってことね?」

 

「察しがよくて助かるわ」

 

 本来なら、こうなる前に織斑先生が場を収めるべきはずなんだけど、何事も無く終わらせちゃったのよね……ホント、ドイツ軍の教官してた頃の感覚を引き摺ってない? IS学園は士官学校でも無いし、ましてや軍隊でも無いのよ?

 そう言ったわけで、日英国家間の軋轢になる前に、サラちゃんには英国側の鎮火をお願いしたってわけ。

 

「同じイギリス人、しかも先輩である貴女の言うことなら、聞く耳も持つでしょ」

 

「ええ、私からしっかり言っておくわ。……いっそ、女王陛下にチクろうかしら」

 

「ステイステイ、事を大きくしないでってば」

 

 やっば、一瞬サラちゃんの背後に黒いオーラが見えたわ。もしかしてだけど、学園に来る前からセシリアちゃんには手を焼いてたのかしら。

 

「と、とにかく、この件については了解したわ。さっそくセシリアを呼びつけて……」

 

「あっ、それはちょっと待って」

 

「え?」

 

 立ち上がろうとしたサラちゃんを制して、もう一度座るよう促す。

 

「叱責なんだけど、来週の模擬戦が終わるまで待ってもらえないかしら」

 

「それは、どうして?」

 

「サラちゃんにコテンパンに怒られた後で試合をしても、全力を出せないでしょ? というか、それを理由にまた織斑君と揉められても困るし」

 

「ああ……」

 

 同じ理由で、相手側の織斑君をコテンパンに叱るのもNG。来週の試合が終わって、一応の決着がついてからボッコボコにされてもらわないと。

 

「そうすると、織斑君の方も?」

 

「ええ、簪ちゃん達が動いてるわ」

 

ーーーーーーーーー

 

「なるほど、確かにこれは問題ですね」

 

 レコーダーの中身を聞いた爺様が、苦笑と言うには苦り切った顔で頷いた。

 

「あ、あの~、りったん?」

 

「なんだのほほん、どした?」

 

 応接セットのソファに座る俺と簪の隣で、のほほんが落ち着かない様子で俺の袖を引っ張ってきた。

 

「どうして、学園長室に用務員さんがいるの? というか、りったんもかんちゃんも落ち着きすぎない?」

 

「これが普通」

 

「ち、違うと思うな~……」

 

「ああそうか、のほほんは知らないもんな」

 

「確かに、私達の感覚がズレていたようですね」

 

 この学園で用務員をしている爺様が、俺達の向かいに座ったままのほほんの方を向いた。

 

「私は轡木十蔵、IS学園の用務員と理事長を兼任しています」

 

「え……」

 

 爺様の自己紹介に、のほほん固まる。そして

 

「え~~~~~っ!?」

 

「本当に知らなかったのか」

 

「そういえば、本音は会ったことなかったかも」

 

「そうですね。虚さんとは更識との繋がりでよくお会いしていましたが、妹の本音さんとは今回が初体面になりますか」

 

「そっかそっか」

 

「そっかそっか、じゃないよ~! というより、どうしてりったんが理事長さんと知り合いなの~!?」

 

 のほほ~ん、胸倉掴んでガックンガックン揺らすな~。

 

「あれは、学園に陽炎を納品した時でしたか」

 

「そうでしたね。まさかあの時の君が、この学園に入学するとは思っても見ませんでしたよ」

 

「あははは、そうでしょうね」

 

「もしかして、かんちゃんも~?」

 

「うん。納品の時に付いていった」

 

「ええ~……」

 

 そんな裏話を聞かされ、のほほんの脳みそがフリーズしたようだ。俺の胸倉を掴んだまま固まっちまった。

 って、今日はそんな昔ば話をしに来たわけじゃないんだよ。

 

「っと、話を戻しましょう」

 

「そうでしたね」

 

 和やかな(のほほんを除く)雰囲気から一変、真面目なシーンに。

 

「織斑君とオルコットさん、高校生の口喧嘩と言えばそれまでですが、二人の立場を考えるとよろしくないですね」

 

「ええ。片方は()()()()の代表候補生、もう片方も希少な()()男性操縦者。日本とイギリスの代表同士が相手国を侮辱したと取られかねません」

 

 これが原因で国際問題とか馬鹿馬鹿しいし、イギリス経由でEUと揉めるのも困る。如月重工の取引先にEU企業が多いって意味で。

 

「オルコットさんの方は、お姉ちゃんが手を回しています。なので轡木さんには、織斑君と織斑先生をお願いします」

 

「織斑先生もですか。いえ、先ほどの内容を聞くに織斑先生も、二人の喧嘩を仲裁せずに事を大きくした落ち度がありますね」

 

 レコーダーの中身を思い返した爺様が、簪の要請に対して首を縦に振った。

 

「織斑先生方は、私の方で対応します。来週に1年1組のクラス代表を決める模擬戦があるとのことですが、その後から二人を呼び出しましょう」

 

「よろしくお願いします」

 

 俺と簪が頭を下げ、再起動したのほほんが慌てて俺達に倣う。

 なんで俺達がこんなことを? って思うかもしれないが、さっきも言った通り如月重工の利益がかかってるからな、仕方ない。

 

「(それに、織斑先生が轡木さんに叱られて凹む姿を拝みたい)」

 

「(陸、鬼畜)」

 

 そういう簪だって、口元がニヤけてるぞ。

 

ーーーーーーーーー

 

 学園長室を出ると、まだ日暮れには早い時間だった。

 

「で、またここにいると~」

 

「そういうことだ」

 

「定位置」

 

 私と陸にとって、整備室はもはや第2の自室。そして、誰もいないことを確認してレッド・スコルピオを展開。監視カメラ? 掌握&映像改竄済みですが何か。

 前にも言ったかもしれないけど、私が専用機を持ってることは秘密。だから念には念を入れて、ね。

 

「それで、何をするの? 整備なら入学前にやったけど」

 

「ちょっとした時間潰しに、これをやろうと思ってな」

 

 ニヤリと笑うと、陸は拡張領域からお目当ての物を探すようなポーズをして――

 

♪テレレ テッテレ~

 

「山嵐拡張パック~」

 

「ついに!?」

 

「かんちゃ~ん、ステイステイ~」

 

 現行より大型化したミサイルポッドに、私の目は釘付けになった。本音離して、96発搭載可能な雄姿を間近で拝めない。

 

「早く付けよう。そしてすぐに織斑君に」

 

「だからかんちゃ~ん、ステイステイ~」

 

「まだこいつは表に出したらダメだろ、せめてクラス対抗戦まで待て」

 

「う~……残念」

 

 如月重工の試作機という態でレッド・スコルピオを表に出せるよう、主にお姉ちゃんが手を回しているらしい。だから、それまでは我慢だ。

 すごく残念だけど、今日はこのミサイルポッドに付け替えるだけで満足しよう。

 

「りった~ん」

 

「スパナは4番だ。古いポッドも再利用するからな、無理矢理外してネジ穴潰すなよー」

 

「は~い」

 

「陸」

 

「必要」

 

「分かった」

 

 ミサイル制御システムの再設定は必要、と。今後また搭載数が増える可能性も考慮して、自動化出来ないかな?

 

「ほい」

 

「ん、ありがと」

 

 陸から受け取ったメモリスティックを差し込む。制御システム設定の自動化プログラムをインストールして、レッド・スコルピオ用にパラメータを最適化していく。

 

 

 ということをしていたら、あっという間に付け替えが完了していた。かかった時間は……30分、普通。

 

「付け替えたはいいけど、学園内じゃ試し撃ちも出来ないよね~」

 

「うん。はぁ……撃ちたい。織斑君に、全弾撃ち込みたい」

 

「か、かんちゃ~ん……」

 

 本音に心配そうな顔をされた。解せぬ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。