別に、これと言って特別な過去とか、大層な理由だとかは無い。
ただ漠然と、強くなりたかった。
「ハクレン、そろそろ出番だぞ、起きろ。」
「ん、もうそんな時間か?」
「あぁ。初陣、行くぞ。」
俺たちのいるこの大陸では、二つの大国が、数百年経っても終わらない戦争を続けている。
我らが祖国、セインズ。憎むべき敵国、アルスター。
魔法、機械、科学。
ありとあらゆるものを用いて互いを潰し合い、潰しきれずにいた。
戦争は終わることも、止まることもない。
恨みと執念渦巻くこの両国の境界、終の淵では年中戦いが続いている。
何度か和解の道を歩もうとしたこともあったそうだが…そのどれもがテロやクーデターによって妨害され、和解どころか停戦すらされていない。
それほどまでに互いの溝は深くなりすぎてしまった。
「クロ。」
「どうした?ハクレン。」
「帰ったら、またあの酒場で飲もうぜ。」
「あぁ。約束だ。」
と、まぁ長々と語ってしまったが。確かに、アルスターの連中は嫌いだが…別に俺は親族とか友達とか殺されたわけでもないし、仕方ないかな〜くらいにしか思っていない。
クロも、別にそこまで嫌い、というわけでもないらしい。
じゃあなぜ戦場なんかにいるのか。徴兵されたから…と言ってしまえばそれまでだが、一応、理由はある。
「俺の隊は…あそこか。」
クロは、この戦場で成り上がって、金を稼ぐため。
妹が病気で、その薬で結構生活が厳しいらしい。だから、この戦場で武勲を立てて、上の地位に行って。金を貰って生活を楽にしたいんだと。
「君が新入りかな?名は…」
「ハクレン・サイトです!」
「なるほど。これで新入りは全員揃ったかな。」
さて。俺の理由は後にしよう。
ここは終の淵のすぐそこ。始淵基地ファースト。
魔法使いはここのひとつ後ろ、セカンドの配置だから、必然的にここにいるのは銃器隊か、近接武器を持った白兵かのどちらかとなる。
クロは銃器隊らしいが、俺は。
「さて、全員揃ったようだし、命知らず共に改めて自己紹介でもしようか。」
「私はカスト・エラ。この五十人ほどの隊のリーダー…ということになっている。」
「ただまぁ…階級だとか、リーダーだとか。そんなことはあまり関係ない。結局は生き残った奴が一番だからな。」
そう話すカストの言葉を無言で聞き続ける。
「私は白兵隊一本で三年近く生き残ってきたが…」
「ここにいる奴らは死にたがりか大層な目的があるか仕方なくなったか。まあそのどれかだろう。」
「終わったらいくらでも聞いてやる。ここでも、あの世でも。」
「行くぞ不幸な死にたがり共。1人でも多くの敵を、殺せ。」
この五十人の隊の歓声が上がる。
今回の戦いは防衛戦。既に攻め込まれている中、急遽初陣を待っていた俺たちとか、暇だった人とか。そういう人を集めての急造部隊。
もちろん、正規の部隊もいるが、そういうところも軽く人員をテキトーに補充している。クロもその1人だ。
この門の向こうにある終の淵。
草ひとつ生えていない大地は人の悲鳴と鉄の撃ち合う音が響き続けている。
俺が目指すはただひとつ、最強。
練習とか模擬戦とかとは違う戦場特有の空気。
死の感覚。
あぁ。俺が求めていたのはこれだ。
「白兵隊!出ろ!」
隊長に合わせ、進む。そのスピードは徐々に上がっていき、一秒でも早く殺したいという思いが伝わってくる。
「さぁ、行くぞ!!!」
開戦だ。
と、まぁ色々言っていたが目的は生き残ること。そして1人でも多く殺すこと。
まぁ、防衛戦ではこちらの方が有利だとされているから、生き残ること優先でいこう。
急造部隊で個々の目的もバラバラ。そんなだからうちは気がつくとみんなバラバラになっていた。マイペースしかいねぇ。
「見つけたァ!」
1人目。横からの襲撃の形になったようで、俺の剣が綺麗に首を刎ねる。
強くなるための近道とか、方法とか、そういうのはまだ決まっていない。
ただ今の俺にあるのは剣と、体と、少しの魔力のみ。
そして今いるのが戦場なら、ただひたすらに目の前の敵を殺すことだけを考えればいい。
「何人殺せるかなっとォ!『魔法・インビジブル』。」
得意魔法の一つ、インビジブル。体全体を透明化させる、ただそれだけの魔法。
効果時間は使う時に込めた魔力量によって変化する。今だと三十秒ほど。
その間を使って敵の後ろへと周りこむ。
今まさに味方を殺そうとしている敵の胸に剣を突き刺す。
足でその背中を蹴って勢いをつけて剣を引き抜く。
「後ろ!来てる!」
「了解!」
今俺が助けたやつからの指示の声を聞き、体を右に倒す。
避けきれなかった腕の部分が少し切れるが、このくらいなら問題はない。
「『魔法・インビジブル』」
すっと魔法を使って敵の視界から消える。
足跡、呼吸や金属の音。その他様々な情報から位置を推測することは可能だ。
だが、どれだけこの魔法を見た奴だろうと発動した直後は隙が生じる。
「そこだ。」
相手の方に向き直し、剣を持っていた右腕を下から上へと斬りあげる。
「『火魔法・ファイアアロー』!」
そこに後ろから相手の胸、ど真ん中にファイアアロー。
「ナイス魔法だ。いい腕だな?」
「すいません、ありがとうございます。」
燃え上がる死体を横目に軽く話す。
「乱戦だな。」
「戦場なんてそんなもんですよ。ところで、この戦場だけでも一緒に行動しません?」
「その言葉を待ってた。俺はハクレン。お前は?」
「私はサイラです。」
こうして軽い自己紹介を済ませ、すぐに警戒体制に入る。
別に殺しが初めてってわけでもないから、特に緊張で体が動かないとか、そういうのはない。
というか戦場にいる以上そういうのは当たり前だろう。
「セカンドからの魔法が飛んでくるタイミングも分からん。とりあえず今は周りの敵を減らすぞ!」
「はい!」
スッと力を抜き、足に力を入れ直し、敵の下へ駆ける。
剣と剣が交差する。鍔迫り合いの中、俺はふっと力を抜き、離れながら地面に屈む。
「『火魔法・ファイアアロー』!」
敵が力のまま地面に向かって体勢を崩したところにファイアアローが刺さる。
そのまま相手は地面に倒れ伏す。
「行けるっ!」
こちらに斬りかかってきている他の敵を視界に捉え、ばっと姿勢を整える。
こちらに向かう剣を剣でいなし、左手で腰のホルスターから拳銃を抜き、撃つ。
適当に撃っただけだが手首は壊した。落ちていく剣を横目に頭に剣を突き刺す。
またしても体を蹴って引き抜くと、その後ろからもう1人。
ちらっとサイラの方を見ると他の敵と交戦中。
それだけ確認して、銃を腰に戻しながら横に避ける。
銃は弾が勿体無いからあまり使いたくない。そもそも予備の弾倉があまり無い。
魔法も、そうそう乱発していいものでもない。
セカンドからの魔法支援。それは終の淵への大規模爆撃。
敵味方関係なく、戦場に魔法陣が出たが最後、大規模爆撃によって塵と化す。
それを防ぐためにあるのが、魔力防護壁。
戦闘開始前に支給されるこれに魔力を注げば、大規模爆撃を文字通り無効化できるという代物。
それに入れる魔力は残して置かなければならない。
銃弾、魔力、体力、仲間、相手。考えることが多いが、目の前のことをこなすしか道はない。
「そこォ!」
剣の打ち合いが続く中、一瞬の隙をついて深傷を負わせる。
ここだ。ここで詰めればこいつを殺せる。
俺は、また強くなれる。
「ハクレン!下がって!」
サイラからの声が響くが、それを聞いた時にはもう遅い。
既に、下がれなくなっていた。
「アルスター、万歳…」
そう言ったかと思うと体に注射器を刺す敵兵。
何をしたのかと思う間もなく理解する。
体が不自然なまでに膨張し、爆発したことで。