世界に冠たる帝国よ永遠たれ   作:ちんすこー

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昨日の夜ベトコンをナパームで吹き飛ばす夢を見た拍子に思いついた。

快眠でした。


閑話:ガンシップ

《統一暦1926年4月下旬 東部戦線 ヴァルシャワ東方数十キロ地点》

 

夕闇が泥濘の大地を覆い隠す頃、ルーシー連邦軍の野戦陣地に、低く重いプロペラの駆動音が響き始めた。

 

空はどんよりとした雲に覆われ、月明かりすら乏しい。しかし、その重低音は明らかに上空を円を描くように旋回しながら、一定の高度に留まり続けていた。

 

「クソッ! 帝国の定期便が来たぞ!!」

 

連邦軍の古参の下士官が、泥まみれの塹壕の中で絶叫した。

 

その声に反応した新兵たちが、慌てて対空機銃の銃身を空へと向ける。だが、漆黒の夜空を低反射塗料で真っ黒に塗られた巨大な機影は、肉眼では全く捉えることができなかった。

 

音だけが、頭上で不気味なすり鉢状の軌道を描き続ける。

 

「撃て! 音のする方へ撃ちまくれ!!」

 

連邦兵たちが無闇矢鱈に空へ向けて発砲を開始した、その瞬間であった。

 

ズドドドドドドドドォォォォンッッ!!!!

 

空から、文字通りの「火の雨」が降り注いだ。

 

いや、雨などという生易しいものではない。それは、空中に固定されたかのような絶対的な制高点から、秒間数十発という恐るべき速度で吐き出される、大口径機関砲の曳光弾の奔流であった。

 

「ぎゃあああああっ!!」

 

「機関銃座がやられた! 退避、退避ィィッ!!」

 

真っ赤な火線が、斜め上空からレーザービームのように塹壕を舐め回す。

 

20ミリ多銃身機関砲と、3.7センチ機関砲の徹甲榴弾が、土嚢ごと連邦兵の肉体をミンチに変え、弾薬箱に引火して巨大な爆発を引き起こす。さらに、重低音を響かせる7.5センチの榴弾砲が、まるで上空から直接杭を打ち込むかのように正確に野砲陣地のど真ん中へ着弾し、連邦軍の砲兵たちを大砲ごと吹き飛ばした。

 

通常、航空機による地上攻撃といえば、急降下爆撃であれ機銃掃射であれ、目標の上空を一瞬で通過してしまうものだ。

 

しかし、この異形の航空機は違った。目標を中心に大きな円(パイロン・ターン)を描きながら、機体の側面に集中配置された火砲を撃ち下ろし続けているのである。

 

つまり、弾薬が尽きるか燃料が切れるまで、敵陣の頭上に留まり続け、一方的に弾を叩き込み続けるという、純粋にして圧倒的な空の暴力であった。

 

「悪魔だ……空飛ぶ要塞が、俺たちを耕している……!!」

 

連邦軍の兵士たちは、塹壕の泥に顔を押し付け、ただ神を呪いながら嵐が過ぎ去るのを待つことしかできなかった。

 

これが、東部戦線の連邦兵たちを恐怖のどん底に陥れた帝国空軍の特殊対地支援機、通称『ガンシップ』の容赦なき戦場であった。

 

 

 

 

時を遡ること6年前。統一暦1920年、帝都ベルン郊外。

 

帝国軍の航空機開発の一翼を担う『イレルスキー・エアークラフト』社の実験格納庫には、独特の機械油の匂いと、パイプフレームの組み上がった未完成の機体がいくつも並んでいた。

 

「やはりだめか……」

 

ローゼフシルト中佐は、格納庫の中央に置かれた、巨大なプロペラローターを頭上に戴く奇妙な航空機――『へロコプター』の試作機を見上げながら、深い溜息を吐いた。

 

「ええ、申し訳ありませんが、中佐の仰るような前線での重武装運用は、現在の技術では無理でしょうね」

 

ローゼフシルトの隣で、油に汚れた作業着を着た白髪混じりの男が、肩を竦めて言った。

 

彼こそが、この会社の社長にして、回転翼機という前人未到の航空技術を帝国で切り拓いている天才設計技師、イレルスキー教授である。

 

ローゼフシルトは、自身が推し進める航空魔導部隊の特殊部隊化を推し進める一環として、このへロコプターに目を付けていた。

 

一定の空域にホバリングでき、滑走路なしで垂直に離着陸できるこの機体に、大量の対地ロケット弾や機関砲を括り付け、一定の空域にとどまり敵軍を空から耕す「航空魔導士に代わる空飛ぶ火力支援プラットフォーム」として運用できないかと考えたのだ。

 

しかし、イレルスキーの提示した技術的課題は、当時の常識において極めて現実的で、かつ残酷なものであった。

 

「ローゼフシルト中佐。この機体は、ようやく自重とパイロット、それに百数十キロのペイロードを持ち上げて空中に留まれるようになったばかりの代物です。出力不足の星型エンジンを無理やり回し、テールローターでどうにかトルクを打ち消している、言わば綱渡りのようなバランスで飛んでいるのですよ」

 

イレルスキーは、機体の華奢なパイプフレームを指差した。

 

「そこに、大量のロケット弾や分厚い防弾装甲を積めば、そもそも離陸すらできません。仮に飛べたとしても、ロケットなどというものは一瞬で撃ち尽くしてしまいます。継続的な対地支援任務には不向きです」

「うーん……確かにそうだな。ロケットが駄目なら、できれば大砲とかを機首に積んで、ホバリングしながら敵陣を狙い撃ちにするというのはどうだろうか?」

「大砲とか猶更無理ですから!」

 

イレルスキーは、ローゼフシルトの素人じみた無茶振りに、半ば呆れたように声を荒らげた。

 

「いいですか少佐。大砲を撃てば、凄まじい反動が機体に襲いかかります。固定翼機なら前進するスピードで誤魔化せますが、空中に静止しているへロコプターがそんな反動を受ければ、テールローターのバランスが一瞬で崩壊し、機体はコマのようにスピンして墜落します。時期尚早どころの話ではありません。半世紀早いです!」

 

イレルスキーの完全なるダメ出しを聞きながら、ローゼフシルトは腕を組み、「うーん」と唸り声を上げた。

 

だが、その時である。

 

ローゼフシルトの脳裏に、前世の記憶――ベトナム戦争の記録映像で見た、巨大な輸送機が夜空から曳光弾の雨を降らせる「あの機体」のコンセプトが閃いた。

 

(……大砲を撃つ反動を吸収できるほどの、巨大で安定したプラットフォーム。そして、敵の頭上に留まり続けるための「旋回(パイロン・ターン)」。……そうか、何もホバリングする回転翼機にこだわる必要はないじゃないか! 固定翼機を横に傾けて円を描けば、実質的に一点に留まっているのと同じだ!!)

 

ローゼフシルトはハッとした顔になり、パチンと指を鳴らした。

 

「あ、失礼イレルスキー教授。今、途轍もなく急な用事を思いついた。今日の議論はこれまでだ。また今度話そう!」

「へ? はあ……中佐?」

 

突然早口になったかと思うと、そそくさと軍帽を被り直して格納庫から足早に退散していくローゼフシルトの背中を、イレルスキーは目を点にして見送るしかなかった。

 

 

 

 

イレルスキーがローゼフシルトの奇行に戸惑うのは何も今に始まったことではない。

彼にとってローゼフシルトは、自身の人生をどん底から救い出してくれた、最大の恩人であり絶対のパトロンであったからだ。

 

二人の出会いは、統一暦1906年。遠く離れた合州国の裏路地にまで遡る。

 

当時、合州国駐在の帝国大使館武官であった若きローゼフシルト大尉は、ある「探しもの」をしていた。

 

前世の記憶を持つ彼は、歴史の影で埋もれている天才技術者たちを自陣営に引き込むべく、休日を利用して合州国中を嗅ぎ回っていたのである。

 

そして見つけ出したのが、東方のルーシー連邦から革命の動乱を逃れて合州国へと亡命してきていた、一人の貧しい技術者、イレルスキーであった。

 

当時のイレルスキーは、合州国の航空会社に自分の回転翼機のアイデアを売り込んでは鼻で笑われ、日々のパンを買う金にも困窮し、隙間風の吹くボロアパートで絶望の日々を送っていた。

 

そんな彼の薄汚れたアパートのドアを、仕立ての良いスーツを着たローゼフシルトが突然アポなしでノックしたのである。

 

「イレルスキー氏だな? 君の書いた論文と、回転翼機の青写真を見せてもらった。素晴らしい。君は半世紀先の空を見ている」

 

突然現れた若い男に、イレルスキーは警戒しつつも、自分の理論を褒められて目を丸くした。

 

「私は帝国軍の武官だ。……単刀直入に言おう。君の理論を実証するための資金は、すべて私が出す。合州国のような、君の才能を理解できない成金どもの国は捨てて、帝国に来て開発をしないか?」

 

この時、ローゼフシルトは実家が裕福な貴族ではあったものの、まだ「ローゼフシルト財閥」という巨大な経済帝国を築き上げるには至っておらず、何か異常に裕福な一介の青年将校に過ぎなかった。

 

だが、彼は自身の個人資産を切り崩し、さらには投資家たちから言葉巧みに資金を集め、なんとかイレルスキーのための開発資金を捻出。彼を帝国へと招き入れ、『イレルスキー・エアークラフト』を設立させたのである。

 

その後の歴史は、ローゼフシルトの青写真通りに進んだ。

 

財閥の成長とともに、イレルスキーの会社もローゼフシルト財閥の航空部門の中核企業として莫大な投資を受け、回転翼機の実用化に成功。

 

現在、帝国軍ではこのへロコプターを、最前線からの負傷者の迅速な後送や、車両が入らない山岳地帯への弾薬・物資運搬用の「空飛ぶトラック」として正式採用しており、兵士たちから絶大な信頼を集めていた。重武装こそ不可能であったが、イレルスキーの会社はこれにより確固たる業績と名声を勝ち得ていたのである。

 

 

 

 

「途轍もなくいい事を思いつきましたよ、閣下!」

 

イレルスキーの格納庫から飛び出したローゼフシルトは、その足で帝都ベルンの空軍省へと直行し、空軍大将ゲーロングの執務室のドアをアポなしで開け放った。

 

「ガンシップを作りましょう!!」

 

書類仕事に目を通していたゲーロングは、不躾な侵入者に対して怒ることもなく、端正な顔に苦笑を浮かべてペンを置いた。

 

モルヒネという悪魔に取り付かれていない、空軍トップとしての類まれなる知性を万全に発揮しているゲーロングは、ローゼフシルトのこの手の「突然の狂気じみた閃き」が、帝国の戦力を何倍にも跳ね上げることを誰よりもよく知っていた。

 

「ガンシップ、直訳すれば砲艦か。ローゼフシルト中佐、君は時々、海軍の兵器を空へ持っていきたがる癖があるな。で、空飛ぶ大砲でも作るというのか?」

「ご明察の通りです、閣下。……歩兵の突撃を支援する際、航空機による機銃掃射は有効ですが、一瞬で上空を通り過ぎてしまうのが難点です。そこで、輸送機のようなペイロードに余裕のある大型機に、大量の機関砲や大砲を搭載するのです。それも、機首や翼下ではなく……機体の側面に集中配置します」

 

ローゼフシルトは、ゲーロングのデスクの上にあった灰皿を目標に見立て、指でその周囲を円を描くように回してみせた。

 

「機体を大きく左にバンクさせ、目標を中心にすり鉢状の円軌道を描いて飛び続けます。そうすれば、機体左舷に装備された火器は、常に地上の『一点』を向き続けることになります」

 

ゲーロングの青い瞳が、鋭く光った。

 

彼は瞬時に、その戦術の恐るべき合理性を理解したのである。

 

「……なるほど。前進する固定翼機でありながら、特定の目標の上空に長期間留まり続け、継続的かつ面制圧の火力を投射し続けることができるというわけか。空に固定された砲兵陣地だな」

「その通りです。制空権さえ確保できていれば、夜間の対地支援において、これほど恐ろしい兵器はありません」

「面白い。既存の爆撃機を改造するか?」

 

「いえ」ローゼフシルトは即答した。

 

「爆撃機は爆弾倉の構造上、側面に大砲を積むには向いていません。現在、空軍で開発をしている戦術輸送機。あれをベースに改造するのが最適です」

 

 

 

 

かくして、空軍省の正式な承認のもと、戦術輸送機ペガサスのガンシップ化計画が極秘裏にスタートした。

 

だが、実際に大砲を輸送機の側面に積むという作業は、ローゼフシルトが口で言うほど簡単なものではなかった。開発陣は、次々と立ちはだかる技術的ハードルに頭を抱えることとなった。

 

まず直面したのは、「反動」と「機体バランス」の問題である。

 

7.5センチ戦車砲や3.7センチ機関砲といった強力な火器を、機体の側面に横向きで発射すれば、その強烈な反動が機体を横滑りさせ、最悪の場合は空中分解を引き起こす危険があった。

 

「通常の大砲のマウントでは、機体のフレームがもちません!」

 

技術者たちの悲鳴に対し、帝国陸軍の砲兵工廠チームは、火砲の反動を吸収するための「特殊駐退復座機」を航空機専用に新規設計した。さらに、射撃時にはパイロットが機体を深く左へ傾ける(バンク角をつける)ことで、発射の反動と機体の揚力をベクトル的に相殺させるという、操縦技術とハードウェアの融合によってこの問題を解決した。

 

次に問題となったのは、「硝煙」であった。

 

密閉された上空の機内で大口径砲や多銃身機関砲を連射すれば、あっという間に貨物室は硝煙で満たされ、砲手たちは一酸化炭素中毒で全滅してしまう。

 

「これに関しては、ペガサス輸送機を選んだ恩恵が活かせる」

 

ローゼフシルトの助言により、開発陣はペガサスの最大の特徴である「リア・ランプドア(機体後部の大型開閉扉)」に着目した。

 

射撃任務中はこのリア・ランプドアを半開き状態にして固定し、機首側から強力な強制換気ファンで空気を吸い込み、硝煙を後方へ一気に吹き飛ばすという、輸送機ならではの大胆な排煙システムを構築したのである。

 

照準システムも独自の進化を遂げた。

 

当初は貨物室の砲手がそれぞれ目視で撃つ想定だったが、命中精度が安定しない。そこで、操縦席の左側の窓に特殊な光学照準器を設置し、機長自らが照準器を覗き込み、機体の傾きと旋回速度を調整して「機体全体で狙いをつける」というシステムに変更された。貨物室の砲手たちは、弾薬の装填と、機長からの指示による発射タイミングの管理に専念する形となった。

 

さらに、ペガサスに採用されていた「特殊電波吸音塗料」は、夜間迷彩用のマットブラック塗料としての役割も果たし、サーチライトの光を吸収して夜空に完璧に溶け込むという副次的な効果をもたらした。

 

数え切れないほどの試行錯誤と、ローゼフシルト財閥の資金力、そして天才的な技術者たちの執念によって、世界初の空飛ぶ砲兵陣地は、大戦争の泥沼化する戦場へと産声を上げたのである。

 

 

 

 

《統一暦1926年 東部戦線》

 

「目標沈黙。陣地の制圧を確認しました」

 

ガンシップの貨物室で、硝煙と機械油の匂いにまみれた砲手長が、インターコム越しに機長へ報告した。

 

眼下に広がっていた連邦軍の防衛線は、今や赤い火災の明かりに照らされた、ただの肉片とクレーターの荒野へと成り果てている。

 

「了解。残弾ゼロ。これより帰投する」

 

機長は操縦桿を引き、深い左旋回を解いて機体を水平に戻した。

 

4発の1500馬力エンジンが力強く唸りを上げ、黒塗りの巨怪は、後方に死と絶望だけを残して夜明け前の空へと溶け込んでいく。

 

連邦軍がどれほど血を流して築き上げた堅牢な陣地も、この空からの理不尽な暴力の前には文字通り何の意味もなさない。

 

第一次ヴァルシャワの戦い以降、完全に停滞した東部戦線において、この死の定期便の存在は、連邦兵士たちの士気を根底からへし折る絶望の象徴として、世界中にその悪名を轟かせることとなるのであった。

 

【帝国空軍 特務対地制圧機『ペガサス・ガンシップ改』主要諸元】

 

・ベース機体:戦術輸送機ペガサス

・全幅:33.5m / 全長:23.5m

・エンジン:空冷星型14気筒エンジン(1,500馬力)×4基

・最大積載量:4.5トン(弾薬および武装マウントにフル活用)

・搭載武装(すべて機体左舷に固定配置):

20mm多銃身機関砲(ガトリング方式) × 2基

3.7cm(37mm)連装機関砲 × 1基

7.5cm(75mm)対地榴弾砲(航空機用特殊駐退復座機付き) × 1基

・特殊装備・構造:

射撃管制:操縦席左窓の機長用光学統合照準器

戦術軌道:パイロン・ターン

排煙システム:リア・ランプドア開放と強制換気ファンによる機内硝煙排出機構

防御装甲:コクピットおよび弾薬庫周辺に防弾鋼板を追加

迷彩:特殊電波吸音塗料(マットブラック仕様による夜間ステルス性)

・主な運用:夜間における敵野戦陣地、補給線、集結地への継続的な飽和面制圧。制空権の確保された空域でのみ運用される。




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これぞ大正義アメリカ。
一家を挙げて行こう(正義と平和と平等と自由の国)アメリカへ!!
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