転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
あの後、なんかリンカねえさまはプリン……としか言わなくなってしまったので、倉庫に放り込んでおいた。
武具を摂取すれば勝手にいい感じに元通りになるだろう、という算段だ。
ソアナさんや剣の里の人とも別れ、私は一人七刀を探すために街へ繰り出す。
剣の里の人とは一戦交えたかったのだけど、あの人もプリンとしか言わなくなったので諦めた。
宿はソアナさんと同じということで、彼女のことはソアナさんに任せることに。
というわけで、夜の街を一人歩く。
当然と言えば当然か、私はフード付きローブを被っての移動である。
だって素顔晒すよりはまだ、因縁つけられる可能性が上がるんだもの。
つけててもつけてなくても、喧嘩買い手市場だった「ラリス」以外は、概ねこの状態がデフォルトである。
空は暗くなっても、街には未だ明かりが灯っている。
王都はこの世界でもひときわ夜が長い。
酒場では遅くまで人々が酒を飲み交わしているし、歓楽街では娼館やカジノの呼び込みが盛んだ。
なんとなく、こういうちょっと怪しげな雰囲気は嫌いではない。
ただでさえ娯楽の少ないこの世界、景色や雰囲気で少しでも楽しまないと損というもの。
加えて夜は乱暴者も多く、喧嘩に発展していればそこに介入したりもできる。
私は昼より、夜のほうが好きだな。
「とはいえ、王都はカルマンやヨース以上に細かいところのお行儀がいいですねぇ」
適当に買った焼き鳥を頬張りつつ――焼き菓子ブームのせいで、無駄に見つけるのに時間がかかった――夜道を進む。
人はいまだまばらにいるものの、不穏な気配はあまりない。
というのも、明らかに人を騙すつもりだろう……みたいな呼び込みとか、喧嘩を売ったら即買ってくれそうなチンピラの姿がないのだ。
以前「カルマン」や「ヨース」にいた時は、そういったチンピラを宿痾教徒が囲っていたせいで物理的に街に姿がなかった。
しかし王都はそういうことが一切ないにもかかわらず、品のないチンピラの姿が見えない。
いや、チンピラっぽい奴はいるのだ。
だけど、雰囲気は悪くない。
これは「ラリス」にも同じことが言えるのだが、街の治安がいいとチンピラすらも治安がいいのだ。
特に「ラリス」は仮に素行の悪いチンピラが暴れようと、そいつより強いやつがわんさかいるからすぐに鎮圧される。
王都も、それと同じように警備がしっかりしているのだろうと思えた。
何にせよ、ここがいい場所だということに変わりはない。
「ナティラリア様はじめ、王族には優秀なものが多いと評判ですね」
リンカねえさまやソアナさんから聞いた話。
今の王国の統治者は非常に優秀なのだという。
宿痾教徒に入りこまれたりもしたが、それもリンカねえさまと私によって撃退されたし。
色々と、うまく回っていることは事実。
さて、長々とそんな話をしたのは、王都の治安がいいという事実が、あることを示しているからだ。
――もし、そんな王都で事件が起こるとしたら、
「……見つけました、魔力の流れがおかしい場所」
私はリンカ姉さまの家を出て、七刀の人の宿へ向かう道すがら。
ずっとあるものを探していた。
それは、夜になった辺りからずっと感じていた違和感。
魔力の流れがおかしいのだ。
そこでは何かが起こっていると、確信が持てるくらい。
あまりにも大きな魔力の歪み。
「――宿を目指すより、そこを目指した方が良さそうですね」
王国の人間が対処できないほどの事件。
考えられるとしたら、
そしてそれは、事件現場にその六大宿痾を追っているという七刀を呼び寄せるには十分で。
であれば私も、そこを目指す他あるまい。
何より――
「ふふ、楽しそうなことをしてますねぇ」
滾ってしまうのだ。
ここは王都、人の営みの真っ只中。
そんな場所で、それを揺るがす大事件。
きっととんでもない厄介な敵が待っているに違いない。
行くしかあるまい。
行くべし、行くべし!
というわけで私は早速、魔力の痕跡を追いかけて町中を駆け出すのだった。
+
すでに時刻は夜、昼ほど人の流れはないとはいえ、駆け抜けるには通行人の迷惑になる。
そこで私は、身体強化を足先に集中させ、音を消すような動きをできるようにした。
加えて人読みから周囲の人間の視線などを読み取り、気づかれない位置で通り抜けるのだ。
これにより、私は擬似的な隠密を完成させ、人々に気づかれることなく人の波をかき分けていた。
別にそんなことをする必要は一切ないのだが、これもまた鍛錬。
鍛錬は楽しい、楽しいことは正義!
「んひょひょひょひょ――」
――なお、この時漏れていた笑い声は周囲にばっちり聞こえており。
後に町中を駆け抜ける怪しい笑い声という、謎の怪異が発生してしまうのだが。
このときの私は気づいていなかった。
というか、なんなら最初自分とその怪異を結びつけてすらいなかった。
こほん。
そんな話はともかく、私は魔力の流れがおかしい場所にたどり着いた。
そこは案の定というべきか、人通りの少ない路地裏で。
いかにもなにか起こりそうな場所だった。
「……気配は、ありませんね」
人の気配はない。
確かにこの先で魔力が淀んでいるにもかかわらず、何故か人は存在している形跡がない。
魔力とは人から発露するものなのに、その根源たる人が”いない”となれば、どういうことか。
死んでいるのであれば、そもそも魔力が周囲に漏れ出さない。
わからないことだらけだ。
行ってみるしかないだろう。
先程練習した隠密を行いつつ、様子を伺う。
本格的な魔術による隠密ではないし、付け焼き刃もいいところなので効果があるとは思えないが。
まぁ、やらないよりはマシだ。
それに鍛錬の成果を試すというのは、強くなるうえで重要かつ楽しいプロセス。
やらない理由はない。
――そうして、たどり着いた先。
袋小路になっているその場所に、そいつはいた。
黒い、影のようななにか。
そうとしか表現できない、異様な人影がそこにいた。
足元には、意識を失った人間が倒れている。
これについては、接近する過程で気づいていたのだが、さほど状況に影響はないだろうとスルーしていた。
一応、生きてはいるようだが、かなり衰弱しているようだ。
逆に言うとあの怪物は、わざわざあの人を殺さなかったことなるのだが。
まぁ、そこら辺は今気にしている場合ではないか。
――怪物は、私のいる場所をじっと見つめている。
どうやら、すでに私の存在はバレているらしい。
「やれやれ、付け焼き刃の隠密では、あまり効果はなさそうですね」
人混みを掻き分ける能力は高いのだが、戦闘には今のところ活用できなさそうだ。
要練習だな。
「はじめまして、私はカグラ、剣の里は森羅流の剣士です」
『――――』
怪物は答えなかった。
こちらをじっと観察してくるので、私も観察しかえす。
影で覆われているせいで、怪物が男なのか女なのかは読み取れない。
若干小柄なので、女性の可能性が高いが男性でも十分あり得る範囲。
そして手には――一本の短剣が握られている。
どうやら、あの短剣で倒れている人を刺したらしい。
ただ、血のようなものはついていないし、刺された人にも外傷らしきものはなかった。
特殊な能力を持つ武具であると、わかる。
おそらくこいつが、話にあった分体……影の怪物だ。
「さて、怪物さん。一つご提案があるのですが」
『――――』
怪物は、本気で答えないつもりのようだ。
そもそも意思があるのかも怪しいが、とりあえず話を続ける。
といっても――
「今すぐここで、私と戦おうではありませんか!」
――話は、もうほとんど終わっているのだけど!
言葉とともに私は疾討を抜き放ち、駆ける。
さぁ、楽しい楽しい戦闘の始まりだ!
+
――楽しい! 楽しい!
久々のリンカねえさま以外との戦闘は、実に有意義だ。
無論、リンカねえさまとの戦闘もめちゃくちゃ楽しい。
楽しすぎて楽しすぎるので、うっかりリンカねえさまの武具をぶっ壊してリンカねえさまをブチギレさせてしまう。
とはいえ、リンカねえさまも私を超えるべく全力での戦いをご所望なので許してはくれるのだけど。
それはそれとして、ずっと戦い続けてると武具の破壊数がひどいことになるので、戦闘は一日一回と決まっていた。
なので、私としては色々とフラストレーションが溜まるのである。
「ラリス」では、戦う相手に困らなかったこともあって、その反動がどうしてもあるのだ。
さて、そんなことはさておき、影の怪物はなかなか強敵だ。
具体的に言うと、三重強化だと微妙に押し切られそうなくらい。
つまり四重強化なら問題なく倒せるのだが、どう考えてもこれが六大宿痾――幻象の本体ではないだろう。
なので、ここでの正解は三重強化で相手をしてこちらの手の内を隠しつつ、相手の手の内を探る。
それに、若干こちらのほうが弱いくらいのほうが、戦闘は楽しいのだ。
攻略しがいがある。
「ふふふ、楽しいですね! 何より――動きが速い! 以前戦った暗殺者を思い出します!」
影の怪物の戦い方は、速度を活かした機動戦。
例の速度自慢の暗殺者を思い出す。
あれを、更に一段階強くした感じ。
速度では完全に三重強化で追いつけない状態だ。
故に、私は動きを最小限に向こうの攻撃を捌くことに集中している。
短剣を振るいながら、四方八方から迫りくる影の怪物。
そのたびに最小限の動きで刃を疾討で弾く。
現状これはうまく行っていて、理由は影の怪物の動きが直線的だからである。
「――まるで獣のようですね。技術というものがなってないですよ!」
なにせ、技術的には私のほうが上回っているのだ。
技術に関しては、さんざん才能がないと言われていた私が、である。
あまりにも本能全開の戦い方。
とはいえ――
「……まぁ、こちらもあまり有効打はありませんが」
短剣を弾き、反撃に打って出ようとした時にはすでに、影の怪物は離脱している。
とにかく早すぎるのだ。
とてもではないが、追いつけそうにない。
何にせよ、拮抗している。
私は待ちの構えだ、ここで自分から仕掛ける理由がない。
なにせ相手のスペックは、向こうも隠しているのではない限り私の
戦闘を終わらせるだけなら、こちらはいつでもできるのだ。
なので、あちらが仕掛けてくるのを待つ。
そして――
「来ましたか!」
私は、暗闇のなかから迫ってくる、”それ”を察知して飛び退く。
――影だ。
暗闇に溶け込み、迫りくる刃。
手数が増え、しかも暗器。
影の怪物の機動力が一気に厄介さを増す!
更に――迫りくる影は一つではない。
「あはははは! そうこなくては!」
待ちの構えだった私も、街の中を駆け出し動き回る。
迫りくる影と怪物本体を刃で往なしつつ、囲まれないように立ち回るのだ。
――そこからは、機動戦である。
静まり返った――不自然なまでに誰もいない――町中を走り抜ける。
四方八方から迫りくる影の刃。
速度はすべて本体と同等。
そのうえで、本体は質量と威力まで伴っている。
影の刃は、どうやら本体から伸びているようだ。
怪物本体から、腕が無数に伸びているようなイメージだろうか。
それらを、私は疾討一つで弾き、躱し、捌いていく。
圧倒的にこちらの手数が足りていない。
武器が完全に疾討一本なのは、やはりこういうところで不利だな!
「とはいえそういうことなら、こちらも手札を切って”対応”しましょうか」
さて、拮抗から不利に傾いた天秤を、ここで一度もとに戻そう。
手札を切ってもいいのか? と思うかもしれないが、この手札はどこかで切らないと行けない札だ。
なにせ、相手の情報を得るために非常に有効なのだから。
すなわち――
「はあ!」
私は、魔力を影に向かってぶっぱなす。
すると、影は怪物本体もろとも
こいつが魔物である、何よりの証拠だ!
そう、魔力は魔物の瘴気と反発する作用がある。
なので魔力放出に効果があれば、この影が魔物と確定するのだ。
魔物かどうかの検証は、情報を得るために必須なので、魔力放出の札は切らない理由がない。
「今度はこちらから行きますよ!」
かくして、状況が動く。
吹き飛んだ影の怪物に肉薄、私が刃を振るう。
今回の戦闘で、初めて影の怪物にこちらから攻撃できた。
怪物はそれをなんとか短剣で弾き、距離を取る。
私はそこへ更に魔力をぶっぱなし、遠距離攻撃を交えて影を追う。
影の方も、魔力ぶっぱを避けて影の腕を伸ばして反撃。
お互いに、近距離と遠距離からのぶつかり合いとなる。
先程との違いは、私が攻撃に転じているということ。
最初の拮抗は完全にこちらが受ける形で発生していた。
あの時よりは、まだ勝利の可能性が私に発生している。
悪くない。
そして、魔力放出と影の腕だと一方的にこちらが有利だ。
結果として、この攻防は思ったよりも私を優勢に傾けている。
――ここは、追い詰められるところまで追い詰めるべきだ。
そう判断して、私は一気に踏み込む。
魔力放出を全開にしながら、影に突っ込んでいく。
影は速度の上ではこちらを上回っているが――
「逃がしませんよ!」
私が魔力を全方位に放つことで、吹き飛ばされて動きが封じられる。
そこへ、私が一撃を叩き込むのだ。
「これで――!」
刃を振るう。
無論、影の怪物はそれを短剣で弾こうとするが――
「終いです!」
私は、
先程までの私の膂力では、あり得ない挙動。
しかし、強化の比重を膂力に偏らせれば、怪物の膂力を私は上回れる!
結果、無防備となった怪物に私は刃を死なない程度に叩きつけようとして――
直後、私の周囲に影の刃が生まれた。
――影の刃、ないしは影の腕。
それは影の怪物本体からしか生み出せないと思っていた。
しかし違ったのだ。
そう思わせていただけ。
こちらが勝ちを確信した瞬間に、影の怪物は切り札を切ってきた。
回避は不可能。
防御も不可。
強化の比重を膂力に寄せて、防御がおろそかだからだ。
そう判断した私は、仕方なく四重に強化を移行させようとして――
「――そこまで」
何者かが、影の刃を切り払った。
一瞬、意識がそちらに取られる。
結果、影の怪物は即座に撤退を判断、私から距離を取った。
追いかけようかとも思ったが――やめる。
直感的に、ここでの深追いは危険と判断したのだ。
それを見てか、影の怪物は私が弾いた短剣を回収すると、その場を立ち去った。
「……逃げられましたか」
「――僕には、君があの影に、地の果てまで追いかけられているように見えたけどね」
「遺憾ながら、最後の一手が想定外だったのはそうですけどね。切り札を切らなくてはいけなくなるところでした。さて――」
私は、疾討を鞘に収める。
対して、私を助けた人も武器をしまっていた。
しまっている武器は――レイピア?
細剣に分類されそうな剣を、剣の里の旅装をまとった二十代くらいの茶髪の男性が腰に下げている。
なんとも、アンバランスな光景だ。
背丈は百八十くらいはあるのに、顔つきは童顔で若く見える。
彼は――
「あなたは――」
「君がカグラかな? リンカとともに、王都に入ったと聞いているよ。……こうして、出会えたことも何かの恩寵になるといいのだけど。さて――」
そうして、男は――
「僕はフヅキ。七刀の一人だ」
フヅキ、と名乗った。
楽しそうなカグラと新しい七刀です。