新しくなった山嵐を試し撃ち出来ず簪が悶々としていた週明け、1組のクラス代表を決める模擬戦が始まろうとしていた。
アリーナの観客席には1組の生徒はもちろん、世にも珍しい男子操縦者を一目見ようと、他クラスどころか他学年の生徒達も集まっていた。
で、俺と簪も一夏の特訓の成果とやらを見学しにアリーナまで足を運んだんだが……
「なあ一夏、どうして俺と簪は呼び出されたんだ?」
そう、何故か俺達は一夏にピットへ呼び出されていた。ここ、試合関係者以外立ち入り禁止じゃなかったか?
「それなんだが……」
「織斑君の専用機が、まだ届いてないんですよ~~!!」
山田先生が叫びながら経緯を説明し始めた。
要約すると、日本政府の指示で一夏に専用機が渡されることが決まり、この模擬戦が初戦になるはずだった。けれどその専用機が、まだ届いてないってことらしい。
「織斑君の専用機って、倉持技研が用意していたはずでは?」
「そうなんですけど、何度連絡しても『今輸送中だ』の一点張りで……」
「はぁ……やっぱり倉持はクズ」
「さ、更識さん?」
「いえ、何でもないです」
山田先生がギョッとした顔になったが、簪はサラッと誤魔化した。
前の世界でも、打鉄弐式の開発を放置して白式に前のめりになってたが、今回もそうらしい。っていやいや、前のめりになってんなら約束の時間は守れよ。
「しかしそうなると、一夏は専用機が無いから……」
「不戦敗?」
「正面から負けたならまだしも、こんな負け方認めたくねぇ! だから陸、もう一回だけ! 陽炎を貸してくれ!」
両手を合わせて拝むように頼み込んでくる一夏。まあ、そうなるか。
俺は一向に構わんと思ってる。一夏に貸しを追加できるし、合法的に倉持の顔に泥を塗れるし。
「俺は別にいいんだが……山田先生、それはOKなんですか?」
一応、確認は取っておかないとな。
「はい。本来なら日本政府から指定された専用機に乗るのが筋ですが……指定時間に手元にないなら予備機での出場も止む無しかと」
「了解です。なら――」
「こんなこともあろうかと、用意しておいた」
「へ?」
目が点になった一夏を後目に、簪の操作でピット搬入口が開く。斜め開きの隔壁が開くと、そこには我らが如月重工の主力商品、陽炎が。
「さ、更識さん、これは……」
「倉持がクズなのは知ってた。だから何らかの理由で専用機が届かない可能性も考慮してた」
「ま、マジか……」
「すごい……」
俺も前ののほほんから聞いてたが、まさか本当に保険が効いてくるとはなぁ……やっぱ倉持はクズだわ。
試合開始まで時間も押してるってことで、さっそく一夏が陽炎に乗り込む。
用意してた機体は昨日まで一夏が特訓で乗ってたやつだから、簡易最適化機能でそれなりに動きやすくなってるだろう。
「織斑君、オルコットさんは代表候補生ですが、緊張せずに戦ってくださいね」
「分かってます。特訓通りに、ですよね?」
「はいっ♪」
「よしっ! 陽炎、出ます!」
満面の笑みを浮かべる山田先生に見送られ、一夏を乗せた陽炎はカタパルトから射出されてアリーナへ飛び出していった。
「ところで山田先生」
「はい?」
簪に声をかけられ、笑顔のまま振り返った山田先生は
「織斑君とのイチャラブするなら、教室は避けた方がいいかと」
「ひゃいぃぃぃぃ!?」
投下された爆弾に驚き絶叫、眼鏡を宙に置いたままひっくり返った。
ーーーーーーーーー
「あら、逃げずに来ま……なんですのその機体はっ!?」
一足先にアリーナに入場していたセシリアは、俺を一瞥した途端、腰に当てていた手の人差し指を指して絶叫した。
「何って、陽炎ってISだけど」
「陽炎ですって!? 第2世代の機体ではありませんか! 貴方の専用機はどうしたんですの、専用機は!」
「いや、約束の時間になっても届かないから、陸に頼んで機体を借りたんだ」
「借りたぁ!? い、いえ、そこは置いといても、第2世代の機体でわたくしの『ブルー・ティアーズ』に、第3世代機と戦うつもりですの?」
確かISは1世代違うだけで、かなりの性能差があるんだよな。セシリアはそのことを指摘してるんだろう。
「このままでは、わたくしが一方的に勝利するのは自明の理。ですから、最後にチャンスをあげますわ」
「チャンス?」
一度は下げた指を、再度俺に向けてくる。
「今ここで謝るというのであれば、許して差し上げますわ。ボロボロの無様な姿を晒したくはないでしょう?」
そう言って、目を笑みに細める。だから俺も、きっちり言い返してやった。
「それはチャンスって言わねぇよ」
「残念ですわ。でしたら――」
――警告! 敵IS射撃体勢に以降!
「これでお別れですわね!」
――キュインッ!
「くぉ!」
「躱した!?」
ISからの警告とセシリアのレーザーライフルが動く瞬間が見えていたおかげで、何とか直撃は避けられた。
「ですが、わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
次々にレーザーが飛んでくる。
「くっ! はっ!」
だが、そのどれもギリギリで回避していった。正確には、掠る程度で収めている。
「ど、どうして!? ISに乗ったことも無い男が……」
「この1週間、特訓を重ねたからな!」
なにせ『
『だから、その二つ名で呼ばないでくださいってば~~!』
一瞬、真耶さんの声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
とはいえ、ジリジリと
「し、しかしっ、このまま避けてばかりではじり貧ですわよ!」
「知ってる。だからこうだっ!」
刀型の武装を右手に、レーザーを回避しながら前へ前へと加速していく。セシリアが射撃体勢を取っている空域まで。
「ブレード1本で、わたくしのところまでたどり着けると? 笑止!」
侮蔑的な笑いを向けながら、こちらにライフルの砲口を向けた――今だ!
――ガンッ!
「がぁっ!?」
「誰がブレード1本だけだって?」
セシリアから見えないように持っていた、IS用ハンドガンが火を噴き、油断していたセシリアの顔面を直撃した。
というか、本当に当たるとは思ってなかった。牽制のつもりで撃ったんだが……ISの射撃用センサーリンクシステムだっけ、すごいな。
「どちらにせよ、チャンス!」
顔面に受けた衝撃であらぬ方向を向いたライフルを持ち直す隙に、俺の刀がセシリアの装甲外を直撃する――はずだった。
「くっ! お行きなさい、『ブルー・ティアーズ』!」
――キュインッ!
「うおっ!?」
突然死角からやって来たレーザーに、思わず回避行動を取っていた。その間にセシリアが俺から距離を取り、せっかくのチャンスを逃しちまった。
「ブルー・ティアーズを初見で回避したのは、貴方が初めてですわ」
「そりゃどうも。やっぱ、厄介だな……」
セシリアの周りに浮く、4つの自立機動兵器。あれがイギリスが開発している第3世代のコンセプト、『無線式レーザー武装』ってことらしい。(特訓の合間で聞いた)
けど、真耶さんから情報をもらってるんだ。その武装は――
「おらぁぁぁ!」
「特攻とは、美しさの欠片もありませんわね。お望み通り、墜として差し上げますわ!」
何の策も無い突進と決めつけたセシリアが、俺を包囲するように機動兵器――長いからビットって呼ぶ――を展開した。
(よし、
――ガンッ!
「同じ手を食らうほど――!」
「はぁ!」
ハンドガンから吐き出された弾丸を回避するセシリアに目もくれず、俺は急転回して四方に散ったビットに突撃をかます。その間、ビットからの迎撃は……ない。
唐竹割りで2機を叩き切り、途中展開した槍を投げつけて1機。セシリアが気付いた時には、最後の1機もハンドガンの残弾でハチの巣になっていた。
「そんなっ!」
「これで、終わりだぁぁぁぁ!」
回避した体勢から復帰し切れていないセシリアに、とどめの一撃を――!
「なぁんて、ウソですわ」
「何ッ!?」
セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー、その一部が動き出す。それは――
「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機ありましてよ!」
先ほどのレーザーとは違う、砲口にセットされていたのは……ミサイル。
「知ってた」
「なぁっ!?」
スラスターの出力を片方だけ上げることで体を空中ローリングさせ、射出された小型ミサイルを回避。ローリングの勢いそのまま、遠心力も加えた刀の一撃がセシリアを襲う!
――ドゴォォンッ!
「がっ! は……!」
装甲外を切られ、斬撃、というよりは衝撃をモロに受けたセシリアが地表に叩きつけられる。
『ブルー・ティアーズ、SEエンプティ。勝者、織斑一夏』
アナウンスとほぼ同時に、セシリアのブルー・ティアーズが光の粒になって消えた。エネルギーが無くなって強制的に解除されたようだ。……あってるよな?
「織斑君が、勝った……?」
「代表候補生に……しかも、第2世代機で?」
「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」」
まさかのジャイアント・キリングに、観客席は沸き立った。
(ありがとう真耶さん! サンキュー陸!)
今日まで特訓に付き合ってくれた
ーーーーーーーーー
「ど、どうなってるんだ?」
ようやく倉持技研から一夏の専用機が届いたと思ったら、すでに模擬戦が終わっていた。
「や、山田先生、これは……」
「織斑先生、これとは?」
「どうして模擬戦がすでに終わってるんですか!? まさか、一夏は不戦敗に!?」
「いえいえ、ちゃんと試合は行われましたよ。予備機を使って」
「予備、機……?」
真耶の返答に頭を巡らすが、予備機なんぞ用意した記憶が……
「宮下君の好意で、陽炎に搭乗して出場したんですよ」
「ファーっ!?」
聞いてない! 聞いてないぞぉ! いや、倉持が約束の時間をブッチしたから仕方ないのか……?
だが絶対、後日うるさく言ってくるのが目に見えてるんだが……。
「それは大丈夫ですよ。織斑君が試合中、倉持技研が約束の時間に専用機を用意しなかったことを口にしてましたから」
「おいぃぃぃ!?」
「しかもオルコットさんとの会話中、オープン・チャネルだったので、観客席の人達全員が証人ですね」
「ほげぇぇぇぇぇぇ!」
真耶ぁぁぁ! どうしてそんな笑顔で――いや、その笑顔は止めてくれ。オーラが、黒いオーラが……!
「本当に……一夏君の晴れ舞台を何だと思ってるんでしょうねぇ、倉持技研の方々は……」
「……その黒いオーラを出してる内は、義妹とは認めんぞ」
「ひゃひぃ!?」
よし、元に戻ったな。まったく、あの愚弟のどこに惚れたのやら……。当時は国家代表の仕事が忙しかったのは事実だが、真耶に一夏のことを頼んだのは間違いだったか?
――ピンポンパンポ~ン♪
『織斑先生、学園長室まで来てください。繰り返します。織斑先生は、学園長室まで来てください』
呼び出し? これは、さっそく専用機の件か?
『続けて連絡します。1年1組の織斑一夏君、セシリア・オルコットさんは、学園長室まで来てください。繰り返します――』
「一夏君に、オルコットさんもですか?」
「オルコットもとなると、専用機の件ではないのか?」
まあいい、行けば分かるだろう。
「セシリア、貴女は女王陛下の尊顔に泥を塗るつもり? ねぇ?」
「い、いえ、そのようなつもりは……」
「ならどういうつもりか、説明してみなさい!」
――バンバンッ!(鬼の形相で応接セットのテーブルを叩く)
「ひぃっ!」
「織斑君、今までISと無縁の生活をしていたからといって、今回の言動はいただけません」
「は、はい……」
「織斑先生も、事態を収拾する責任があったはずですよね?」
「はい……仰る通りです……」
その後、学園長室で私達3人は先週の件で、轡木さんとサラ・ウェルキンからこってり絞られたのだった……うっ、また十二指腸の辺りが……
あれ? なんか今回は一夏回になってもうた……
IS用ハンドガン? それぐらいは陽炎の拡張領域に入ってますって。まさか、射撃武器が全くないISなんて、ねぇ?(すっとぼけ