転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
七 二年後の旅立ち
――あれから、二年がたった。
あの後、無事に私は帰参。
宿痾の主に勝利したことを報告した……まではよかったものの。
里の大半の家屋が倒壊したことに変わりはない。
これを再建するのは、結構骨の折れる作業だ。
この世界には魔術という、前世にはなかった便利な技術があるものの。
それを使っても、再建速度は前世のそれと同程度。
故にこの二年は、里の再建に追われた二年だったと言える。
ただ、私はその再建にあまり関与しなかった。
というのも、百鬼夜行の影響により里の周囲に蔓延した瘴気は二年経っても取り除かれてはいない。
もともと剣の里が魔物の多い地域に建てられた――周辺の村や街を守るため――こともあって、再建を急ぎながらも魔物への対処は必須。
この対処を、私が一手に引き受けたのだ。
いや、だって。
やりたかったんですもの、魔物の対処。
正確には私が起きている間は私が対処して回り、寝ている間は大人たちが交代で見張りをする感じだ。
夜も魔物と戦いたかったのだけど、お子様ボディがそれを許さなかったのだ。
少し意外だったのは、父が反対するかと思ったら普通に許可してくれたこと。
どうも、私には再建を手伝うより強くなることを優先してほしいらしい。
それは大変ありがたい……のだが。
こちらは里の再建をよそに森を駆け回って魔物と戯れているだけの毎日。
なんだか罪悪感があったので、たまにだが再建にも参加させてもらった。
というわけで、そんな二年を過ごしているうちに、ようやくだが里は前の生活を送れるようになってきた。
大人も子どもも、なんとなくかつての穏やかさを取り戻してきた気がする。
ただ、そんな中で難しい顔をしている人間が二人だけいた。
一人は私――そしてもうひとりは、父上だ。
それぞれ、別の理由で難しい顔をしているわけだが――
+
二年の月日が経っても、朝のルーチンは変わらない。
滝行をして、岩を斬る。
この間に魔物がでてこない限り、私は常にこれを繰り返していた。
そして、二年の間に私にはある大きな変化が起きた。
身体が成長したのだ。
いや、身長はあまり成長していない。
成長したのは……あれだ、胸だ。
なんだかこう、十二の娘とは思えないくらいの戦闘能力を有してしまっている。
これ、数年後にはどうなっているんだろう……
とはいえ、身長はほとんどそのままだし、案外このままいい感じのバランスで収まるかも知れないが。
滝行でスケスケになった肌襦袢の下にある、サラシで押し込められたそれを眺めながら。
私はどうしたものかなぁと考えつつ、岩を斬るために移動した。
岩を斬る。
これにも少し変化があった。
まず、使う得物が疾討になったこと。
里に返還しようにも、起きると枕元に置かれているこの刀。
せっかくなので、父上に許可を得て使わせてもらっているわけだが。
まぁ、とにかく切れ味がいい。
私の多重強化がなくとも、岩を豆腐のように斬って見せる。
意識を集中させて、刀を振るう。
私の思い描いたとおりに剣は宙をなぞり。
そして、岩の間を
横向きに通した刃が、何事もなく岩の間を通り抜けたのだ。
これが何かと言うと――
「――カグラねえさま」
「おや?」
ふと、私に声がかけられる。
意識を集中させていたので、気付かなかった。
振り向くとそこには、一つ年下の少女がいる。
二年前、百鬼夜行があった日に、私が手ほどきをしたりしたあの子だ。
なんだか、私のことをカグラねえさまと呼んで慕ってくれているのだけど――
「ひゃっ!?」
「どうしましたか?」
「あ、あのあの! ねえさま! う、上着! 上着を羽織ってください!」
何やら顔を真赤にしている。
なんだろうと思って、自分の身体を見下ろすと――
そこには、濡れたままの肌襦袢だけがあった。
サラシ他色々がバッチリ透けている。
「あ、ご、ごめんなさい」
急いで上着を羽織る。
ああもう、さっき思いっきりサラシを確認したはずなのに。
どうして忘れてしまったのか。
相変わらず、私は自分の性別というやつに慣れていないようだ。
それから、彼女が落ち着くのを待って用件を聞く。
父が呼んでいるらしい。
それを聞いて、岩を斬るルーチンも終わったことだし家に戻ろうと決めた。
「あの……カグラねえさまは毎朝岩の間に剣を通していますが……何をなされているのでしょう」
「うん? ああ、単純ですよ」
そうしてその場を離れようとした時、そんな風に問いかけられる。
しげしげと岩を眺める彼女が、不意にその岩に手を伸ばし――
「あ、危ないですよ」
「え?」
触れた。
直後――その岩が、音を立てながらずるずると二つになる。
慌てて岩に彼女がぶつからないよう抱えてさがり――音をたてて岩が地面に落ちた。
「この岩は、私が今日剣を通す以前より二つになっていたのです。その間を、精密な魔力制御によって剣を通す修行をしていました」
「え、ええ……?」
結果として、私の魔力制御は二年前よりも大きく成長しているのだが。
最近、できることが周囲を困惑させるレベルに到達しているのは……多分、気のせいじゃないと思う。
+
「さて、カグラ。知っての通り、剣の里の人間は十二になると外へ出ることが許される。正確には、剣の腕も一定以上にならなければならないが」
「はい、父上」
父上に呼び出され、二人で正座して顔を突き合わせる。
真面目な話だ。
なんとなくこうなるのではないかと思っていたので、驚きはない。
「カグラは先日、十二になった。剣の腕も十二分。――外に出るには、もう十分といえる」
里の外へ出る。
里の人間にとって、それは名誉あることだ。
外の世界に里の名前を売り、手柄を立てる。
それを里の大人から認められるのだから。
里が閉鎖的な小さい集落であることも相まって、多くの子供達が里を出ることを夢見ている……わけだが。
「よろしいのですか? 今も、魔物は里の周囲をうろついていますが」
私の場合は、少し事情が違う。
まず、里の外へ出ることにそこまで頓着していない。
私にとって最も尊ぶべきことは強くなることだ。
それは、里の中でも外でもできる。
多分、中にこもってひたすら修行をしても、外に出て見聞を広めても私の成長速度は変わらないだろう。
ならば、里の事情を優先するべきだ。
今はまだ、百鬼夜行の影響が抜けきれていない。
それは父上も解っているはず。
「それなのだが、外に出て一等級冒険者になった者たちが里に戻って来るというのだ。家庭を持ち、子ができたので腰を落ち着けたい……と」
私が生まれる前に里を出たものだそうで、名前は知るよしもなかったが。
一等級冒険者――この世界におけるいわゆるAランク冒険者――が複数人いるなら、私の代わりに里を守ることは可能だろう。
「その代わりに私が、旅立つということですか」
「……そうだ。そこでカグラに頼みたいことがある」
「なんでしょう」
「昨今、魔物の出現はこの剣の里に限らず増加傾向にある。事実、二十年ほど前にもこの里の近くで百鬼夜行が起きた。旅の最中、起きていることを調査してほしいのだ」
その百鬼夜行を止めたのが母上だった、と聞いている。
どうやら父上は、世界各地を巡って私の目で見たものを報告してほしいようだ。
戻って来るという冒険者パーティは妻帯者が多く、腰が重いのも私を頼りたい理由ということか。
「そして――カグラ。お前にもう一つ頼みたいことがある」
基本的に、旅の間の行動は人の道理に反しない程度なら何をしてもいいということになっている。
流石に私が娼婦になりたいといったら父は止めるだろうが、冒険者になることを止めたりはしないだろう。
そのうえで、旅の最中にできることをしてほしいというのが父の頼み。
加えて先程の調査依頼は前置き。
父が頼みたい本命はこっちだ、と私の直感が告げている。
それは――
「カグラ、七刀になってみる気はないか」
七刀。
人ならざる理外の力を持つ天才集団。
剣の里が生み出した至宝。
現在、その七刀は六人しかいない。
つまり、一席が空いている。
その席に収まるつもりはないかと、父は問いかけてきた。
というわけで章が進んで色々代わりました。
ビジュアルもこっから若干変更になりますがそこらへんは次回。
ロリ巨乳はロマンですよ。
追記。
冒険者のランクを等級制にしました。