転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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九十一 強くなるためなら、何をしたっていいんですよ

 色々と方針が決まって、私は町中をウロウロしながら幻象を探していた。

 無論、ただうろうろしていて幻象が見つかるわけないのだけど、私にはこの街の土地勘がない。

 リンカねえさまも、ナティラリアさんもこの王都のことを熟知しているのに、私だけ知らないというのはいただけないというか。

 知っておかないと、見逃してしまうこともある気がするのだ。

 あと、単純に王都を見て回りたい。

 娯楽の少ないこの世界で、新しい街にやってくるというのはある意味で大きな娯楽が一つ供給されたようなものだ。

 色々歩き回って街の雰囲気を感じつつ、ついでに喧嘩を売られたりしないかなぁと淡い期待を抱いて街を歩くのである。

 

「いやぁ、本当に人通りが多い」

 

 はえー、とあちこちを見渡しながら、街を歩く。

 お上りさん全開だが、その方がスリとか恐喝に遭いやすいかもしれないという打算もある。

 まぁ、今のところ一度としてそういうのにヒットしたことはないのだけど。

 

「治安が良すぎますよ、やはり」

 

 今のところ、幻象のことは王都の住民には伏せられているのもあって、王都は平和そのものだ。

 ただ、少しずつ幻象の噂は広がっていくことだろう。

 そうなるとこの治安も維持できるかは難しいところだが、ナティラリアさんの手腕に期待だな。

 

「ん、あれは――」

 

 そうやって街を観察していると――ふと、見知った顔を見かけた。

 リンカねえさまでも、ソアナさんでもない。

 では誰かと言えば――

 

「――もし、ユウコさん」

 

 ユウコさんだ。

 え、誰だって?

 ユウコさんはユウコさんではないですか!

 あのユウコさんですよ!

 具体的には――

 

「あ、カグラちゃん。こんにちはっす」

 

 例の「っす」口調の剣の里の人である。

 年の頃はソアナさんと同じくらい、背丈は私とリンカねえさまの間くらい。

 黒髪セミロング、八重歯が特徴的な女性だ。

 

「……なんでローブ羽織ってるんすか?」

「誘い受けのローブです。喧嘩募集中です」

「は、はぁ……なんかえっちっすね」

「えっちはえっちでもヘルの方ですが……」

「????」

 

 あ、伝わらなかった。

 こほんこほん。

 

「私は王都に詳しくないので、実際に見て回っているのです」

「なるほど、王都、広いっすもんねぇ。私も未だに迷うっす」

「ユウコさんも、王都に来てそれほど経っていないのですか?」

「普段は別の街で冒険者してるっす。今回は里長の頼みで、ソアナさんの護衛と売り子をするために王都まで来てるっす」

「ははぁ」

 

 まぁソアナさんは今、王都で最も注目度の高い個人だろうしな。

 護衛を雇ってそれを売り子にするのは自然な考えだろう。

 でもどうして、王都にいる郷の人間を雇わなかったんだろう。

 

「なんか、王都で活動してる郷の人間が皆緊急の事態で忙しいからって、アタシにお鉢が回ってきたんスよ」

「ああ、なるほど」

 

 こちらが疑問に思っていると、それを察したのかユウコさんが教えてくれた。

 王都で活動している郷の人間は、たいていが国に仕えているのだ。

 現在、幻象が街にやってきていてその対策で皆慌ただしく動いている。

 人の手が空いていないのも当然だろう。

 そして、おそらくユウコさんはそのことを知らない、と。

 

「それよりユウコさん、せっかくこうして行きあったのですし、仕合しませんか?」

「うーん、アタシじゃカグラちゃんには手も足もでないっすよ。それに今は買い出しに出ているだけっすし」

「おや、それでは仕方ないですね」

 

 まぁ考えてみれば、ソアナさんの護衛が一人でほっつき歩いてちゃダメというのは自然な話。

 今の時刻は夕方で、もうプリンとドーナツの販売は終わってるだろうけど。

 後、個人的には手も足も出ない強敵に挑むのも、強くなるうえでは必要なのだけど。

 ユウコさんは、あまりその辺り、里の人間にしては熱心ではないようだ。

 

「それにしても、カグラちゃんはその年で旅に出ることが許される辺り、やっぱ剣士として優秀なんすねぇ」

「ユウコさんが旅に出たのは……二年前でしたか」

「そうそう、百鬼夜行が起きる直前にね」

 

 私が物心付く前に旅立った物が多い七刀や、レイナさんみたいな例外を除けば、里の人間は基本的に顔見知りだ。

 ユウコさんもそう、昔は稽古をつけてもらったこともあったな。

 それから、私達は会話が途切れたまま少し歩く。

 対して長い時間ではなかったが、その間に何か考え事をしていたらしいユウコさんがゆっくりと口を開いた。

 

「…………旅に出る前から気になってたんすけど、どうしてカグラちゃんはそんな強くなることが好きになったんすか?」

「好きになった、ですか?」

「昔は、鍛錬とかあんまり好きじゃなかったっすよね?」

「ああ」

 

 私は父上が目の前で岩を切るまで、強くなることに頓着していなかったのだ。

 何かと退屈そうにしていて、里の中では浮いていた。

 ユウコさんはその頃、何かと私に世話を焼いてくれていたのである。

 ……私が修羅に目覚めてからは、距離を置かれてしまったけれど。

 

「私には、剣術の才能があまりありませんでしたから。上達しない習い事に、気乗りはしないものですよ」

「気持ちはわかるっす。だからこそ、今のカグラちゃんが不思議でならないっすよ」

 

 ユウコさんが私に気にかけてくれたのは、自分と同じだと思っていたからだ。

 なんというか、ユウコさんはあまり才能がある方ではない。

 娯楽の少ない世界で退屈していた頃の私と、精神状態は遠くないだろう。

 しかし、私は弾けた。

 そのことが、ユウコさんと私の間に距離を作ってしまったのだ。

 ……けど、普通に修羅としての私にドン引きしただけかもしれない、と思ってしまうのは私の普段の行いが悪いんだろうなぁ。

 

「身体強化で、普段とは段違いの強さを手に入れ、それを存分に振るうのが楽しいから……なのですが。なかなか伝わらない感覚なんですよねぇ」

「身体強化で強くなるのは、当たり前じゃないっすか?」

「そうなんですよ、私にとってはその当たり前が楽しいのですけど」

 

 これは、前世という特殊な経験を持つ私だけの感覚だ。

 前世に身体強化はなかったからな。

 身体強化によって、人知を超えた強さを手に入れる。

 その興奮が、私のモチベーションの一つではあるのだが。

 これをこの世界の人に伝えようと思うと、なかなか難しい。

 

「それに、成果の出ない修行は楽しくはないですが、成果の出る修行は楽しいですよ」

「……カグラちゃんは成果の出し方がおかしいっす」

 

 それは……そうなのですが……

 結局私は魔力の操作精度に関してもそこまで才能はなく、それを補うために別方向にスキルを伸ばすこととなった。

 多重強化なんて、それと同等の身体強化が最初からできていればやる必要のないことだ。

 そして、七刀にはそれができる。

 才能とは、そういうものだろう。

 

「ようするに、ですよ。成果さえ出せれば、修行は楽しくなるんです」

「は、はぁ」

「だから――」

 

 私は、自信満々に言う。

 

 

「強くなるためなら、何をしたっていいんですよ」

 

 

 無論、人様に迷惑をかけなければ、という前提はあるけれど。

 強くなるためなら、何だってやればいいのだ。

 私みたいに、魔力操作をおかしな方法で極めてもいい。

 リンカねえさまみたいに、武具を自分で叩き壊して自分でブチ切れてもいいのだ。

 

「えぇ……」

 

 なお、ユウコさんは引いた。

 ですよね。

 結局その後、ソアナさんとユウコさんが泊まっている宿にたどり着き、ユウコさんとはそこで分かれることとなった。

 久々にお話したけれど、相変わらずどうにもユウコさんとは壁を感じてしまうな。

 こればっかりは、私が修羅になったのが行けないのだけど。

 ううむ。

 

 

 +

 

 

 さて、日が沈んだら本格的に幻象捜索だ。

 はっきり言って、昼の私は穀潰しである。

 リンカねえさまやナティラリア様は、色々とやることがあるというのに。

 私は特にやることがなく、街をぶらついたりリンカねえさまの屋敷で修行をするくらいしかやることがない。

 外部の人間で、年齢だけ見れば普通に子どもなんだから当然と言えば当然なんだけど。

 寂しい。

 

 しかし、そのフラストレーションは夜に開放すればいい。

 私は幻象の分身と実際に戦ったことがある。

 その点において、他の人よりも捜索において一歩進んでいると言えた。

 というわけで、今日こそは幻象の分身を見つけたい。

 

「まず、あれから何日か幻象を探していますが、見つけることはできていません」

 

 分身と激突してから、数日が経過している。

 その間に、分身が発見された報告はない。

 私以外にも探している人は多くいるにもかかわらず、だ。

 

「前回、私は魔力の流れがおかしい場所を捜索しました。結果として分身が人を襲う場面に出くわしたわけですが……向こうがそれを警戒している可能性があります」

 

 それがここ数日の結論だった。

 要するに、正攻法で分身は人を襲っていないのだ。

 そもそも分身はどうして人を襲うのか。

 分身に襲われた人間は、魔力を乱されていた。

 分身の攻撃は人間を直接傷つけない。

 魔力に”細工”をするのが、分身の目的なのだ。

 

「細工をした結果、どうなるのですか? いまのところ、襲われた人は目を覚ましていませんが。それも関係しているのでしょうか」

 

 考えられる理由として、最もありそうなのが「栄養補給」だ。

 魔力を乱すのは、魔力から何かを吸い取った結果だと考えたらどうだろう。

 ありそうな話だ。

 だが、それだけではないような気もする。

 何かを吸い出されたかのように魔力を乱され、意識を奪われるというのもどういうことなのか。

 

「――干渉しているのは、魔力だけではない? 精神にも干渉しているとしたら、納得が行きませんか?」

 

 幻象には、本体が持つ強烈なデバフと、分身が持つ人を遠ざける能力がある。

 これらは”精神に干渉している”らしい。

 同じことが、魔力を奪うときに起きた結果が昏睡だとしたら……

 

「魔力を探して見つからないのなら、次は精神を起点に捜索をかけてみましょうか」

 

 ――私は、方針を決めた。

 しかし、精神を起点にするとはどういうことか?

 それは要するに、人々の精神が()()()()()場所を探せばいいのだ。

 どういう場所なら、精神が乱れていると言えるか。

 喧嘩が起きている現場、とかどうだろう。

 そもそも、この王都は非常に治安がよく、チンピラ同士の喧嘩もそうそう起こらない。

 無論、絶対に起きないということはないだろうが――珍しい。

 なら、その珍しい喧嘩の現場を見つけてしまえばいいのだ。

 もしそれが私の読み通り、幻象のメンタルデバフとでも言うべきものが原因であれば重畳。

 そうでなくとも、喧嘩の仲裁を大義名分に喧嘩に割って入れる!

 

「一石二鳥じゃないですかぁ!」

 

 かくして私は、にちゃぁっと笑みを浮かべて夜の街に飛び出した。

 探せ、楽しそうな喧嘩の現場!

 

 

 +

 

 

 正直、実際に幻象を見つける気なんてものはさらさらなくて。

 幻象捜索と治安維持を名目に喧嘩へ介入。

 好き放題するのが私の目的だった。

 

 実際、最初の一軒目と二軒目はうまく行った。

 一軒目は美女をナンパするチンピラ二名。

 美女の方は明確に嫌がっていたので、介入。

 ナンパの方向が私にも向いたので、そのまま蹴り飛ばして制圧した。

 二軒目は冒険者同士の喧嘩。

 酔っ払って飲んでいる酒場の椅子だのを使って喧嘩しそうさったので、べしっと叩いて気絶させる。

 周囲に危害が及ぶことはなかったので、問題ないだろう。

 

 ――しかし、三軒目。

 

「オイゴルァ! てめぇどこみてやがんだ!」

 

 そうやって叫ぶチンピラの前にいる人。

 体が真っ黒だ。

 どう見ても幻象の分身である。

 しかしどういうわけか、周りの人はそれを疑問に思っていない。

 おそらく、周囲の人には普通に見えているのだろう。

 

 ――どうしたものか。

 

 別に、このまま幻象の分身に攻撃しても構わない。

 このままだと、チンピラが反撃で倒れて魔力を乱されるだろう。

 それを防ぐために私は動き回っていたわけだから。

 流石にこれを見逃すってのはありえない。

 けど、少し迷ってしまう理由もあるのだ。

 

「――周りの人には、あの分身は誰に見えてるんです?」

 

 私には、分身にしか見えない。

 けど周りの人にはそうではない。

 だったら、()()に見えているはずなのだ。

 無論、特定の誰かではないかもしれない。

 ただ私の中の直感が、アレを”誰か”だと告げている。

 

 だから私は――脱力した。

 普段行っている魔力の身体強化を解除して、呼吸を整える。

 人は常に、ある一定の練度で魔力操作を行っているのだ。

 それは()()()()()()()()()、普段行っている魔力操作の練度は高い。

 私はといえば、魔力操作自体はかなり得意とするところだ。

 しかしそもそも、もととなる前提。

 才能自体は、あまりない。

 ただただ努力に努力を重ね、人とは違う方法で高みに至っただけ。

 だから――脱力し、意識して昔のような魔力操作を行えば。

 この場にいる人達と同じ魔力操作の練度まで自分の魔力操作を落とすことができる。

 そして――見た。

 

「……なるほど」

 

 そういうことか、とある意味納得する。

 そして、幻象に関する多くの人々の勘違いを理解した。

 幻象には、変身能力がある。

 無論、変身することもできるのだろう。

 だが、中には――

 

 

「――ユウコさん」

 

 

 私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()に声をかけた。

 声をかけられた主――ユウコさんはビクッと体を震わせてこちらを視る。

 

「な、なんで……カグラちゃん?」

「街を歩いていたら、たまたまこの光景を見かけまして。お手伝いしましょうか?」

「んだてめぇ、胸がでけぇだけのガキがよぉ!」

 

 そして、ユウコさんに喧嘩を売っていたチンピラが私に襲いかかってくる。

 ひゃっほう喧嘩だぁ!

 早速私は、迫る男の拳をひょいっと躱して、顎のあたりを殴り抜ける。

 面白いくらいに男はすとーんと意識を失って、その場に崩れ落ちた。

 

「んふふ、見え見えのテレフォンパンチを避ける経験は貴重ですね、んふふ」

「カグラちゃん……その――」

「っと、ユウコさん」

 

 ユウコさんは、何やら難しい顔でこっちを見ていた。

 ”食事”を失敗したのだとすれば、少し悪いことをしたけれど。

 被害者を増やすわけにもいかないので、まぁ問題はないだろう。

 

「――行きましょうか」

「……はい」

 

 そして、どこか観念した様子でユウコさんは私の呼びかけに応じる。

 チンピラは、放置しておけば警備の兵士がなんとかしてくれるだろう。

 そっちに気を取られていると、ユウコさんがどこかに行ってしまいそうだし。

 今はこちらのほうが優先だ。

 

「…………」

 

 暫く、お互い無言で街を歩く。

 すると、少しずつ人の気配が減っていった。

 あの時と同じだ。

 だから私は、周りに人が誰も居なくなった辺りで、単刀直入に聞いた。

 

 

「――一体何時から、幻象に操られてたんですか?」

 

 

 私は、疾討に手をかける。

 同時にユウコさんも、どこか乾いた笑みを浮かべながら手を顔に当てた。

 

「操られてる? 何を言ってるんすか。あたしは最初から正気っすよ」

「自分から幻象にその身を捧げた、と?」

「そうっすよ。だって――」

 

 ユウコさんの姿が、変化していく。

 体中を”黒”が覆って、最後は顔すらも無貌に変わる。

 そして――

 

 

「強くなるためなら、何をしたっていいって……カグラちゃんが言ったんじゃないっすか!」

 

 

 ――その姿は、分身へと変わった。

 ええい、全く。

 私がその話をする前から貴方は分身だったはずですし、何より。

 

「人様に迷惑をかけなければ、というのは大前提でしょう!」

 

 叫びながら、私もまた疾討を抜き放ち――分身へと切りかかった。

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