世界に冠たる帝国よ永遠たれ   作:ちんすこー

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狂犬と獅子の咆哮

《統一暦1928年2月上旬 南方大陸北部 合州国西方任務部隊司令部》

 

太陽が頭上から容赦なく照りつけ、風が吹くたびに細かい砂塵が鼻腔と肺の奥まで入り込んでくる。昼は脳髄が沸騰するほど熱く、夜は骨の髄まで凍りつく。そして、どこからともなく無限に湧き出してくるハエの群れ。

この南方大陸北部の砂漠という環境は、神が人間を罰するために創り出した巨大なオーブンに他ならなかった。

 

だが、合州国陸軍中将、ジョージ・パッテンの顔が、腐ったレモンをダース単位で噛み潰したように歪んでいるのは、決してこの忌まわしい気候のせいではない。

 

「……ファック。どいつもこいつも、使えねえ腑抜けばかりだ!」

 

パッテンは口にくわえていた葉巻を怒りに任せて噛みちぎり、真珠貝のグリップがあしらわれた愛用のリボルバーを腰でガチャリと鳴らしながら、司令部の天幕の中で吠えた。

壁に掛けられた巨大な世界地図と戦況図を見つめる彼の胸中には、現在の連合国が置かれている『到底納得できない状況』に対するどす黒い不満がマグマのように煮えたぎっていた。

 

まず、大平洋だ。

合州国という、神に選ばれし誇り高きホワイトのカウボーイたちが、極東の、文字の読み書きすら怪しいモグラのような蒙古系の野蛮な猿どもに、いいようにやられている。

この圧倒的な国力と工業力を持つ偉大な合州国が、なぜあんな人間以下の猿に押されているのか?

パッテンに言わせれば、その理由は明白である。やたらとへブル人*1を起用したがる今のワソントンのへなちょこ政権が、動物以下のへブル人どもに軍や政府の内部を浸食させ、真の闘争本能を骨抜きにしているからだ。

 

(それに、あの極東の司令官だ。思い出すだけでも反吐が出る)

 

大平洋方面では、鼻につく英雄志望のクソったれなコーンパイプ野郎が、偉そうにサングラスを光らせてアンザックの二ヵ国のケツを蹴り上げ、戦争を継続させているらしい。

だが、パッテンは鼻で嗤う。

アンザック? かつての流刑地で、鳥相手に軍隊を出して敗北したような囚人野郎の国と、人間より羊の数の方が圧倒的に多いような、国とも言えない牧場のコミュニティが戦争に加わったところで、何がどう変わるというのだ。

 

その上、あのコーンパイプ野郎は本国で「悲劇の英雄」として元帥だの何だのともてはやされているようだが、パッテンの評価は全く違った。

所詮は、人間とは言えない猿を相手に何の捻りもない負け犬の遠吠え(私は必ず戻ってくる、だっけか?)を残し、兵士たちを見捨てて尻尾を巻いて逃げたような、金タマのついていない臆病者である。

 

(私なら、本国からの脱出命令などクソくらえと無視して、コレヒドールで討ち死にを選ぶぞ。無理やり連れ出されようとしたら、憲兵どもに鉛の弾と烈々なディープキスをプレゼントして、笑いながらあの世で戦乙女(ヴァルキリー)の抱擁を受けに行くものだ。あんな選択も取れないコーンパイプ野郎は、きっとインポテンツのヘナちんに違いない)

 

パッテンは唾を吐き捨てるようにそう結論づけた。

 

一方で、パッテンは海軍の連中には少しばかり同情していた。

去年の六月。猿の艦隊がミッドウェーにノコノコとやって来た時のことだ。これを知っていた大平洋艦隊のミニッツ提督は、島の上陸地点近くに潜水艦を忍ばせ、知性の感じられないアホ面の猿どものケツに、合州国のデカい一物(魚雷)をぶち込んでやったのだ。ミニッツの采配は悪くなかった。

 

だが、その一物が最悪の『ふにゃちん』だった。

まともに勃たない、EDの魚雷であったのだ。

放たれた魚雷は何発も猿どもの泥船の横っ腹にぶち当たったというのに、信管の欠陥のせいで『カンッ』と虚しい音を立てるだけで何故か爆発せず、結局一隻の泥船も沈められずに終わったのだ。

強いて慰めの言葉を掛けるのなら、猿どもの対潜能力がへなちょこすぎて一隻の潜水艦も失わなかったことだけだろう。

 

この世紀の不手際に激怒した大平洋艦隊の潜水艦乗りたちは、本国の海軍兵器局の職員を血祭りに上げ、魚雷管に押し込んで発射スイッチを押したというブラックジョークめいた噂が流れているが、パッテンは「全くもって妥当な処置だ。私ならさらにスクリューに縛り付けてミンチにしてやる」と本気で思っていた。

 

(だが、まあいい。あの猿どもがこの偉大な祖国に喧嘩を売り、私をこの最高に楽しいパーティー(大戦争)に引きずり込んでくれたことだけは、神と猿どもに感謝してやろう)

 

パッテンは根っからの戦争狂である。戦車が砂埃を上げて突進し、敵の将軍を軍団ごと鉄と血の挽肉に変えるカタルシス。それこそが彼の生きる意味であり、呼吸そのものだった。

 

だが、目を大平洋から西へ転じても、状況はクソの山だった。

バーラト洋では、かつて世界の海を支配したライミー(連合王国の連中)が、猿の機動部隊に連戦連敗の憂き目に遭っている。シーレーンはズタズタに寸断され、今頃本国のハゲたアルビオン共は、ティータイムに紅茶が飲めずに手が震え、禁断症状を起こして発狂しているらしかった。

 

「ざまあみろ」とパッテンはほくそ笑むが、とはいえ、その紅茶不足がスワイズ運河を狐に奪われたことの言い訳になるはずがない。

 

去年の十二月、世界交通の要衝であるスワイズ運河は、帝国の装甲軍団の前にあっけなく陥落した。

だが、そこは流石の三枚舌のライミーと言うべきか。陥落の直前、彼らは運河にありとあらゆる輸送船を自沈させて封鎖しただけでなく、その船体に大量のコンクリートと泥と砂と土を流し込み、ついでに機雷もバラ撒いた。さらにタチの悪いことに、沈んだ輸送船の中と、流し込んだ泥と砂の中にまで大量の地雷を混ぜ合わせるという、悪魔のような素晴らしいサービス精神を発揮したのだ。

ご丁寧にも紅茶の空き缶で作った偽装トラップまで仕掛けられており、お陰でポテト野郎の工兵部隊は、毎日泥水を啜りながら爆死を繰り返し、再建工事は全く進んでいないという話だった。

 

(あの執念深さと嫌がらせの才能だけは、少しは見習うべきかもしれないな)とパッテンは笑ったが、それは彼にとって全く何の慰めにもならなかった。

 

 

◇

 

 

去年の十一月。

連合国は、帝国の南方大陸北部軍の背面を突き、彼らを東西から挟み撃ちにするための壮大な上陸作戦――『トーチ作戦』を発動した。

 

戦争を一度も経験したことのない、田舎から出てきた青臭いボーイズの集まりである合州国軍は、上陸の段取りから何から色々と不手際を見せ、パッテンを何度も怒り狂わせた。

だが、合州国の圧倒的な物量と航空支援のおかげで、ひとまず進撃は大体順調であった。

単調な前進と、弱腰な帝国の傀儡のフランソワ軍との小競り合い。戦争狂のパッテンは、そんな退屈な作戦には早々に飽き飽きしていた。彼は、強大な帝国軍の装甲部隊と、知略を尽くして正面から殴り合う「真の戦争」に胸を躍らせていたのだ。

 

そう、躍らせていたのだ。数週間前までは。

だが、今のパッテンの表情は、完全に怒りと屈辱で煮え繰り返っていた。

いくら戦争狂の彼と言えど、無様な負け戦は断じて守備範囲外なのである。

 

「おのれ……! おのれェッ、ファルバックゥゥゥッ!!」

 

パッテンは天幕の中で、地図の一点を拳で殴りつけながら、その忌まわしい帝国将軍の名を呪詛のように叫んだ。

 

事の始まりは、ここから遥か数千キロ離れた南方大陸の東部であった。

この東部戦線において、パウル・フォン・レッサー=ファルバックという帝国の将官は、まさに軍事史に残るであろう、神がかった驚異的な活躍を見せていた。

彼は、本国からの補給が完全に絶たれた陸の孤島において、僅か数千の帝国軍部隊と、現地で鍛え上げたアスカリ(現地兵)の部隊を率い、なんと数万にも及ぶ連合国の軍勢を相手に、広大なサバンナとジャングルを舞台にしたゲリラ戦を二年にもわたって展開していたのだ。

 

連合国が彼を討伐しようと大軍を送れば、彼は煙のように密林へ消える。

そして、連合軍の補給線が間延びした瞬間に背後から襲いかかり、物資と武器を根こそぎ奪い取っていく。ファルバックは部下たちに「弾薬も食料も心配するな。連合国がわざわざ我々のためにジャングルまで運んできてくれる」と嘯き、実際に敵の物資だけで軍団を維持し続けた。

彼の神出鬼没の戦術の前に、ライミーの将軍たちは何十人も更迭され、彼は帝国本国で『南方大陸の無敗の獅子』として熱狂的な英雄視をされるに至っていた。

 

しかし、合州国の参戦により、いよいよシーレーンは絶望的なものとなった。鹵獲だけではいずれジリ貧になる。さらに帝国本国の宣伝省は、あれほどの英雄が最終的に弾薬尽きて降伏するような事態を極度に恐れた。

加えて、西の果てから進撃してくる連合国(合州国)の大軍が、スワイズ運河へ向かうロメール軍団の背後を脅かすことを防ぐため。帝国参謀本部は、東部の無敗の獅子を強引に北部へと引き抜き、西方方面の防衛司令官として派遣するという決定を下したのである。

 

この決定は、連合国にとっての完全なる悪夢の始まりとなった。

 

南方大陸の北部に、様子のおかしい狐(ロメール)と獅子(ファルバック)が揃い踏みしてしまったのだ。

狐が東でスワイズを落としてライミーを絶望させている間、西の防衛を任された獅子は、合州国の青臭いボーイズたちを地獄の底へと叩き落としたのである。

 

 

◇

 

 

一月から始まった、パッテン率いる合州国軍とファルバック軍団との衝突は、当初は「何事もなく」順調に進んでいるように見えた。

 

合州国の戦車部隊が進撃すると、ファルバックの部隊は無理に抵抗することなく、すぐに陣地を放棄して後方へと撤退を続けた。

合州国の将校たちは「なんだ、無敗の獅子と言っても、我が合州国の圧倒的な物量と火力の前には逃げるしかないではないか!」と高笑いし、進撃速度をさらに速めた。

 

だが、パッテンだけは嫌な予感を感じ取っていた。

 

(仮にも英雄と言われる男が、こんなにあっさりと尻尾を巻くはずがない。罠だ!)

 

パッテンの直感は、最悪の形で的中した。

ファルバックの撤退は、合州国軍を自らの補給線から切り離し、広大な砂漠の奥深くへとおびき寄せるための完璧な遅滞戦術だったのだ。

ファルバックは合州国の航空偵察を欺くため、木材とキャンバス布を利用して精巧なダミートラックやダミー戦車を大量に作成し、放棄した陣地に並べて、あたかも全軍がまっすぐ後退しているように偽装した。

そして、彼の率いる真の主力軍団は、昼間は砂漠の岩陰に完全に身を潜め、夜のみ進撃を行い、合州国軍の死角を突いて広大な砂漠を大きく迂回していたのである。東部のジャングルで培われた彼の部隊の隠密機動能力は、砂漠においても完全に連合国の目を欺いた。

 

そして、パッテンがその異常な部隊配置に気づいた頃には、全てが手遅れだった。

前線へ突出していた合州国第二軍の主力は、いつの間にかファルバックの機甲部隊と歴戦の猟兵たちによって、背後を完全に遮断され、巨大な包囲網の中に閉じ込められてしまったのである。

 

「ファック! ボーイズどもを助け出せ! 第二機甲師団を直ちに突入させろ!」

 

パッテンは血相を変えて、解囲のために自慢の一物(第二機甲師団)を差し向けた。

合州国の工業力が生み出した、M3リー中戦車やM4シャーマン戦車の群れ。背が高く不格好だが、数は圧倒的だ。パッテンは、彼らの火力をもってすれば、いかに帝国軍といえど包囲網を維持することは不可能だと信じていた。

 

だが、砂漠の砂埃の向こうで待ち構えていたのは。

戦争に慣れていないボーイズたちの命を無慈悲に刈り取る、帝国の極限の洗練であった。

 

『敵戦車群、接近。……構わん、引き付けろ』

 

ファルバックが包囲網の外郭に配置していたのは、巧妙にダミーの中に隠された本物の一物(八.八センチ対戦車砲)の陣地。

そして、帝国本国から特別に補充されていた、最強の怪物――ティーゲル重戦車大隊であった。

 

ドゴォォォォンッ!!

 

砂漠の陽炎を切り裂いて、ティーゲルの八.八センチ砲が火を噴いた。

距離、実に二〇〇〇メートル。合州国の戦車砲が絶対に届かない遥か彼方から放たれた高速徹甲弾は、砂埃を上げて突撃してくるリー将軍の腰高な車体を、まるでブリキ缶でも撃ち抜くかのように易々と貫通し、内部の弾薬庫に引火させて巨大な火柱へと変えた。

 

「て、敵の砲撃!? どこからだ! 距離が遠すぎるぞ!」

「前方の砂丘からだ! 撃ち返せ!」

 

パニックに陥った合州国のボーイズたちは、走りながらメクラ撃ちで砲弾を放つが、そのことごとくがティーゲルの分厚い前面装甲に『カンッ!』という甲高い音を立てて弾き返された。

 

「馬鹿な……弾かれただと!? 化物か、あいつらは!」

 

通信機からは、実戦の恐怖に錯乱した新兵たちの悲鳴が響き渡る。

さらにファルバックの悪辣さは、これだけにとどまらなかった。彼は東部で培ったゲリラ戦のノウハウを活かし、合州国軍の無線の周波数を解析。流暢な合州国訛りのアルビオン語で偽の撤退命令や偽の座標指示を流し込み、第二機甲師団の連携を完全に崩壊させたのである。

 

「指揮所! 第二大隊が命令を無視して後退しています! 無線が混線して……ぎゃあっ!」

 

隊列が乱れ、右往左往する合州国の戦車群は、ティーゲルと対戦車砲の完璧なキルゾーンに自ら飛び込んでいく形となった。

次々と吹き飛ぶ砲塔。燃え上がるシャーマン。砂漠には、ガソリンと焼けた肉の臭いが充満した。

さらに夜になれば、音もなく砂漠を這い進んできた帝国の猟兵やアスカリ兵たちが、恐怖に震えるボーイズたちの砲兵陣地に浸透し、ナイフと手榴弾で次々と喉を掻き切っていく。

 

戦争を一度も経験したことのない青臭いボーイズたちが、帝国の修羅場を幾度も潜り抜けてきた歴戦の精鋭たちに、完全に、そして徹底的にボコボコにされる地獄の光景。

それが、合州国軍が南方大陸で味わった、最初の洗礼であった。

 

 

◇

 

 

「……クソったれめ。合州国の誇る若者たちを、よくもブリキのおもちゃのように燃やしてくれたな」

 

パッテンは、司令部の天幕の中で、血の滲むような声で呻いた。

第二機甲師団の突入は完全に粉砕され、合州国軍は甚大な被害を出して後退を余儀なくされた。包囲された第二軍主力の運命は、もはや絶望的であった。

 

だが、ジョージ・パッテンは、ここで心が折れるような腑抜けではない。

彼は真性の戦争狂であり、そして合州国が誇る最高の狂犬である。

 

「負け戦は私の守備範囲外だ! こんな屈辱を抱えたまま、ワソントンに帰れるか!」

 

パッテンはリボルバーを抜き放ち、司令部の机にドカンと叩きつけた。

周囲の幕僚たちがビクッと肩を震わせる中、彼は猛烈な闘争心で両目を血走らせ、怒鳴り散らした。

 

「泣き言を言う奴、逃げ出そうとする奴は、敵より先にこの私が撃ち殺してやる! いいか、我々は合州国陸軍だ! 猿にも劣る臆病者ではない!

あのファルバックという帝国野郎の鼻っ柱をへし折り、あのティーゲルというクソったれな鉄屑を、てめえらの根性で叩き割ってみせろ!!」

 

パッテンは自らジープに乗り込み、敗走してくる兵士たちを怒鳴りつけ、時には蹴り飛ばしながら、力技で前線の再構築へと向かっていった。

南方大陸北部の砂漠は、様子のおかしい帝国の狐と獅子、そして合州国の狂犬が入り乱れる、最も血生臭く、そして最も熱い大舞台へと変貌を遂げていたのである。

*1:
ユダヤ人

ローゼフシルトの過去話いる?

  • 前世まで赤裸々に見せろ!おら!!
  • 転生してからの話あくしろ
  • 男に興味ねぇからさっさと話進めろや!
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