転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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九十四 探せ魂の震えるがままに

 リンカねえさまの恥ずかしい話はともかく、私の役目はフヅキ様を見つけることだ。

 しかし、町中を探し回っても一向に気配が見つからない。

 まぁユウコさんに関しても、普通の方法では見つけられなかったのだ。

 一回目は私の特殊な魔力探知、もう一回は状況からのメタ読み。

 どっちも、私が幻象の予想を上回ったことで、発見に至ったのである。

 であれば今回もそうしないといけないわけだが……

 

「店員さーん、このビッグプリン二つくださーい」

「ぱい」

 

 向こうは完全に隠れるつもりで隠れているようだ。

 そうすることで、なにか利点でもあるのだろうか。

 ただ隠れているだけでは、何も意味はないと思うのだが。

 もしかしたら隠れていると思っているのはこっちだけで、すでに逃走しているのかもしれない。

 それならまぁ、私としては構わない。

 いや、六大宿痾と戦えないのは困るんだけど、王都でもう被害がでないということだからな。

 

「これ、お代ね」

「ぱい」

 

 そこから追いかけるか、別の六大宿痾を狙うかはまたその時次第。

 でももし本当に逃げてるなら、リンカねえさまが行方不明になってることがよくわからない。

 リンカねえさまに体を乗り換えたなら、フヅキ様がどっかで見つかってもおかしくないし。

 リンカねえさまとフヅキ様をふたりとも乗っ取れているなら、わざわざ隠れる必要はないんじゃないだろうか。

 というわけで、今はリンカねえさまをナティラリア様が捜索している間。

 私はフヅキ様が今も王都に潜伏しているという前提で捜索を行うことにした。

 

「ビッグプリンー」

「ぱいー」

 

 しかしなんだなぁ、どうしてこんなにフヅキ様がみつからないのだろう。

 私は現在、夜に町中を飛び回りながら捜索を行っている。

 昼の間は警備が行き届いているし、他にやることがあるからだ。

 あと、夜起きてる分の睡眠を取ったり。

 何にせよ、夜に色々と探し回っているわけだが、気配すら掴めていないのが現状。

 気配を探知しても、なにか起きていないか事件の匂いを探っても。

 何も見つからないのだ。

 どうやらフヅキ様は、何も行動を起こしていないようである。

 そうなってくるとこっちとしても打つ手がなくなってしまうわけで。

 なにか捜索に関するいいアイデアがないかなぁと、行き詰まってしまっているわけだ。

 

「……カグラー? なぁ、カグラー?」

「ぱい」

 

 うーん、いっそ私が幻象もどきになって、幻象を混乱させるとか……

 私もリンカねえさま探しに方針を切り替えて、フヅキ様は警戒で済ませるか……

 いやでもなぁ……うんぬんかんぬん。

 

「カグラ!」

「ぱぃいいいいいいい!?」

 

 はっ。

 なにやら、声をかけられていたらしい。

 考え事に集中しすぎていて、全然気づかなかった。

 

「あ、ソ、ソアナさん。どうしたんですか?」

「いやどうしたって聞きたいのはこっちだよ。カグラってばさっきからぱいしか言ってなかったよ?」

「あー……ビッグプリンがビッグなプリンすぎたのと、考え事をしていたので語彙が消滅していたみたいですね」

 

 言い訳をしながら、周囲を見渡す。

 ここはソアナさんの屋台だ。

 現在私は昼の間、ソアナさんの屋台を手伝っている。

 もともと最近話題のビッグプリンを宣伝するために私のプリンが必要だったのと、ユウコさんを私がボコにしてしまったこと。

 それから、昼の間は人の流れを観察して、違和感がないか探すという方針を取ることにしているのだが、それに最も適しているのが屋台の手伝いだったのだ。

 なにせ、現在この街のほぼすべての人間がビッグプリンを目当てにここに集まってるからな。

 ビッグプリン流行しすぎじゃない?

 

「そ、そうかい。いや、考え事をしていてもぱいとしか言わない以外はちゃんと仕事してたし、アタシとしてはいいんだけどさ」

「あはは……すいません」

「いいって、いいって。無理して手伝ってもらってるのはこっちだし。とりあえず休憩にしようか」

 

 そして現在は、人が一旦はけて、昼の休憩を取るところらしい。

 ここからまた午後にもう一回ピークがあるわけだけど、とりあえず今は一段落である。

 

「しかし、ユウコが幻象に操られてたとはねぇ、全然気づかなかったよ」

「擬態がしっかりしてたのと、ユウコさんのコンプレックスってソアナさんと全然関係ないですからね」

「剣のことはアタシにはさっぱりだよ」

 

 二人で久しぶりのソアナさんの焼き鳥と、焼き菓子、それからプリン(普通サイズ)に舌鼓を打ちつつ。

 私たちは幻象のことについて話し合う。

 ソアナさんに幻象のことを話すのは、ナティラリア様曰く問題ないとのこと。

 ユウコさんの件で説明が必要だし、ソアナさんは信用できる商人であり、私の友人だからだ。

 

「今は、おそらく幻象の本体と思われるフヅキ様を捜索しているところです」

「それを見つけるのがうまく言ってなくて、あんな悩んでたわけだ」

「お恥ずかしながら……」

「むしろ、そんなすごいことをしてるんだ、カグラは胸を張ってもいいとおもうけどね」

「これ以上張ってもしょうがないですよ、バインバインすぎますし」

 

 ぼいーん。

 でかくなりすぎた胸に視線を送りつつ、私は続ける。

 

「リンカねえさまが行方不明なのも心配です。よっぽどのことがなければ、大丈夫だとは思うのですが」

「アタシはリンカとは付き合いが短いからねぇ、細かいことはよくわからないけど……」

「けど?」

「ん、直感なんだけど。()()()()()()()()()()()()()さ。アタシはカグラの友人だからね、今の王都でリンカの次にアンタに詳しいつもりだよ」

「ソアナさん……」

 

 そう言ってもらえると、なんだかむず痒い。

 やはりフヅキ様を捜索するにしろ、リンカねえさまを探すにしろ、もっと気合を入れないと。

 そして気合をいれるなら、私は私の役目を果たすべきだ。

 まずはフヅキ様捜索!

 そう、心のなかで決意する。

 

「んじゃまぁ、今は軽く雑談して気を紛らわそう。常に考え事してたんじゃ、気が滅入っちまうよ」

「ありがとうございます、ソアナさん」

「そういえば気になってたんだけど、さっき考え事しながら、語彙以外は完璧に接客してたよね? 語尾もビッグプリン販売中ってことを考えれば何も問題ないし」

「なんかそう言われると、ビッグプリン自体が問題のある商品な気がしてきました」

「問題はあるんじゃないかい?」

 

 はい……

 

「こほん。あの2つのことを並行してやるの、すごいじゃないか。どうやって身につけたんだい」

 

「ええとあれは……マルチタスクですね。剣士に必須の技能ではないですが、マナ操作の練習をしながら素振りができると便利なので、覚えました」

「カグラの全ては、修行に繋がってるんだね……」

「はい!」

 

 えへん。

 まぁ技術としては、二つの作業を反射でループさせているようなものだ。

 マルチタスクを鍛える方法として、自分の両手でじゃんけんをさせるってのがあるけれど、アレは何度も練習していると反射でできるようになる。

 それだとマルチタスクの意味がないんだけど、私はそれをあらゆる行動でできるようにした。

 反射で動けるってことは、咄嗟のタイミングで回避などができるということ。

 マルチタスク以外にも応用が効くから、マルチタスクでもできるようにしたわけだ。

 

「私の行動の基本は反射です。体に反復させて行動を覚えさせ、それを反射的にできるようにするんです」

「ははぁ」

「そうすることで、相手の読みを()()()意味もありますし――」

「……カグラ?」

「――――思いついたかもしれません、フヅキ様の捜索方法」

 

 そうだ、フヅキ様がこちらの行動を読んで意図して隠れているなら――それを()()()()いいんだ。

 

 

 +

 

 

 あのあと、私はソアナさんと午後のお客さんを捌き切った。

 思いついたからといって、すぐに飛び出すわけではないからだ。

 なにせ私の捜索は夜に行われる。

 昼だとほら、あちこち飛び回ったりするから迷惑になるし。

 というわけで、夜。

 

「よし、やりますか」

 

 私は一つ呼吸を整えると、意識を集中させた。

 限界まで集中して、集中して、集中してから――その集中を一気に解く。

 目指すのは、自然体の中の自然体。

 最もこのからだが緊張せず、弛緩せず、ただあるがままでいられる状態。

 それを集中という緊張と、その開放によって調整していく。

 段々と、意識がフラットになっていく。

 感情も、周囲の空気も、呼吸の音も、心臓の音も、何もかもが平常に。

 平常であるだけの状態に近づいていく。

 今の私は、ただそこにあるだけの風。

 何者からもそこにあるのが自然なただのデカパイだと認識されるようになるのだ。

 こうなった状態で――

 

「――――うひょ」

 

 私は、ただ自分の欲望に身を任せる。

 あらゆる感情がフラットに――凪のように静かになった状態で、私は強さへの渇望だけを強くしたのだ。

 すると、どうなるか。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 半ば無意識に、自動的に強者を追い求める機械のように。

 

「うひょひょ!」

 

 私の体は、常に反射で動くよう、反復を繰り返している。

 だからそういった反射の精度を極限まで上げた時、私は意識せずに動き出す事が可能。

 これを利用して、私はこの王都にいる”最も強い存在”の元まで無意識に向かうよう自分を設定したのだ。

 すなわち――フヅキ様。

 私を除けば、現在王都でもっとも強いのは、幻象に憑依されたフヅキ様のはず。

 だから私はそれを追いかける。

 

「うひょー!」

 

 こうした理由は単純で、フヅキ様はまだ王都にいるのであれば本気で隠れているのだ。

 それはもう、普通の方法ではたどり着けない場所に、普通ではない隠蔽方法で。

 私はすでに、魔力探知とメタ読みという二つの方法をフヅキ様に見せている。

 これを避けるため、フヅキ様は魔力を隠蔽し、人前に出ないようにしているのではないか。

 そしてその潜伏を突破するには、全く別の探知方法が必要なのではないか、私はそう考えた。

 結果が、この無意識反射捜索法だ――!

 

「――――うひょひょひょひょひょひょ!」

 

 そういえば、私がフヅキ様を無意識を利用して捜索している間、うひょひょゼミというのが出現したらしい。

 先日出現した謎の怪人「うひょひょ怪人」みたいな奇声を上げるセミだ。

 しかし、怪人のうひょひょ声とは違い、それはあまりにも人々に”自然に”聞こえるうひょひょ声だったせいで、同じとは思われなかったらしい。

 けれども王都にセミがいるなんてこと、聞いたことがない。

 一体なんなのでしょうね、うひょひょゼミ。

 ともあれ――

 

「うっひょー!」

 

 私はただ無意識にまかせて地をかける。

 一目散に、ただ欲求の赴くままに。

 途中、何度か足を止めて方向転換をする。

 自分でもなぜそうしているのかは無意識ゆえにわからないが、そうするのが正しいと思ったのだ。

 しかし、なんど方向転換をしても目的の場所にはたどり着けない

 原因はなにか……そう考えた時、私はふと在るものに目をつけた。

 

 ――地下水道への入口だ。

 

 自然とそちらに足が向かい――薄暗い下水道の中を迷うことなく進んでいく。

 無意識で動いているから、迷うことはありえないのだ。

 もうすでに迷っているから、迷う必要がないとも言う。

 ともあれ、そうして走って、走って――方向転換して――走って、走って――――

 

 

「――そうして見つけたのが、貴方になります、幻象」

『いや意味がわからんぞ、頭おかしいだろ貴様――――!』

 

 

 ――ようやく見つけたフヅキ様、もとい幻象に「どうしてわかった」と問われ説明したら正気を疑われた。 

 失礼な。

 

「地下水道に潜伏している……それだけならナティラリア様が見つけそうなものですが、更に幻象としての能力で周囲を騙していましたね? どうりで見つからないわけです」

『当たり前だ。僕は六大宿痾、人間とはそもそも基本的なスペックが違う。僕を見つけられるものがいるはずがない』

「ここにいますよ、私が!」

『人間の方法で発見できたら同意してやろう』

 

 幻象は、私のことをおかしいものを見る目で見てくる。

 大変失礼だが、相手は六大宿痾。

 本人の言う通り人類の敵なので、これは仕方がない。

 それはそれとして、こうして見つけたからには討伐させてもらおう。

 一対一で勝てるかどうかは――やってみて確かめたほうが楽しそうだ。

 

「さて、じゃあ一つ一つ聞いていきましょうか。貴方の目的は?」

『答えるわけがないだろう? ただ、僕が君たち人類の敵であることは事実だ』

「フヅキ様の体を狙うなんて、随分と不届きですね。お返しいただきたい」

『返すわけがないだろう? これは現状僕が使える最も優秀な肉体だ。あの理由のわからない口調さえ真似していれば、周囲から疑われることもないしね』

「それはご苦労さまです」

 

 頑張ってエミュしてたんですね……私をリンカねえさまに誘導しようとするときだけ全然保ててなかったですけど。

 というか、やっぱりフヅキ様は普段からあんな感じなんですね……

 

「それで、リンカねえさまはどこにやったのですか!」

『だから、それを答える理由がどこにある? 何度も言うが、僕は人類の敵だぞ』

「――――なるほど、リンカねえさまは支配していないのですね」

『なっ――』

 

 おっと。

 

「おやおや、図星ですか。……いまのはブラフですよ。反応がなければそれでよい、と思っていましたが。どうやら本当にリンカねえさまは貴方の支配下ではないみたいです」

『……はは、どうかな』

「ちゃんと根拠はありますよ。貴方が()()()()()()()はフヅキ様だと言ったからです」

 

 一応、リンカねえさまが七刀最弱なのは事実だ。

 フヅキ様の記憶をたどれば、それを理解することができるだろう。

 しかし、リンカねえさまは以前より強くなっているのだ。

 すくなくとも「ヨース」で宿痾教徒の事件を解決した時は、私の三重強化よりも弱かった。

 だけど、「ラリス」では事前に準備をしていたとはいえ、未完成四重強化の私とやり合っていたのだ。

 今のリンカねえさまが、フヅキ様より弱いかはやってみないとわからない。

 なのに断言する場合、リンカねえさまの情報が入ってきていないということ。

 後は人読みで、幻象の感情を読み取れば確定だ。

 

『はは、これはまいったね。僕があまり策謀が得意でないことがバレてしまう』

「人の心を支配できれば、策謀なんて必要ないですからね」

『それに――この会話は単なる時間稼ぎの余興にすぎない』

 

 ふと、幻象の気配が変わる。

 瞳が怪しく光――同時に剣を抜き放った。

 レイピアと――もう片方は短剣だ。

 アレは……ソードブレイカーだろうか、西洋剣でたまに見られる相手の剣を絡め取る短剣。

 細剣との二刀流で使われる。

 なるほど、アレが本来のフヅキ様の戦い方――

 

『――こうして会話している間にも、君は僕の術中にハマっている』

 

 …………アレ?

 

 

「あのー、それってこちらの身体能力を弱体化させる能力ですよね? ()()()()()みたいなんですけど、私」

 

 

『――――――――は?』

 

 ああ、なるほど。

 幻象のバステ能力は、相手の精神に影響を及ぼすんだ。

 心の闇を突かれたユウコさんを見ていればわかる、相手の心の弱いところを”広げる”ような能力なだろう。

 つまり――

 

「――まぁ、私って心の傷とかなにもないですからねぇ」

『………………』

 

 さて。

 私もまた、疾討を抜き放ち、構える。

 

 

「それじゃあ、あっっそびましょうかぁ! 幻象ーーーーーーーっ!」

『そ、そんなバケモノ、いるわけないだろうがぁ――――――ッ!!』

 

 

 さぁ、楽しい楽しい戦闘の始まりだぁ!




そして冒頭へ至る――
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