現代ダンジョン潜っていたらTSトラップ踏んだ件   作:highvall

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第二話

俺は改めて状況整理を行う。

『アフロディーテの涙』を取ろうとしたら、なんかのトラップが発動した。その結果、自分で言うのもなんだが……可愛い女の子になってしまった。いや、というかこれが自分だっていう認識がまだない。なんというか、可愛いガワのキャラクターを動かしているような感覚だ。

それはさておき。『アフロディーテの涙』の効果に異性化したうえで美形化する効果でもあるのかと思ったが、聞いたこともないし、それだと例のトラップ魔法陣の説明ができない。

ということは……順序は分からないが、あの魔法陣は異性化するトラップでそこに『アフロディーテの涙』の効果が重なったという事か。

 

「はぁ。嘘だろ……」

 

此処まで苦労したのに。イケメンになることもできず、『アフロディーテの涙』を売って一攫千金という夢の両方を絶たれた。

悔しさのあまり、思わず手を握りこみ地面を叩いてしまう。

 

「ッ~~!!」

 

叩いた瞬間痛みが突き抜ける。男だったら、そこまで痛くなかったのかもしれないが、柔らかく、か細くなってしまったこの体には痛かった。こんなことで実感なんてしたくないが……。

だけど、そこで気づいてしまった。

こんなに、頼りない腕や足で果たしてこの高難易度ダンジョンを脱出できるのか?

男だった時ですら、生死の狭間を歩くようにギリギリだった。あの時逃げられたモンスターにこの状態で見つかれば?

思わず背筋が震える。自分の肩に両手を回し、震える体を抑え込む。なんとも小さく頼りない体だ。

 

俺は此処で死ぬのか……? 何もできずに?

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

死にたくない……だけどずっと助けを待つわけにもいかない。なんせここは高難易度ダンジョンで奥まったところにある隠し部屋だ。なんとか……他の攻略者に助けてもらうしかない。数日潜るために準備した食料だっていつまでももつわけじゃない。

俺は……生きたい。

 

手荷物を纏めて立ち上がる。

来るときは軽く感じた手荷物も、今では少し重く感じる。そして、なにより増えた荷物がもう一つ……いや、二つある。

Tシャツを持ち上げるこの二つの丘だ。だけど、不幸中の幸いか、女性化した結果小柄になったおかげでこの大きい丘はTシャツを突き破ることはなく、何とか収まっている。

パツパツだったら苦しそうだし、さすがに誰かに助けを求める手前上半身裸と言うわけにもいかない。その点を考慮すればまだマシと言えた。

 

俺は余ったズボンのすそをたくし上げ、一つ深呼吸をする。

ここにはどうやら敵が入ってこないが、この部屋を出ればどうなるか分からない。だけど、行くしかない。俺は部屋の外に一歩を踏み出す。

 

灰色の煉瓦造りの通路を壁に手を当てながら歩く。

壁に手を当てることで遠くにいる大型モンスターが歩けば、その振動が伝わりやすいからだ。

 

ズシン……。

壁ごしに遠くで何かが歩くのが伝わってくる。規則的な振動的から察するに戦闘によるものではなく、歩行による振動だ。となると、これほどの振動ということはかなりの重量だ。人間ではないな。

通り過ぎてくれと……祈るが、壁越しに伝わる振動は大きくなり近づいているのが感じられた。

 

「くそっ」

 

折角だいぶ進んだというのに。だが、死にたくないなら引き返してどこかでやり過ごすしかない。

今来た道を引き返し、曲がり角に身を隠してスキル『隠密』を発動する。

できるならば、モンスターも引き返してくれると助かるのだが……。俺は手荷物から手鏡を取り出し、曲がり角からすこしだけはみ出すように構える。すると鏡が反射して、通路の先の状況が映し出される。

 

緑色の肌に天井すれすれの身長。筋肉質の体に赤い瞳。間違いない『オーガ』だ。

くそ……できれば出会いたくないやつだ。オーガは何かを確かめるように通路の真ん中で頭を左右に振りながら小刻みに頷いている。

一体何を……まさか。

 

オーガはこちらを見つめた。

いや、正確には鏡越しではあるのだが。

ドスンドスンと振動を立てながら、急速に近づいてくる。

 

マズイ! ってかオーガは鼻が利くって話は初めて聞いたんだが、今はそんなことを考える場合じゃない。俺は急いで走りながら、手荷物から使えそうなものをと探してみる。すると、有刺鉄線を細切れにしたようなもの……つまりマキビシを収納していた袋を見つけた。

俺は、逃げながらも袋を開け床一面にばらまく。

どうか効果あってくれと祈りながら後ろを振り返る。

 

オーガはマキビシを気にした素振りはなく、その厚い外皮で効果はないようだった。

ふざけんなよと心の中で悪態を吐くが、見る見るうちに距離が詰まる。

 

他に何かないかと荷物を漁るが、そんな最中に衝撃と共に体が浮いた。

 

「かはっ……!」

 

痛みと浮遊を味わったのちに、地面を転がる。そこでやっと自分が殴られて宙を舞っていたのだと実感できた。なんとか逃げようと、立ち上がろうとするがこの体は立ち上がることが出来ない。

なんとか顔だけでも持ち上げると、オーガが下卑た笑みを浮かべゆっくりと近づいてくるのが見て取れた。恐怖しながらも行きたいという衝動に駆られなんとか地を這いながらも進んでいたが、浮遊感が再度やってくる。

殴られたのかと思ったが、そうではない。オーガが片手で俺のことを持ち上げたのだ。

くそっ……こんなところで死にたくない。必死に抵抗するが、オーガに気にする素振りは見られない。だけど、こんなに抵抗しているのにオーガの握る力が強くなることがない。

このオーガは一体何を……と考えていると、オーガの顔が不意に近づく。

 

食べるつもりか……と身構え瞼を閉じるが、痛みはやって来ず代わりにぬるくてくさくてねちょっとした感覚が顔を襲う。驚きのあまり、目を見開くと、オーガがいやらしい笑みを浮かべ舌をちらつかせていた。

そんな……まさか。俺が女だから……?

嫌だ! 嫌だ! 俺は必死に動く手足を使ってばたつくが、非力なこの体ではなにもできない。オーガは掴んでないもう片方の手で俺の服を掴む。

 

「や、やめろ! やめてくれ!」

 

必死に俺を掴んでいる手も叩いたりするが、どちらかというと叩いている俺の手の方がダメージを食らっている。

オーガの指が俺の服を摘まみ、ゆっくりと引っ張るとビリビリという音と共に服が裂ける。オーガはそれが楽しかったのか嬉しそうに笑う。

何か下の方で大きくなっている気がしたが、俺は怖くて目を向けることができない。

恐怖のあまり、目端に涙の粒を浮かべ、かすれる声で呟く。

 

「だれか……誰か、助けて」

「あぁ! 僕が来た!」

 

謎の男の叫び声と共に、シュパァンという音が通路に響き渡る。

俺を掴む太い手首から血しぶきが迸る。顔面に緑色の血がべったりと張り付くが、気にする間もなく浮遊感に襲われる。

切り離された手首と共に地面に転がる。

一体何が……と思って顔を起こすと、剣士のいでたちをした赤毛の青年が俺とオーガの間に立ち塞がっていた。青年は顔の半分だけ振り返り目線が合う。

その姿はまるで子供のころに憧れた……ピンチの時に現れるヒーローそのもので、強い憧れが胸を焦がす。

 

「すまない。遅れてしまったようだ。でも、もう大丈夫」

 

その最後の言葉と共に、ピュンと何かが一瞬で通り抜けた音がする。

一瞬青年が何かしたのかと思ったが、オーガに変化は見られない。だけど、青年は気にした素振りもなく剣を鞘に戻した。

 

「もう斬ったから」

 

鞘に戻した時のカチンという音と共にオーガは頭上から真下に一本の線が通り、2枚おろしのように裂ける。あのオーガを一撃で……。

でも良かった……これで助かるんだ。そう安心した瞬間、緊張の糸が切れたのか俺は気を失ってしまった。

 

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