ようやくヴォロネジが終わる
《統一暦1928年6月上旬 リペツク東方 大平原》
「……つまらん戦いだったな。ボリシェヴィキの装甲など、我々近衛の刃のサビにもならん」
ぬかるんだ泥濘を蹂躙した第二近衛機甲師団の師団長は、キューポラから身を乗り出し、冷たい雨の降る戦場を見渡してつまらなそうに鼻を鳴らした。
彼らと対峙した赤軍の第八、第二七装甲軍からなる反攻部隊の末路は、戦闘と呼ぶのもおこがましいほどの一方的な轢殺であった。
赤軍は、EMP攻撃による通信網の混乱を重度に引きずっていた。彼らは先行して暴れ回る第一近衛機甲師団の側面に回り込もうと躍起になっており、西から新たに突進してきた第二近衛機甲師団の存在を、接敵する直前まで全く把握していなかったのである。
側面に回り込んだと確信し、勝利の雄たけびを叫ぼうとした赤軍の装甲部隊の真横から、突然五〇〇両の重装甲軍団による強烈なストレートが叩き込まれたのだ。
意識すらしていなかった死角からのAPFSDSの雨。赤軍の二個装甲軍は、文字通り一発KOを食らい、指揮系統は一瞬にして崩壊した。
「北部へ撤退させよ! そこに留まれば完全にすり潰される!」
方面軍司令部で報告を受けたロソコフスキー上級大将は、歯を食いしばりながら撤退を命じた。
もはや、この平原で戦線を維持することは不可能であった。南方から押し寄せる帝国軍の三つの部隊は、この時の赤軍にとって、文字通りの『死神』や『破壊神』に他ならなかったのだ。
単独(サラマンダー戦闘群の支援もあり)で赤軍の十五個軍を消し飛ばし、四十万人の捕虜を帝国にデリバリーし、二千両近くの装甲戦力をスクラップに変えた、血に飢えた狂犬『第一近衛機甲師団』。
帝国との開戦以来、常に赤軍を苦しませ続け、モスコーを焼き払い、この戦いでも赤軍の迂回突破を悉く粉砕。圧倒的練度と技術優位で五百両以上の戦車を血祭りに上げた赤軍の宿敵『サラマンダー戦闘群』。
そして、投入が遅れたことで戦果こそ上記二つに劣るものの、第一近衛機甲師団と全く同じ怪物的な戦力を持ち、前線に出るのを焦らされたことでそれ以上に精神を狂乱させているもう一匹の狂犬『第二近衛機甲師団』。
これら千両を超える最悪の重装甲部隊が揃い踏みしたのである。
実際、北部への撤退を図った赤軍の二個装甲軍の敗残兵たちは、二つのイカれた近衛師団の間から突出してきたサラマンダー戦闘群によって完全に退路を断たれた。
実のところは、これはターニャが寝不足の判断ミスで少し前に出過ぎてしまっただけなのだが、結果として完璧な遮断網となってしまった。
退路を失い、完全に包囲された数万の敗残兵と生き残りの戦車部隊は、絶望の中で全軍降伏を余儀なくされた。
この完璧な連携(に見えた動き)に、第二近衛機甲師団の師団長は歓喜した。
「素晴らしい! あのサラマンダー戦闘群の指揮官、デグレチャフ准将とやら! 実に見事な機動だ、あれこそプロシアの軍人の鑑、実に素晴らしい女だ!!」
戦後処理の合間、狂喜した師団長はターニャの指揮車を直接訪れ、大いに褒め称えようとした。
だが、指揮車から降りてきたターニャを一目見た瞬間、師団長の顔から笑顔がサッと消えた。
「……なんだ。ただのガキか……」
彼が期待していたイメージとは程遠い、泥にまみれた十四歳の小柄な少女。その思わず漏れた心からの「残念そうな声」は、極度の過労と睡眠不足で神経がささくれ立っていたターニャの逆鱗に、極めて正確に触れた。
(今、こいつは私の身長をバカにしたのか?……この血統書付きの温室育ちの狂犬どもが! 貴様らの尻拭いのために、私がどれだけ不眠不休のデスマーチを強要されていると思っているんだ!!)
ターニャは青筋を立てて内心で盛大に毒を吐きながらも、表面上は冷ややかな敬礼でその場をやり
過ごした。
◇
帝国側の小競り合いはともかく、戦局はロソコフスキーにとって致命的な領域へと足を踏み入れていた。
この地域にヴォロネジ軍集団の装甲戦力の実に半数が集結したことで、南翼からの圧力は限界を突破し、タンボフの命運はもはや風前の灯となっていたのだ。
「……タンボフが落ちるのが、早すぎる」
ロソコフスキーは、作戦図を見つめながらギリッと奥歯を噛み締めた。
本来であれば、赤軍の三倍近い装甲戦力を用いて帝国軍の進撃を数週間は遅らせ、ヴォルガ川の以東へ主力を撤退させるための時間を稼ぐ予定であった。
確かにロソコフスキーは、帝国の第五機甲師団という精鋭(二百両強)を一つ完全にすり潰すことには成功した。だが、帝国からその代償として、自軍の四割近くにあたる三千両以上の機甲戦力を徴収されてしまったのだ。
鉱脈を掘れば戦車が岩から湧いて出てくるような頻度で粗製濫造し、使い捨てにする連邦の戦車と、マイスターが装甲板からネジの一本まで管理して丹念に作り上げた帝国の戦車(実際はレーンに乗っかって大量生産されている)。その違いを考慮すれば、三千両対二百両という交換レートは適切なのかもしれない。
だが、共産主義者のロソコフスキーには、そのような資本主義的価値観は理解できなかった。
彼が理解しているのはただ一つ。
「今、ここでタンボフが落ちれば、ヴォルガ川以西に取り残された我が部隊は撤退が間に合わず、完全に壊滅する」という絶対的な現実であった。
「……ならば、手持ちの装甲戦力を全て使い潰してでも、あのイカれた帝国の装甲部隊をここに釘付けにするしかない。時間を稼げれば、十分にいい取引だ」
ロソコフスキーは、共産主義者ながらの冷徹な計算のもと、タンボフの南方に手元の四〇〇〇両の全装甲戦力を集結させた。
そして、彼が仕掛けたのが、後に『タンボフ大戦車戦』と呼ばれることになる夜間の大奇襲であった。
なぜ夜戦を選んだのか。
相次ぐ連戦で疲弊している帝国軍の意表を突くという目的もあったが、最大の理由は空にあった。
昼間であれば、帝国空軍のやべえ奴――Hs-30『パンツァー・クナッカー』が空から飛来し、赤軍の戦車を上空から一方的に解体してしまうからだ。
一応、赤軍もジュガシヴィリが「赤軍にはパンと同じくらい必要だ」と豪語する空飛ぶバスタブこと『IL-2 シュトゥルモヴィク』を持っていた。だが、それ以上のバスタブ装甲を持つ帝国のHs-30には勝てず、そもそも戦場に近づく前に、時代を間違っているとしか思えない帝国の超性能ジェット戦闘機群に木っ端微塵にされていた。というか対地戦闘機に迎撃任務は完全な人選ミスだ。
空の脅威を避けるため、赤軍は闇夜に紛れての決戦を選択したのである。一応、夜間にもペガサス・ガンシップという様子のおかしい四発機が飛び回っていたが、数が少ないため赤軍はこれを無視した。
◇
《タンボフ南方平原》
夜戦となったタンボフ大戦車戦は、帝国側約一三〇〇両(連戦の故障により実働は一〇〇〇両弱)に対し、赤軍約四〇〇〇両という、三倍以上の絶望的な戦力差のもとで行われた。
だが、帝国軍は前日の航空偵察の結果と、近衛師団特有の闘争本能により、赤軍の大規模な反転攻勢を警戒し、夜戦の準備を怠っていなかった。
その緒戦の幕開けは、極めて偶発的なものであった。
「……ん? 腹の底を叩くようなキャタピラの振動があるような……ないような……」
「なんとなく敵の進撃が始まった気がする! 撃て!」
マジで「気がした」だけで確証はなかったのだが、前線に出るのを焦らされて気が高ぶり、落ち着きをなくしていた第二近衛機甲師団の自走砲部隊が、勝手にパラシュート付きの照明弾を次々と夜空へ打ち上げたのだ。
シュルルルル……パァァァァッ!
夜空に展開した無数の照明弾が、タンボフの平原を真昼のように照らし出した。
そこには、奇襲のために音を殺して前進してきていた、地平線を埋め尽くすような赤軍戦車の群れが、丸裸にされて映し出されていた。
「敵襲ゥゥッ!!」
奇襲するつもりが逆に奇襲される形となった赤軍は、パニックに陥った。
第二近衛機甲師団は即座に自走榴弾砲を叩き込み、戦闘の火蓋を切った。その砲声を聞きつけた第一近衛機甲師団も、狂喜の叫びとともに照明弾を打ち上げて突撃を開始した。
だが、連日のブラック労働で極度に疲労が溜まっていたターニャ率いるサラマンダー戦闘群は、両部隊に比べて対応が一歩遅れた。
彼らの担当戦区では、赤軍の戦車部隊が他の戦区よりもかなり手前まで接近を許してしまっていた。
「自走砲大隊! 早く照明弾を上げろ! 敵が目前まで迫っているぞ!」
ターニャの怒声を受け、サラマンダー戦闘群の自走砲大隊の一中隊が、慌てて空に向けて砲弾を放った。
ヒュルルルルル……ドガァァァァンッ!!!
だが、炸裂したそれは、周囲を照らす照明弾ではなかった。
疲労困憊の装填手が暗闇の中で弾種を間違え、装填して撃ち出したのは……白リン弾であった。
「な、なんだあの光は!?」
「ぎゃああああああああっ!!」
本来は煙幕や焼夷目的で使われる白リン弾は、炸裂した瞬間、二八〇〇度という超高温で燃焼する白リンの破片を広範囲に撒き散らす。
意味が分からないが、なぜかその白リン弾は、暗闇を進撃していた赤軍戦車大隊のド真ん中に直撃した。
飛び散った白リンの破片は、戦車の装甲の上にへばりついて猛烈な炎を上げ、さらに最悪なことに、戦車の外側にしがみついていたタンクデサントたちに降り注いだ。
白リンは空気に触れている限り絶対に消えない。歩兵たちが衣服についた火を消そうと泥水に飛び込んでも、水面から出た瞬間に再び発火し、皮膚を突き破って骨まで焼き尽くしていく。吸い込めば呼吸器が瞬時に焼け爛れ、内臓から焼き殺される。
燃え盛る白リンの炎の中で、生きたまま炭化していく赤軍兵士たちの断末魔の絶叫が、夜の戦場に響き渡った。
そして、白リン弾は炸裂時に「まばゆい閃光」を放つ特性がある。
その強烈な光を見た他の三個の自走砲大隊は、「あそこが照明弾の上がった敵の中心か!」と何も考えずに勘違いし、その光の地点へ向けてありったけの155ミリ榴弾によるMRSIを叩き込んだ。
結果、白リンの炎でパニックになっていた赤軍の一個戦車大隊は、頭上から降り注いだ数百発の榴弾によって、歩兵ごと木端微塵に消し飛んだのである。
「……結果的には良かったが、弾種の確認は徹底させろ!」
「はっ、申し訳ありません!」
ターニャが呆れながら通信を切る頃には、全軍で正式な照明弾が打ち上げられ、本格的な夜間の撃滅戦が展開されていた。
だが、夜戦ということもあり、視界が極端に制限される中、交戦距離はわずか十二キロという、射程30キロを誇る自走砲トールからすれば極めて至近距離での砲撃戦となった。あまりの近さに、曲射ではなく水平射撃で直接敵戦車を吹き飛ばす自走砲まで現れた。
その頃、血の気に逸る第一・第二近衛機甲師団の中核をなす戦車部隊は、我慢しきれずに前線を飛び出し、赤軍戦車の群れへと突撃を開始していた。
これを受け、サラマンダー戦闘群の戦車大隊も側面を援護するために前進を開始。
二時間後には、交戦距離は三.五キロまで縮まっていた。
この三.五キロという距離。
通常の戦車砲であれば命中を期待できない遠距離だが、トランジスタ計算機を積むリンドヴルムにとっては、停車した状態であれば八割以上の確率で直撃を与えられる必殺の距離であった。
「撃て! 撃ちまくれ!」
照明弾に照らされた赤軍の戦車たちは、暗闇の中から雨あられと、そして強烈な横凪ぎで飛んでくるAPFSDS弾によって、次々と砲塔を吹き飛ばされ、火柱を上げていった。
これに対し、赤軍のIS-3も必死に応戦するが、照明弾で照らされているとはいえ、この距離での旧式な光学照準ではまともに当たりすらしない。万が一当たったとしても、リンドヴルムの強固な正面複合装甲には傷一つつかなかった。
152ミリの巨砲を持つISU-152であれば、直撃すればリンドヴルムを無力化できたが、この距離で当てるのは困難を極めた。しかも帝国の戦車兵たちはその脅威を熟知しており、優先的にISU-152を狙い撃ちにして狩っていった。
交戦開始から5時間後。
距離はついに二キロ以内に収まり、重装甲のティーゲルⅡも本格的に砲撃戦に参戦を開始した。
この時点で帝国軍は完全な反攻に転じ、リンドヴルムは行進間射撃を放ちながら怒涛の前進を始めた。
空からは、悪天候の中でも出撃してきたターニャたち精鋭の航空魔導士部隊が、急降下しながら赤軍戦車のエンジンルームを的確に爆砕し、無力化の一助となっていた。
「ふふっ……星の代わりに照明弾が照らす、久々の夜風だ。……目が覚めて、案外いいものだな」
ターニャは、夜空を飛びながら皮肉げに呟いた。
連日の過労で完全に寝不足の彼女の脳は、限界を超えて一種のハイに突入していた。
交戦開始から6時間後。
反攻に転じた帝国軍の戦車部隊が、赤軍を押し込み、ついにタンボフの市街地入場寸前まで迫った。
だが、ここでロソコフスキーの、執念の強烈なカウンターがぶち込まれた。
ロソコフスキーは、夜闇に紛れて実に一〇〇〇門近い重火砲をタンボフの後方に密かに集結させており、帝国の戦車部隊がこの地点(キルゾーン)へやって来るのを持っていたのだ。
「全砲門、開けッ!!」
ズドォォォォォォォォォォォンッ!!!!
夜空を埋め尽くすほどの砲弾の雨が、帝国の装甲部隊の頭上に降り注いだ。
これには、後方で対砲迫レーダーを監視していた帝国軍の砲兵たちも顔を真っ青にした。
戦車の正面装甲がいかに分厚くとも、直上から飛んでくる大口径榴弾に対して、装甲の薄い天頂部分を守る術はない。直撃せずとも、至近距離での爆発はキャタピラを吹き飛ばし、中の戦車兵をスプラッターな肉塊に変えるには十分すぎた。
この集中砲火により、戦果を焦って特に突出していた第2近衛機甲師団の装甲部隊が、文字通りの大打撃を受けた。
第1近衛機甲師団も大きな被害を受け、この一回の砲撃で、帝国軍は合わせて百両もの戦車を一瞬にして喪失した。その中には、貴重なリンドヴルムも三十両含まれているという、帝国軍にとっては痛烈な大損害であった。
なお、サラマンダー戦闘群の戦車大隊は、両部隊に比べて進撃が遅く少し後方を前進していたため、奇跡的に砲撃の範囲外であり、特に被害はなかった。
「我らの高貴なる近衛兵を……よくもやってくれたな!!」
これに激怒したのは、後方に展開していた近衛の自走砲大隊であった。
彼らは対砲迫レーダーが弾き出した赤軍の砲兵陣地の座標へ向けて、残りの榴弾の全てをぶち込むことを決断した。
連邦の主力重火砲の有効射程は、およそ11キロから25キロ。
それに対し、帝国軍の自走砲トールの最大射程は、ロケット補助推進弾(RAP)を使用すれば40キロに達する。
RAP弾の在庫は限られていたが、赤軍の火砲陣地を完全に消し飛ばすには十分な量があった。
「アウトレンジで、奴らの大砲を全てスクラップにしてやれ!!」
トールの放ったRAP弾が、赤軍の砲の射程の遥か外側から、正確無比にタンボフ後方の砲兵陣地へと降り注いだ。
これにより、赤軍が秘匿していた一千門近い火砲は、わずか十数分で完全に沈黙・蒸発した。
ロソコフスキーのカウンターは帝国軍に確かな出血を強いたが、同時に、高貴なる近衛兵たちの闘争本能に「消えることのない復讐の炎」を燃え上がらせる結果となってしまった。
怒り狂った第一・第二近衛機甲師団は、被害を省みずに夜明けの光とともにタンボフ市街地へ突入。
激戦の市街地戦の末、タンボフは近衛兵の猛攻の前に陥落した。
タンボフ周辺の平野には、破壊された二千両以上の赤軍戦車と、百両の帝国戦車、そして無数の火砲が燃え盛り、昇る太陽よりも強烈に、血塗られた大地を赤々と照らし出していた。
◇
このタンボフでの大戦車戦で、赤軍は実に二千両近くの戦車をさらに喪失した。
ロソコフスキーは、止めるべき帝国の三つの部隊のうち二つに大きな被害を与えることには成功したが、完全にその進撃を止めることは出来なかった。
タンボフの陥落により、リペツクの後方で西進する帝国軍を押し留めていた赤軍の部隊は孤立。二日後には、その孤立部隊も第一・第二近衛機甲師団およびサラマンダー戦闘群の三部隊と合流した帝国軍本隊によって完全に粉砕された。
ここから、モンシュタイン元帥による、無慈悲なまでの大規模追撃戦が開始された。
ロソコフスキーも意地を見せ、手元に残されたボロボロの装甲戦力を元手に巧妙な遅滞戦術を展開した。広大な平原の様々な場所で、数百両単位の戦車が衝突する激しい戦車戦が展開されたが、勢いに乗る帝国軍の巨大な質量を押し留めるには、あまりにも力不足であった。
加えて、東部戦線の全域で帝国軍の総反攻が開始されたことでスタフカには、もはやロソコフスキーの部隊を救援してやるだけの戦略予備は残されていなかった。
追撃開始から二週間後。
かつてサラトフという都市が存在したガラスの荒野に、ヴォロネジ軍集団の先鋒が到達しマーケンダ元帥率いる特務軍集団と握手を交わした。
その二日後には、さらに東へ進んだトリヤッチ、ウリヤノスクに架かるヴォルガ川の巨大な架橋が、浸透してきた帝国の航空魔導部隊の爆破工作によって完全に落とされた。
さらに三日後には、モスコー方面から破竹の進撃を続けていた帝国中央軍集団によって、北方の要衝ニジニ・ノヴゴロドが陥落。
これにより、ロソコフスキーたち赤軍部隊がヴォルガ川の以東へ逃れるための退路は、カザン周辺の僅かな架橋に限られることとなった。
だが、帝国の包囲網は容赦なく首を絞めにかかる。
ニジニ・ノヴゴロドを陥落させた中央軍集団は、そのままヴォルガ川西岸を猛スピードで南下し、ロソコフスキーらの退路を次々と物理的に封鎖していった。
ニジニ・ノヴゴロド陥落から一週間後。
ついに中央軍集団の機甲部隊がカザン目前に迫り、赤軍が命綱としていた二つの架橋を砲撃によって破壊した。
ロソコフスキーらの退路は、ここに完全に断たれた。
背後には大河ヴォルガ川。正面と左右からは、数千両の帝国戦車が迫り来る絶体絶命の袋のネズミ。
それでもロソコフスキーは諦めず、周辺の村からありとあらゆる小舟や木材をかき集め、夜闇に紛れて河川を横断させ、兵士たちを対岸へと逃がし続けた。
スタフカもまた、ヴォルガ川東岸からあらゆる河川用船舶を動員し、決死の救出作戦を展開した。
だが、それはあまりにもスローペースであり、百万の兵を逃がすには時間が足りなすぎた。
カザンの架橋が破壊され、西岸の主要地域が占領されてから二週間後。
ついにモンシュタイン率いるヴォロネジ軍集団の主力が、次々とヴォルガ川西岸に到着した。
東岸に展開する赤軍部隊は、川幅の広い大河の向こう側で、逃げ遅れた自分たちの同胞が、帝国の戦車と装甲擲弾兵によって無惨にひき潰され、ヴォルガの川面が真っ赤に染まっていくのを、ただ見ていることしか出来なかった。
『ロソコフスキー将軍! 帝国軍の包囲網が完全に完成する前に、直ちに航空機でこちらへ脱出せよ! 貴方は連邦にとって必要な人間だ!』
カイベジェフの司令部から、ジェーコブ元帥が血を吐くような声で無線越しに脱出を打診した。
だが、無線機から返ってきたロソコフスキーの声は、酷く穏やかで、静かな覚悟に満ちていた。
『お気遣い感謝します、ジェーコブ元帥。ですが、私は司令官です。私の兵士たちがこの岸で死んでいくのに、私一人が空から逃げ出すなど、できるはずがありません。……どうか、祖国を頼みます』
通信は、そこで途絶した。
統一暦1928年7月の中旬頃。
激しい砲火の中、コンスタンテ・ロソコフスキー上級大将は前線で指揮中に戦死したものと見られ、スタフカにその報告が届いた。
それ以降、ヴォルガ川西岸に取り残された赤軍の組織的抵抗能力は著しく低下し、完全な掃討戦へと移行した。
この人類史上最大規模の殲滅戦は、サマラ、トリヤッチ前面のヴォルガ川に突き出た半島の突出部において、最後の赤軍部隊が決死の脱出を試み、そして完全に殲滅される7月の下旬まで続いた。
赤軍の死傷者・捕虜の数は百万を優に超え、東部戦線南翼地域の連邦赤軍は事実上壊滅した。
そして、最後まで兵士とともに戦い抜いたロソコフスキーの遺体が、発見されることは一度もなかった。
これで連邦はこれから一年は間違いなく立ち上がれなくなりました。
サラトフが占領されたことでヨシフグラードの維持すら怪しくなるでしょう。
そう言えば、バルカンの、この世界では湿気てる火薬庫の状況が気になるというコメントをいただきましたので、それに関するような話も書きたいですね。
ローゼフシルトの過去話いる?
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前世まで赤裸々に見せろ!おら!!
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転生してからの話あくしろ
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男に興味ねぇからさっさと話進めろや!