世界に冠たる帝国よ永遠たれ   作:ちんすこー

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ヴォロネジ会戦5

《統一暦1928年6月上旬 ヴォロネジ後方 帝国ヴォロネジ軍集団司令部》

 

「……ゼートゥーアの奴め。私にどんな劇薬を押し付けたか、分かっているのか?」

 

ヴォロネジ周辺の赤軍を完全に殲滅するため、南方軍集団から分離・新編された『ヴォロネジ軍集団』の司令官、エーリッヒ・フォン・モンシュタイン元帥は、手元の部隊編成表を睨みつけながら、深い、本当に深い溜息を吐き出した。

 

その編成表に記された一つの師団の名前。

『第一近衛機甲師団』。

 

軍事の常識を知る者であれば、その内訳を見た瞬間に目を疑い、そして恐怖するだろう。

通常の帝国軍の機甲師団が保有する戦車定数は、多くとも約二百両強である。だが、この第一近衛機甲師団に与えられた装甲戦力の定数は、なんと五〇〇両。これは、帝国の一つの師団でありながら、ルーシー連邦の一個戦車軍に匹敵、あるいは凌駕する異常な規模であった。

 

しかも、その編成の中身が狂っている。

最新鋭の主力戦車『R-1 リンドヴルム改』を二個大隊(一〇〇両)。ターニャのサラマンダー戦闘群が一個大隊に九十両という軽戦車感覚でリンドヴルムを詰め込んでいるのも大概だが、こちらはそれをさらに上回る。

加えて、無敵の重装甲を誇る『ティーゲルⅡ』を二個大隊(九〇両)。

そして極めつけは、MRSI(同時弾着射撃)で敵軍を蒸発させる最新鋭の15cm自走榴弾砲『SpH-28 トール』を三個大隊(一四〇両)も配備しているのだ。

その他にも多数の装甲擲弾兵用の半履帯車や自走対空砲がひしめき合っている。

 

「……一体、何と戦う気なのだ。この師団だけで一つの小国を滅ぼせるぞ」

 

モンシュタインが頭を抱えるのも無理はなかった。この怪物師団の成り立ちは、帝国軍の歪な政治的背景と、ゼートゥーアによる苛烈な軍政改革の産物であった。

 

そもそも、この師団の母体は戦前の近衛軍団にまで遡る。

ライヒ皇室を護衛し、帝都の治安を守る近衛軍団は、二個の近衛歩兵師団と二個の近衛騎兵(魔導)連隊からなる、極めて格式高い部隊であった。彼らは軍の最精鋭を自称していたが、大戦争が開戦してしばらくの間、その実態は「後継者を戦場で失いたくない大貴族やユンカーの子弟たちの、安全な避難先」として機能していた。

彼らは血統書付きの軍服を着飾り、帝都の安全なバーで愛国心を声高に叫ぶだけの温室育ちの集団に成り下がっていたのである。

 

しかし、ルーシー連邦との開戦により、状況は一変した。

東部戦線はあまりにも広大であり、どれだけ兵力と装甲を継ぎ足しても前線からは「兵力が足りない」という悲鳴が上がり続けた。

この事態に業を煮やした戦務参謀次長ゼートゥーアは、安全圏でぬくぬくとしている近衛軍団に目をつけた。彼は皇帝の威光と自らの権力をもって、貴族たちから強引にこの軍団を奪い取り、最前線の戦力とするための荒療治を実施したのである。

 

これまでの受け入れで無駄に肥大化していた師団の人数はそのまま据え置きとし、その数に見合うだけの最新鋭装備が湯水のように与えられた。彼らには貴族特有の異常なまでに高い士気(という名のプライド)があった。ついでにゼートゥーアの思いつきにより、彼らは単なる歩兵ではなく『重機甲師団』として再編された。

彼らはこれまで、東部戦線の決戦には投入されず、中小規模の掃討戦や局地戦を通して実戦経験を積まされてきた。そしてついに、十分な練度を確保した(一般の師団から見ればベテランの域に達した)と判断され、このヴォロネジの決戦の場へと送り込まれてきたのだ。

 

この途方もない戦力を渡された当初、モンシュタインは歓喜した。

だが、彼らが司令部に赴任の挨拶に訪れた際、老練な戦術家であるモンシュタインは彼らの放つ『熱』に、本気でドン引きすることとなった。

 

『モンシュタイン元帥閣下! 我々、第一近衛機甲師団は、この瞬間を長らく待ちわびておりました!』

 

師団長をはじめとする高級将校たちは、全員が完璧に仕立てられた軍服を身に纏い、目を血走らせていた。

 

『これまで我々は、名もなき泥沼での小競り合いという、生殺しのような屈辱に耐えてまいりました! ですが、今こそ我ら高貴なるライヒの血を、皇帝陛下と祖国のために存分に滾らせる時! ボリシェヴィキの野蛮人どもを、我が師団の履帯の下で一人残らず挽肉にしてご覧に入れます! さあ、最も苛烈で、最も栄誉ある死地を我らにお与えください!!』

 

彼らは狂信的であった。実戦経験を重ねたことで、温室育ちの貴族の坊ちゃんたちは、血と硝煙の匂いに完全に魅入られた戦闘狂へと変貌していたのだ。

 

「……有能な猟犬は歓迎するが、首輪の壊れた狂犬をどうやって御せというのだ」

 

モンシュタインの予感は、攻勢開始の直前に最悪の形で的中した。

 

ヴォロネジ周辺の赤軍を麻痺させるためのEMP攻撃と、それに続く特別砲兵群による大規模な毒ガス攻撃が終わった直後。

全軍が防護服を着込んで進撃準備を進める中、第一近衛機甲師団の師団長がモンシュタインの元へ怒鳴り込んできたのだ。

 

『元帥閣下! 我々はガス攻撃が実施された地域への進撃を断固拒否いたします! あのような毒の煙で敵を燻り出すなど、軟弱者のやることであり、誇り高き帝国の騎士道精神に反する卑劣な行為です! 我ら近衛の神聖なる履帯を、あのような不浄な泥で汚すわけにはいきません!』

 

高邁な騎士道を掲げる彼らの主張であったが、モンシュタインも、そして周囲の幕僚たちも、彼らの本音を完全に看破していた。

 

(……単に、あの不格好で息苦しいゴム製の防護服を着て、ダサい格好で戦うのが嫌なだけだろうが、この見栄っ張りどもめ!)

 

だが、モンシュタインにとって彼らは余りにも強大な戦力であり、機嫌を損ねてへそを曲げられては堪らない。結局モンシュタインは折れ、第一近衛機甲師団にはガスが散布されていない、赤軍の最南端の防衛線であるカラチからの突破を許可した。

 

ともかくとして、彼らは他の部隊が防護服の不快感と戦いながら毒ガスの中で死闘を繰り広げているのを尻目に、身軽な通常装備のまま、一切の化学兵器の支援を受けずに単独で攻勢を開始したのである。

 

 

◇

 

 

結果から言うと、手綱を解かれた狂犬たちの進撃は、狂気的で目を見張るものであった。

 

「ウラーッ! 帝国のファシストどもを……ッ!?」

 

「前進! 前進あるのみ! 立ち塞がる者は全て轢き潰せ!!」

 

攻勢開始から、わずか一時間。

カラチを守備していた赤軍の第八三軍は、五〇〇両の重装甲の突進を正面から浴び、一瞬にして細胞レベルまで破砕された。

そこから彼らは北上を開始する。進撃開始から五時間後には、EMPによる通信網の途絶で状況が分からず、身を寄せ合って混乱していたブトゥルリノフカの赤軍十万の集結地へと猛スピードで雪崩れ込んだ。

 

指揮系統のない十万の群衆は、リンドヴルムとティーゲルⅡの蹂躙の前に為す術もなく、僅か三時間で文字通り消滅した。

彼らは夜も休むことなく進撃を続け、翌日にはタラヴァヤまで進出。これにより、この西方に位置していた三十万の赤軍部隊の退路と補給線を完全に断ち切った。

 

「燃料を補給しろ! 弾薬を積み込め! 次の獲物が待っているぞ!」

 

束の間の休息を取ると、狂犬たちは再び走り出した。四時間後には、アンナ周辺に展開し、反撃の準備を整えていた赤軍第九装甲軍と接敵。

彼らは陣形を組むことすら面倒がり、トールのMRSIによる猛烈な支援砲撃の傘の下、リンドヴルムが行進間射撃で赤軍の戦車をポンポンと吹き飛ばしながら力押しで粉砕。第九装甲軍をこの世から消し飛ばした。

 

そして攻勢開始から四十八時間後には、パニノ前面に展開する赤軍二個軍を完全に壊乱させ、パニノを奪取したのである。

彼らの進撃ルート上には、文字通り燃え盛る鉄屑と、赤軍兵士の死体の絨毯だけが残されていた。

 

「ハッ! 見たか、防護服を着て喘いでいる間抜けな連中よ! 毒ガスなどという女々しい兵器を使わなくとも、我々のように正面から正々堂々と叩き潰せば良いのだ!」

 

近衛兵たちは、無線で公然と、毒ガスやよくわからない高威力爆弾(燃料気化爆弾)を使ってヴォロネジを落とした他の部隊を嘲笑した。

ダサい格好をしてフレンドリーファイアで味方を失いながら戦っていた他の部隊の将兵たちは、この近衛兵たちの驕り高ぶった通信を聞いて血管がブチ切れそうになるほど頭にきた。

 

だが、大っぴらに文句は言えなかった。

なぜなら、この第1近衛機甲師団の常軌を逸した機動によって、ヴォロネジ=パニノ以南に展開していた赤軍部隊、合わせて四十万が、完全に退路を断たれて包囲下に収まってしまったからである。

彼らの戦果は、圧倒的すぎた。

 

ここで、モンシュタインは全体の戦線を整えるため、第一近衛機甲師団に対し、他の部隊と合同でのリペツクへの攻撃を下令した。

しかし、血に飢えた狂犬たちは、この命令をあっさりと拒否した。

 

『元帥閣下。リペツクは攻勢前に毒ガスが撒かれた地域です。我々は、ガス汚染地域の攻略へは参加しないという事前の約束がございます。我々は我々の判断で、赤軍の背後を突き崩します』

 

それは明らかな命令違反であったが、ここに来てモンシュタインは、この第一近衛機甲師団の制御を完全に諦めた。

 

「……勝手にしろ。ただし、補給線が伸び切って孤立しようと知らんぞ。貴様らに自由裁量を与える」

 

モンシュタインが手綱を手放した瞬間、第一近衛機甲師団は水を得た魚、いや、鎖の切れた猛獣となった。

彼らはここから、先程までの活躍すら霞むほどの、狂信的で破滅的な進撃を見せつけることとなる。

 

 

◇

 

 

《パニノ北東》

 

この時、戦場の天候は極めて荒れ気味であった。

冷たい雨がシトシトと降り続き、泥濘は深く、見渡す限りの平原には深い霧が立ち込めていた。航空機による偵察や近接航空支援は極めて限定的にしか受けられない、陸上部隊のみの暗中模索の死闘の舞台である。

 

パニノで燃料と弾薬の補給を強引に済ませた第一近衛機甲師団は、北東に位置する赤軍の大兵站拠点タンボフを目標に、雨と霧の中を爆走し始めた。

 

彼らの進撃は、もはや戦術のセオリーを完全に無視していた。

まず、道中のマリエフカにおいて、南のヴォロネジの救援に遅れ馳せながら駆けつけようとしていた第十一親衛装甲軍と遭遇。不意を突かれた赤軍の精鋭を、圧倒的な火力で一時間足らずで消滅させた。

続けざまに、エルチリにおいて赤軍第七六戦車旅団と、二個の歩兵師団からなる混成部隊と激突。これも足を止めることなく、動きながらひき潰して通過した。

 

この時、彼らの遥か北方では、帝国軍の第五機甲師団が赤軍の本流に正面から呑み込まれて壊滅していた頃であった。

ちなみに、その第五機甲師団を殲滅した赤軍の大規模な主力が、なぜそのまま西へ突破せずに東へと後退を開始したかといえば……南からこの第一近衛機甲師団という規格外の怪物が迫っており、南翼の部隊が誰一人として彼らを止められなかったからである

 

モルドヴォに差し掛かった時、赤軍方面軍司令官ロソコフスキーから、ついに本気の刺客が送り込まれた。

第三親衛戦車軍である。

赤軍の指揮官は、平原での機動戦で第一近衛機甲師団に勝つことは到底不可能と判断し、モルドヴォの市街地に戦車を隠し、瓦礫を利用した強固な市街地戦での足止めを選択した。

 

「敵はモルドヴォの市街に陣取り、我々を待ち受けているようです!」

「市街地戦だと? 泥臭く瓦礫の中でネズミと撃ち合うなど、我が近衛の美学に反する。面倒だ、そんなものはスルーしろ!」

 

第一近衛機甲師団の師団長は、軽く市街地の外縁を小突いてみて、第三親衛戦車軍の抵抗が頑強であることを確認するや否や、モルドヴォの攻略をあっさりと諦め、そのまま市街地を迂回してタンボフへの前進を継続したのだ。

 

それは、軍事常識からすれば絶対にあり得ない、正気の沙汰ではない行動であった。

自軍の進撃ルートの後方に、全く無傷の強力な敵戦車軍(伏兵)を潜ませたまま前進するなど、「どうぞ我々の薄い補給線を切断し、背後から挟撃してください」と言っているようなものだからだ。

 

そして、実際それは現実となった。

 

霧の立ち込める平原において。

モルドヴォを迂回し、さらに北東へ進んだ第一近衛機甲師団の側面と正面に、地響きとともに圧倒的な数の戦車群が姿を現したのだ。

帝国の第五機甲師団をひき潰した、赤軍の本流の大部分(三個戦車軍と二個装甲軍からなる部隊)が、今度はこの第一近衛機甲師団に狙いを定め、殺到してきたのである。

さらに後方からは、スルーされた第三親衛戦車軍が這い出してきて、背後を塞ごうと迫ってきていた。

 

赤軍の巨大な顎が、完全に閉じた。

前後左右を数千両の敵戦車に囲まれるという、絶対的な死地。

 

では、結果はどうなったのか?

 

――返り討ちにあった。

 

もちろん、赤軍が、である。

赤軍の指揮官たちは、重大な、あまりにも致命的な『情報錯誤』を犯していたのだ。

 

赤軍はEMP攻撃の直撃を受け、通信網が完全に崩壊していた。彼らは帝国軍の無線の傍受や、捕虜からの情報で『第一近衛機甲師団』という部隊が南から暴れ回っていることは知っていた。

だが、彼らはその内訳を「通常の帝国の機甲師団(戦車約二百両強)」だと思い込んでいたのだ。南部の部隊は全滅するか通信が途絶しており、正しい情報が上がってこない。スタフカとの細い有線通信だけでは、情報の照合が全くできなかったために発生した、最悪の勘違い。

 

「帝国軍の一個師団が突出してきたぞ! 我々三個戦車軍と二個装甲軍の残存戦力(約五百両)で包囲すれば、確実にひねり潰せる!」

 

そう意気揚々と霧の中から姿を現した赤軍本流の前に立ち塞がったのは、孤立した二百両の戦車などではなかった。

 

「フハハハッ! 飛んで火に入る夏の虫とはこのことだ! 全車、迎え撃て!!」

 

彼らと同じ、あるいはそれ以上の五〇〇両という怪物的な装甲戦力。

しかも、そのうち一〇〇両は120ミリ滑腔砲を持つR-1 リンドヴルム改であり、九〇両は無敵の装甲を持つティーゲルⅡであったのだ。

 

雨風によって戦場を覆っていた濃霧が徐々に晴れ始めた状況で、リンドヴルムのアウトレンジ射撃に戦車戦を挑むのは、いささか無謀が過ぎた。

距離二キロ。T-34やIS-3の主砲が全く届かない距離から、トランジスタ計算機(FCS)による超精密なAPFSDS弾が雨あられと降り注ぎ、赤軍の戦車は次々と砲塔を吹き飛ばされて燃え上がった。

 

さらに、背後から挟撃しようと市街地から出てきた第三親衛戦車軍も、悲惨な末路を辿った。

彼らは、後方に配置されていた第一近衛機甲師団の140両のSpH-28 トールによって完全に射すくめられたのだ。140両の自走榴弾砲が放つMRSIは、市街地の瓦礫ごと第三親衛戦車軍を文字通り蒸発させ、生き残った残骸も、後方から急行してきた帝国の後続歩兵部隊によって完全に息の根を止められた。

 

極めつけは、第一近衛機甲師団の広すぎる側面を防御するため、モンシュタインの命令で雨の中を泥だらけになって急行してきた、ターニャ率いるサラマンダー戦闘群の存在であった。彼らは、第一近衛機甲師団の死角を突こうと忍び寄っていた赤軍の対戦車狙撃兵や隨伴歩兵の部隊を、的確に狩り取って側面を完全に塞いだ。

 

第一近衛機甲師団の狂信的な突撃、圧倒的な火力、そしてサラマンダー戦闘群の側面支援。

これにより、赤軍はこの平原での交戦開始からわずか十八時間後には、包囲を試みた五つの軍の残存戦力が完全に壊滅するという、目を覆うような大敗北を喫した。

 

後方に司令部を構えるロソコフスキーは、次々と入る全滅の報告に、ただ頭を抱えて発狂するしかなかった。

 

 

◇

 

 

《セルゲエフカ周辺》

 

その後も狂ったような進撃を続けた第一近衛機甲師団は、ついにタンボフの南西に位置するセルゲエフカに到達した。

だが、いかに彼らが無敵の怪物師団であろうとも、物理的な限界は存在する。連日の不眠不休の戦闘と長距離機動により、弾薬は底をつきかけ、戦車の履帯は切れ、エンジントラブルが続発。この時点で装甲戦力の稼働率は七割を切り始めていた。

 

だが、このセルゲエフカを防衛する赤軍の二個軍は、すでに恐怖で恐慌状態に陥っており、長く持つとは思えなかった。

 

ここで、ロソコフスキーは決断した。

 

「敵の先鋒は完全に補給線から孤立し、疲弊している! 今だ、タンボフ後方にプールしていた戦略予備の内第八、第二七装甲軍を南下させよ! 第一近衛機甲師団を両翼から挟撃し、今度こそ完全に包囲殲滅するのだ!」

 

ロソコフスキーは、温存していた戦力の一部である二個装甲軍を、突出している第一近衛機甲師団の首根っこを食い破るべく南下させた。

 

だが、このロソコフスキーの一手は、帝国軍の編成というものを根底から見誤った、ナンセンスすぎる悪手であった。

 

「――第一近衛機甲師団の名称は何だ? 『第一』だ。ならば、『第二』がいないわけがなかろう」

 

ヴォロネジ軍集団司令部で、報告を受けたモンシュタイン元帥は、悪魔のような笑みを浮かべて葉巻を咥えた。

 

「行け。もう一匹の狂犬の鎖を解き放て」

 

モンシュタインの命令により、ルーシーの泥濘の大地へ、もう一匹の狂犬が解き放たれた。

『第二近衛機甲師団』。

彼らもまた、第一近衛機甲師団と全く同じ500両の異常な編成を持ち、同じく貴族のプライドと狂信的な闘争心に飢え、同じ破壊力を持つ化け物であった。

 

この第二近衛機甲師団が、西方から猛スピードで突進を開始し、南下してくる赤軍の二個装甲軍の側面へ向けて、巨大な鋼鉄の楔を打ち込もうと迫っていた。

 

この(赤軍にとって)絶望的な戦況の中。

冷たい雨と泥にまみれた装甲指揮車の中で、ターニャ・フォン・デグレチャフ准将の元に、モンシュタインからの新たな命令書が届いた。

 

『――サラマンダー戦闘群は直ちに南下し、突出している第一近衛機甲師団と、突進中の第二近衛機甲師団の「間の隙間」を埋め、両翼の連絡線を確保しつつ赤軍の反撃を破砕せよ』

 

「……は?」

 

ターニャは、命令書を持ったまま、呆然と固まった。

 

「第一と、第二の、隙間を埋めろ、だと……?」

 

防護服を着せられたまま、連日の転戦に次ぐ転戦、泥沼の連戦に次ぐ連戦。睡眠時間は削られ、疲労は限界をとうに超えている。

その上、右には命令を無視して爆走する狂犬がおり、下からは新たな狂犬が全速力で突っ込んでくる。その二匹の猛獣の間に挟まれながら、無尽蔵に湧いてくる赤軍の波を処理しろというのだ。

 

「……これが、これが帝国軍のデスマーチか……」

 

ターニャは、指揮車の冷たい装甲に額を押し当て、乾いた笑いを漏らした。

安全な後方勤務など、永遠に訪れない。

 

「……私の言った通りじゃないか。この戦いは、地獄になるってな……!」

 

雨が降りしきるルーシーの大地。

ターニャ・フォン・デグレチャフは、自らの予言の正しさを最悪の形で再確認しながら、再び泥と血と硝煙が渦巻く終わりのない労働の平原へと、重い足取りで素早く進撃していくのであった。

ローゼフシルトの過去話いる?

  • 前世まで赤裸々に見せろ!おら!!
  • 転生してからの話あくしろ
  • 男に興味ねぇからさっさと話進めろや!
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