大平洋戦争詳しくないから、それが絡まると毎回難産になっちゃう
《統一暦1928年 8月》
ヴォロネジ周辺で繰り広げられていた帝国と連邦の凄惨な殲滅戦は、世界各国の予想を裏切る形で、深い秘密のベールに包まれたまま唐突な終わりを迎えた。
通常であれば、勝利の果実を声高に宣伝し、プロパガンダの材料として最大限に活用するはずの帝国は、この時ばかりは徹底した大規模な情報統制を敷いた。軍内部ですら全貌を把握している者はごく僅かであり、作戦の推移や損害、そしていかなる戦術が用いられたのかすら外部に漏れることがないように統制した。一方のルーシー連邦もまた、特有の秘密主義の殻に閉じこもり、被害の全容をひた隠しにした。さらに、戦場周辺では正体不明の大規模な電子障害が観測されており、アルビオンや合州国といった第三国の諜報機関をもってしても、その戦いの詳細を把握することは不可能であった。世界はただ、ヴォロネジの地で何百万という将兵がぶつかり合い、そして沈黙したという不気味な事実だけを突きつけられていたのである。
だが、大戦争の火種というものは、そのような情報の空白など些細なことであると言わんばかりに、各地で燻り、そして燃え広がり続けていた。
ヴォロネジでの殲滅戦が進展する中、同年7月、南方の戦略的要衝であるスワイズ運河が、帝国と同盟軍の懸命な工事の末にようやく復元された。この運河の開通は、単なる交通路の回復以上の意味を持っていた。
これにより、極東の秋津洲皇国へと派遣されていた帝国東洋艦隊と東洋軍の将兵たちは、欧州からの直通の補給線を再び確保することに成功したのだ。彼らにとって、これは何よりも士気を向上させる朗報であった。いかに同盟国とはいえ、彼らは骨の髄まで欧州人である。極東の島国で供される「MISOスープ」の独特の発酵臭や、「KOME」の粘り気のある食感は、彼らの口には全くと言っていいほど合わなかった。スワイズ運河を経由して届けられた、懐かしい帝国のライ麦パンやソーセージ、そして本物のビールの味に、前線の将兵たちは久方ぶりに歓喜の声を上げたのであった。
またこの頃、地中海における戦略地図にも大きな変化が生じていた。
長らく地中海の不沈空母として君臨し、帝国の海上交通路を脅かし続けてきたメリタ島*1が、ついに連合国によって放棄されたのだ。同盟軍の執拗な航空攻撃と海上封鎖により、物資の枯渇と施設の大破が臨界点に達した連合国は、スワイズなき地中海では、もはやメリタ島の維持は無意味にして不可能と判断。執拗な追撃を振り切るようにして、生き残りの守備隊と艦艇を撤退させたのである。
この決定に対し、メリタ島攻略の総指揮を執っていたカッサルリンク元帥は、「もう少しで我々の手で完全なる降伏をもぎ取れたものを」と酷く悔しがった。しかし、南方大陸で戦うロメールやファルバックらにとっては、補給線に深々と突き刺さっていた特大の棘が抜け落ちたことを意味しており、彼らは諸手を挙げてこの撤退劇を歓喜で迎えたのであった。
メリタ島の陥落と時を同じくして、南方大陸で反攻の機会を窺っていたパットン率いる連合国の南方大陸派遣軍も、その攻勢を停止させた。スワイズの陥落と帝国軍の戦略的優勢、そこにメリタ島が陥落したことで南方大陸の帝国軍はさらに強化されると判断した上層部の命令によるものであった。結局、パットンの復讐の野望は果たされることなく、彼は次なる、想像を絶する規模の作戦に向けて一時的に本国へと帰還した。
だが、この時期は同盟国にとって、良いことばかりが続いていたわけではなかった。欧州や地中海で帝国が優位を確立しつつある一方で、地球の裏側、広大な大平洋では、ついに巨大な眠れる獅子が牙を剥き始めていたのである。
大平洋戦線。そこは、開戦以来、秋津洲皇国が圧倒的な機動力と航空戦力をもって連戦連勝を重ねてきた海域であった。しかし、1928年の8月、その潮目は静かに、しかし確実に変わりつつあった。合州国による本格的な反攻が開始され、まずその第一歩として、皇国勝利の証でもあったミッドウェー島が合州国の手に奪還されたのである。
ミッドウェーの失陥は、単なる戦術的敗北ではなかった。そこには、絶海に孤立した守備隊の凄惨な悲劇が隠されていた。
二か月前、皇国軍が占領したミッドウェー島に対する、合州国の兵站破壊戦が本格化した。復興を遂げたアロハ諸島からの圧力で、ミッドウェーの守備隊は外部からの補給を完全に絶たれ、絶望的な飢餓状態に陥っていたのである。弾薬は底を尽き、食料は枯渇し、兵士たちは熱帯の太陽の下で次々と餓死や病死を遂げていった。
これに対し、皇国連合艦隊司令部は苦渋の決断を下した。もはやミッドウェーの恒久的な占領と維持は困難であると判断し、残存守備隊の撤退作戦を発起したのである。
しかし、この動きを合州国海軍の暗号解読班は見逃さなかった。連合艦隊が出動したことを察知した合州国大平洋艦隊は、ミッドウェー奪還、そして皇国機動部隊の撃滅を狙い、即座に作戦を発動したのである。
この時の双方の戦力差は、合州国海軍の「圧倒的劣勢」であった。無理もない。合州国海軍は開戦緒戦において主力艦隊を完膚なきまでに消し飛ばされており、文字通り一から艦隊を再建したばかりだったのである。だが、彼らに全く勝ち筋がなかったわけではなかった。
第一に、ミッドウェー海域にやって来る皇国の戦力には、あの厄介な帝国東洋艦隊が含まれていなかった。第二に、連合艦隊の主力もまた、バーラト洋での戦いや、南洋での帝国東洋艦隊が浸かる終わりの見えない消耗戦によって各所に分散していたのだ。さらに皇国側は、「合州国海軍はまだ再建途上であり、打って出るだけの戦力は持っていない」と高をくくって油断しきっていたのである。
それでも、皇国連合艦隊の威容は、合州国にとって悪夢のように強力であった。
大平洋の炎上以降、あちこちの海戦で暴れまわった連合艦隊は、連合国にとってもはや「天災」のような存在として恐れられていた。この主力機動部隊に接触すれば、勝ち目はなく一方的に嬲り殺しにされる。それほどの練度と火力の差が存在していた。
この日、ミッドウェー沖に姿を現した連合艦隊の陣容は、合州国の予想通りの巨大な規模であった。
大型正規空母が六隻、中型空母が三隻。さらに、これら空母群を護衛する水上打撃部隊も巨大であった。世界最大の戦艦である大和型二隻に加え、長門級二隻、天城級二隻、伊勢型二隻という、計八隻の戦艦群が随伴していたのである。
総計九隻の空母と、世界最強の戦艦群。それは、帝国の誇る大洋艦隊や、連合王国の本国艦隊レベルの全力を挙げなければ対抗不可能な、まさに絶望的なまでの戦力であった。
これに立ち向かい、ミッドウェーを奪取せんとする合州国大平洋艦隊。
その司令官であるブルゼー提督の元に集められた戦力は、最新鋭の正規空母であるエセックス級三隻、軽空母四隻、そしてノースカロライナ級高速戦艦三隻という、明らかに数で劣る規模であった。艦載機の総数で見ても、皇国側が練度極まる搭乗員を乗せた約800機を搭載しているのに対し、合州国側はかき集めてようやく500機が関の山だったのである。
「これはギャンブルだ。それも、国家の命運を賭けた最悪のギャンブルだ」
ブルゼー提督は、旗艦の艦橋で海図を睨みながら独りごちた。
しかし、ここで連合艦隊の無血での撤退を許し、ミッドウェーを見逃せば、大平洋の制海権はこれから一年以上さらに彼方へとやることとなる。彼は、技術的な優位を信じ、決戦を強行する決断を下したのである。
「合州国海軍など、出てこられるはずがない。出てきたとしても、我が方の敵ではない」
これが、連合艦隊司令部を支配していた空気であった。
彼らはミッドウェー島の残存守備隊を収容する作戦を優先し、周囲の索敵を著しく疎かにしていた。歴戦の搭乗員たちは、帝国海軍の休養を考慮しない硬直化した運用制度での連戦で疲労が抜けきっておらず、指揮官たちも連戦連勝の記憶に酔いしれていた。
島からの部隊収容作業中、連合艦隊の艦艇は速度を落とし、回避運動も制限される無防備な状態にあった。
合州国の索敵網は、この瞬間を逃さなかった。
雲間を抜けて飛来した合州国海軍の哨戒機が、悠然と海を進む大和の巨大な艦影と、その周囲を取り囲む空母群を発見したのである。
「敵主力艦隊発見。座標、〇二五、一七〇。大型空母多数、戦艦多数」
無電は即座に合州国大平洋艦隊へと送られた。ミニッツ提督は躊躇うことなく、全攻撃隊の発進を命じた。エセックス級の飛行甲板から、急降下爆撃機と雷撃機が次々と飛び立ち、雲の大群となって皇国艦隊へと殺到していった。
これに対し、連合艦隊の対応は致命的に遅れた。
彼らが合州国艦隊の存在に気がついたのは、合州国の偵察機が本隊に座標を伝え終わり、攻撃隊がすでに接近しつつある頃であった。
「敵機発見! 多数、急接近中!」
索敵機の悲痛な叫びが通信機を通して艦橋に響き渡ったとき、空母の飛行甲板には、爆装した攻撃機と、島から収容したばかりの部隊の機材が所狭しと並べられていた。
「馬鹿な!合州国の機動部隊が近くにいるというのか!なぜ索敵機は気付かなかった!」
手際の悪さを露呈した司令部はパニックに陥り、慌てて戦闘機の発艦を命じたが、すでに合州国の急降下爆撃隊は、空母の頭上、致命的な急降下ポイントへと到達していたのである。
この時、合州国艦隊は過剰に距離を離して攻撃を実施しており、この事から皇国側を完全に欺いた。
急降下爆撃機のパイロットたちの叫びと共に、重力に引かれた爆弾が次々と皇国空母へと放たれた。
高角砲が火を噴き、上空警戒の零戦が必死に迎撃を試みる。皇国の熟練パイロットたちの迎撃は凄まじく、何十機もの合州国機が火だるまとなって海に落ちた。その「ギリギリ間に合った迎撃」のおかげで、連合艦隊は全滅という最悪の事態だけは免れたのである。
しかし、完璧な奇襲を防ぎきることは不可能だった。
数発の爆弾が、大型空母一隻と中型空母一隻の飛行甲板を無惨に引き裂いた。甲板上に並べられていた航空機と満載された航空燃料、そして魚雷が次々と誘爆を起こし、空母は一瞬にして紅蓮の炎に包まれた。巨大な火柱が海上に立ち上り、鉄が溶ける異臭と兵士たちの悲鳴がミッドウェーの海を覆った。
必死のダメージコントロールも虚しく、燃え盛る二隻の空母はやがて重油を海に流しながら、ゆっくりと波間に沈んでいった。圧倒的な威容を誇っていた連合艦隊の陣形に、ポッカリと巨大な穴が開いた瞬間であった。
「合州国艦隊を叩き潰せ!一隻たりとも生かして帰すな!」
大型空母一隻、中型空母一隻の喪失という開戦以来最大の痛手を受けた艦隊の人殺しと呼ばれる提督は、第二航空戦隊のみで即座に反撃を命じた。
少し遅れる形で他の空母でも準備出来次第、皇国の誇る精鋭パイロットたちが次々と発艦していく。彼らの目には、友軍艦を沈められた復讐の炎が燃え盛っていた。
雲の切れ間から、エセックス級空母を中心とする合州国機動部隊を発見した皇国攻撃隊は、猛禽のように襲い掛かった。過去の海戦であれば、この圧倒的な数の精鋭による集中攻撃を受ければ、いかなる艦隊も海の底へと沈む運命にあった。
だが、この日の合州国艦隊は、過去の彼らとは決定的に異なっていた。
上空には艦隊のCICからのシステマティックな指令の下、効率よく迎撃を実行する航空機が百機が乱舞し、皇国海軍航空隊は多大な犠牲を払って攻撃機と雷撃機の通る道を開けるしかなかった。
そしてその内に入った攻撃機と雷撃機に向かって、合州国の艦隊から無数の閃光が放たれた。
それは、彼らがこれまでの海戦で経験したことのない、異次元の対空砲火であった。連合王国の時代遅れのポンポン砲とは密度から何もかもが違う対空砲火だった。合州国が開発し、実戦投入した新兵器VT信管。目標に直撃しなくても、一定の距離に近づいただけで電波を反射して自動的に起爆するこの魔法のような信管は、空中に「見えない爆発の壁」を形成した。
空を埋め尽くす黒煙と、連続する爆発の閃光。
「なんだこの弾幕は!避けきれ――っ!」
皇国の熟練パイロットたちでさえ、この濃密な死の壁を突破することは至難の業であった。急降下に入ろうとした機体が空中で次々と見えない壁にぶつかったかのように四散し、雷撃機は海面すれすれで火だるまとなって海に突っ込んだ。
空が、彼らの血と炎で染まっていく。
それでも、皇国パイロットの執念と技量は、技術の壁をも一部で食い破った。
数機の急降下爆撃機が対空砲火をすり抜け、最新鋭のエセックスの甲板に爆弾を叩き込んだ。さらに、雷撃機の一団が護衛空母の土手っ腹に魚雷を命中させ、これを轟沈させた。
エセックスは激しく炎上し、飛行甲板は大破、発着艦不能の重傷を負った。
「狼狽えるな!この程度、かすり傷だ!ただちに第二次攻撃隊を空に上げろ」
猛将のブルゼーはここで引くべきでないと判断し戦闘を継続しようとしたが、それは上層部が許さなかった。
『現時点での空母の喪失は戦略上認められるものではない』
大平洋艦隊司令官のミニッツ提督は、目的である敵空母の撃破とミッドウェー奪還の成功を確信し、深追いせずに傷ついたエセックスを引き連れて海域からの離脱を命じた。
第二次ミッドウェー海戦と呼ばれることとなるこの戦いは、こうして幕を閉じた。
連合艦隊は、大型空母一隻と中型空母一隻を喪失し、無敵の神話に傷をつけられた。合州国艦隊もまた、護衛空母一隻を沈められ、虎の子のエセックスを大破させられるという手痛い損害を被った。
戦略的に見れば、合州国はミッドウェー島を奪還し、大平洋における前進拠点を取り戻すという最大の目的を達成した。しかし、連合艦隊から見れば、不意を突かれた奇襲を受けながらも、ギリギリの迎撃と反撃によって艦隊の壊滅を防ぎ、敵の最新鋭空母に致命傷を与えて撤退させたという点で、完全な敗北とは言えない結果であった。
しかし、この海戦が両軍の首脳部に与えた真の衝撃は、沈んだ艦の数にはなかった。
連合艦隊の指揮官たちは、帰還したパイロットたちの青ざめた報告に戦慄した。
「敵の対空砲火は異常です。まるで空中に見えない機雷が浮いているかのように、近づくだけで爆発するのです」
合州国の工業力と科学技術が生み出したVT信管の存在。それは、これまで個人の技量と精神力に頼ってきた皇国の航空戦術が、遠からずシステム化された圧倒的な技術の壁に激突し、すり潰される未来を暗示していた。
一方の合州国もまた、冷や汗を拭っていた。
圧倒的に有利な奇襲を仕掛け、最新の対空兵器をもってしても、皇国のパイロットたちはその死の壁をすり抜け、エセックスを大破させたのだ。もし、相手の索敵が完璧に行われていたら。合州国大平洋艦隊は、今度こそ完全に大平洋の底に沈められていたに違いない。
ヴォロネジで帝国と連邦が未知の電子戦を繰り広げ、スワイズ運河が世界の兵站を再び繋ぎ、メリタ島が落ちた1928年の夏。
大平洋のミッドウェー沖で流された将兵の血は、やがて来るであろう、更なる血みどろの技術戦と総力戦の到来を、静かに、しかし確実に世界へと告げていたのである。
筆休めの大平洋での海戦でした。
史実の五十六とニミッツの運だめしとほぼ同じ結果になりました。
ローゼフシルトの過去話いる?
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前世まで赤裸々に見せろ!おら!!
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転生してからの話あくしろ
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男に興味ねぇからさっさと話進めろや!