転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

102 / 118
九十 ふふ……そういうことかもしれないね?

 フヅキ様、背丈の割に童顔で、優男という雰囲気のあるイケメンさんだ。

 しかし、服の上から少しだけ見受けられる手足は思った以上にがっしりしていて。

 何より武芸者としての洗練された足運び。

 彼が優秀な剣士であるということがわかる。

 なんというか、武器がレイピアというのは不思議な感じだ。

 もともと剣の里の剣士が扱うのは、和装の割に西洋剣で。

 そもそもこれまで出会った七刀が誰も普通の剣を使わないから、そこまで大きな違和感じゃないけれど。

 

「なにはともあれ、フヅキ様。助かりました」

「いや、何――なんてことはないさ。これは僕が七刀である以上、同胞(はらから)を守ることは背負わなければ行けない十字架であり、責務なのだから」

「な、なるほど」

 

 持って回った言い方をしているけれど、里の人間を守ることは七刀の責任ということらしい。

 まぁうん、それはそうなんだろうけれども。

 一応私って、シドウ様にも勝ったんだけどなぁ……と思うのは、子供っぽいだろうか。

 とにかく。

 

「フヅキ様は、六大宿痾の幻象を追っているのですよね? とすれば、やはりあれが幻象なのでしょうか」

「そうでもあるし、そうでもないとも言える」

 

 どう見るかだ。

 じゃない。

 

「僕の情報が正しければ、あれは幻象の一部だ。幻象は用心深い宿痾の主で、人間世界に干渉する際は、ああして自分の分身とも呼べるものを解き放つ傾向にあると推察される」

「予防線が多すぎませんか?」

「これには、いくつかの理由が複雑に絡み合っている。それら一つ一つは非常に単純なことだけど。組み上がっていくうちに徐々にその輪郭の壮大さに気がつくだろう」

 

 ――なんか。

 

「ええと……とりあえず理由としては、実際に幻象と言葉を交わしたことがないから、とかですか?」

「それもまたものの一つの側面さ」

 

 なんか、こう。

 

「あれが幻象の分身、ということは間違いないのですよね」

「正しくない、と僕の口から語ることはできないし。きっとこの世の誰にもできないだろうね」

 

 ――――言い回しが迂遠すぎる。

 あまりに……あまりに遠回し!

 直接的な物言いを極端なまでに避け、物事の本質をぼやけさせる。

 これを一言で表すとしたら……特定の声優さんが演じそうな役!

 おのれ……! ミステリアスな胡散臭いイケメン!

 

 とりあえず、言いたいことをまとめよう。

 先程私が対峙したのは、幻象の分身とも呼べる存在。

 慎重な幻象が、本体を行動させることがなくてもいいように作った影。

 そして慎重だからこそ、フヅキ様は幻象と直接相対したことはなく。

 それ故に、自身の推察に自身が持てないのだ。

 ……多分。

 

「なんとなーく、幻象の分身について理解できました。それで、フヅキさんはどうしてここに?」

「虚ろなる剣戟の調べが聞こえてね。片やあまりにも生命の息吹に満ちているというのに、片やあまりにも人の鼓動を感じないものだから。きっと幻象の仕業に違いない、と思ったのさ」

「か、片方から人の気配がしない戦闘を私がしていた……と」

 

 それは確かに、見るものが見ればわかるだろう。

 人の戦闘には必ず魔力が関わる。

 これを垂れ流さない相手との戦闘は、魔物でなければありえない。

 人の街には魔物が侵入しないよう、結界と警備の二つの側面から対策が行われている。

 それをすり抜けるとなれば、幻象以外ありえないというのも納得だ。

 

「あーあと、このあたりに人の気配が不自然にありません。これも幻象の仕業ですか?」

「幻象は対峙したものを深淵へと引きずり込むからね。分身はそこまでの御業を持ち合わせてはいないが、似たようなことはできなくもない」

 

 例のデバフの劣化技として、人を自身の周囲から遠ざける能力がある、と。

 これについては、魔力を探知できる人間ならば無効化できるようだ。

 私は言うに及ばず、フヅキ様も多少なりとも魔力を探知できるだろう。

 

「そ、そうだ。それと幻象の分身に襲われていた人の様子を確認しなくてはいけません」

「それに関しては、心配はいらない。すでに僕が足を運び、具合を確かめておいた」

「……確認しに行きましょうか」

 

 フヅキ様の言語を翻訳するより、自分の目で確かめたほうが圧倒的に楽だと、想像がついてしまった。

 魔力を探して、分身がいた場所を目指す。

 ここには私とフヅキ様とその人しかいないので、探すのは簡単だ。

 

「……いました! 呼吸はしていますが……意識がありませんね」

「どうやら、すでに深淵に引きずり込まれてしまった後のようだ」

「……魔力の乱れを感じます。このままだと、自力で目を覚ますことは難しそうです」

「ふふ……どうやらそうみたいだね」

 

 あ、フヅキ様の発言がわかりやすくなった。

 まぁ私が事実をすべて口にしたから、同意することしかできなかったのだろう。

 襲われた人は昏睡状態で、目を覚ますことができない状態に陥っている。

 この世界には治癒魔術があるから、命に別状はないだろうけど。

 普通の異世界だったら、食事を取れずにこのまま衰弱死してしまうだろうな。

 

「――さて、今宵起きた運命の事象は、こうして一つの形に定まったようだ」

「……もうこれ以上、ここでわかることはないってことですよね?」

「ふふ……そういうことかもしれないね」

 

 ぬあああ。

 七刀には変人が多い。

 それは、非常によく言われていたことだ。

 ただ、リンカねえさまもシドウ様も、基本的には話の通じる人だった。

 というか、基本的には良識のある人なのだ。

 リンカねえさまはプリンと武具の話になるとおかしくなるし。

 シドウ様は自分の興味あることにしか首を突っ込まず、割と適当な人ではあったけど。

 

 でも、なんというかこう、フヅキ様は表面上からとっつきづらい!

 失礼なのはわかってはいるのだけど、付き合いが難しい!

 もっと単純でいいじゃないか、単純で!

 

「と、いうわけで、ですねフヅキ様。幻象に関する調査が終了したのであれば――」

「で、あれば?」

「仕合しましょう! 剣の里の人間がであったならばすなわち、仕合以外ありません仕合!」

 

 そう、仕合だ!

 この世において、最も単純な摂理がある。

 剣の里の人間同士がであったら、仕合一択!

 昼の「っす」口調の人には避けられてしまったけど、相手は七刀。

 私の挑戦を断ったりはしないはずだ!

 てややー!

 

「こちらの言葉を待たずに、斬りかかるのは感心しないね。それは品のある行為ではないよ」

「それが普通の人であれば、流石に自重します! ですがあなたは七刀! 剣に行き、剣に愛された天才! いざじんじょーにしあーいしあい!」

 

 しああああ!

 と、私は疾討を構えて威嚇する。

 さながら、大型犬を威嚇する猫のごとく!

 

「仕合こそ人の強さを高める最上の方法! 生きとし生けるもの、強さを求めるのであれば仕合立ち会い以外に互いを高め合う手段はなし! これぞ私達剣の里の人間が生まれた時からの宿命なのです! じんじょーに! じんじょおおおおおに!」

「この世に剣の里の剣士数多くあれど、戰場(いくさば)に命を賭す定めの者はそう多くない。君がそうであるというのなら、僕は君を止めないといけないのだけど」

 

 ウヒョヒョヒョヒョ!

 ヒョヒョヒョヒョヒョ!

 なんだかフヅキ様は迂遠に言っているけれど、興奮したからもう何言ってるかわかんないや!

 とりあえず褒められたと思っておこう、えへへー。

 

「照れないで」

「しょーぶ!」

「……その前に、その人を安静にできるところに連れて行くのが先かもしれないね」

「あ、それもそうですね」

 

 すん……

 私はフヅキ様の最もな指摘に、戦意と疾討を鞘に納めるのだった。

 なお、フヅキ様からは変なものを見る目で見られた。

 

 

 +

 

 

「――で、昨夜私がトリップシている間に、フヅキにであった……と」

「なんとも、雲を掴むような感覚を覚える人でした」

 

 翌日、私達の姿は王宮にあった。

 昨日の出来事を、リンカねえさまとナティラリア様へ報告するためだ。

 忙しいだろうに、ナティラリア様はまたもアポなしの私達に対して時間を作ってくれた。

 それだけ、幻象に対する警戒度が高い証だろう。

 

「あははは、七刀ってのはみんな変わってるからなぁ。ねぇ、リンカ?」

「私は普通よ。あんな胡乱なやつといっしょにしないで――」

「ほーれ、新しい武具だぞう」

「きゃいん! きゃんきゃん! くぅーん!」

 

 リンカねえさまは真面目に返そうとして、途中で武具を見せられ犬の鳴き真似をしながら床に寝そべって腹を見せた。

 なにこれ。

 そんなリンカねえさまのお腹を撫でつつ、ナティラリア様は続ける。

 

「警戒はしていたけれど、いよいよ王都に幻象の魔の手が迫ってしまったわけだ」

「ですね……」

「といっても、人類を根絶やしにする災厄の頂点、六大宿痾の凶行を止めることは難しい。問題は、起きた後如何に対処するか、だよ。それに、幻象は六大宿痾の中で最も人を”殺さない”宿痾の主だからね。まだ焦るほどじゃない」

 

 昨夜起きた、幻象による襲撃事件。

 あれによって襲われた人は、殺されてはいなかった。

 それはこれまで幻象が起こしてきた事件の状況と、一致するという。

 現在世界には、幻象によって昏睡させられた人が多くいて。

 この昏睡を治療するには幻象本体を倒すしかない、と目されていた。

 

 そして、ナティラリア様も当然そのことは把握している。

 六大宿痾が王都に襲来したとはいえ、起きる出来事は人の昏倒だけ。

 そのことから、王都に無闇矢鱈と混乱をもたらさないよう、六大宿痾の存在は伏せられているとう。

 

「さて、その上で具体的な対策だ」

「そうですね……王都としては、幻象をどうするおつもりなのですか?」

「そりゃもちろん、ここで討伐するに決まってる。なにせここには七刀が二人とそれを凌駕しうる実力の猛者が一人いるんだから」

「わん! わん!」

「一人はこの有り様ですけど……」

 

 まぁ、考えてみれば当然の話し。

 今は六大宿痾のうち二体が倒され、残るは四体。

 この内一体を倒せれば、一気に六大宿痾殲滅も見えてくる。

 幻象は厄介な宿痾の主だが、単体の能力は狐火ほどではないそうだ。

 私とリンカねえさま、それからフヅキ様が協力すれば、十分倒せる。

 というか、現状この大陸に存在する六大宿痾の中で、倒される可能性があるとすればそれは幻象だろうと多くの人は思っていたそうだ。

 そして、”魔境”の次に攻略が難しいと思われていた「ラリス」のダンジョンが、真っ先に攻略されるとは思わなかった、とも。

 

「だからこそ、期待してしまう。カグラ、君はこの大陸の運命を変えるかもしれない存在だ」

「そこまで言われると、なんだか少し気恥ずかしい気分になってしまいますが」

「事実を言っているだけじゃないか。それに君には、シドウさんを倒したという実績もある。名実ともに、現状この大陸最強は君なのだから」

 

 なんだか気恥ずかしくなって、二人でワンコねえさまを撫で回しつつ。

 最強、という言葉に思いを馳せる。

 ところで、なんやかや顔がいいのもあってわんわんいってるねえさまは普通に可愛いですね。

 

「リンカも言っていたよ。君は、剣の里に生まれた異端児だ。才能だとか、剣鬼だとか、そういった里に存在する既存の概念からかけ離れた存在だ、と」

「……なんか、本人がこの場にいない風に話してますけど、今撫で回してますよね」

「…………普通に恥ずかしいから、そうやってカグラ褒めるのやめてもらっていい?」

 

 ああ、リンカねえさまが正気に戻ってしまった。

 ……犬のマネをして、撫でられるのははずかしくないのだろうか。

 と、思ったけどふと気づく。

 リンカねえさまの視線が私とナティラリア様のプリンに向いている!

 私のそれもそうなのだけど、ナティラリア様のプリンもめちゃくちゃでかいのだ。

 具体的に言うと、私と同じか少し小さいくらい。

 ナティラリア様は結構背が高いから、私ほどやばいデカパイって感じはしないけど。

 ……リンカねえさまがプリン大好きな理由はここかぁ。

 くっ、なんだかリンカねえさまにナティラリア様の代わり扱いされている気がする!

 くやしい、でも! そんなことよりリンカねえさまと仕合がしたいです!

 

「こほん。それで、フヅキとはこれからどうするかって話はした?」

「まずは幻象の分身を見つけ、これを倒すこと……という話をしました。あの場で倒せていればよかったのですけど……」

「倒せていても、分身はまた生まれるだろう。分身を探すことも大事だけど、本体を探すことも忘れてはいけない」

 

 とはいえ、分身を倒すことも大事らしい。

 なんでも、倒すと力が本体へ戻っていくので、そこから本体の位置を推察できるのだとか。

 といっても本体はすぐに場所を移動するだろうから、分身を倒した後は時間との勝負なのだけど。

 もしくは、本体がいた場所を探して、痕跡から次の潜伏場所を推測する感じ。

 

「分身の強さ自体は、リンカでも問題なく対処できるんだろ? だったら、君たち三人以外にもうちの部下の優秀なやつを警備に出そう。見つけたら、近くに合図をだして応援に行く」

「まぁ、妥当じゃない? 本体が街の中にいるなら、それを探すのにも人手がいるし」

「その優秀な人達と仕合したいですね!」

 

 なんて話をしつつ、今後の予定を詰めていく。

 しばらくはフヅキ様と連携して、分身の捜索と退治。

 及び本体の潜伏場所を探る。

 幻象の分身は影である以上、行動を起こすのは夜だ。

 なので街にはそれとなく、夜は出歩かないようにするよう命令を出す。

 などなど。

 

「とまぁ、こんなところかね」

「悪いけど、細かいところは頼んだわよ、ナティラリア」

「もちろん。かわいいかわいいリンカの頼みだからね」

「ぐ……そういうのはいいのよ、そういうのは!」

 

 なんて話をしつつ、今日の会合は解散となった。

 そういえばもともと、ナティラリア様は王様から幻象対策を行うよう任せられていたそうで。

 ナティラリア様のフットワークが軽いのも、それが原因らしい。

 そういうことであれば、しばらくはナティラリア様を頼らせてもらうとしよう。

 ――それはそれとして。

 

「そういえばリンカねえさま、一つ気になっていたのですが」

「何かしら」

「昨日屋台を手伝った時、どうせフヅキ様は見つからないから、ここで目立ってたほうが見つかる可能性は高い、とおっしゃってましたよね」

「まぁ、そうね」

 

 家に戻る道中。

 私はリンカねえさまにあの時のことを聞いていた。

 これからの私の予定は、フヅキ様のところへ行って仕合を申し込むことだ。

 しかし、それが叶う可能性は低いとのこと。

 何故か?

 フヅキ様が宿にいないから、だそうな。

 それは一体、どういうことかと聞いてみたのだ。

 そして、帰ってきたのは――

 

 

「だってあいつ、とんでもないバカだから。道に迷って宿に帰れてないのよ」

 

 

 ……ええ?

 

「なんか、すごくそれっぽく話してましたよ?」

「あいつは七刀でも一番の感覚派なの。話す内容は自分の感覚で読み取ったこと。だから持って回った言い回しだけど、正しい」

「……自分でもどういうことか理解できてないことを、無理やり言語化しているけれど、感覚派の天才だから読み取ったこと自体は正しい、と」

「そういうことよ」

 

 え、ええ……いやだって、あのあまりにも胡散臭い声と雰囲気。

 もうちょっとこう……ええ……。

 ……感覚自体が正しいのはそうなんだろうな。

 でないと、昨日の夜幻象の分身のところまでたどり着けないし。

 何にしても、言えることは一つだ。

 

「七刀って、変な人ばっかりですね!」

「人のこと言えないでしょ、あんたも」

 

 はい。




変態というか、こう……CVが言わなくても誰かわかるというか……変な人です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。