転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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九十三 リンカねえさまの恥ずかしい話

 それから私は王宮に立ち寄り、真夜中にナティラリア様ー、ナティラリア様ーと謁見を求めて王宮の人たちを困らせた。

 これが単なる私の個人的な用事なら、迷惑なアホの小娘の行動、で済むのだけど。

 残念ながら、今回は結構緊急の用事だ。

 ナティラリア様も眠そうな目をこすりながら対応してくれた。

 ありがとうございます!

 

 まず、報告したのは幻象の分身がユウコさんだったこと。

 なんとナティラリア様はユウコさんのことを把握しており、ユウコさんが闇落ちした経緯も神妙な面持ちで聞いていた。

 なんでも幻象がこの街に紛れ込んだ前後で街にやってきた人間は、一応警戒していたらしい。

 当然、私やリンカねえさま、そしてフヅキ様だって警戒対象ではあるそうな。

 

「まぁ、実際にフヅキ殿と会って話したカグラちゃんが怪しいっていうならぁ、フヅキ殿はかなり怪しいとおもうわけよ」

「そうなのですね……」

「ただ――昨日からリンカの行方がわからない」

 

 うわ、それも怪しい。

 行方不明になったのは、昨日の昼頃からとのことで、ちょうど私が屋敷を出てからだ。

 というかなんなら、私がリンカねえさまに「街を見てきます」といって出てきたのが最後まであるらしい。

 とにかく、私視点だとフヅキ様は滅茶苦茶怪しいけど、リンカねえさまも怪しい。

 

「まぁ、実際には妾もリンカは疑ってないんだけどさぁ、疑われる理由があるのにそれを晴らす機会がないって感じ?」

「なるほどぉ」

 

 んで、フヅキ様の方も部下に見張らせるよう指示したけど、今のところ所在地がわからないそうな。

 こりゃあどっちも怪しいぞう、少なくともふたりとも何かしら考えがあってこっちと接触しようとしてないぞう。

 みたいな。

 

「――そもそも現状、今回の件で完全に白と言えるのは貴方だけなんだよねぇ、カグラちゃん」

「え、そうなんですか? むしろ私が白なのは意外ですねぇ」

「だって、あの短剣を握ってもなんともなかったからねぇ」

 

 さて、どうやらあの短剣は呪われていたらしい。

 魔術で調査すると、触ったものに精神的な不調を与えて、闇落ちしやすくする効果があるのだとか。

 私の場合は――

 

「くしゃみで盛大に吹き飛ばしましたねぇ」

「精神的に揺らぐ余地のない人間にこういう呪いを付与しようとすると、何かしらの形で弾くの」

「それを弾いた私は、幻象の影響を全く受けていないと証明できる、と」

 

 というわけで、私は白!

 やりましたね! てれれー。

 

「――というか、もっというと妾ですら白じゃないんだよ、今回の件。そこんとこ、わかってる? カグラちゃん」

「ナティラリア様が黒だった場合はもう詰んでるので、考慮しないことにしています」

「案外、ちゃんと考えて妾を頼ってるんだねぇ」

 

 まぁそこはそれ。

 ナティラリア様が黒の可能性だってゼロじゃない。

 というか、あの短剣の効果は無差別に呪いを振りまいて、その結果一定以上闇落ちした人間を分身に変える感じの武器だろう。

 だからアレを握って無事だった人間以外は、どうしても幻象に”侵される”可能性は生まれる。

 ナティラリア様が、そうならないとも限らない。

 

「そして今回、幻象が変身能力だけじゃなく、擬態能力まで有していることが確定した」

「今までは確定じゃなかったんですか?」

「前にも話したけど、そういう話もあったけど具体的な確証がなかったんだよ。今までは変身能力と、影の分身以外は能力が確認できてなかった」

「ははぁ」

 

 今までは人間になりすまして暗躍する本体と、その本体が作った分身が行動していると思われていた。

 しかし実際には、分身はあの短剣みたいな代物で精神をおかしくした普通の人。

 であるなら、本体も変身以外に人の精神を乗っ取る能力を持っていてもおかしくないわけだ。

 そしてそこに、フヅキ様とリンカねえさまの行方不明。

 

「まず間違いなく、どちらかが本体だろうねえ」

「この国にやって来る前の……というか、行方不明になる前のリンカねえさまは正気だったはずです」

「それは妾もわかってるさ、あの変態武具マニアっぷりは本物のリンカだ」

 

 ようするに、もともとの本体はフヅキ様だったのだ。

 そこからリンカねえさまが行方不明になるタイミングで、本体をリンカねえさまに移した可能性がある。

 時系列的には、その後フヅキ様は私と会ってるから、もしリンカねえさまに本体が映った場合、フヅキ様はおそらく分身が操作している状態だろう。

 できることなら、リンカねえさまには無事で居てほしい。

 ただまぁ、それを私達が把握する方法は、リンカねえさま本人を見つけるしかないのだ。

 

「――どっちにしろ、フヅキ殿は黒と考えるべきだ。カグラちゃん、フヅキ殿を捜索してもらえるかい?」

「わっかりました。これから捜索に向かいますね!」

「いー返事だ。昔のリンカもこれくらい聞き分けがよかったらねぇ」

 

 ユウコさんの件から、すでに一夜が開けている。

 あの後報告を済ませたら私は一度王宮に泊まらせてもらって、起きてからその間にわかったことをナティラリア様に聞いている感じだ。

 ナティラリア様は、その間に睡眠を取ったのだろうか。

 少し心配である。

 とはいえ――

 

「……あの、もう一つだけいいですか」

「ん、なんだい?」

「――リンカねえさまのことを、お聞きしたいな、と思って」

 

 本当なら、ナティラリア様の健康を心配するべきなのだろうけど、事態はすでに動いている。 

 だったら私は、これを聞かないと行けない。

 これから幻象を追いかけるうえで――行方不明になったリンカねえさまを追いかけるうえで。

 

「里を去ってから、私と再開するまでのことを、私はあまり知らないんです」

「ふむ……」

 

 色々と、お話を聞く機会はあった。

 なんとなく、どういうことがあったか、までは知っている。 

 でも一からどういう流れで今に至るか、までを聞いたわけではない。

 断片的な話をつなぎ合わせれば、こうなるかな……という感じ。

 

「そうだねぇ。まずリンカはある目的があって、里を出た後この国の食客になったんだけど。その目的について、カグラちゃんは知ってる?」

「ええと……目的がある、ということは知ってます」

 

 確か、「ヨース」の街での事件で、そんな話をしていたような、していなかったような。

 もうどこで聞いたかも曖昧だけど、目的が在ることはなんとなく察している。

 だから「ラリス」への遠回りにリンカねえさまがついてきた時、私に付き合わせてしまっていると感じたこともあるのだ。

 

「直接聞いていないなら、妾からも黙っておこうか」

「……リンカねえさまから、直接聞ける時をまちますね」

「そうするといい」

 

 きっと、それはリンカねえさまの夢なのだろう。

 その夢を叶えるために、リンカねえさまが生きているなら――きっとそれはとても大事なことだ。

 私が、土足で踏み入っていい内容じゃない。

 

「んで、そもそも妾とリンカって同年代なわけよ。だから王都にやってきた頃、リンカは私の遊び相手として父上から紹介されたんだ」

「そうなのですか? リンカねえさまって部屋の片付けができない以外は真面目な人でしたから、最初から今みたいな関係なんだと思ってました」

「いやいや、流石に当時からここまで倒錯してないからね」

「倒錯してる自覚はあったんですね……」

 

 というか、倒錯しているという話ではなく、ナティラリア様がリンカねえさまに依頼して事件を解決してもらうような――真面目な関係を最初から築いているものだとばっかり。

 倒錯云々は……まぁ、はい。

 

「昔のリンカは、今ほどしっかりしてないよ。妾もそうだけどね。……じゃあ、そうだな」

 

 そうしてナティラリア様は少し考えて――

 

 

「リンカの恥ずかしい話をしようか」

「聞かせてください」

 

 

 楽しそうな話題を降ってきた。

 

 

 +

 

 

 リンカねえさまはしっかりした人だ。

 武器に発情するとはいえ、私なんかよりはずっとそれを取り繕えていると言える。

 人前でちょっと見せられない感じになることは、私の大体三分の一くらいの頻度だ。

 かなりしっかりしている!

 だけどそれは、あくまでリンカねえさまが大人になったからであって、本質は私とそこまで変わらない。

 むしろ精神性は私のほうが大人びている、とかなんとか。

 

「というか、例の短剣で呪われなかったのが一番の証拠なんだけど、カグラちゃんって精神的にかなり頑強なんだよね」

「まー、動じないのが私の強みでもあるとは、思いますけど」

 

 あまり動じないのは、やっぱり前世の記憶があるからだろうな。

 大人だった記憶があるというのもそうだけど、自分が自分以外の誰かだった記憶を、客観的に見れているのは結構大きいと思う。

 じゃあ、リンカねえさまがどうなのか、といえば。

 

「リンカの奴、昔はもっと欲望に忠実だったんだよ。仕事をして金が入ったら、ほぼ全財産を武具に注ぎ込んでたんだ」

「それはまぁ……そうですねぇ。里に居たころも、お小遣いは全額武具に使ってましたし」

 

 でもそれは、社会人になったばかりの人なら普通じゃないだろうか。

 お金を自由に使えるようになって、課金に手を出す大人は多い。

 子どもの頃から常にお金を武具に使ってきたリンカねえさまがそうなるのは必然だろう。

 

「それが、時には借金すらしてまで武具を買い漁るようになっちゃってねぇ」

「わぁ。色々面倒なことが起きてそうですねぇ」

「一時はこの国の娼館に売り払われる一歩手前まで言ってたんだよ。妾が引き取ったけどさ」

「ねえさまは美人さんですけど、七刀を娼館に売り払うのは色々と損失ですよ!」

 

 この大陸において、七刀は六大宿痾と戦うための大事な戦力だ。

 個人としての最高戦力の一角が、娼婦をやってるのは色々まずい。

 私? 私が禿をするのはいいんですよ。

 喧嘩のためですから、そればっかりはしょうがない。

 ええ、全く持ってしょうがないのです。

 ……ナティラリア様は変な目で私を見ないでくださいますか?

 

「こほん。その頃のリンカはまだ七刀じゃなくて、七刀候補だったよ。実力的には今とそう変わりなかったけど、浪費癖のせいでシドウ殿からダメだって言われててねぇ」

「シドウ様、案外しっかりしてますからねぇ」

 

 なんというか、自分は仕事しないけど部下を使うのは巧いタイプのシドウ様だ。

 人を見る目があるから、それを使って仕事を最適に割り振って、ラリスを世界最大の冒険者街に発展させた実績がある。

 そんなシドウ様から「ダメ」と言われていたリンカねえさまは、なんというかこう……若かったんだろうなぁ。

 

「それから妾がリンカの手綱を握るようになったの。もともと、リンカの目的は個人のお金じゃどうしようもないくらい大規模な事業だったから、スポンサーは必要だったし」

「単なる遊び相手から、パトロンの関係になったのはその頃なんですね」

「そうそう。それまではこっそりお忍びで飲み歩いたり、適当に駄弁ったりする関係だったんだけど。妾はともかくリンカがそれだとちっとも大人にならないからね」

 

 そう聞くと、その頃がリンカねえさまとナティラリア様の青春だったんだなぁ、というのが感じられる。

 ふたりともまだ十代後半で、私目線だと大人になるには速い年齢な気もしなくはないけど。

 この世界は中世風の異世界だから、まぁ今の二人くらいの年齢は大人扱いされるか。

 何にしても、大人扱いされるまでには、色々と紆余曲折あったみたいだけど。

 

「いやほんと、大変だったんだよ? 隙あらば武具を買い漁ろうとするから、あんなふうに調教して妾から渡す方法にせざるを得なかったし」

「…………めちゃくちゃ大変でしたね?」

「……………………めっっっっちゃくちゃ大変だった。ポイントは多少なら好きに買わせること。今みたいに、たまに武具を見つけたらそれなりに大人買いするけど、それ以外の時はまとも……って感じが一番いいってわかるまでに、妾も苦労したわけさ」

 

 それはまぁ、何となく分かる。

 完全に抑圧してしまうとフラストレーションがたまるから、適度なガス抜きが必要なのだ。

 今のリンカねえさまはそれが自然にできているけれど、そうなるまでに果たしてどれだけナティラリア様がしつけ(意味深)を頑張ったことか。

 

「なんというか……リンカねえさまにもお若い頃があったんですねぇ」

「今も若いから、正面から言ってやるなよ」

「若いですけど、なんか……私に対する視線がたまにスケベオヤジみたいで……」

「それはリンカの頭をひっぱたいてやっていいと思うよ」

 

 プリンに対する執着が強すぎるのだ。

 いやでも、なんで強くなったのかは、わかる。

 里に居た頃は全然興味なかったことを考えれば……眼の前にいる人の胸部は答え以外の何物でもないだろう。

 直接聞いたりはしないけど。

 

「しかしまぁ、こんなところかね」

「お話、聞けてよかったです。リンカねえさまのこともより深く知れましたし」

「ならよかった。んじゃあ、この後はどうするつもりだ?」

「一旦家に戻って、少し休憩してからフヅキ様探しです。ああでもその前に、リンカねえさまの部屋をもう一度探しておこうかと」

「なにか出てくるかもしれな……いっ!!」

 

 んん!?

 なんか、唐突にナティラリア様が叫んだ。

 それはどうにも、「気づいてはいけないことに気づいた」ような。

 思い出したくない記憶を掘り起こしてしまったかのような。

 

「どうされましたか?」

「……い、いや、大丈夫なんでもない。ただリンカが、きちんと部屋を掃除してるかな……と思ってね」

「してませんけど」

「まぁしてないか。……ただ、一応片付けてれば問題はないはずさ、うん」

 

 なんだろう、気になるけれど、聞くべきではないことなのは間違いない。

 想像だけど、リンカねえさまの本当に話すべきじゃない恥ずかしい部分を思い出してしまったとか、そんな感じだろうか。

 ……そんな恥ずかしいものが、リンカねえさまの部屋にある!?

 

「あ、じゃ、じゃあ私、部屋を確認するのはやめて――」

「……いや、ちゃんと確認してやってくれないか?」

「んひ?」

 

 と、そこで。

 ナティラリア様はさっきまで思い出したことの内容が内容だったのか、顔を覆っていたのだが。

 そこから目だけを出して、私を見た。

 確認していい、というのはどういうことだろう。

 

「ちゃんと片付けているなら、それでいいんだ。ただ、片付けてないなら――」

「片付けてないなら?」

 

 小首を体ごとかしげる私。

 重力に負ける胸。

 そしてナティラリア様は――

 

 

「――今回の件で、なにかに使えるかも知れないから」

 

 

 そう、告げた。

 

 

 +

 

 

 さて、一体何がリンカねえさまの部屋にあるのか。

 私は言われた通り、確認することにした。

 

 ところで、リンカねえさまは武具に発情する変態さんだ。

 そして浮気癖の酷いタイプでもある。

 そうすると、リンカねえさまの性癖を一言で表すなら――ハーレム願望持ちの変態さんになるわけだ。

 ハーレム願望というか、逆ハー願望?

 

 そしてどうやら、リンカねえさまは一時期書き物にハマっていたらしい。

 要するに――

 

 

 私は、リンカねえさまの部屋から自分主人公の武具逆ハー小説を見つけた。

 

 

 うわぁ。

 何がうわぁって。

 これをナティラリア様が知ってるという事実。

 ……読み聞かせたりしてませんよね、リンカねえさま!?




うわぁ。
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