4/12追記
消し忘れを修正
一夏に陽炎を貸し出し始めて数日。金曜日の今日も特訓したいと言ってきたから、俺は陽炎だけをアリーナに置いていくことにした。
「りったんとかんちゃんは?」
「俺達は別の用事があってな」
「別の用事?」
アリーナを出た廊下で、のほほんが首を傾げる。
「うん。本音、前にお願いしてたやつ」
「あ~! 用事って"それ"なんだね~。もちろん用意してあるよ~」
ドヤァ! と言いた気に胸を張って、のほほんがボイスレコーダーを簪に差し出す。
俺達がここに来たのは陽炎を置きに来たのもそうだが、のほほんからこれを受け取るためだった。
「お姉ちゃんにも?」
「うん。たっちゃんにも渡してあるよ~」
「分かった。そんじゃ行くか」
「りょうか~い。それにしてもおりむー、山田先生と特訓するのはいいけど、勉強の方は大丈夫なのかな~?」
「さすがにそこまでは面倒見切れん」
この世界の一夏も、初日で参考書を捨てちまったのは同じらしい。で、織斑先生から『再発行してやるから1週間で覚えろ』とのお言葉をいただいたと。
その初日を除いて、あいつは放課後山田先生と特訓に勤しんでいるわけだ。
『ISを用意出来たんですか!? な、なら私が特訓に付き合います!』
と、山田先生が興奮気味に立候補したので譲って差し上げた。もうね、目がハートマークになってるんだもん。あれで拒否ったらどうなってたことやら……
篠ノ之? 一夏と山田先生の特訓(仲睦まじい)を見て魂抜けてたな。南無南無。
「とはいえ、山田先生も元代表候補生、師事する相手にピッタリ」
「だな。っと、ここだここ」
話しながら歩いてたから、気付けば目的地に到着していた。
「え~……りったん、ここって……」
「まあ、俺達はあんまり用事はないよな」
ーーーーーーーーー
本音ちゃんからもらったボイスレコーダーを手に、私はとあるクラスの教室にやって来ていた。
「サラちゃ~ん、いる~?」
「更識さん?」
教室の入口から声をかけると、帰り支度をしていたイギリスの代表候補生、サラ・ウェルキンが顔を上げた。
「生徒会長が私に何か用ですか?」
「ええ、ちょっとお話があるんだけど、時間もらえる?」
「いいですけど……」
同級生というぐらいしか接点の無かった私に呼ばれて、首を傾げながらも彼女は私の後を付いてきた。
そして場所を教室から食堂に移すと、お互い紅茶をテーブルに置いた。
「さっそく本題なんだけど、まずはこれを聞いてもらえるかしら」
開口一番、私はボイスレコーダーを差し出した。
「これは?」
「まあまあ、まずは聞いてちょうだい」
「はぁ」
釈然としない表情をしながら、サラちゃんがレコーダーの再生ボタンを押した。
『大体、男がクラス代表なんていい恥晒しですわ!』
「っ!?」
突然流れた罵声と、その声に聞き覚えがあると気付いた途端、彼女は慌てて一時停止ボタンを押した。う~ん、一度聞いたけどやっぱりすごいこと言ってるわよね。
「こ、これ……セシリア?」
「ええ。来週、1年1組のクラス代表を決める模擬戦があるのは知ってるでしょ? これはそうなった理由。まだ続きがあるわよ」
「……」
私に促され、音量を限界まで小さくして再度再生ボタンを押した。
『わたくしはこのような文化として後進的な島国までIS技術の修練に来ているのであって、極東の猿を相手にサーカスをする気は毛頭ありませんわ!』
『イギリスだって大して自慢できるものないだろ。料理が世界一まずいぐらいか?』
『あっ、あっ、あなたねぇ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?』
『最初に侮辱したのはお前だろ』
――バンッ!
『決闘ですわ!』
そこで録音内容が終わった。あ~、サラちゃん頭抱えちゃったわ。
「セシリア……なんてことをぉ……」
彼女からしたら、後輩が思い切り国際問題起こしたようなもんだからねぇ。頭も抱えたくなるわ。
「とまあ、トンデモナイ事になったわけなんだけど、私としてはあまり事を大きくしたくは無いのよねぇ」
「……どうしろと?」
「セシリアちゃんが1組の皆、特に日本人に対して謝罪すること。それが最低条件ね」
「そうでしょうね……これを私に聞かせたということは、私がセシリアを叱責して、謝罪するよう促せってことね?」
「察しがよくて助かるわ」
本来なら、こうなる前に織斑先生が場を収めるべきはずなんだけど、何事も無く終わらせちゃったのよね……ホント、ドイツ軍の教官してた頃の感覚を引き摺ってない? IS学園は士官学校でも無いし、ましてや軍隊でも無いのよ?
そう言ったわけで、日英国家間の軋轢になる前に、サラちゃんには英国側の鎮火をお願いしたってわけ。
「同じイギリス人、しかも先輩である貴女の言うことなら、聞く耳も持つでしょ」
「ええ、私からしっかり言っておくわ。……いっそ、女王陛下にチクろうかしら」
「ステイステイ、事を大きくしないでってば」
やっば、一瞬サラちゃんの背後に黒いオーラが見えたわ。もしかしてだけど、学園に来る前からセシリアちゃんには手を焼いてたのかしら。
「と、とにかく、この件については了解したわ。さっそくセシリアを呼びつけて……」
「あっ、それはちょっと待って」
「え?」
立ち上がろうとしたサラちゃんを制して、もう一度座るよう促す。
「叱責なんだけど、来週の模擬戦が終わるまで待ってもらえないかしら」
「それは、どうして?」
「サラちゃんにコテンパンに怒られた後で試合をしても、全力を出せないでしょ? というか、それを理由にまた織斑君と揉められても困るし」
「ああ……」
同じ理由で、相手側の織斑君をコテンパンに叱るのもNG。来週の試合が終わって、一応の決着がついてからボッコボコにされてもらわないと。
「そうすると、織斑君の方も?」
「ええ、簪ちゃん達が動いてるわ」
ーーーーーーーーー
「なるほど、確かにこれは問題ですね」
レコーダーの中身を聞いた爺様が、苦笑と言うには苦り切った顔で頷いた。
「あ、あの~、りったん?」
「なんだのほほん、どした?」
応接セットのソファに座る俺と簪の隣で、のほほんが落ち着かない様子で俺の袖を引っ張ってきた。
「どうして、学園長室に用務員さんがいるの? というか、りったんもかんちゃんも落ち着きすぎない?」
「これが普通」
「ち、違うと思うな~……」
「ああそうか、のほほんは知らないもんな」
「確かに、私達の感覚がズレていたようですね」
この学園で用務員をしている爺様が、俺達の向かいに座ったままのほほんの方を向いた。
「私は轡木十蔵、IS学園の用務員と理事長を兼任しています」
「え……」
爺様の自己紹介に、のほほん固まる。そして
「え~~~~~っ!?」
「本当に知らなかったのか」
「そういえば、本音は会ったことなかったかも」
「そうですね。虚さんとは更識との繋がりでよくお会いしていましたが、妹の本音さんとは今回が初体面になりますか」
「そっかそっか」
「そっかそっか、じゃないよ~! というより、どうしてりったんが理事長さんと知り合いなの~!?」
のほほ~ん、胸倉掴んでガックンガックン揺らすな~。
「あれは、学園に陽炎を納品した時でしたか」
「そうでしたね。まさかあの時の君が、この学園に入学するとは思っても見ませんでしたよ」
「あははは、そうでしょうね」
「もしかして、かんちゃんも~?」
「うん。納品の時に付いていった」
「ええ~……」
そんな裏話を聞かされ、のほほんの脳みそがフリーズしたようだ。俺の胸倉を掴んだまま固まっちまった。
って、今日はそんな昔ば話をしに来たわけじゃないんだよ。
「っと、話を戻しましょう」
「そうでしたね」
和やかな(のほほんを除く)雰囲気から一変、真面目なシーンに。
「織斑君とオルコットさん、高校生の口喧嘩と言えばそれまでですが、二人の立場を考えるとよろしくないですね」
「ええ。片方は
これが原因で国際問題とか馬鹿馬鹿しいし、イギリス経由でEUと揉めるのも困る。如月重工の取引先にEU企業が多いって意味で。
「オルコットさんの方は、お姉ちゃんが手を回しています。なので轡木さんには、織斑君と織斑先生をお願いします」
「織斑先生もですか。いえ、先ほどの内容を聞くに織斑先生も、二人の喧嘩を仲裁せずに事を大きくした落ち度がありますね」
レコーダーの中身を思い返した爺様が、簪の要請に対して首を縦に振った。
「織斑先生方は、私の方で対応します。来週に1年1組のクラス代表を決める模擬戦があるとのことですが、その後から二人を呼び出しましょう」
「よろしくお願いします」
俺と簪が頭を下げ、再起動したのほほんが慌てて俺達に倣う。
なんで俺達がこんなことを? って思うかもしれないが、さっきも言った通り如月重工の利益がかかってるからな、仕方ない。
「(それに、織斑先生が轡木さんに叱られて凹む姿を拝みたい)」
「(陸、鬼畜)」
そういう簪だって、口元がニヤけてるぞ。
ーーーーーーーーー
学園長室を出ると、まだ日暮れには早い時間だった。
「で、またここにいると~」
「そういうことだ」
「定位置」
私と陸にとって、整備室はもはや第2の自室。そして、誰もいないことを確認してレッド・スコルピオを展開。監視カメラ? 掌握&映像改竄済みですが何か。
前にも言ったかもしれないけど、私が専用機を持ってることは秘密。だから念には念を入れて、ね。
「それで、何をするの? 整備なら入学前にやったけど」
「ちょっとした時間潰しに、これをやろうと思ってな」
ニヤリと笑うと、陸は拡張領域からお目当ての物を探すようなポーズをして――
♪テレレ テッテレ~
「山嵐拡張パック~」
「ついに!?」
「かんちゃ~ん、ステイステイ~」
現行より大型化したミサイルポッドに、私の目は釘付けになった。本音離して、96発搭載可能な雄姿を間近で拝めない。
「早く付けよう。そしてすぐに織斑君に」
「だからかんちゃ~ん、ステイステイ~」
「まだこいつは表に出したらダメだろ、せめてクラス対抗戦まで待て」
「う~……残念」
如月重工の試作機という態でレッド・スコルピオを表に出せるよう、主にお姉ちゃんが手を回しているらしい。だから、それまでは我慢だ。
すごく残念だけど、今日はこのミサイルポッドに付け替えるだけで満足しよう。
「りった~ん」
「スパナは4番だ。古いポッドも再利用するからな、無理矢理外してネジ穴潰すなよー」
「は~い」
「陸」
「必要」
「分かった」
ミサイル制御システムの再設定は必要、と。今後また搭載数が増える可能性も考慮して、自動化出来ないかな?
「ほい」
「ん、ありがと」
陸から受け取ったメモリスティックを差し込む。制御システム設定の自動化プログラムをインストールして、レッド・スコルピオ用にパラメータを最適化していく。
ということをしていたら、あっという間に付け替えが完了していた。かかった時間は……30分、普通。
「付け替えたはいいけど、学園内じゃ試し撃ちも出来ないよね~」
「うん。はぁ……撃ちたい。織斑君に、全弾撃ち込みたい」
「か、かんちゃ~ん……」
本音に心配そうな顔をされた。解せぬ。