世界に冠たる帝国よ永遠たれ   作:ちんすこー

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トラトラトラ

艦艇の名前はそのままでいきます。


ネクストステージ
大戦争開幕


《統一暦1926年12月8日 大平洋 アロハ諸島 パーパラーハーバー》

 

歴史の転換点は、白銀に染まる極寒のモスコー前面ではなく、常夏の楽園の空から訪れた。

 

この時、合州国はすでに秋津洲皇国に対する戦争計画を発動する寸前にあった。合州国大平洋艦隊はいつでも西大平洋へ出撃できるよう、戦艦群のみならず、貴重な航空母艦までもがアロハ諸島のパーパラーハーバーに集結し、出撃の時を待っていた。

だが、彼らは皇国の覚悟と狂気を見誤っていた。皇国は、合州国が剣を抜くよりも一瞬早く、その心臓部に向けて致命的な破砕攻撃を放ったのである。

 

作戦に投入されたのは、皇国海軍が誇る七隻の航空母艦と、延べ五〇〇機にも及ぶ精鋭の艦載機群であった。

 

この日、パーパラーハーバーの合州国海軍にとって、全ての歯車が最悪の方向へと回転した。

攻撃が実施されるわずか三〇分前。ワソントンの合州国政府に対し、皇国大使館から正式な『宣戦布告』の文書が手交されていた。そして、その開戦の事実が暗号電報でパーパラーハーバーの司令部に伝わり、通信士が血相を変えて司令官室へと駆け込もうとした、まさにその時。

 

「トラ・トラ・トラ(我、奇襲ニ成功セリ)」

 

雲の隙間から、太陽の意匠を背負った皇国海軍の第一次攻撃隊が、猛禽の如く急降下してきたのである。

 

第一次攻撃隊の目標は、艦艇ではなく基地機能の完全な麻痺であった。

彼らは地上施設を徹底的に叩いた。滑走路に並べられ、離陸すらできていない合州国の戦闘機群が次々と火ダルマに変えられ、対空砲陣地と最新鋭のレーダー施設が爆風で粉砕される。

そして何より致命的だったのは、湾内に林立する巨大な石油備蓄施設への集中攻撃であった。

 

重油は本来、引火点が高く燃えづらい。しかし、一旦燃え始めれば容易には消火できず、全てを焼き尽くすまで終わらない灼熱の地獄を生み出す。

投下された爆弾によってタンクが次々と誘爆し、数万トンの重油が黒煙を上げて燃え上がり、そのまま湾の海上へと流れ出した。海面を覆い尽くした重油にも火が燃え移り、パーパラーハーバーはさながら、炎と黒煙が支配する黙示録のような形相を呈した。

 

続いて飛来した第二次攻撃隊は、もはや地獄と化した空域に悠々と進入した。

合州国側の組織的な防空能力は先の攻撃で完全に壊滅しており、皇国の雷撃機と急降下爆撃機は、湾内に無防備に停泊している艦艇を、まるで演習の標的のように自由に攻撃できた。

 

この第二次攻撃において、パーパラーハーバーの合州国艦隊に完全な「引導」を渡したのが、戦艦ネバダの沈没であった。

燃え盛る重油の海の中で、ネバダは奇跡的に機関を始動させ、タグボートの助けを借りながら湾外への脱出を試みていた。もし外洋へ逃れられれば、まだ戦うチャンスはある。

だが、その動きを上空から見逃す皇国パイロットではなかった。数機の雷撃機がネバダの進行方向へ十字砲火のように魚雷を放ち、そのうちの二本が艦首と右舷に命中。ネバダは断末魔の金属音を響かせて大破し、あろうことか、水深の浅い湾の出口を完全に塞ぐ形で着底、沈没してしまったのである。

 

これにより、湾内に残された合州国艦隊は文字通りの袋のネズミとなり、続く第三次攻撃隊によって、一方的に嬲り殺されることとなった。

 

皇国海軍の連合艦隊司令長官山本五十代が立案し、第三次攻撃まで徹底的に実施されたこの奇襲作戦の結果は、合州国にとって「破滅的」の一語に尽きた。

 

戦艦八隻を一挙に喪失。

『オクラホマ』『ウエストバージニア』『カリフォルニア』は大破着底した上に、周囲の海面を覆う重油火災によって三日三晩燃やし尽くされ、高熱で艦体の装甲がひしゃげ、復元は事実上不可能となった。

湾奥に停泊していた『メリーランド』『テネシー』も、第三次攻撃の徹甲爆弾を急所に受けて大破着底し、こちらも火災によって修復の見込みは完全に絶たれた。

旗艦『ペンシルバニア』に至っては、入渠していた乾ドックごと爆薬庫を誘爆させられ、ドックのコンクリートの残骸と一体化して前衛的なモダンアートと化した。

 

そして、合州国海軍が最も恐れていた事態。山本の命で最優先目標とされた航空母艦もまた、逃れることはできなかった。

空母『エンタープライズ』は、第二次攻撃時に執拗な雷撃と爆撃を受けた。魚雷三本、爆弾五発を食らいながらも、合州国艦艇特有の凄まじいダメージコントロール能力で何とか持ちこたえようと足掻いていた。だが、第三次攻撃でさらに一本の魚雷が艦橋下部に追加されると、ついに致命的な傾斜が拡大し、燃え盛る重油の海へと横転しながら海底に没した。

もう一隻の空母『レキシントン』は、雷撃こそ免れたものの、甲板を貫通した爆弾が航空燃料タンクに引火。艦内は大爆発を起こし、その後三日間三晩ずっと燃え続け、文字通り燃え尽きて鉄屑となった。

 

その他にも、巡洋艦八隻、駆逐艦一一隻を喪失。工作艦や補給艦といった兵站を支える補助艦艇も悉く破壊され、合州国大平洋艦隊の艦隊活動能力は根元から完全にへし折られた。

 

もはやこの時点で、アロハ諸島の軍事的価値は完全に消滅した。

合州国海軍は、生き残った僅かな艦艇とともに本土の西海岸までの撤退を強要され、大平洋の広大な海原は、これからの二年間、完全に連合艦隊と帝国東洋艦隊の「庭」と化すこととなる。

 

合州国国内の世論は、この未曾有の大敗北と、国際慣習を完全に無視して行われた皇国の先制攻撃に対し、「騙し討ちだ!」と激昂し、完全に沸騰した。

だが、怒りで沸騰したところで、大平洋を渡るための船がなければ何もできない。合州国という巨大な怪物は、両手両足をへし折られた状態で、血の涙を流しながら西海岸にうずくまるしかなかった。

 

その翌日の12月9日。

秋津洲皇国は、同盟国である帝国に対し大平洋安全保障同盟に基づく参戦を要求。帝国は即日これを了承し、合州国に対して宣戦を布告した。

ここに、局地的な戦争は完全に世界中へと拡大し、世界は合州国、連合王国、連邦を中心とした「連合国」と、帝国、皇国、王国を中心とした「同盟国(枢軸)」に真っ二つに分断されたのである。

 

同盟側の快進撃は止まらなかった。

12月10日には、南方のマライ沖において海戦が発生。皇国海軍航空隊の陸攻部隊と、帝国東洋軍の攻撃により、連合王国が極東に派遣していた最新鋭戦艦を含むZ部隊は、ただの一発の主砲を敵艦に向けて撃つこともなく、空からの雨あられのような雷撃を受けて一隻残らず沈没した。皮肉なことに、海に投げ出された連合王国の水兵たちを救助したのは、他ならぬ帝国東洋艦隊の駆逐艦であった。

 

12月12日には、南方大陸への足がかりとなるポットモレスビーが帝国東洋軍によって陥落。連合王国影響下のイリアン島*1地域は、翌年二月までに全てが帝国東洋軍の影響下に入ることとなる。

 

マライ半島でも皇国陸軍が破竹の快進撃を行っており、密林を自転車で駆け抜ける特異な機動戦によって、難攻不落と謳われた東洋最大の要塞ショウナンポールが陥落。

かくして、同盟国による東洋および西大平洋地域の制圧は、開戦から僅か三か月で完璧に完了したのであった。

 

 

 

 

《統一暦1927年2月中旬 東部戦線・ルテニア地域》

 

大平洋の華々しい戦果から遠く離れた寒々しいルーシーの大地。

帝国が支配を広げた広大なルーシーの占領地、その中部に位置するルテニアの片田舎の村。

分厚い雪に覆われたその村に、不気味なエンジン音を響かせながら、数台のハーフトラックと軍用車両が乗り込んできた。

 

「大佐殿、止めなくていいのですか?」

 

村を見下ろす小高い丘の上。

寒風に軍服の裾をはためかせながら、ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフ中尉が、隣に立つ小さな上官に問いかけた。

 

モスコー攻略時の圧倒的な武勲により、中佐から大佐へと特例的な若さで昇進を果たしたターニャ・フォン・デグレチャフは、手に持っていたライヒ本国の新聞から顔を上げた。

新聞の一面には、『皇国海軍、アロハ諸島で米艦隊を撃滅!』『ショウナンポール陥落!』という、大平洋戦線の優勢を伝える大見出しが踊っている。

 

(……大本営発表に踊らされるのは勝手だが、合州国というあの理不尽な工業力を持った怪物は、艦隊を一つ潰された程度の痛みでは絶対に倒れない。むしろ、半端に殴って目を覚まさせてしまったのではないか……?)

 

ターニャは、前世の歴史知識から来る合州国の底力を思い出し、苦虫を噛み潰したような顔で新聞を畳んだ。

そして、ヴィーシャが指差す村の広場へと視線を下ろした。

 

そこでは、迷彩服に身を包み、右手に火炎放射器、左手に短機関銃を持った帝国軍の兵士たちが、村の住民たちを雪の積もる広場に強引に引きずり出している最中であった。

彼らは、パルチザン掃討のために前線部隊から抽出された特別行動隊であった。

 

「……構わん。村人を集めて尋問する程度であれば、あれは重大な軍紀違反ではない。実際、この周辺の森には潜伏していたパルチザンがいたわけだからな。彼らにも掃討の任務がある」

 

ターニャは、極めて官僚的で冷徹な声で答えた。

 

現在、帝国は東部戦線で莫大な領土を占領していた。当初は、帝政ルーシーの正当な後継者であるアレクセイロス三世のイコンを掲げれば、共産党の圧政に苦しむ住民たちは喜んで帝国に協力し、治安は簡単に安定すると考えられていた。

だが、現実は甘くなかった。共産党の徹底したプロパガンダ教育を受けて育った住民の多くは、帝国とその傀儡であるアレクセイロス三世に激しく反発し、広大な森や沼地を拠点とするパルチザンへと姿を変えたのである。

 

あまりにも占領地が広大すぎたため、帝国軍が全力で動員した憲兵隊だけでは治安維持のための数が全く足りなかった。

事態を重く見た帝国は、あろうことか共和国から憲兵義勇隊なる奇妙な部隊を送ってもらう事態にまで発展した。このフランソワ憲兵義勇隊は、フランソワ国内で「自分たちをかつてしばき回した帝国軍の将官を、合法的に取り締まり、しばき回せる立場になれる」という極めて歪んだ理由から人気が高く、フランソワ大陸軍で憲兵経験がある者がこぞって志願していた。

 

だが、それでもパルチザンのゲリラ戦は鎮圧しきれず、後方の治安悪化で補給線を絶たれて割を食っている前線部隊が業を煮やし、自前の部隊から特別行動隊を編成して後方へと放ったのである。

 

この前線帰りの特別行動隊の鎮圧手法は、苛烈を極めた。彼らは「疑わしきは殺せ」の精神で、パルチザンと思われるルーシー人を片っ端から処刑して回った。さらに最悪なことに、彼らには憲兵隊のような厳しい規律が行き届いておらず、村々での略奪や強姦といった軍紀違反が横行し、占領地における帝国および帝政ルーシー政府の信頼を致命的に失わせ続けていた。

 

憲兵不足の現状から、帝国上層部もある程度は彼らの行動に目を瞑っていた。だが、それに調子づいた部隊の暴走が、戦略的な求心力の低下を招いていると判断した参謀本部は、ついに「重大な違反行為のある特別行動隊の処罰」を決定。

その一環として、モスコー攻略が終わった最も規律が高く、精強を誇る装甲軍集団に、行く先々で特別行動隊を監視・摘発する任務が与えられたのである。

 

そして、その最も厄介な汚れ仕事の担当として白羽の矢が立ったのが、ターニャ率いるサラマンダー戦闘団の魔導部隊であった。

 

ターニャは、双眼鏡越しに、広場で怒鳴り散らしている特別行動隊の兵士たちを観察した。

官僚的な対応を口にしながらも、彼女の眉間には深いシワが刻まれていた。

 

(……あの下士官が腕に巻いている時計、明らかな高級品だ。あの兵士が首から下げているロザリオも、農村の人間が持つような代物ではない。……一体こいつら、どれほどの民間人を殺して、どれほどの金品を不法に奪ってきたのだか)

 

ターニャは前世のコンプライアンス意識から、軍の規律を乱し、組織全体の利益を損なうこうした愚か者たちを心底軽蔑していた。略奪などという低俗な行為は、軍隊を単なる野盗の群れに貶める行為だ。

 

その時。

広場の中央で、一人の老婆が雪に足を取られて転倒した。

すると、特別行動隊の指揮官である少佐が、忌々しげに舌打ちをし、転んだ老婆の頭に短機関銃の銃口を突きつけたのだ。

 

「チッ、パルチザンを匿う汚い豚どもめ。さっさと歩けと言っているだろうが!」

 

「……そこまでだ。ヴィーシャ、行くぞ」

 

明確な非武装の民間人への不法な殺傷行為。それを確認したターニャは、冷たく言い放つと、宝珠を起動させて丘の上から飛び立った。

直後、ドスッという重い着地音とともに、特別行動隊の少佐と老婆の間に、ターニャとヴィーシャが舞い降りた。

 

「何だ貴様らは!」

 

少佐が驚いて銃口を向けるが、ターニャの肩に輝く大佐の階級章を見て、慌てて銃を下ろした。

 

「参謀本部直属、サラマンダー戦闘団指揮官、ターニャ・フォン・デグレチャフ大佐だ。貴官らの部隊に対し、軍紀違反の疑いで臨検を行う」

 

ターニャが極めて事務的に告げると、少佐は一瞬怯んだものの、すぐに目の前にいるのが自分より頭三つ分は小さな幼女であることに気づき、鼻で笑って見下した。

 

「ハッ、大佐殿ですか。後方でぬくぬくしているお偉いさんが、何の用ですかな? 我々は前線で命を張っているんです。おままごとは帝都の幼稚園でやっていただきたいですな。ガキの出る幕じゃありませんぞ」

 

身長を、しかも年齢まで馬鹿にされた。

その瞬間、ターニャの背後に立つヴィーシャと、上空で待機していた魔導中隊の面々が、「あっ」と息を呑んで一斉に数歩後ずさりした。

 

ターニャの顔からは、一切の感情が消え失せていた。

 

「……おままごと、だと? 貴官らは『帝国軍刑法第47条・占領地における不法な略奪および暴行』に抵触している疑いがある。その腕の時計、そして部下たちが隠し持っている金品。それらが正当な軍需物資の徴発であるという証明書を、今すぐここに提出したまえ。提出できないのであれば、貴官らはただの強盗犯であり、即刻軍法会議送りだ」

 

ターニャは、頭の中で青筋を浮かべながら一歩も引かずに、少佐に言い放った。

図星を突かれた少佐の顔が赤黒く染まり、彼の手が震え始めた。

 

「ふざけるな……! 我々がこのクソ寒いルーシーで血を流しているからこそ、貴様のようなガキがデカい顔をできているんだろうが!!」

 

少佐が逆上し、銃を構えようとしたその時。

彼らの背後で、恐怖に耐えきれなくなった一人の村人の青年が、突然立ち上がって森の方へ逃げ出そうとした。

 

「あっ、逃げるぞ! 撃て!!」

 

極度に緊張状態にあった特別行動隊の兵士の一人が、反射的に引き金を引いた。

タタンッ! という銃声が響き、青年が雪の上に倒れ込む。

完全に、軍紀と統制が崩壊した瞬間であった。

 

「……はぁ」

 

ターニャは、心の底から呆れたように、白く濁った長い溜息を吐き出した。

 

「軍の威信を泥に塗れさせるだけでなく、上官の目の前で不法な発砲行為に及ぶとは。救いようのない馬鹿の集まりだな。……中隊各員に命ず」

 

ターニャの青い瞳が、獲物を狙う猛禽のように細められた。

 

「目の前の野盗どもを、物理的に制圧しろ」

「「「ヤー!!」」」

 

上空から、悪魔たちが一斉に急降下してきた。

シールドと身体強化を展開した歴戦の航空魔導士に、ただの歩兵が勝てる道理など万に一つも存在しない。

銃弾はシールドに弾かれ、魔導士たちの放つ容赦ない徒手空拳と銃床による打撃が、特別行動隊の兵士たちを次々と雪に沈めていく。骨の砕ける鈍い音と、男たちの悲鳴が村の広場に響き渡った。

 

そして、ターニャ自身は。

 

「野盗だと!? このクソガキがぁぁっ!」

 

激昂して短機関銃を向けようとする少佐の懐に、ターニャは一瞬にして潜り込んだ。

 

「誰が、クソガキだと……?」

 

ドゴォッ!!

ターニャの軍靴が、少佐の膝関節を逆方向へと正確に蹴り砕く。

 

「ぎゃあぁぁぁっ!?」

 

悲鳴を上げて崩れ落ちようとする少佐の顎を、ターニャは下から掌底で容赦なくカチ上げ、脳震盪を起こさせる。さらに跪いた少佐の顔面に踵落としを叩き込み、雪原へと深々と沈み込ませた。

 

それでも怒りが収まらないターニャは、倒れた少佐の上に馬乗りになり、左右の拳を交互に、文字通りフルボッコの勢いで叩き込み続けた。

 

「コンプライアンスも守れない! 上官の身長を馬鹿にする! 官僚組織の面汚しめ! 死ね! シルドべリア送りになって死ね!!」

 

メキッ、ボキッという、人間の顔面から鳴ってはいけない音が響き続ける。

そのあまりにも苛烈な、私怨が多分に混じったターニャの暴走ぶりに、制圧を終えた中隊の面々やヴィーシャすらも、完全にドン引きして顔を引き攣らせていた。

 

「た、大佐殿! もうその辺にしてください! 彼、息してませんよ!」

 

ヴィーシャが慌てて止めに入るまで、制裁は続いた。

 

数分後。

顔面が原型を留めないほどに腫れ上がり、ピクピクと痙攣している特別行動隊の少佐の背中の上に、ターニャはどっかりと座り込んでいた。

 

「……助けていただいて、本当にありがとうございます、将軍様……」

 

怯えながら近づいてきた村の長老が、深く頭を下げて礼を言う。

ターニャは、座布団(少佐)の上で足を組み直し、軍人らしい凛とした笑みを浮かべて答えた。

 

「将軍ではありません、大佐です。礼には及びません。我が帝国軍は、法と秩序を重んじる文明的な軍隊ですから。このような一部の不心得者は、厳正に処罰されるでしょう」

 

ターニャはヴィーシャを介しそう言いながら、人間椅子の背中を苛立ち紛れに軍靴でグリグリと踏みつけた。少佐の口から「ごぼっ」という空気が漏れる。

 

(……やれやれ。世界が燃え上がっているというのに、私は大佐になってもこんなクソ寒い田舎で、味方の不祥事の尻拭いか。世界大戦などという巨大なプロジェクトは、本当に末端の管理が行き届かなくて嫌になるな)

 

冷たい雪が降りしきるルテニアの空を見上げながら、ターニャ・フォン・デグレチャフ大佐は、自らの前途に横たわる果てしない火消し任務の連続を予感し、深く、そして重いため息を吐き出すのであった。

*1
パプア島




でかい船がどうやって沈むのか考えるのが楽しい。
だけど自分、船に詳しくないから間違ってるかもしれない。
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