《統一暦1928年7月下旬 帝都ベルン OKW本部》
作戦室の重厚なオーク材の扉が閉ざされ、部屋には分厚い絨毯が足音を吸い込む深い静寂が漂っていた。
帝国軍最高司令部の心臓部たるこの部屋で、最高司令部次長ゼートゥーア元帥と、最高司令部総長ルーデルドルフ元帥が、巨大な円卓に広げられた一部の分厚い報告書に目を通していた。
その向かいには、仕立てのいい軍服を着たローゼフシルト大将が、優雅にコーヒーを傾けている。
そして、円卓の端。
彼らにこの報告書――OKW直属の観測隊および特務研究班がサラトフとヴォロネジ周辺から持ち帰った『ラグナロク演習・最終成果報告書』――を提出したエーリッヒ・フォン・レルゲン准将は、胃の腑を鋭利な刃物で抉られるような激痛に耐え、軍服の上から腹部を強く押さえていた。
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【最高機密文書:ラグナロク演習・最終成果報告書(抜粋)】
■ 帝国側被害状況(ヴォロネジ軍集団および特務軍集団)
・戦死者:三万七九三四人
(※うち、自軍の毒ガスによる死者:六一〇人)
・戦傷者:七〇八五人
(※うち、自軍の毒ガスによる負傷者:一〇〇三人)
・装甲戦力喪失:四一一両
(※うち、R-1 リンドヴルムの喪失:四二両)
・火砲喪失:三二門
・航空機喪失:一〇四機
[特記事項]
各装甲車両および装備の除染作業(放射性降下物および化学兵剤の洗浄)は、現地の野戦整備大隊によって完了。後方工廠での大規模なオーバーホールが必要な深刻な汚染車両は確認されず。
また、前線部隊より「防護服が過剰に重く、戦闘行動に重大な支障をきたす」との意見具申が多数寄せられており、特務研究班もこれに一部同意する。しかし、これ以上の重量削減および密閉性の緩和は、対放射線能力および致死性ガス防護能力を著しく下げる可能性が高く、次期防護服の開発には慎重な審議が必要である。
■ ルーシー連邦側被害状況(推定値を含む)
[ガス使用および通常戦力の投射によって発生した野戦軍の被害]
・戦死者:約九〇万人
(※そのうち約二〇万人がガス攻撃による直接的窒息死と推定)
・獲得捕虜:七二万六〇七三人
(※このうち約半数が、重度のガス吸引による呼吸器系・神経系の負傷を負っている)
・装甲戦力喪失:約一万両以上
・火砲喪失:約二万門以上
・航空機喪失:約四千機以上
[戦略的獲得目標]
カザン対岸地域の確保により、赤軍の山脈以東の工業地帯への直接爆撃ルートが開拓された。さらに、サラトフの完全消滅と周辺確保により、南方戦線の要衝ヨシフグラードの孤立化が完了した。
[核兵器投下によって発生したサラトフ市の被害]
・死者:約三六万人
・二次被害(急性放射線障害等)での死者:約二万人(現在も増加中)
■ EMP(高高度電磁パルス)攻撃に関する効果測定と考察
起爆直後、北部(エレツ方面)を除くヴォロネジ全域で、赤軍の通信網は一時的に「完全消滅」した。
しかし、連邦軍の通信網は攻撃から二日以内に、想定を上回る四割以上の回復を見せた。特務研究班はこの想定との乖離について、以下の三点を要因として挙げる。
1.真空管の圧倒的なEMP耐性:
真空管を用いた野戦無線機は、サージ電流に対して極めて高い物理的耐性を持っていた。特に、電源が入っていない待機状態の機材はほぼ無傷で残存していた。
2.アナログ有線網のしぶとさ:
EMPは空中に架線された長いアンテナや送電線には大電流を誘導するが、広大な平原の地面に直置きされた短い野戦ケーブルや、地中深く埋設された有線網には誘導電流が発生しにくく、効果が薄かった。
3.地磁気の影響:
高高度でのガンマ線と大気の衝突によるEMP効果は、爆心地の真下に均等に広がるわけではなく、地球の地磁気の影響を受けて爆心地の南側に偏って強く発生する。そのため、爆心地より北に位置するエレツ周辺の赤軍部隊にはパルス波が弱く、通信網が綺麗に生き残る死角が生じていた。
■ 総合評価および次期作戦への具申
もし、このような戦略兵器を用いた攻撃を実行しなかった場合、帝国軍側の被害はこの十倍(約三十万人近く)に膨れ上がっていたと推計される。また、赤軍の被害はこの半分以下に留まり、ヴォロネジ周辺の奪還には成功するも、敵野戦軍の完全な「殲滅」には失敗していたものと考えられる。
特に、緒戦における『敵指揮系統の麻痺』および『未知の兵器に対する恐慌効果』は絶大であることが確認された。
しかしながら、実戦において前線部隊の「防護状態での戦闘への不慣れ」や「化学兵器使用時の風向き等の安全管理の欠如」が目立った。今後、一般の軍事教練においても、このような戦略大量破壊兵器の戦術的使用を前提としたカリキュラムを急ぎ組み込むべきであると具申する。
また、赤軍に対するガス攻撃の効果は、他国の軍隊に比べて低いことが判明した。
連邦は日常的に全国民、果ては軍馬や家畜に至るまで防ガス訓練を施しており、ガスマスクの普及率も異常に高い。そのため、オペレーション・ゲヘナの化学兵器運用ドクトリンについては大幅な改定が必要である。
核兵器の物理的破壊力は非常に高いことが再確認されたが、都市機能の無力化や敵社会の完全な崩壊を狙うのであれば、現在研究・整備中である炭疽菌由来の細菌兵器を用いた攻撃の方が、敵社会の継戦能力に対してより大きな効果を発揮するものと考える。
特に、今後のオペレーション・ゲヘナおよびオペレーション・ソドムの実行対象国は、先進諸国に比べて公衆衛生および医療体制が著しく低いため、炭疽菌の散布は破滅的なパンデミックを引き起こし、絶大な効果を発揮するものと推測される。
■ 情報統制に関する見解
現在までのところ、徹底した情報統制と連邦側の情報障壁により、アルビオン連合王国および合州国が、我が軍の核兵器の使用を直接的に察知・非難してきた様子はない。
しかし、ヴォロネジおよびサラトフ周辺にて「何かしらの異常な事態」が発生したことは、連邦側の通信の極度な混乱から、彼らのシギント機関が間違いなく気が付いていると予想される。
また、投下から四日後に我が特務軍集団がサラトフを占領するまでに、赤軍の大部隊が調査や奪還に進出した形跡は一切なく、恐らくルーシー連邦首脳部も、この攻撃の詳細を未だに把握していないものと思われる。
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分厚い報告書を机に置き、ルーデルドルフ元帥は太い指で葉巻の先を弄りながら、向かいに座る男へ視線を向けた。
「……どう思う、ローゼフシルト大将」
問われたローゼフシルトは、コーヒーカップを静かにソーサーに戻し、全く悪びれる様子もなく、ただ淡々と、まるで投資の失敗を分析する実業家のような冷徹な声で答えた。
「……思ったよりも、戦果が乏しいですね」
その言葉に、胃を押さえていたレルゲン准将は思わず息を呑み、絶句した。
(あれだけの都市を瞬時に消し飛ばし、百万以上の命を奪っておきながら……乏しい、だと!? これ以上、何をどう殺せと言うのだ!)
だが、ルーデルドルフ元帥もまた、腕を組みながらローゼフシルトの言葉に深く頷いた。
「同感だ。敵の戦力も削り切れず、通信網の四割を取り逃がし、結果としてリペツク周辺で我が軍にも手痛い損害と足止めを食らった。究極の兵器としては、少々粗が目立つな」
「EMPという現象の地磁気による偏向や、旧式機材への影響の少なさは、我々にとっても良い教訓のデータとなりました。……それにしても」
ローゼフシルトは溜息をついた。
「ガス攻撃による死者がたった二〇万とは。彼らの防毒に対する執念は、我々の予想を遥かに超えていました。やはり、衛生概念の低い国には炭疽菌などの細菌兵器の散布に切り替えるべきでしょう。……レルゲン准将、前線からの苦情はどうなっているのだ?」
話を振られ、レルゲンはビクッと肩を震わせながらも、手元のメモを開いた。
「は、はい。前線の指揮官たち……特にサラマンダー戦闘群や装甲軍の司令部からも、『緒戦以降でのガス攻撃は、自軍の進撃を阻害するだけで大した戦果を挙げられなかった。味方の誤射による損害の方が大きい』との強い苦情と抗議が来ております」
その報告を聞いたゼートゥーア元帥は、薄い唇を微かに歪め、乾いた笑いを漏らした。
「まあ、それは分かり切っていたことだろう。相手は年がら年中、全国民から家畜に至るまで防ガス訓練をするような連中だぞ」
「……は? 閣下、それを事前に把握しておられたのですか?」
レルゲンは目を見開いた。把握していたのなら、なぜあのような大規模な化学兵器の散布を許可し、味方の部隊を危険に晒したのか。
「ああ、勿論だとも」
ゼートゥーアは、眼鏡の奥で冷たい光を放つ瞳をレルゲンに向けた。
「だから私は、前線の指揮官たちに『新兵器や毒ガスを過信しすぎるな』と事前に通達を送っていたのだ。だが、結果はどうだ。連中は緒戦の通信麻痺と包囲の成功に浮かれ、調子に乗って毒ガスを使い続け、自軍に防護服の破損による大損害が出て、泥沼の戦車戦に引きずり込まれてようやく使用をやめた」
ゼートゥーアは、机の上の報告書を指の関節でコンコンと叩いた。
「兵器の恐ろしさと限界は、現場で実際に血を流さねば理解できんのだよ、准将。……報告書の通りだ。ここら辺の『大量破壊兵器下での連携と安全管理』は、徹底的に教練に組み込むべきだな」
(わざと……わざと味方に大損害を出させて、新兵器への依存を戒めるための『実地教育』にしたというのか……!)
レルゲンは、帝国最高統帥府の人間たちの底知れぬ非情さに、胃酸が逆流するのを感じた。
赤軍百万の命も、消滅した都市も、自軍の三万の死者も、彼らにとってはただの『教訓のデータ』に過ぎないのだ。
「ところで、ローゼフシルト大将」
ゼートゥーアが、話題を変えるように声をかけた。
「報告書には『連合王国と合州国は気づいていないと思われる』と書かれているが……君の個人的な見解としては、どう思うかね?」
その問いに対し、ローゼフシルトは優雅に足を組み直し、ふっと薄い笑みを浮かべた。
「……恐らく、彼らはもう気が付いているでしょう。というよりは、既に『予測出来ている』頃合いでしょうね」
「ほう。その根拠は?」
「帝国領内でも、様々な機関が異常な大気圧の波や人工的な地震波の痕跡を発見しています。加えて、東方の秋津洲皇国との短波通信が、あの日一時的に完全にシャットアウトされました。連合王国情報部ほどの世界最高峰の情報収集力を持つ国が、地球規模のこれらの物理的異常に気が付かないとは思えません。彼らの抱える優秀な科学者たちなら、今頃青ざめた顔で計算尺を弾いていることでしょう」
ローゼフシルトは、会議室の窓の外へ視線を向け、まるで海の向こうの絶望を透かし見るように目を細めた。
「これで……連中が神の火の存在に恐怖し、自分から頭を下げて講和のテーブルについてくれれば、これほど素晴らしいことはないのですがね」
その言葉に、ゼートゥーアもルーデルドルフも、肩を揺らして低く、暗い笑い声を漏らした。
「クックック……違いない。あの傲慢なアルビオンのブルドッグが、尻尾を巻いて許しを乞う姿は見物だろうな」
「全くだ。戦争のルールが根底から変わったことを、奴らも思い知るだろう」
三人の怪物たちが、密室で悪魔のような笑みを交わし合う。
その常軌を逸した異様な空気に、レルゲン准将は一言も発することができず、ただ額に脂汗を浮かべながら、ジリジリと無意識に後ずさりすることしかできなかった。
◇
《同時期 アルビオン連合王国》
帝国のローゼフシルトが想像した通り。
大戦争の霧に覆われた世界にあっても、物理法則だけは隠蔽することができなかった。
ヴォロネジおよびサラトフでのラグナロク演習が決行されたあの日。
人間のスパイが一人も潜入していなくとも、アルビオン連合王国および合州国の数々の機関は、地球が発した「悲鳴」を同時刻に観測していたのである。
『――王立気象局より、異常報告!』
ロンディウム郊外の気象観測所。
気象学者たちが、記録紙に描かれた波形を見て顔面を蒼白にしていた。
彼らの管理する微気圧計の針が、突然狂ったように乱高下し、自然界では説明のつかない規模の巨大な大気圧の波を記録したのだ。
「波の到達時間と減衰率から逆算すると……震源は東欧、ルーシー連邦の奥地だ!クラカトア火山の噴火や、ツングースカ大爆発に匹敵する圧力波が、今この瞬間、地球を周回しているぞ!」
『――オッカスフォード大学 地震学研究所より、緊急のデータ照会!』
同じ頃、アルビオンの地震学者たちも、自らの目を疑うデータに直面していた。
「これは……地震ではない! 震源が極めて浅く、いや、地上そのもので発生している! P波が不自然に大きく、S波がほとんど観測されていない。これは自然の地殻変動ではなく、途方もない質量が地表を叩きつけた人工的な爆発の揺れだ!」
『――外務省通信局および海軍電信所、全帯域で通信途絶!』
そして、最も直接的な混乱を引き起こしたのが「電波」であった。
東側世界(連邦および極東)へ向けて放たれていたアルビオンや合州国の短波通信が、突如として鼓膜を破るような強烈なノイズに包まれ、その後、全帯域において完全に遮断されたのだ。
太陽フレアによるデリンジャー現象に酷似していたが、観測所にいる天文学者たちは即座にそれを否定した。
「太陽活動に異常はない! 電離層を激しく乱している発生源は、地球上……連邦のヴォルガ川流域だ!」
極めつけは、ブレッチリー・パークに本拠を置く連合王国秘密情報部のシギント部門が傍受した、赤軍の平文無線であった。
『――司令部応答せよ! サラトフ方面の空が燃えた!』
『――無線機が火を吹いている! 敵の姿はない、だが街が……街が一瞬で消えた!!』
EMPの直撃を生き延びた一部の赤軍部隊が放つ、理解不能なパニック通信。
これらの「点」のデータは、即座に一つのファイルにまとめられ、ダウニング街10番地、およびワソントンのペンタゴンへと緊急送達された。
そして、このデータを見た時。
アルビオンのチャーブル首相や、合州国のトップ科学者たちの顔から、完全に血の気が引いた。
なぜなら、彼ら自身が現在進行形で、チューブ・アロイズ計画およびマンハッタン計画という名の、原子爆弾の極秘開発を進めていたからである。
「気圧波と地震波の規模から逆算しろ……! 爆発のエネルギーはどれほどだ!?」
チューブ・アロイズ委員会の科学者たちは、黒板に数式を書き殴り、導き出された答えに絶望の声を漏らした。
「……計算上、TNT火薬換算で『数十万トン(300〜500キロトン)』に匹敵する爆発です。これを、通常の爆撃機で運ぶことは物理的に不可能です。また、巨大な火薬庫が偶発的に誘爆した波形でもありません」
絶対的な情報統制によって帝国の真実は語られない。だが、科学者たちは自らの持つ知識から、一つの『最悪の結論』を恐怖と共に決定づけた。
『帝国は、我々に先んじて「ウラン爆弾(原子爆弾)」を完成させ、連邦の都市に実戦投入した』
気圧波と地震波のデータは、計算上「原子爆弾」以外の何物でも説明がつかない。連合国の首脳陣と科学者たちは、「帝国が技術競争に勝利し、神の火をすでに手に入れた」という絶望的な事実を確信した。
さらに、EMPという現象の原理をまだ正確に理解していなかった彼らは、もう一つの誤った、しかし致命的な過剰評価を下した。
『広域の通信ブラックアウトは、新型爆弾の副次効果(未知の磁気嵐)、あるいは帝国が原爆と同時に運用した「悪魔的な電波妨害兵器」である』
「連中は、通信網を焼いて我々の目と耳を塞いだ上で、都市を丸ごと一つ消滅させることができるのだ……!」
この過剰な恐怖は、連合王国の首脳陣の精神を根底からへし折るのに十分な破壊力を持っていた。
◇
《アルビオン連合王国 首都ロンディウム 10番地 首相執務室》
「……もう、よい。もう何も言わなくていい」
首相執務室の革張りの椅子に、ウィンストン・チャーブルは幽鬼のような顔で深く沈み込んでいた。
彼の机の上には、気象局や大学から提出された『帝国による原子爆弾使用の可能性が極めて高い』とする、絶望的な報告書が散乱している。
もはや、彼の口元にいつもの太い葉巻はない。震える手でウイスキーのグラスを握りしめているだけだ。
「帝国は、神の火を手に入れた。……あのジャガイモ野郎どもは、本当にロンディウムを一瞬で消し炭にする手段を持っていたのだ」
チャーブルの脳裏に、ライン戦線の崩壊、アルデンネの森からの急襲、そしてサラトフの消滅という、帝国の見せる悪夢のような非道と暴力のパレードがフラッシュバックする。
帝国軍は、もはや人間の軍隊ではない。あれは、理不尽に命を刈り取るシステムだ。
「……講和だ。帝国に、全面講和の使者を送るしかない。今ならマシな条件で講和ができる。ロンディウムの空にあの悪魔の爆弾が落とされる前に、我々は白旗を上げるべきなのか……だが、それを国民は絶対に納得しない……原子爆弾なぞ、彼らは知らないし、私ですらここ最近になって詳しいことを知ったくらいだぞ……」
徹底抗戦を叫び続けていたアルビオンのブルドッグが、ついにその牙を折られ、真っ青な顔で降伏を口にした。
コンコン、と。
その絶望の執務室のドアがノックされ、SIS局長、サー・アーサー・シンクレアが、いつも通り無機質な顔で入室してきた。
チャーブルは、力なく手を振った。
「アーサー卿……。もう全て知っている。……君が持ってくる報告書など、もう見たくない。結構だ」
帝国が原爆を落とした。それ以上の最悪のニュースなど、この世に存在するはずがない。そう思い込んでいたチャーブルに対し、アーサー卿は表情一つ変えずに首を横に振った。
「いえ、首相。私が今日やって来たのは、首相が思われるような事案(帝国の原爆)ではありません。……海の向こう、合州国からの緊急の通達でございます」
「なに? ……また、ろくでもないことか……!」
チャーブルは、胃の奥が冷たくなるのを感じた。
アーサー卿は、黒い革のファイルを開き、一切の抑揚を排除した冷徹な声で読み上げ始めた。
「合州国大統領ラーズベルトは、数時間前、ホワイトハウスにて緊急の特別声明を発表いたしました。……『帝国は神の理を冒涜する悪魔であり、世界の敵である。合州国は、全ての文明人と神の御名において、この邪悪なる帝国、およびそれに与する極東の皇国を、地上から完全に根絶やしにする聖戦を宣言する』……と」
「……は?」
チャーブルの口から、間抜けな声が漏れた。
帝国が都市を一つ一瞬で消滅させる爆弾を持っているという情報は、合州国にも確実に共有されているはずだ。だというのに。
「あ、あの車椅子の男は、正気か!? 相手は神の火を持っているのだぞ! 全く引く気がないのか!?」
「ええ。引く気がないどころか、むしろ狂喜乱舞して十字軍の結成を叫んでおります。……合州国はすでに、月産数百万トンの輸送船と無数の護衛空母群を大西洋に放ち、我がアルビオン本土へ向けて、途方もない規模の兵力と物資を上陸させ始めております」
アーサー卿の突きつけた現実は、チャーブルにとって、帝国の原爆以上に逃げ場のない『本当の地獄』であった。
現在、アルビオン連合王国の経済と軍備は、合州国からの膨大なレンドリースと、彼らの異常な造船能力によって完全に生かされている状態である。さらに、本土には合州国の大部隊が駐屯し始めている。その駐屯部隊が本土に上陸するまでに国民を納得させ、帝国と講和を結べる見込みはゼロである。
「……つまり」
チャーブルは、血の気の引いた唇を震わせた。
「我が国は……神の火を持った悪魔のような帝国と、海を挟んだ目と鼻の先のご近所さんでありながら……。その帝国に喧嘩を売って聖戦を叫ぶ狂信的なカウボーイに首根っこを掴まれ、逆らうことすらできない、と……?」
「その通りでございます、首相」
アーサー卿は、残酷なまでに完璧なブリティッシュ・スマイルを浮かべて一礼した。
「我が連合王国は、退路を断たれました。我々は、合州国の狂気的な物量の不沈空母として、帝国と最後まで殺し合う運命にあるのです……おめでとうございます、首相」
「う、うわあああああああああああっ!!」
チャーブルは、自らの頭を抱え、絶望のあまり机に突っ伏した。
東からは都市を蒸発させる神の火が迫り、西からは退路を塞ぐように巨大資本の波が押し寄せる。
アルビオン連合王国は、二つの怪物に挟まれたちっぽけな島国として、大戦争の狂乱の底へと、強制的に引き摺り込まれていくのであった。
まだこいつらは帝国がとんでもない運搬手段を持っていることを知らないので幸運ですね^^
黎明期の射程が千キロいかないような弾頭ミサイルでも、撃ち込まれたら現代でも迎撃ミスる可能性が十分ありますからね。
この技術レベルだと、奇跡がダース単位で起きても迎撃ができないレベルです。弾頭に収まっている核が不発なことを祈るしかありません。
ローゼフシルトの過去話いる?
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前世まで赤裸々に見せろ!おら!!
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転生してからの話あくしろ
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男に興味ねぇからさっさと話進めろや!