【カオ転三次】幼女ネキの謎を解明するため、黒札調査隊は宮城県の奥地〇〇町出張所へと向かった――。 作:貧弱一般メガテンプレイヤー
やっぱり前後編にして正解だったと思うぐらい長いです、ネタと下ネタまみれなのは今迄通りですが、今回は別方向の下ネタも含まれますので、お食事中の方はご注意下さい。
また、今回の内容はカオ転の本編、三次におけるメシア教だけでなく、メシア教を擁護する黒札に対しての揶揄や皮肉とも取れる描写もありますが、バカがバカな考えでバカな事を言っているだけであり、そういう揶揄や皮肉を目的をしたものではありません。
そんな真面目な作品ではないとご承知の上でご覧頂ければと思いますので宜しくお願い致します。
メシア教穏健派。
且つて世界最大・最強のオカルト組織であったメシア教がそれぞれの思惑・方針により袂を分かち、ガイア連合と(一応)同盟を組んだメシア教の一派である。
分裂したとはいえ且つての最大勢力だけの事はあり、その抱えた人員・財力・戦力は高く、(仮にも)『父である神を愛すること』『自分のように隣人を愛すること』という教えを掟とするキリスト教の一派なのもあり、多神連合の大多数の連中より(比較的には)まだ人の理屈・理論が通じる相手ではある。
故に『崩壊した世界でもファミチキ食いてえ』というスローガンを掲げるガイア連合にとっては欠かせぬ同盟相手と言える。
が、前世でメガテンシリーズの知識を持つ者からすれば、個々で良い人・良い天使も居ると知っていても、組織としては信用も信頼も絶対出来ない相手なのもまた事実――まあ誰だって好き好んで餃子になりたいとは色んな意味で思わない。
メガテン世界とはいえゲームと現実は違うという考えもあろうが、分裂前でも日本を含め霊能関係で世界各地で色々とやらかし――向こうの言い分では正当防衛との事だが――現在でも過激派連中の所業を見れば、これまた信用も信頼も難しい。
黒札こと俺たちの中でも身内や当人が被害を受け、メシアンスレイヤーとなった者達も多数居るという有様では尚の事。
彼らに理解を示す黒札が存在しないとまでは言わないが、それでも全体的に考えれば黒札が(個々人への対応は別で)メシア教穏健派に思う事は『可能なら関わりたくない相手』が基本となる事だろう――残念ながら、穏健派の方が積極的に黒札達に関わろうとしてくるのだが。
そして如何にバカ共でも前世でメガテンシリーズをプレイし、現世でも現地民・俺たち問わず色々とメシア教による被害者・犠牲者の生の声を聞く機会もある中で警戒をしない程、自信過剰でも命知らずでもない。
幾らバカでも自分が天使連中の依り代*1やMAG生産装置にされるのを面白がれる程のぶっとんだ破滅願望持ちではないのだ。
つまりこのバカ共にとってもメシアン関連は――例えるならば酒の席での政治と野球と民族の話と同じ――よっぽどの事がない限りは避けるべき話題という認識であった。
「想像以上に強烈なネタが出てきたなオイ。腹いっぱい食った直後に幕之内にリバーブローされた気分だ」
「なんでこんな精神状態の時に出してきますかね。鳥取の渇殺しの後で城兵に分厚いステーキ食わせるが如き所業ですよこれ」
揃って表情と雰囲気の全てでマジ勘弁してくれよと訴えてくる二人に、負けぬ程のしかめっ面でヨロイニキが返す。
「いやオレだって好きでこんなネタ振ってねーよ。でもこの先さけて通れないネタなのは確かだろ?」
「まあ否定は出来ないがな……で、連中の何が良く分からないんだ? とはいえ俺達もあいつらの事分かってなんかないがよ」
溜息混じりに応えたサスケニキに対し、腕組みしてうーん、と考えるヨロイニキ。
「なんつーか何て言ったらいいかもわかんないっつーか、あいつら何がしたいのとか何でそうすんのとか、目的は何なのというか、そんな感じ?」
「何がしたいの、ですか。最終目的ならメガテンシリーズと同じく
難しい顔で述べるヨロイニキに対し少し皮肉気に答えるクロマニキ。
まあ黒札連中の大多数は神の愛よりエロスや萌え、バトルや物作りで救われる連中だと知っていればそんな反応になるだろう。
「それはそれとして確認したいんですが、何でまた穏健派について考えようと? 今回の依頼も無関係ではないとの事でしたが」
「んー、まあ何というか……」
らしくないと言外に込められた言葉を理解して、後頭部を掻きながら訥々とヨロイニキが答える。
「今まで通りハニトラや勧誘は、まあ逃げちまえばいいけどよ。でもこの先異界探索だの討伐依頼だの色々やるんなら、連中といっしょにやる事になるのもあり得るんだろ? で、そん時あいつらにどんな風に相手すんのか予め考えておきたいというか、備えておきたい? そんな感じ」
頭に浮かぶしっかり形になってないものを何とか言葉にしようとしているヨロイニキに、二人も無言で聞く態勢になり、そんな反応を見たヨロイニキも言葉を続ける。
「過激派みてえな言葉は通じても話の出来ない奴ら、多神連合の神みたいな話できてもなんか色々と根っ子が違うなな奴ら、名家みたいなクズとガンギマリが混じってる奴ら、それぞれにどうすんのかは一応なんとなくでも決めてるだろ?*2 じゃ、穏健派の連中も決めとかないとトラブった時まずいよなあって思ってさ」
ふむ、と頷いたサスケニキと納得した顔になるクロマニキ。
バカではあるがパーティーの前衛・盾役であるが故に、場合によっては戦闘に大きな影響が出る可能性のある事に気付き、無視出来なかったのかと理解した。
「成程な。言われてみりゃ手の回らない塩漬け案件とか、恩を売るなり交渉の取っ掛かりにしたい穏健派が手を挙げそうな話ではある。ブッキングの可能性は確かにあるな」
「予めどうするか決めておけば慌てずにすむ、と。でも基本通り例え穏健派でもメシア教には警戒を忘れずに、で良いのでは?」
そんなクロマニキの問いに得たりとばかりにヨロイニキが答える。
「警戒するったって種類があるだろ? いきなり襲ってくる獣への警戒とこっちをハメようとする詐欺野郎への警戒は別モンだろ。そのあたりの線引きというかラインを考えようって感じで。一時的に共闘ぐらい出来るかどーかとか、話もしない方がいーのか、とか」
うーむ、と腕組みしたクロマニキが思案しながら意見を述べる。
「まあ相手と状況にもよるので絶対この通り、は無理でしょうが、ある程度の方針を決めるのは悪くない、ですね」
「ま、しんどい議題だが、だからこそ面倒事はまとめてやるってのもアリっちゃアリか。しょうがね〜なぁ〜」
取り合えずディスカッションに前向きになった二人に対し、目線を逸らしてぼそりとヨロイニキが呟いた。
「……敵対、もしくは仲悪い連中が共闘した後で一杯酒を酌み交わす*3ってのはやっぱ侍・いくさ人的に外せないシチュと思うんだよ」
しっかりとその呟きを聞き取った二人がオイコラといった顔になるがヨロイニキは怯まず大声で言い返す。
「別にいいだろ! 共闘出来る相手かどうかと考えるのと共闘した後のシチュ考えるのはかんけーないじゃん! できなきゃそれでおしまいでいいんだし!」
そんなヨロイニキに対して、サスケニキ、クロマニキはやっぱり所詮は十文字ワーグナーかと罵倒した。
勿論、ちゃんと心の中で。
◇
「言いたい事はありますが、必要な事と思いますしやると決めた以上はやりましょう。で、まずはヨロイニキ、貴方の言う分かんない事からですが」
「うーんと、まずあいつらってオレら――ガイ連や黒札は好きなんだよな? 一応は」
「まあ一応というか同盟相手だしな。どっかのスレで見たんだがあいつらから見たガイ連って例えるなら悪の組織に生まれたせいで、同類と見なされて誰も理解してくれない中で唯一理解して物理・精神両方で助けてくれたヒロインらしいぞ*4」
「なにそれ」
何がどうなればそうなるんだと思わず素になるヨロイニキ、そこにクロマニキが続ける。
「加えて多神連合は誰にでも優しいせいでヒロインに寄ってくる勘違いした悪い虫とか書かれてましたね」
「なにそれどこの乙女ゲー?」
やっぱり素になるヨロイニキ、それはそれとして、とクロマニキが続ける。
「で、連中がガイ連や黒札に好意的として、何が分からないと?」
「んー……好きで、そんで好きになってほしいのに、なんであいつら好かれることしないのさ? みたいな感じ」
「ふむ、何か例になるような話はあるか?」
そうやって続きを促すサスケニキに、これはすぐにヨロイニキが返す。
「幼女ネキ! ほら幼女ネキはガチのメシアン嫌いで有名だよな!?」
「ですね、今穏健派を殴らないのは先に過激派を殴るからだと言って憚らない程のアンチメシアンです」
「穏健派と出くわした時の幼女ネキを以前見たが、塩対応の見本だったな。教科書に載せるレベルの」
嘗て見た穏健派への幼女ネキの対応。
それは仮にも同盟相手で礼儀正しく友好的に接しているにも関わらず、黒札の同胞とはいえやらかしてボコられた自分達と比較しても――もしかして幼女ネキは自分達の事が好きなのではと思わず勘違いしてしまいそうな程の――まさに塩を極めた対応であった。
なお本当に勘違いしたヨロイニキが
「オレのことお兄ちゃんと呼んでもいいんだぜ?」
と
また、口に出さなかったが実は同じ事を思った残り二名も『そうゆう眼をしたっ!』と鉄山靠と猛虎硬爬山を食らわされたのは完全な余談である。
「で、基本天使もメシアンも死ねな幼女ネキだけどさ、一神教って派閥の奴らには甘いっつうか優しいじゃん、天使も嫁の中にいるし」
「まあそうですね、それについて文句を言った黒札を巻き藁にする程ですし」
「幼女ネキ的にはケジメをつけたか筋を通したかが大事らしいな。まあケジメも筋も幼女ネキの基準で、らしいが」
「そういうとこがホントに筋者というかヤのつく自営業ですよねえ彼女」
「だよなー。でよ、それで思うんだよ――」
分かんないという思いを表情と雰囲気全てで表現しながらヨロイニキが語る。
「――なんであいつら一神教派閥にならねーんだ?」
そんなヨロイニキに何を今更と眉をしかめて二人が答える。
「そりゃあそうだろ。一神教派閥って穏健派の更に一部、支援する黒札は割と居るが、言ってみりゃ弱小勢力だぜ? 上のお偉いさんは勿論、下のパンピーと変わらん連中だってそりゃ選ぶなら親方日の丸、または寄らば大樹の陰ってやつだな」
「それに幾ら多少弱れども大勢力の穏健派側が頭を下げるのはまあ色々と無理でしょう。百歩譲って合流って形にするにしても、結局は穏健派に乗っ取られてお仕舞です」
そんな二人にわーってるよと同じくしかめっ面で返すヨロイニキ。
「別に穏健派丸ごと入れって言ってねーよ。でも例えば宮城にいるやつら、幼女ネキと会うやつらだけでも入ればネキの態度も変わるだろって言ってんだ」
「それは……まあ、少しは変わるのか? 何とも言えんが」
「理屈の上では分かりますが……やはり難しいのでは?」
「なんでだ? 派閥が違っても結局おんなじ宗教じゃねーか。オレらでいう所属支部変えるようなモンじゃねーのかよ?」
一息ついてジュースで喉を潤したヨロイニキが続ける。
「実際一神教派になりましたっつったら幼女ネキじゃなくても喜ぶ黒札はけっこー居るだろ。確実に喜ばれる方法は取らねーのに、黒札の家族や身内にちょっかいかけるってぜってー嫌がられることすんのはなんでだ? あいつらあんな分厚い聖書読んで覚えるぐらいアタマ良いんじゃねえの?」
「「うーん……」」
ヨロイニキの言い分に何と返せばいいか分からず、思わず腕組みで考え込むサスケニキとクロマニキ。
「家族や身内に関しちゃ俺もそう思うが……名家系の俺たちの話じゃ、寧ろそっちが当然というかスタンダードらしいからなあ」
「将を射んとする者はまず馬を射よという言葉通り、そこまで的外れという訳ではないですからね、単に私達黒札の大多数が嫌がるやり方だというだけで」
皿の上のシュークリームをひとかじりしてクロマニキが続ける。
「あと派閥関係については宗教の面倒な所というか、同じ宗教でも色々と教義が違うとか普通にあるので何とも」
「そのあたりも分かんねーんだよなー。信仰するの禁止とか江戸幕府みたいなこと言ってる訳じゃないのにさー」
「一部言ってる黒札も居るらしいがな。一神教派閥含めて取り締まれって連中。まあ流石にそいつは無理だと俺でも思うが」
フルーツゼリーをスプーンで掬いながらそう語るサスケニキにクロマニキが頷き同意する。
「表向きに棄教したと偽る隠れメシアンが増えるだけです。そもそも宗教は下手に禁止すれば逆に広がると歴史が証明しています――それに、修道服は未来に残さねばならない
「それには同意する――まあメシアンが近くに居たら何時自分や身内が狙われるか分かったもんじゃないって理屈は分からんでもない。過激派スパイが混じってるなんて当たり前だし、穏健派が良かれと思って知らないまんまで過激派に協力してたって話も結構あるからな」
「え、そんなのあんのか?――いや、前世でやったメガテンシリーズでも似たようなこと、割とあったもんなあ」
「地獄への道は善意で出来ているってやつだな。ま、そういうのは宗教に限った話でもないけどよ」
うええ、と苦虫噛んだ顔になるヨロイニキにホント難しいわなと表情で返すサスケニキ。
ジュースで軽く口を濡らしたクロマニキが語る。
「逆に宗教と信仰は日々の暮らしに必要不可欠だと一定の理解を示す黒札も居ます。まあ前世がクリスチャンな黒札だって居て当然ですから――中には軽々しく棄教なんて言うのはクズだと言い切った人も居たとか*5」
「うわ、すげーなその人。絶対前世で『ピー』や『ピー』を批判した時みてーなアレなのも真面目なのも集まって大騒ぎ&大炎上不可避だろ」
「それを言える程色んな意味で鬼つええ黒札なんだろ。意見を通したきゃ力で語れってとこ割とあるからな
クッキーを口に放り込んで嚙み砕く。
広がる甘味に目を細めつつサスケニキがヨロイニキに話しかける。
「でだ。お前としては連中の行動と信仰ってのがよー分からんって訳か」
「まーそうなるのかな。あいつらの行動の元が信仰ってんならその信仰ってのが分かんないから、あいつらの事も分かんないってことなのかねえ」
ぼりぼりと頬を掻きながらむーむー唸る困った顔のヨロイニキ。
「やっぱ信仰とか宗教とかに縁のうっすい日本人には分かんねーもんなのかなー」
「よりによって神がいるメガテン世界でそれを言うか。いや敢えて悪魔を神と呼ぶ、なメガテン世界には寧ろ相応しいと言うべきなのか?」
「ああ、それは違いますよ」
思わずそう呟くヨロイニキとツッコむサスケニキに、クロマニキが指摘する。
「そう勘違いしている日本人は多いですが……日本人は決して無宗教とは言えません。寧ろ宗教的なモノが身近過ぎて気付けないと言うべきでしょう」
どこか得意気に話し続けるクロマニキ。
「細かいモノでは食事前のいただきます、後のごちそうさまに始まり、仏壇への焼香やお盆、お彼岸。新年の初詣。これらは何れも――ちょっと、何ですかその目は」
じっと見つめるヨロイニキの目に眉を顰めるクロマニキ。
ヨロイニキの目は有体に言って胡散臭い詐欺師を見る目であった。
「いや、正直全然その言い分が納得出来ねえっつうか、信用出来ねーというか。だってオレもお前らもこれっぽっちも信仰心なんてねえだろ」
「あのですねえ、私は日本人の信仰や宗教観について説明しようとしてるんですけど? そもそも私は兎も角、貴方達を日本人の一例にするのはどう考えても日本人に失礼でしょう」
「おうコラ。今ナチュラルに人を人でなし扱いしやがったな」
睨み合うヨロイニキとクロマニキ。
荒事厳禁の食堂内故、忽ち激しい口喧嘩が開始される。
「大体いただきますやごちそうさまで信仰だなんだ言われても納得出来ねーんだよ! あんなんただガキの頃言われたからやってるだけじゃねえか!」
「あれも立派な宗教的行動です! 映画で外人が食事前に祈るのぐらい見た事あるでしょう!? 仏壇に手を合わせたりお参りするのと同じです!」
「それでも別にいちいち祈ったりしてねえよ! 祈るっつーなら腹痛の時の方がはるかにマジで祈っとるわ!」
「手順を正しく守って正しく決められた行為を行う、それだって十分な祈りの形で宗教的行動で儀式になるんですよ!」
「そんな形だけでいいってのかよ!? なら信仰ってのはずい分と安っぽいモンなんだなオイ! むしろその程度でいーんなら
「貴方がバカで想像力が足りないから正しく理解出来てないだけでしょうが!」
「うっせーわ! 昔漫画で見たエジソンの母ちゃんが『エジソンが分からないから聞いてる事を貴方は何が分からないのかを分かっていないし説明も出来ていない』と教師に言ってたぞ! お前もオレに説明出来てねーじゃねーか!」
「貴方は何をどうやっても、それこそ百万回生まれ変わったってエジソンの足の指にも届かないドアホでしょうが! エジソンを例にするなど一兆年早い!」
「ああん!?」
「おおん!?」
仕舞には額をゴリゴリとぶつけながらヤンキーみたいにガンのくれ合い、飛ばしあいをする二人。
そんな二人の耳に微かに、だが確かに聞こえたもの。
「……ハッ」
心底見下した、呆れたような冷笑。
それを発した者、サスケニキは腕組み足組み座りで二人を思い切り嘲笑っていた。
「ったくどうしようもないバカ共だな。ここまで行くと哀れ通り越して笑えるぜ」
睨み付けるヨロイニキ、クロマニキに対し、自信たっぷりにサスケニキが続ける。
「まあ、仕方ない。哀れなバカ共に変わって俺がこの場を収めてしんぜよう。一言で日本人の信仰ってのがどんなもんかを説明してみせるぜ」
そんなサスケニキをこれっぽっちも信じていない目で見つめる二人。
サスケニキが自分だけに通じる無茶苦茶な理屈を語るのは何時もの事なので、信じる筈もない。
「おー、そうか言ってみろ。果てしなく無駄だとわかってるが聞くだけは聞いてやるよ」
「頓珍漢な事言った場合、今日の支払いだけで済むとは思わない事です」
全く信じていない目と声で続きを促すヨロイニキとクロマニキ。
既に二人の頭の中は奢り確定になった事で追加注文するメニューで一杯だった。
そしてサスケニキが語る。
「よし、耳の穴かっぽじってよく聞けよ――」
「――日本人は、食べ物粗末にするともったいないお化けが出ると信じてる!」
「「凄く分かりやすい!」」
どうよ、とドヤ顔全開のサスケニキにむぐぐと悔し気な顔をする二人。
悔しいが、認めたくないが、納得してしまった以上は向こうの勝ちである。
「色々遠回りしましたが……取り合えず日本人が実は無宗教でも無神論でもないというのは分かりました?」
「ああ、ちょっと気に入らないが取り合えず納得した。うん、納得はできた」
「おい、何で一々忌々しさ全開って顔と声に込めるんだよお前ら」
チョコを食べながらヨロイニキが考えをまとめるように続ける。
「ええと、信仰ってのは日々の暮らしに必要で、日本人でいうもったいないお化けぐらい馴染んだ当たり前のもので、だからそう簡単に捨てられない、という訳で――」
ぴたり、とヨロイニキが動きを止め、暫しの後に再起動。
「なあ、ちょっと聞きたいんだけどよ」
「おおい! 今解決した感じの流れだったじゃねえかよ、そこはもう終わっとけよ!」
「謎が謎を呼ぶ展開は場合によっては血を吐きながら続ける悲しいマラソンになるんですよ! どっかの町が長期連載で犯罪都市になったみたいに!」
「オレもわりとそう思ったよ! でも取り合えず聞いてくれ! お前らもそう思うから!」
聞きたくなーいと耳を塞ぐリアクションの二人を無視してヨロイニキが尋ねる。
「まず最初にメシアンを、過激派だけじゃなくて穏健派も含めてキライと言ってる黒札言ってみてくれ」
その問いに仕方なく耳栓を外した二人が考えながら名前を挙げていく。
「まず最初に言った幼女ネキ、依頼やった破魔ネキ、あとカス子ネキ――って思ったんだが合法ロリ同盟は皆穏健派含めてメシアン嫌いだろ」
「じゃそこはロリ同盟で省略してカス子ネキの盟友の邪視ネキ*6と魔人ネキ*7。脳缶ニキに沖縄支部*8は支部丸ごとアンチメシアンで、あとマルカジリニキ*9。そして……セツニキ*10や人魚ネキ、ミナミィネキは入りますかね?」
「入るんじゃね? セツニキの膝元の岩手支部のお弁当ニキ*11も入るかな。パピヨンニキ*12とウォレスニキ*13は、メシアン以外にも厳しいし、霊視ニキはちょっと迷うな――しかし、こうやって改めて挙げてくと、名の売れてる黒札、メシアン嫌いの割合多すぎねえ?」
「ううん、名が売れる程強くなるにはメシアン嫌いになるイベントが必要なのか、メシアンが嫌いだから名が売れる程強くなったのか、どっちなんですかねえ」
「なんだその闇が深いどころか闇しかなさそうな卵が先か鶏が先か理論 」
そろそろ出揃ったかと見ていたヨロイニキが、あ、と思いついたように声を上げる。
「おい一人、あれ一人だったっけ?――まあ兎に角一人忘れてるぞ。仮面ライダーレイプだ」
「ああ、ハルカ氏や幼女ネキといったライダーガチ勢を賞金懸けるレベルでキレさせたあいつらか」
「今は確か
挙がった名前に何とも言えない顔になる三人。
エロスは大好きで大歓迎だがドヘタレでもあるバカ共にとってレ〇プは二次やフィクションで楽しむモノであり、ガチでやるのは流石に引くわというのが本音である。
「メシアンであれば穏健派も区別せず狙い、襲う。黒札の中でも間違いなく一二を争うアンチメシアンにして色んな意味での危険人物と聞きますが」
「ん、そうなのか? 俺は穏健派の中の隠れた過激派連中を狩り出してるとか聞いたが」
「まあ仮面ライダーレイプなんてすげえヤバい名前名乗ってたんだ、きっととんでもなくヤバい〇イプする、すげえヤバい〇イパーなすげー黒札なんだろうな」
「なんだそりゃ。一体どんなことするってんだよ」
ヤバい、すげえを連呼するヨロイニキに呆れながら言うサスケニキ。
「どんなって、そりゃあ――」
そしてヨロイニキは暫し虚空を見つめ、その後想像した仮面ライダーレイプを話し出す。
「一秒で十回〇イプって叫んで『昨日はウリエル〇したぜ! 今日はミカエルほってやる!』とか言いながらメシアンなら男も女も天使も聖書も十字架も教会も全部レイ〇しちまうんだ。で、必殺技は『
「……仮面ライダーというよりどっかの地獄のテロリストだな、ギター持った白塗りの隈取りメイクで額に殺って書いた」
「有り得ない、と言い切れないんですよねえ。黒札の層の厚さを考えると割と居ても全然おかしくないというか」
ヨロイニキのどっかで見たような気がする想像図に何とも言えない顔のサスケニキとクロマニキ。
なお、別のテーブルに居たある三人組――ボサボサ頭の眼鏡で細長い顔の男、大きな眼鏡のぱっと見少年に見える男、長髪で白衣の優男――が、盛大に噴き出したり咽せ返ったりしていたのだが、三バカは気付かなかったのでこの話には関係ない。
「ま、それは兎も角幼女ネキも借りが出来たから一発殴るので勘弁すると言ってるらしいですし、ショタおじも放置している以上危険人物ではあっても黒札としてのラインは守ってはいるのでしょう」
「あれか、やっぱ人喰い系のデビルシフター連中みたく衝動に苦しんで、結果どうせならメシアンを襲ってやると決めたソッチ系悪魔のデビルシフターとか?」
「んー……でもメシアンばっか狙ってんだろ? ふつーにメシアン連中への復讐じゃないのか?……過激派の連中のやらかしや、連中が分かれる前のあれこれの被害者って、言いたくねーがあんま珍しいもんでもねーしよ」
苦い顔でのヨロイニキの発言に、サスケニキとクロマニキも顔と眉を顰めて同意を示す。
「確かにそれもありそうだな、クソッタレな牧場だの実験場だのの生き残りってんなら、行動含めて色々と納得出来る」
「そうだとすれば、存外仮面ライダーを名乗る資格はあったのかも知れませんね。原初の仮面ライダーも怪人バッタ男が始まりだったのですから」
「成程な、じゃあ仮面ライダーエターナル*16みたいな何かが違えば仮面ライダーになれたかもしれないって立ち位置だった訳か」
「場合によってはハルカ氏こと仮面ライダーギルスとダブルライダーになっていたのかもと思うと残念ですね。まさに『どうしてこうならなかった』タグ必須です」
「そうだな……何でそうならなかったんだろうな……」
やるせなさ全開でしみじみと語り合うサスケニキとクロマニキ。
そんな二人に真顔のままでヨロイニキが至極あっさりと答える。
「いや、そりゃどう考えても『仮面ライダーレイプ』なんて名乗ってレ〇プしてたからじゃねえか?」
「「ですよねー」」
身も蓋もないツッコみに同意するしかない二人。
「ホント何で仮面ライダーレイプなんて名乗っちゃったんでしょうね。それがなきゃもうちょっと違ったと思うんですけど」
「ま、しゃーない。過ぎた事だし、後で変えたとは言え名前が色々と大事なメガテン世界だ。どうしてもそうじゃなきゃいけない理由があったのかもしれん*17」
「誰になに言われよーと貫かなきゃなんねえモノってやつか。それもそれでかっけえと思うぜ、オレは」
仕方ない仕方ないと一口ケーキを口に入れる三人。
なお、別のテーブルに居た先程の三人組が、なんかプルプル震えたり居た堪れない雰囲気になっていたのだが、やっぱり三バカは気付かなかったのでこの話には絶対に関係ない、いいね?
「――と、思い切り話が脱線したな。で、メシアン嫌いの黒札思いつくとこは大体言ったと思うぞ」
「まあこれ以上続けてもキリがないですので、そろそろ答えて下さいよ」
「よし分かった。じゃ、今まで挙げた黒札を思い出してみてくれ。そんで、だ――」
ぐっ、と真剣な顔で乗り出してきたヨロイニキが、静かに、はっきりと告げた。
「――お前ら、この面子に逆らえるか? 『もったいないお化け』を信仰したいです、なんて理由でよ」
沈黙。
無言のまま固まったサスケニキとクロマニキ。
暫くしてようやく動き出した二人は視線を交わした後。
両方の手首を顔の横にくっつけてパーにして言った。
「「ムリ」」
次にグーにして
「「ム」」
またパーにして
「「リ」」
ボーボボの物真似までして無理と訴えるバカ二人。
「いやマジ無理だって。んなもんないけど、もしもったいないお化けの経典とかあったら『これは今日から尻拭く紙ですね!』って破り捨てるわ」
「ええ、もったいないお化けなんてオワコン! ガイ連万歳! とその場でガイア連合と書いた団扇と法被に着替えますよ」
「だろ!? オレだってもしもったいないお化けのシンボルとかあったら踏んづけてその上でビリー・ジーン踊りまくるわ!」
多神連合の神でもこいつら神子にすんのはいくら黒札でも流石にちょっとと思わせるような事を堂々と宣言するバカ三人。
まあ兎に角そのぐらいの無理難題だと言いたいのだという気持ちは良く分かった。
そして揃って腕組みしてむむむと考え込む。
「何か考える程逆に分からなくなってきてる気がするな、泥沼になる予感がバリバリしてきた」
「毎日の暮らしにかかせない、でも死ぬわけじゃねえ、だがあの面子に逆らう理由になる……うーん、分かんねえ」
「命なんか要らないって連中は良くも悪くも少数派でしょうから、死を恐れない訳じゃない、でも命を懸けるに足りる、と」
それが信仰というものなのか、ならそれは自分達にとっての一体何にあたるのか?
色々と考えてみるが、該当するものは誰もさっぱり思い浮かばなかった。
暫くの沈黙の後に、ヨロイニキがぽつりと呟いた。
「……やっぱあいつらのやる事や考えは、オレらには分かんねえ。そういう連中だってことなんかな」
何処か諦めたように聞こえる口調に、サスケニキもクロマニキも無言で何も返さなかった。
実際、穏健派をそういう風に捉えている黒札は決して少なくはない。
彼らがそういう結論を出して、そう振る舞おうとも文句を付けてくる者は皆無とは言わずとも多くはないだろう。
だが三人は全員が似つかわしくない、難しい表情を崩さず沈黙している。
何故メシアン達を理解出来ない連中と割り切ってしまわないのか
そう尋ねられたなら、三人は何とも言えない困った顔になって互いに顔を見合わせるだろう。
彼ら自身何故そうしないのか明確な理屈はなく、理由も分からず、何となくそうしたくないと思っているだけなのだから。
それでも敢えて今感じている事を無理やり形にして一番近い言葉で表すのなら――
――それは、つまらない、面白くないと三人は感じていたからだった。
それぞれが色々と自分なりに――バカの考え休むに似たりとはいえ――考え、答えを探そうとしている。
サスケニキもジュースに手を伸ばしつつ思考の海に沈む。
死ぬわけじゃない、でも欠かせない、そしてあんな地獄みたいな面子にだって歯向かい、レイ〇される危険を犯し、異議を唱える、それをさせるだけのモノ
(分かんないなあ……)
ストローでジュースをぶくぶくさせながら考えても全く答えが思いつかない。
食事や睡眠ぐらいしか自分達に当て嵌まりそうなものは浮かばず、そっちは幾ら覚醒者とはいえ流石に命に関わる。
(死ぬわけじゃないけど暮らしに欠かせない、か。宗教は麻薬なんて言ったお偉いさんも居たらしいが流石にヤクはやった事ねえしなあ。いや、麻薬じゃないけど楽しいモノと考えれば何か――)
そこまで考えたサスケニキはあることに気付き、そしてそれに思い至り、凍り付く。
手からコップが滑り落ち、テーブル上に底を打ち付け、ゴトッと音を立てた。
そのままひっくり返ってジュースをテーブルに巻き散らす所を、咄嗟にヨロイニキが覚醒者ならではの反応で支えて食い止める。
「おっと、おい何してんだ――おい、どうした?」
「サスケニキ?」
文句を言おうとしたヨロイニキがその徒ならぬ様子に戸惑い、クロマニキもどうしたと声を掛けるが、サスケニキは瞬きすら止めて凍り付いたままだった。
困惑に顔を見合わせる二人に、震えながら漸くサスケニキが言葉を発した。
「そうか……そういうことだったのか……」
その言葉にサスケニキが何かに気付いたと理解した二人は固唾を飲んで続きを待つ。
「――分かった。分かったんだ、信仰が俺達にとっての何に等しいかも、何で穏健派から一神教派にならないのかも、全部分かったんだ……」
分からなかった謎が解けたにも関わらず、その表情には全く喜びは見えない。
とんでもなく恐ろしい何かを見た、知ってしまったかのような姿に戸惑いながらもその答えも待つ二人に対し、逆にサスケニキが問い掛ける。
「なあ、さっき挙げた黒札達を思い出してくれ。そして――」
「――その面子に、『今日から〇ナニー禁止、一生ね』って言われたら、どうする?」
――!!?――
突如投げ掛けられたとんでもない言葉にヨロイニキ、クロマニキのどちらも一瞬絶句し、すぐに激しい反応を返す。
「そ、そんなのあんまりすぎるだろ! シキガミもない、悪魔娼館もいけない、オレらの最後の――そうマジで最後の砦で希望、唯一の救いなんだぞ!?」
「あまりにも非道、あまりにも無慈悲、如何な高レベル覚醒者といえども、越えてはならぬ一線、犯してはならぬ領域はある筈です!」
受け入れ難き情け容赦のない暴挙に声を荒げる二人だが、その直後に何かに気付き、先程のサスケニキの様に凍り付いた。
「お前らも分かったな? そう、それが答えだったんだ。つまり――」
「――穏健派の信仰こそ、俺達にとっての〇ナニーと同じだったんだよ!」
某ミステリー調査班な台詞を吐くバカと『な……なんだってー!』のお約束も返せずに固まったままのバカ二人。
今三バカの脳内には雷が――それこそ一撃で島すら消し飛ばす程の凄まじい雷、まさに神鳴りが鳴り響いていた。
ややあって再起動した二人が震えながら話始める。
「た、確かに死ぬわけじゃないが、暮らしていくのに、生きていくのにかかせないってのに、こいつはバッチリ当てはまる……」
「そしてどんだけヤバい面子だとしても、それでも何とかして撤回を願わずにはいられない、その為に必死で行動する――ええ、私達だってそうする事でしょう」
「ああ、誰だってそーする 俺もそーする」
なんてこったと全身全霊で表すヨロイニキと、驚愕から復帰しながらも思考を回すクロマニキにサスケニキも同意する。
「もしそうなったらそれこそ額が割れるレベルで地面にぶつけて土下座・土下寝・土下立のコンボを――いや、そっから更に跳躍まで決めるしかない」
「ああ、武士を止めて百姓にクラスチェンジして『お許しくだせえお代官さまぁ、お慈悲を、お情けを』ってやるしかねえじゃねえかよ」
「私だって恥も外聞もゴミ箱シュートして関係者に土下座行脚しますよ、それこそ相手の家族、身内問わず少しでも執り成し頼めそうな相手全部に」
きっと黒死ネキも笑う通り越して呆れそうな見苦しい所業に走る事を宣言するバカ三人――なお、元より恥も外聞も無いのではという至極真っ当な指摘もあるだろうがこの場にそれを告げる者はいなかった。
だが、ここでクロマニキが厳しい表情で告げた。
「――ですが、貴方の理論には一つ大きな穴があります。概ね納得出来る話ですが、そこの説明がない限りは諸手で賛同する事は出来ません」
静かに語るその表情には普段の様な粗探しや否定の為の否定といった雰囲気はない。
寧ろその意見を肯定したいからこそ、抜けや穴を見逃す訳にはいかないといった思いが見て取れた。
「貴方の理論では一神教派についての説明が不十分です。それでは穏健派が一神教派にならない理由が無い事になってしまいます。それについての説明は出来ますか?」
「あ……そうか、それだと穏健派をなんで続けんだって話になっちまう。もしオレだったらその日の内に抜けて一神教派になるぜ」
ヨロイニキが今気が付いたという顔になり、クロマニキは真剣な顔で返答を求める。
そんな二人にサスケニキは沈痛な顔と声で答えた。
「ああ、言っただろ? 全部分かったってな。だからそっちも分かってる、そう分かっちまったんだ……」
その反応にどうやらこちらも先程の驚愕の答えと同じぐらいの衝撃を与えうるものなのだろうと理解したヨロイニキ、クロマニキはごくりと唾を飲んだ。
二人に準備が出来た事を見たサスケニキは再び問い掛ける。
「穏健派、どちらかと言えばメシア教そのものと言うべきだが、何で連中がキリスト教からは本来は異端扱いなのかは知ってるか?」
「? あっちこっちにケンカ売って殺しまわってたからじゃねえの?」
「いえ、キリスト教事態魔女狩りだの十字軍だのやってるのでそれはあんまり関係ないですね。色々あるでしょうが大きいのは天使を信仰対象にしてるからでしょう。本来のキリスト教において信仰されるべきは神のみ。だからメシア穏健派を抜けた一派が一神教派を名乗ってる訳です」
「へー」
そーなのかーな顔になったヨロイニキにそれが何かと視線で問うクロマニキ。
サスケニキは頷いて言葉を続ける。
「だからもし穏健派を抜けて一神教派になったらもう天使は信仰出来ないって訳だ。そしてそいつは例えるならば俺達にとっての――」
「――(夜の)オカズ、限定一品のみとの規制に等しい!」
再び、三バカの脳内で雷が――先程のものには劣れど、樹齢数百年の樹木を一撃で消し炭にする程の神鳴りが鳴り響いていた。
「例えるなら、黒髪長髪お淑やかな正統派大和撫子以外のオカズは認めません、と言われるようなもんだな」
「し、ショートカットはダメなのかよ? ショートカットなら脳内でボーイッシュに変換が――」
「駄目だ」
「こちらで模写して改造する、というのは? 模写なら元は無事、他所に秘密にすれば誰にも迷惑は――」
「駄目だ」
「ぐ、うぐっ、うぐうぅぅぅううっ……!」
「な、なんてことだ…なんてことだ…」
先の完全禁止よりはマシとはいえ、それでも情けのない答えにテーブルに突っ伏し呻くヨロイニキと頭を抱えて嘆く事しか出来ないクロマニキ。
そんな二人の醜態を嘲ることなく、サスケニキも沈痛極まりないといった顔で深く頷く。
「……分かる、分かるぞ。俺も気付いた時、あまりの衝撃に衝動的にテーブルに頭を打ち付けたくなっちまった……」
「ま、まさかここまで……ここまでムゴいことを言われてたとは……メシア教はヤバいし、好きにはなれねえけど、それでもこいつは流石に……」
「ええ……信仰したければ一神教派になればいい、信仰出来るのに何が不満だと正直思っていました。ですが我が身にかえると、これ程恐ろしく、辛いものであったとは……」
想像を遥かに上回る事態と答えに戦慄するしか出来ない三人。
今、彼らは穏健派の気持ちと思いを確かに知り、そして初めて理解する事が出来たのだ――――無論言うまでもなく、バカ達の中だけで通じる、バカ共の理屈で。
全員が残ったジュースを飲み干し、それでも渇きが止まず頼んだお代わりを飲んで漸く人心地ついた面持ちでほっと息を吐く。
「何はともあれ、答えは、そう答えは得た。それは確かだ」
「ああ、オレもちゃんと納得出来た。『納得』は必要だッ」
「ですね。少々、いえ大きく予想を上回る結果ではありましたが」
答えを見つけ出した。
納得も出来た。
だが、ヨロイニキの表情に浮かぶのは喜びではない。
その顔には悔恨の念がくっきりと浮かんでいた。
そのままヨロイニキの口からはまるで懺悔のような言葉がぽつぽつと零れた。
「……オレさ、メシアンをかばったり、ある程度は受け入れるべきって言ってる黒札の事を前世の『ピー』や『ピー』みたいなやつらだって、どっか思ってた」
珍しく、とても珍しく真剣な顔で煽りもせず、ヨロイニキを無言で見つめるサスケニキとクロマニキ。
そんな二人を見つめ返し、言葉を訥々と続けるヨロイニキ。
「そいつらみたいに逆張りして目立ちてえだけなんじゃねえのかって、正直思ってたんだ」
「……俺もだな。メシアンとそのお仲間からちやほやされたいって下心だろと思ってた」
「……黒札にも被害者が多数居るのに、よくそんな事言えたものだと思わなかったと言うと、嘘になります」
ヨロイニキに続くようにサスケニキ、クロマニキも過ちを告白するように語る。
「でも、そうじゃなかった。あいつらは分かってたんだな、オレらが気づかなかった事を、最初から」
「ああ、だろうな。それに関しちゃ言い訳のしようがねえ。俺達がバカだったと認めるしかない」
「無念ではあります、ありますがそれを認めない方がより愚かです。私達が浅慮で誤った評価をしていたのは事実ですから」
自らの愚かさを嘆き、嘗ての過ちを認める。
そして擁護派黒札への改めた評価を三人はしみじみと語った。
「実際凄えよ。すぐこの事に気付いた頭の良さもだが、何より周りから責められるだろうにそれでも擁護に回ったって事が」
「ああ、そうそうできることじゃねえ。あいつらこそ真の漢、いや真の侍、真の武士だぜ」
「事実を知った今でも同情はすれども、他の黒札達へ擁護をしようとまでは私は思えません」
一呼吸おいてクロマニキが静かに続ける。
「擁護し、庇った彼らは本当に人の痛み、苦しみを我が事の様に思える人達だったのでしょう。自分が出来るともしようとも思いませんが――尊敬に値します」
そう結論付けたクロマニキに、サスケニキ、ヨロイニキのどちらも深く頷いて賛同の意を示した。
「正直、結論が出た今でもメシアンは好きにはなれんし、警戒も捨てる訳にはいかねえけど、信仰を捨てろとだけは言わない様にするよ、俺」
「オレもだ。あと、メシアンかばう黒札も、手を貸したりまではできねえけど、文句言ったりすんのは止めるわ――いやまあ会ったことねーから別に文句つけた事ねえんだけどよ」
「ええ、そうしましょう。流石に彼らを責めるのを止めようと、他の黒札にまで口を出すのは少し違う気がしますし――私達は私達で行動を改める、それで良いんだと思います」
静かに、だが強く述べるクロマニキの言葉に偶には良い事言うなと笑いながら二人も同意する。
何時かノンデリニキに言った様に、バカでも楽しくやるには自覚が大事なのだ、遠慮して生きてくのはとても大切なのだから。*18
何か良い雰囲気で結論を出しているが、かなり、いや大きく見当違いでアレな見解を語っている事にバカ達は気付かなかった。
何しろこいつらの言い分だとメシア教は
「まあ色々とあったが、良い議論、良い結果だったという事で」
「おう、実はよかにせでよかへごだった黒札に」
「では私は好きにはなれずとも、分からない連中でなかったメシアンに」
三人は静かにコップをぶつけ、カチャンと小さな音を立てる。
こうして、彼らの第〇〇〇回討論会inジャンニキ食堂は平和に終わったのであった。
◇
「でだ。さっきから背中に刺さるこの矢か槍みたいな視線、俺の気のせいじゃないよな?」
「やっぱ勘違いじゃなかったか。なんか血が出るんじゃねえのってぐらい鋭い視線をオレも感じる」
「いやこれもう視線通り越して殺意とかのレベルじゃないですか? 背中に氷入れられた気分なんですけど」
顔を近づけてひそひそ話ながらお前が見ろよと振り向き役を目線で押し付けあい、最終的にせーので振り返った先には――
「……なあ、あれお前らの知り合いか? 『私達は通りすがりの者だ。だがオヌシらは殺す!』って感じの殺戮者の目で見てきてるんだけど」
「いや知らねーって! え、全員ペルソナ使い? でもリーマンのカッコしたペルソナなんていたのか? それになんで皆同じペルソナ出してんの?」
「いやあれ〇ラリーマン金太郎でしょう!? おまけにあれ『屋上へ行こうぜ……久しぶりに……キレちまったよ…』の時の表情ですよ」
――バカ共殺すべし、慈悲はないな目でこちらを睨む、バックにキレちまった矢島金太郎のオーラが見える黒札達が居た。
アイエエエ!?ブチギレ!?ブチギレナンデ!?コワイ!と慄く三バカ。
キレられてる理由が分からず混乱する三人とてめーらはおれ達を怒らせたとキレる黒札の集団。
彼らの正体は、三バカが議題に挙げたメシアン擁護の黒札達であった。
その動機も活動内容も個人差があるとはいえ、どうしてもその内容故に他の黒札達から時に距離を置かれ、時に非難される事も、時に心無い罵倒すら受ける事もままある彼ら。
それゆえ同じ考えの者同士でシキガミすら連れない黒札オンリーで集まって日頃の悩み、愚痴等を互いに話し合って居たのだ。
そんな中で聞こえてきたのがさっきまでのバカ共の討論会である。
もし、幼女ネキや破魔ネキといった直接三バカと面識のある黒札ならば。
または、セツニキの様に様々な意味で人生経験豊富な黒札ならば。
或いは、鑑定ニキの様に文字通り、何かを見抜く事に長けている黒札ならば。
三人が本気でメシアンを擁護する黒札達を凄い奴ら、敬意に値する連中と思って褒めていると分かってくれた事だろう。
だが、残念ながらこの場には面識のある相手も、そんな能力の持ち主も居らず、結果バカ共の発言は――
――彼らを揶揄して、皮肉り、馬鹿にしていると受け止められても、文句の言えないモノであった。
バカ共にツッコむものは残念ながら居なかったが、バカ共にブチギレるものは居たのである。
何故相手が怒っているのか分からずとも、現状がヤバい事と、相手が自分達より高レベルの黒札達だという事だけは理解した三人。
元より日頃から逃げる事には慣れている連中である、サスケニキは意識せずとも身体に染み付いた動作で素早く懐の煙幕弾を使って逃走を図り――
「うっ!」
――突如浴びせられた先程のものとは比べ物にならない強烈な視線、最早重力とすら感じるそれに動きが止まる。
視線の元にはセミロングでスカイブルーの瞳のゆったりカーディガンの綺麗なお姉さん、グルメな修羅勢・るるネキがにっこりと微笑んでいた。
るるネキのテーブルに乗った明らかに只事でない強いMAGを放つ料理を見たサスケニキは状況の更なる悪化に内心で悲鳴を上げた。
(あ、明らかに普通じゃない料理とるるネキのあの目! 煙幕なんぞ撒いたら料理は台無し! 間違いなく命と身体で責任取らされる! 幾ら隠れ巨乳で綺麗なお姉さん相手でも性的な意味じゃない方で喰われたくない!*19)
そして煙幕弾の使用を躊躇った僅かな時間で、事態は詰みとなった。
逡巡してる間に周囲を完全に包囲され、逃げ道を失ったのである。
ああ、もうだめなのか、三バカラス、ここで修正されてしまうのか!
「おい、お前らここで暴れるつもりか」
ブッダ!ここで三人にとっての救いの主が現れた。
この食堂の主、ジャンニキが待ったをかけたのだ。
まさしく救世主、飯屋にして
「あ、すみません。こいつら連れて出ていきますから」
「そうか。ここでなきゃ好きにしろ」
ブッダファック!ジゴクから助け出すため、切れやすい蜘蛛の糸を垂らしてきたブッダはやはりゲイのサディストであったのだ。
必死にジャンニキに目線で助けを求めるが、あっさり無慈悲に無視される。
ガイ連に参加して以来機会があれば通い続けた一応は常連なのに!と嘆く三バカ。*20
蜘蛛の糸はプツリと切れ、最早打つ手を失ったとしか思えないこの状況、互いに顔を見合わせ、テーブルの上を見て、そしてヨロイニキがガタンと決断的に椅子から立ち上がった。
周囲の注目を集めながら、強い瞳で周囲を見つめ返したヨロイニキは口を開き――
「せめて、せめて注文した分は食わせてください。ほら、もったいないお化けが出るから」
――揉み手で諂いながら懇願した。
呆れた顔と雰囲気が漂う中、OKを貰うとすぐさま残ったお菓子をもしゃもしゃと口に詰め込み始めるバカ共。
しかし途中でゲプと小さくゲップしたクロマニキがポケットから袋を取り出した。
「……持って帰れそうな物は持って帰りましょう。食べるのは持ち帰り出来なさそうな物だけで」
「……だな、俺はチョコ袋に詰めるから、お前はクッキー頼む」
そうして詰めたお菓子をクロマニキがサスケニキに手渡す。
「……貴方の格好の方が色々と持ち運ぶのに向いてるので、こっちの袋もお願いしますね?」
「……分かった」
戦闘でもアイテムを用いる事が多く、忍者装束のサスケニキの服には色々と道具を持ち運ぶ為の工夫が施してあるからだ。
受け取った袋の中身を軽く確認したサスケニキはそのまま懐にしまった。
そのまま残りのお菓子を平らげ、ジュースを飲み干した所でじゃ、行こうかと訓練場へ連行される三バカラス。
その姿は刑場に引かれていく罪人――というよりは、生徒指導室へと連れていかれる悪ガキであった。
しっかりと包囲されとぼとぼと三人が歩く中、サスケニキがそっと懐に手を入れ何やら動かすと
「? 何だこの曲、〇ターウォーズか何かの曲?」
「いや、多分違う。でもハリウッド系か?」
サスケニキの懐から音楽が――それこそハリウッド映画のクライマックスやラストバトルで流れるような壮大なBGMが流れ出した。
一瞬何らかの呪歌の類と警戒したが、レコーダーによる只のBGMと看破した黒札達が何のつもりだと視線で問う。
「へへへ……どうせ連れてかれるなら、いっそ盛り上げようかなーって。我が代表堂々退場す! みたいな?」
媚びた顔で笑いながら答えるサスケニキに何考えてんだこいつな顔になった黒札達はBGMを無視して移動を再開する。
だが、事態は更に彼らを驚かせる事となる。
『――これから行われる事は、ガイア連合を救う為の行いである』
BGMだけでなく、ナレーションまで流れ始めたのだ、それも前世にオタクが多い黒札だがオタクでなくても聞いた事があるであろう声、子安ボイスのナレーションである。
わざわざナレーションまで、用意したのかと本当に何考えてんだこいつはといった顔になる黒札達。
故に彼らは見逃した。
食堂内の客が少数だが噴き出した者が居た事を。
そしてナレーションは続く。
『何故なら、それは地球を救うからである。地球を救う事はガイア連合を救う事に繋がる。そう――』
『――う〇こは、ガイア連合を救うのである!』
!!!??
子安ボイスで続けられたとんでもない内容に周囲は思わず固まり、食堂内のある者は激しく咽せ返り、ある者は噴き出した。
そうこれは只のBGM等ではない。
ある日山梨支部にて起こったとある事件*21にてその原因となったゴージャスニキ*22の持つ万華鏡写輪眼*23の固有瞳術で生み出された物であった。
事件当時、偶々山梨支部に居た三人は突如現れた光の柱と魔法陣、謎の詠唱と讃美歌と共に空から無数の天使が舞い降りてくるという光景にメシアンの襲撃か!?ハルマゲドンの勃発か!?と大混乱になった。
が、それにしては何か落ち着いた雰囲気と空気を不思議に思い、またなんかすっごく面白い事が起きてる気がする!という己の勘を信じて現場へと突撃。
そして事件の一部始終をしっかりと見届け、豪華なエフェクト&効果音&BGM&子安ボイスなナレーション付き排便の実演と宇宙猫と化した探求ネキという予想を遥かにぶっ千切る面白過ぎる代物にガチで笑い死にするんじゃないかという勢いで大爆笑した上で、偶然持ってたレコーダーでちゃっかり録音までしたのであった。
なお、う〇こでこれだけ笑えるのなら小便やオナラ、ゲップ辺りも面白いのでは?同じモノでも例えば普通の屁とすかしっ屁で違いがあるのでは?と考えたバカ共がゴージャスニキに実演と撮影と録音を頼み、まとめてギャラクティカファントムでぶん殴られ、右目の業邪須*24によるものかホントに銀河をバックに吹っ飛んだのは余談である。
『――生きてる限り食うしかあるめェ、食う以上は出すしかあるめーよ。さあ、ガイ連を救ううん〇を出しましょう!……なーんちて』
混乱と動揺と笑いに包まれた周囲に構うことなくレコーダーからは無駄に壮大なBGMと共に子安ボイスのナレーションが流れ続ける。
そんな中メシアン擁護の黒札の内の一人が咽せながらバカ共に怒鳴る。
「ゲホッ、ゴホッ、っ、お、お前ら何考えてんだ!?」
「いやどうせ盛り上げるなら笑えるモノの方がいいかなーって」
「そーそー、笑う門にはラッキーカムカムって言うしー」
「ほら争いをする雰囲気でなくなった事ですし、このまま今日は解散という事で」
「だめだ」
「「「ァオオン……」」」
「お前もノってどうすんだ!」
「す、すまん」
どさくさに紛れての流れ解散の提案に、思わずウィルソン・フィリップス上院議員に対する子安ボイスの吸血鬼っぽく答えてしまった所を別の黒札がツッコミを入れる。
『――パンツを下ろしなァ……目の前の便器しか見えちゃいねぇ、タイプの女に見られようが誰が見てようがかまやしねェ、全て出すだけさ便意が止むまでな』
「ブぷッ……! っ、もう止めろ、これ止めろ!」
「はーい……」
ツッコミ入れた方の黒札が噴き出すのを堪えながらサスケニキに怒鳴りつけ、渋々といった体でサスケニキが懐に手を入れ何やら操作する。
『――排便! 出さずにはいられないッ! 知るがいい……今出ようとしているものは…まさに!』
聞こえていたナレーション、BGM共に小さくなっていき、微かに聞こえる程度になって安堵した様に周囲がふう、と息をつく。
だが、これは明らかなる油断。
彼らはサスケニキが懐から手を抜くまで気を抜くべきではなかった。
または、レコーダーを取り上げるべきであったのだ。
そしてその報いは――
『一本グソであるッ!!!』
「ぶっはぁっ!!?」×たくさん
――腹筋の破壊という形で返ってきた。
某御大将の声とノリのとんでもないナレーションが大音量で響き渡る。
音量を下げて安心させた所を狙いすました最大音量でのアンブッシュである。
完璧なタイミングで決まったその破壊力は凄まじく、三バカを包囲していた黒札達は勿論、食堂内の客、スタッフも軒並み腹筋崩壊の憂き目となった。
ある者はその場に蹲り、ある者は足が覚束ずひっくり返り、ある者は腹を押さえて地面を転がる、平和な食堂は忽ち修羅の巷と化した。
そしてこの好機を三バカが見逃す筈もない。
「Wasshoi!」
決断的カラテシャウトと共にサスケニキは跳躍!
腐っても速特化の覚醒者としての動きで天井目掛けて飛び上がるとニンジャ身体能力でもって天井へとそのまま張り付いた!
周囲の視線と意識が天井へと向いたその瞬間にヨロイニキ、クロマニキも同時に動く。
「おきゃああああああっ!!」
猿叫、というより夢枕獏な掛け声でヨロイニキが出口を塞いでいた黒札に突撃。
如何にレベルとステで上回ろうとも腹筋破壊、崩れた態勢、天井へ向いた意識に奇襲とこれだけのデバフが重なってしまえば三人の中で最も力の高いヨロイニキを止める事は叶わず、押しのけられてそのまま脱出されてしまう。
「我が計、成れり!」
クロマニキもまた進行方向に居た黒札の意識が天井に向いた機を逃す事なく、スライディングで股下を潜ってヨロイニキの開けた扉より逃走する。
ヨロイニキの後ろに続いてそのまま逃げなかったのは敢えてであり、相手の虚を突くためのもの、股下を潜った黒札が女性だったのも偶然であり、そこに他意は全くない、いいね?
「イヤーッ!」
二人が脱出したのを見届けたサスケニキもカラテシャウトと共に天井を蹴って跳躍!
開け放された食堂の扉目掛けてロケットの如く直進し、そのまま外へと退避、フーリンカザン!
「……っ! に、逃がすかぁ!」
腹筋を砕かれ立つことも儘ならぬ者達の中、一人だけ立ち上がった黒札が震える脚を叱咤して外へと駆け出す。
食堂外へと飛び出した黒札の目に、予想外の光景が映る。
「……ドーモ、ハジメマシテ、知らないクロフダ=サン。サスケニキです」
予想していた通り振り向きもせず逃げていく鎧とローブの後ろ姿。
そして両手を合わせた七五度の完全な角度でこちらにお辞儀する忍者装束という予想外の姿。
一人残った相手を殿と見なした黒札はシツレイにもアイサツを無視して考えをめぐらす。
(皆も遠からず動けるようになる。ならコイツを行動不能にしておいて、逃げた二人を追うのがベスト)
彼我の実力差を正しく把握した上で即断し、動く。
何をしでかすか分からない相手に時をかけるは愚策、速特化相手に先手を許しても一撃耐えれば確実に戦闘不能に追い込めるという冷静で確実な手を打つ彼は優秀であった。
『――これ以上出すことはできん……『ゴージャス・トイレ・見学ツアー御一行様』は残り一個を出して解散の最後というわけだな』
いまだ大音量でサスケニキの懐から流れるBGMと子安ボイスに顔を顰めながらも彼は冷静だった。
(相手の狙いはこの実況で生まれた隙をついてのスキルか道具での状態異常と逃亡。だが問題ない、
そう、彼は三バカラスと同じく、あの事件の時山梨支部に居て、BGMもナレーションも聞いたことがあったのだ。
不意打ちで食らった大音量一本グソ御大将には流石に腹筋が大ダメージを受けたが、知っていたが故に一番に復活出来たのだ。
だから彼は勝ちを確信していた。
こちらが隙をみせると仕掛けてきた所を逆に押さえる、スキルや道具を使おうとした瞬間に手なり腕なり掴んでしまえば不発で終わる――ゲームと違って使ったスキルやアイテムが必ず発動するとはならないのだ。
『――排便する者は! ほんのちっぽけな『残便感』をも持たぬ者ッ! だがさっき出したばかりなのになァ』
そしてサスケニキもまたナレーションと共に黒札目掛けて突撃する、その動きと速さに黒札は読み通りと内心ほくそ笑む。
彼の予想通り、実況とタイミングを合わせてこちらに仕掛けるつもりだと確信出来たからだ。
後は笑うのを堪えて相手の動きを見逃さなければよい。
息を吸い、歯を食いしばり、その瞬間に備える黒札。
そしてサスケニキが懐に手を入れ、黒札が手を取り出したそのタイミングを狙い、サスケニキの腕を押さえんとした、その瞬間!
『一本グソ!!!』
『出せるわきゃねぇだろぉぉぉっ!!!』
「ぷぶーっ!!?」
サスケニキの懐から流れる二重の大音量ナレーションに思い切り噴き出して倒れ込んだ、ワザマエ!
壊れかけの腹筋に打ち込まれた予想外の一撃に、さしもの冷静な黒札も地に倒れて腹を押さえて地面をバンバン叩きながら痙攣している。
おまけにふらつきながらも何とか食堂から加勢に出てきた他の黒札達も流れ弾を食らって再び轟沈した。
「キューソーは猫を噛んだら殺すってやつだな、または勝っている時がアブナイでもよし」
そう呟いたサスケニキは懐から取り出したレコーダーのスイッチを切り、更に別の手で取りだした
暫しの間食堂前が煙幕に包まれ、そして煙が晴れた時には先に逃げた二人は勿論、サスケニキの姿もなかった。
◇
さて、ここで一つの疑問がある。
サスケニキの持っていた二つ目のレコーダー、一つは録音した際の物をそのまま持っていただけだろう。
ならば二つ目のレコーダーは一体何時、そして何故持っていたのかという事だ。
幸運による偶然か?それとも運命による何物かの助力か?
何れも三バカラスが持ち得るモノではない。
では何故?
皆さんの中にニンジャ記憶力をお持ちの方がいれば思い出していただきたい。
三バカが擁護派黒札に包囲され、菓子を袋に詰めていた時だ。
「……貴方の格好の方が色々と持ち運ぶのに向いてるので、こっちの袋もお願いしますね?」
そう、クロマニキがサスケニキに渡した袋の中、その中にクロマニキのレコーダーが入っていたのだ、正確にはレコーダーを入れていた袋に、クッキーを入れて誤魔化して渡したのである。
そしてレコーダーを停めろと言われた際、音量を下げるだけでなくクロマニキのレコーダーで『一本グソである!!』を録音、その後天井に張り付きヨロイニキとクロマニキが脱出するまでの時間で即座に再生出来るよう準備していたのである。
全ては一度目の一本グソで逃げ切れそうにない時の二の矢にして備え、確実な脱出の為の次善の策であった。
そしてクロマニキがレコーダーを持っていたのはゴージャスニキの事件の様に、またあんな面白過ぎる事が起きた時に備え、三人共レコーダーを持ち歩いていたからである。
ガイ連製スマホを用いても良いが、スマホには様々な覚醒者向けアプリも入れているのでいざという時使い捨て出来るレコーダーを予め用意する、こういう事に関しては無駄に頭が回る三バカラスの面目躍如であった。
なお本当は撮影道具も持ち歩きたい所だが、何だかんだ己を知る三人は自分達がそういう類の物を持ち歩くと
◇
広い山梨支部の山道を並んで駆けるヨロイニキとクロマニキ。
二人の耳に山の中から物音が届き、視線を向けると山中から影が飛び出し、二人の間に着地する。
「お、ようやく追いついてきたか」
「どうやら首尾よくいったみたいですね」
「当然! ニンジャにはあの程度チョロい事ってやつだ」
イエーイ、と走りながらのハイタッチで互いの健闘と無事を喜ぶ。
窮地を無事乗り越えた直後とあって彼らの機嫌も気分上々↑↑であった。
「いきなり取り合えず時間かせげってムチャぶりされる方の身になれよなー。もったいないお化けネタがなきゃあれヤバかったぞ」
「仕方ないでしょう、咄嗟の事でしたし。それにどんな策か知らないからこそ相手も策の臭いを感じなかったのです。知らないという事は最大の防御手段ですよ?」
「まあ相手が格上だったのもラッキーだったな。これが同格や格下だったらもっと警戒されてただろうしな」
「格上に囲まれる時点でめっちゃアンラッキーじゃねぇの?」
「「違いない!」」
苦笑しながらのヨロイニキの台詞に笑って答えるサスケニキとクロマニキ。
バカらしからぬ何処か自身と自負に満ちた雰囲気だが、彼らとて覚醒者の端くれにして生まれた時からの幼馴染、重ねた経験による息の合った連携は例えバカ共でも決して馬鹿にしたものでもない。
何しろ覚醒前から、それこそ幼稚園の頃から現在に至るまで、親や先生、同級生等のお説教その他諸々から三人で逃げ回ってきたという実績があるのだから。
囲まれた時点でアイコンタクトでヨロイニキに注意を引かせる&時間稼ぎ、その隙にハンドサインとアイコンタクトで策を練り、以前手に入れた爆笑ネタを敢えて食堂内で使う事でスキル等での捕縛を封じ、更に周囲が笑う事でのつられ笑いも狙うという作戦で無事脱出に成功したとはいえ、彼らにとっても非常に綱渡りな内容であった。
何しろ誰か一人でも逃げ損なうとその時点で三人共詰みである――何故なら捕まった奴が相手に二人を売るので自分は助けてと提案するのは必定。
例え助からずとも道連れを増やそうと自宅の住所や秘密の隠れ場所まで全部ゲロするのは火を見るよりも明らかである――だってもし自分が捕まったらそうするから。
よって彼らの助かる道は例え確率が低くとも全員が無事脱出する以外になかったのである。
何はともあれ作戦は成功し、無事に脱出も出来た。
そのまま山道を駆けていた三人だが、
「――プッ、ハハハ、フフフ」
「――ぶふっ、へへっ、ふはは」
「――くくく、アハッ、フッフッフッ」
三人共、堪えようとして、でも出来ずに噴き出して、笑い始める。
最初は短く、でも徐々に長くなり、最後は三人揃って楽しそうに笑う。
危険な状態から無事逃げられた安堵がある。
難しい作戦を上手くやり遂げた喜びもある。
格上の相手を見事引っ掛けた達成感もある。
だがそれ以上に、彼らは嬉しかったのだ。
逃げ出せた事ではなくその前、メシアンへの議論であいつらが理解出来ない連中ではないと、決して好きになれず、信用出来なくとも理解出来る部分があるとの結論が出た事が、嬉しかったのだ。
別に人格者やクリスチャンの言う様な
そんなのに縁遠いどころか縁すらないと自他共に認めるバカ共だ。
かつて覚醒修行の際にショタおじは言った。
一般社会で生きるなら覚醒する事は悪魔に絡まれやすくなる事を除いても、様々なデメリットがあると。
それでも覚醒する事を勧めるのは世紀末になれば覚醒・非覚醒問わず悪魔に襲われる、ならば覚醒した方が、まだ生きあがく事が出来るからだと。
元より普通に死ねたならばまだ幸運、死んだ後すら安息が訪れる保証もないのがメガテン世界。
覚醒した後に、悪魔絡みで、メシアン絡みで碌でもない話を知った。
反吐が出るような事も聞いた。
クソッタレとしか言えないモノも教わった。
きっと自分達どころか被害を受けた黒札や幹部、修羅勢に運命愛され勢ですら想像も出来ない程、悍ましい事だってあるのだろう、寧ろ無い訳がないと思う。
でも――
――覚醒したその日から、世界は大きく広がった。
見えなかったものが、見えるようになった。
聞こえなかったものが、聞こえるようになった。
出来なかった事が、出来るようになった。
行けなかった所に、行けるようになった。
ここは碌でもないメガテン世界で、覚醒者が関わるのはクソッタレなネタ目白押しの悪魔の絡んだ非日常。
それでも、広がった世界は、知らなかった世界は、とても面白く、とても楽しかったのだ。
今回の件も、同じ事だと三人は考える。
メシアンを全く理解出来ない連中と思ったままではきっと気付かない、見つけられないものがあると、その中にはきっと楽しいものが、面白いものがあると思うのだ。
オドループを踊ったら無言のまま一緒に参加してくるメシアンが居るかもしれない。
もしもサービス過剰の協会があったら、をやってるメシア協会が在るかもしれない。
レッツゴー陰陽師をノリノリで歌って踊る天使たちが、召喚されるかもしれない。
某鳩こと四文字は全知全能、故に全ての属性を矛盾なく持つ究極で完璧な美少女であると宣う、大天使に会えるかもしれない。
そんな面白そうなものを、昨日までは気付かない、見つけられなかっただろうものを、今なら気付けると、見つけられると思えるのだ。
それは覚醒した時と比べれば極々小さなものだが、それでも間違いなく自分達の世界の広がりで。
だから、この結論が出た事は、大声で笑ってしまうぐらい、とても嬉しいことだった。
笑いながら走る内に、三人は無性に大声で叫びたい気持ちになった。
まだ逃走中であり、あの黒札達が追跡を諦めたという確証もない。
そんな状況で大声で叫ぶなど、居場所を教えてやるようなもの、メリットは無く、デメリットしかない。
でも、身体の内から込み上げてくる思いは、抗い難く、どうにも抑えられそうになく。
だから三人は、湧き上がる衝動のままに、心が命ずるままに、そして何よりいつも通り
――明日は、きっと、いい日だ!!――
なお、食堂でう〇この実況を大音量で流すという暴挙が、無罪放免で済まされる筈もなく。
後日、朝一で何時かの白装束と青竹装備スタイルで謝罪文&反省文をジャンニキ食堂に差し出すバカ共が目撃される事になる。
その後何とか出禁は勘弁して貰えたものの、ペナルティとしてドロップ率の低い、食材になるフォルマや悪魔肉等の一定量の納品を命ぜられ。
暫くの間、原典のゾンビ*26の如く、死んだカニみたいな目で死臭を纏って食堂と異界を只管往復する、サスケゾンビ、ヨロイゾンビ、クロマゾンビを用いた三身合体で生まれた新たなる悪魔、屍鬼・三バカラスゾンビが目撃されたのであった。
そしてバカ共を見たある黒札のとある一団が溜飲を下げたり、ノンデリニキが朗らかな――人魚ネキや星杖ニキ*27が思わず二度見する程の――笑顔で日々を過ごす姿が目撃されたりするのだが、それはまた、別の話である。
―以下どうでもいいバカ共の設定―
・三バカ改め三バカラス
本編みたいな事言っといてもし後日モテモテなイケメンのメシアンとか見たら「メシアン死ね死ね団」とか言い出すのがこいつらクオリティ。
逃げるのは割と上手いが、本編通りあくまでその場しのぎで結局後から説教なり仕置きなり食らうのは実は子供の頃から殆ど変わっていない。
広がった世界で楽しい事、面白い事とエロスを探して東西奔走、おそらく終末後も山梨に引きこもらず死なない範囲で彼方此方動き回ってると思われる――なお終末後もシキガミ無しか童貞かは筆者にも不明。
童貞は兎も角、終末後もシキガミ無しだと流石にこいつら死ぬんじゃね?と悩んでたり。
正式に本霊が三羽烏に決定。
三位一体の悪魔ならケルベロスもいるが流石にメガテンシリーズ顔役の一柱をこんなアホ共の本霊に出来ない&豆柴ニキに酷い兄弟(しかも複数)が出来てしまうので却下。
本霊からの干渉は無しで本霊由来の特殊能力等も無し。
が、唯一の例外として三人の中で童貞卒業しようとした者が出た場合のみ、即他二人に虫の知らせが裏切者の現在地も含めて届く。
干渉が無いのはレベルが低いからなのか、三人の自主性を重んじてるのか、あれが自分の転生体達だと噂とかされると恥ずかしいしなのかは不明(筆者が考えてない)
なので能力の噛み合いは兎も角、やたら息の合った連携に関しては長年の付き合いと同レベルのバカ同士というのが大きい、無論本霊によるプラスの影響も一応ある。
三バカラスの呼称については三人の中で自分が一番マシと信じる三バカが自ら名乗る筈がないので、おそらく何らかの方法で本霊を知った黒札がそう呼んだor偶々呼んだのが偶然本霊と被ってたのが広まったものと思われる。
まあバカなのでその場のノリと状況次第で「三バカラス参上!」等と名乗りを上げる事は無論有り得ると生みの親として断言します。
ちなみに現在三バカラスと三馬鹿ラスのどちらにするかで悩み中。
実は三バカへの呼称のバカは必ず片仮名のバカにしてたので合わせるなら三バカラスなのだが、字面は三馬鹿ラスの方が良いのでどちらにするか悩んでたり。
もちろん三次創作でご利用の際はどちらでもお好みの方をお使いください。
ようやく続きを書けました。
想定通り書いてる内に長くなり、結果想定以上に長くなってしまいました。
同じ様に感想も書いてる内にどんどん長くなるのでネタ潰しや自分語りになるのが怖くて、どうにもあまり書けません。
以前ウチの三バカ出して頂いた三次も含めて感想書いてないけどちゃんと読んでますとここで宣言させて頂きます。
そして頓西南北様、作中描写が無いのをいい事に下品なひっどいナレーションを勝手にこちらで作って誠に申し訳ございません。
メシアン関連は色々な作品で色々とアレな感じですが(そもそものメガテンや本家のカオ転からしてアレですが)ウチのバカ共の対応はこんな感じで。
こんなでもハニトラや頓西南北様とこのメトフィエス大司教みたいのに出くわしたらこらアカンと即離脱するぐらいには一応バカ共も警戒しております。
元々その辺に真面目に切り込む連中でも作品でもないと納得して頂ければ幸いです。
次回に関してはやたら話が長くなるので、今迄の作品で使えなかった作中ネタのネタ集みたいにすれば短くなるかなと考えていたりします。
改めまして、最後まで読んで頂き、そして評価と感想、お気に入り登録、他作品へのご使用、誠にありがとうございました。