転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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八十八 やるしかありませんね……プリンを二つ並べてください!

 どうやら、噂の七刀は街で調査をしているらしく、今は王宮にいないらしい。

 宿に使いを出すから、今日の夜か明日にはリンカねえさまの家に来るだろう、とのこと。

 来なかったらこっちから探しに行ったほうが早い、ともナティラリア様は言っていた。

 なのでまぁ、私達は自然とリンカねえさまの家に移動することとなる。

 家はお金持ちが多く暮らすエリアに建てられた、豪華だけどそこまで規模の大きくないもの。

 まぁなんというか、想定していた豪邸がそのまま出てきたような感じだった。

 屋敷を管理しているハウスキーパーさんに、家を案内してもらって。

 私は客室に案内される。

 そしてリンカねえさまは――

 

「それじゃ、私はここで寝るから」

「……倉庫ですよね」

「本邸において、リンカ様の寝室はこちらになっております」

 

 屋敷の離れにある倉庫に泊まるらしい。

 ……倉庫ですよね?

 いやまぁ、わかりますけれども。

 

「それと、夜は私の部屋に絶対に入らないこと。何かあったらちゃんと察知して出ていくから」

「……信じますよ、その言葉」

 

 シてるんですか、こう、夜の営み的なアレを。

 とは流石に聞けなかった。

 そもそも私は純朴な十二歳なのである。

 そういうアレコレを知っていても知らないフリをするのが、賢いのだ。

 ちなみにねえさまに対して、どんな武具にも発情するとか尻軽ですね、とか言ってはいけない。

 私も強敵なら誰でもいいので、人のことは言えないからな。

 

 ――そんなわけで、翌日。

 昼頃まで待っても七刀がやってこなかったので、こちらから探しに行くこととなった。

 昼食は街で食べるので、なにか美味しいものがあるかな、といったところ。

 

「いやぁ、久々にあるくけどやっぱり活気があるわね、王都の町並みは」

「リンカねえさまも、なんかやたらとやる気に満ち溢れてますけど」

「久々に我が家のベッドで寝たからね」

 

 やる気に満ち溢れているというか……テカテカなんだけど。

 まぁ、楽しそうなのでいいか。

 

 さて、町中には多くの人が行き交っていて、そして現在は昼時だ。

 中には昼食を手に、街を歩いている物も入る。

 そうなってくると、自然とそれに意識が向いてしまうわけだが――

 

「……ところで、多くないですか。焼き菓子」

「多いわねぇ。昨日も買ってたべたけど」

 

 そういえば食べてましたね。

 何にしても、焼き菓子がやたらと流行っているのだ。

 見かけるのは主にクッキーとか、ドーナツとか。

 特にドーナツの方は、なんというかどこかで覚えがあるんだよなぁ……

 ちなみにこの世界はファンタジー異世界ですが、砂糖とかは普通に手に入ります。

 理由は勉強してないですけど、錬金術が発展してるかららしいですね?

 ともかく。

 

「あそこは特に並んでますね」

「ああ、王都で特に人通りが多い場所だからね、ここは。そんなところに出店できる店って時点で、そりゃ売れるわよ」

 

 ようするに、商品の質が良く、場所もいいからなおさら売れる、と。

 売れるから売れる、ってレベルに到達してるみたいだな。

 というのはともかく。

 

「時間もありますし、並んでみましょうか」

「売り切れてないといいんだけど」

 

 現在、私達は七刀を探しているものの。

 街を歩いている時点で、ここで時間を潰していても探していることになるのだ。

 なにせお互い、剣の里の旅装を着ているから。

 それだけ目立つのだ、この旅装。

 

「ねえさま、戦闘談義しましょうよ戦闘談義。今回は昨日いただいた魔解きの縫い針を使った戦闘について!」

「またそれ? まぁ、私としても武具の使い方の考察は楽しいけど」

 

 暇なので、魔解きの縫い針を戦闘でどう有効に使うか、という話をする。

 こういう話は、旅の道中では半ば定番とも言えるやりとりだった。

 私としても楽しいし、リンカねえさまにとっても武具の話をするのは楽しい。

 お互いウィンウィンというやつ。

 さて、そんな話をしているといつの間にか時間は過ぎ、店の前まで行列がたどり着いた。

 そしてそこには――

 

 

「はーい、いらっしゃい。王都名物”剣の里”ドーナツ、もうすぐ完売だよ。――って、カグラ!?」

 

 

 ――ソアナさんがいた。

 「カルマン」で出会い、「ヨース」まで一緒に旅をしたあのソアナさんだ。

 しかも売っているのは、剣の里ドーナツ。

 売り子には、剣の里の旅装を着た人たちまでいる。

 というか雰囲気からして、本当に剣の里の人だ!

 仕合! 仕合しませんか!

 

「そういうあなたはソアナさんじゃないですか仕合。剣の里ドーナツって、どういうことですか仕合?」

「語尾になんかついてるんだけど……やまぁ、ほら。アイデアを出してくれたのはカグラだろ? んで、何故かそのことが剣の里のお偉いさんに知れてさぁ、手を組んで剣の里ドーナツってことにして売ろう、なんて向こう言い出して」

「それは……十中八九里長よね」

 

 お父様……なんて商魂たくましい……仕合。

 しかも剣の里らしさを出すために、王都で働いている剣の里の人間に店を手伝わせているとかなんとか仕合。

 随分と凝ったことしてますねぇ仕合。

 

「ちょうどよかった。そろそろドーナツも完売だ。それまで待っててくれたら、一緒に昼にしないかい?」

「それはいいわね。そっちの剣の里の人たちとも話がしたいし。カグラもそれでいいわよね」

「仕合」

「返事が仕合になってるじゃないか……」

 

 というわけで、私達は昼食を店が終わるまで待つことになりました。

 といっても本当にもうすぐ完売だったらしく、三十分もしないうちに店じまいとなり、昼食を食べることに。

 なお、仕合は後日してもらえることになりました。

 やったぁ。

 

「――で、ヨースであんたたちと別れたあと、なんか剣の里の里長といっしょに仕事することになってね。王都でドーナツを売り出したらこれが馬鹿みたいに流行ったわけさ」

「それで、王都全体が焼き菓子ブームになってるわけですか」

 

 昼食。

 私はソアナさんと買った焼き菓子などを食べつつ、話をしていた。

 剣の里の人たちは、仕合をしたがっている私にビビって距離を取ってリンカねえさまと話をしている。

 疎外感……

 

「最近じゃ、どこもかしこも焼き菓子しか売ってない。クッキー系の焼き菓子も売り出してみたけど、こっちもがっつり真似されちゃってねえ」

「苦戦してる、というわけですか」

「剣の里のブランドがなけりゃ、私みたいな木っ端商人じゃ太刀打ちできなかっただろうね」

 

 それはなんとも、難しい話だ。

 商売のことはよくわからないが、薄利多売だったり、安く作ったものを高級品と偽って売られたりとかしてたんだろうなぁ。

 

「そういや、カグラたちはどうしてここに?」

「王都に立ち寄った理由は、リンカねえさまがナティラリア第一王女に私を会わせようとしたからなのですが、今ここにいる理由は街に滞在している他の七刀の方を探すためですね」

「なるほどねぇ」

 

 さて、私達の現在の目的は七刀探し。

 対して、ソアナさんは街で焼き菓子をめちゃくちゃ売っているから、情報を持っている可能性は高い。

 剣の里の人と一緒に仕事をしているし、何よりソアナさんって謎の情報源があるからなぁ。

 たまに一体どこから聞きつけたんだろう、ってことも知っている。

 とすれば――

 

「で、あれば。私が何か新作お菓子についてアイデアを出しましょうか? 以前みたいに、なにかのきっかけになるかもしれません」

「いいのかい? もともとそれくらいの情報なら、ただでもいいんだけど」

「そこは、助け合いの精神ってやつですよ。そもそも、私のアイデアが今回も有効とは限りませんからね」

 

 というわけで、ソアナさんのお手伝いをすることに。

 ソアナさんの新作アイデアノートから、良さそうなのを見繕うだけの簡単なお仕事だ。

 いや、簡単ではあるけど効果があるかはなんとも言えないけど。

 と、思っていたのだが――

 

「――ソアナさん、プリンなんて作れるのですね」

「ああ、プリンを作ってくれる錬金術製のアイテムがあってね。こないだ買ったんだよ。問題はどういうプリンにするか、アイデアが全くないってとこなんだが……」

 

 ふむ、プリン。

 一つだけ、ある。

 絶対に売れるという確信のある商品が。

 ただ、それを確実に売るためには――私が売り子になる必要があるのだ。

 ……やるのか? これの売り子を、私が?

 ――まぁいいかぁ、ソアナさんにはお世話になってますし!

 

 というわけで、私はノートを閉じると、ソアナさんに宣言した。

 

 

「並べましょう、プリンを二つ」

 

 

 丸く、でかい、そんなプリンを。

 

 

 +

 

 

「いらっしゃいませー、新商品のビッグプリンはじめました、いかがですかー!」

 

 私の元気な声が響く。

 ソアナさんの屋台は盛況で、常に多くの客がやってくる。

 そんな中で、私が二つのプリンを並べた商品を宣伝しているのだ。

 その名もビッグプリン。

 丸くて、でかくて、そして頭頂部にさくらんぼが乗っている。

 そんなプリンを、私が、売っている。

 

「す、すいません。じゃあこのビッグプリンも……」

「はい、ありがとうございます!」

 

 めちゃくちゃ売れました。

 ドーナツを買いに来た人の、八割くらいがプリンも一緒に買っていきました。

 プリンは材料費の関係で結構高いので、儲けがうはうはである。

 

「いやぁ……すごいわね、ビッグプリン」

「すごいっすね……ビッグプリン」

 

 売り子をすることになったリンカねえさまと、もともと売り子をしていた剣の里の人が唸っている。

 ところでどうして、私を見てごくりと喉を鳴らしているんですか?

 という、白々しい話はさておいて。

 

「いやぁ、最近はちょっと売上も落ちてたんだけど、久々に最高売上更新できそうだねぇ!」

「プリン少なくなってますよ、リンカねえさま新しいのお願いします!」

「え、ええ! プリンをお持ちするわ……こう、お持ちするのよ」

 

 立派なお餅をお持ちで……みたいなニュアンスで言わないでください。

 それはそれとして、錬金アイテムでプリンを製造するのはリンカねえさまの仕事だ。

 

「今ここにいる女性陣で、一番プリンから遠い人が製造するんすね」

「そこ、うるさいわよ! 私はプリンを拝む立場の人間だからいいのよ」

 

 謎におっぱい星人なリンカねえさまが、文句を言いつつもプリンを作っている。

 といっても、プリンを作ること自体は楽しそうだ。

 謎におっぱい星人だからな。

 謎に。

 

「しかし、提案して実際に成功してはいるものの、これ私がいないと商品として成立しないんじゃないですか?」

「んー、あと一日くらいどっかで手伝ってもらえれば、新商品として定着すると思うね。そもそもプリンの味がいいし――」

「ソアナさんも、なかなかにプリン側の人っすもんね」

「そういうことは言わなくていいんだよ」

 

 ちなみに、さっきから「っす」口調でナチュラルにセクハラをしている剣の里の人は女性である。

 いやでなきゃこんな大っぴらにセクハラなんてできないんだけど。

 そしてプリンのサイズは並だ。

 ソアナさんとリンカねえさまの中間くらい。

 

「ふぅーむ。まぁ何にしてもプリンが売れるのはいいことです」

「プリン、好きなの?」

「好き……というわけではないのですが、あると嬉しいのですよね」

 

 前世の己は、冷蔵庫にプリンが入ってると嬉しくなるタイプの人種だったらしい。

 そのせいか、なんとなくプリンに対して親近感があるのだ。

 ……この親近感、ほんとに前世由来?

 

「はい、追加のプリンできたわよ」

「ありがとうございますリンカねえさま!」

「いいのよ、ビッグカグラ」

「その言い間違いは最低すぎますよ!」

 

 カメラの店か何かですか!

 ええい、とにかく売りますよビッグ私!

 

「……ところで、なんだけど」

「今忙しいんですけど、どうしましたかリンカねえさま!」

「――――これ、もっと大きくしない?」

 

 !?

 その時、それを聞いていた私、ソアナさん、剣の里の人、お客さんが一斉に驚愕の視線をリンカねえさまに向けた。

 そこまで一斉に視線向けることある!? と思ったけど、向けた。

 

「この錬金アイテムって、サイズを調整できるじゃない?」

「そうだね、そしてそこに材料を入れて蓋をすると、自動でプリンになるわけだ」

 

 いいながら、リンカねえさまはアイテム――器型のそれの縁を掴んで魔力を通す。

 通した魔力の大小に反応して、器が大きくなったり小さくなったりするのだ。

 うーん、錬金術って異世界の神秘。

 それを自分の胸に当てて、限界までリンカねえさまは大きくする。

 何やってるんですか。

 

「これが限界なんだけど……」

「嘘でしょ、これでもまだカグラちゃんのほうが大きいんすか……」

「……とりあえず、話はわかったから仕事してくれるかい」

 

 子どもみたいなことをしているリンカねえさまと、「っす」口調の剣の里の人。

 この二人、年齢も近くて気が合う感じからして、以前からの知り合いですよね?

 私、小さい頃にこの二人が母上のさらしを手にして慄いているの見たことありますよ!

 母上って、私を全体的に大きくした見た目ですから、プリンもすごいですからね。

 こほん、そんなことはいいのだ。

 

「超特大プリンは、一個限定にするのがいい気がしません?」

「まぁ、特別感を出すってのは大事だねぇ。いや本気で売るなら、だけどさ」

「多分どっかで我慢できなくてつくりますよ、リンカねえさま」

「どんだけプリンが好きなんだよ……」

 

 なんて話をしながら、お客さんを捌いていく。

 できたらいくらで売るか、どうやって売るか……なんて考えていたのだが。

 結局リンカねえさまがプリンを持ってくることもなかった。

 

 あと、七刀がやってくることもなかった。

 これだけ目立っていれば、こちらのことを認識しているはずなのだが。

 どうして声をかけてこないのだろう。

 まぁ、待っている時間が惜しいのかな。

 であれば、午後の仕事が終われば話しかけてくるはずだ。

 こうしてソアナさんの手伝いを申し出たのも、一箇所で動かず目立ったほうが向こうも見つけやすいだろう、という理由もある。

 

「プリンプリン!」

「プリンプリンっす!」

 

 IQがとけてそうなリンカねえさまは、多分気づいていないけど。

 そんなこんなで、時間は過ぎ。

 午後の販売も終了となった。

 久々の大成果にソアナさんも満足げである。

 

「いやぁ助かったよ。まさかここまで売れるとはねぇ。さすがあの人の娘さん」

「父上の才覚を理解しましたか。すごいのですよ父上は」

「自分じゃなくて父親を褒められて嬉しそうにするのは、カグラにしては年相応だね」

「むう。……それより、リンカねえさまたちは何をしているのですか?」

 

 恥ずかしいところを突かれたので、話題をそらす。

 んで、リンカねえさまたちは何やら二人でこそこそやっている。

 

「特大プリン! 一個限定って話だったわね!」

「そのプリン、あたしたちが買わせてもらうっす!」

「そ、そう……いや、普通にただでいいよ。特別ボーナス」

「……いいの!?」

「さっすが店長、胸がでかいっす!」

「どういう褒め方なのさ!」

 

 謎のセクハラが開催されているのを横目に、私は七刀の人を探す。

 すでに周囲から人ははけ、声をかけてくるには何ら問題はないとおもうのだが。

 一向に、それらしい気配はない。

 

「ソアナさん、七刀の方、ここにはいらっしゃらないのでしょうか」

「ん、あー……」

 

 プリンを崇められているソアナさんに、声を掛ける。

 すると帰ってきたのは――

 

 

「その七刀って、男なんだよ。……この空間に声を掛けるの、気まずいってレベルじゃないだろ」

 

 

 ――――ふむ、つまり。

 なるほど。

 

「……私のせいですか!」

 

 私がダブルプリンを提案してしまったばっかりに!

 ……そもそもなんでこんなにプリンを推していたんでしょう。

 正気に戻った私は、ソアナさんから七刀の方が泊まっている宿を聞き出し、そこへ向かうことにするのだった。




プリンプリン物語……
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