転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――確かに、この世に心の傷を持たない人間なんて普通は居ない。
でも私にとって、傷とは傷ではない。
より強くなるための糧だ。
弱さは、克服すれば強さになる。
心の闇は、乗り越えて覚醒すればちょーかっちょいい無双シーンになる。
つまり強さの糧! もっともっと闇ほしい! ヤミー!
というわけで、私は心の傷を強さに変換できる、だからようするに――弱くならないのではない。
「追いつきましたよぉ、
今の私は、むしろ幻象の能力で――
本来なら幻象が起こすはずだった身体能力”減少”効果が、反転していた。
そんなこと、起こりうるのか、と思うものの。
実際に起きているのだから仕方ない。
思うにこれは、私が前世の知識を有していることが原因ではないだろうか。
私はさっき行った通り、心の闇すら力に変えてしまうガールだが、それはそもそも私が自分の心の闇をある程度客観視できるからだ。
もともと私は、前世の記憶がなければ剣鬼になっていたらしい。
母上の見立てが正しいなら、それは間違いないだろう。
だから母上は私に憧れを植え付けて、剣鬼の欲求を縛り付けようとしたわけだが――そもそも私には前世の記憶がある。
前世では人殺しはいけないことだ。
それを客観的に理解していたから、剣鬼の感覚は私にとって他人事である。
そういう特殊な精神構造をしている上に、私自身の性格も相まって幻象のバステ能力が誤作動を起こしている……というのが個人的な見解。
まぁ、そこはいいのだ。
「さぁさぁさぁ! もっともっと、私と溶け合って一つになりましょおおおおおおう!」
私はひとしきり、幻象と話をしてから興奮のまま飛びかかる。
いやだって、考えても見てほしいのだけど。
幻象は私にとって融合するだけで効果のある身体バフアイテムだ。
なんといっても、融合するだけでいい、というのが実に最高。
疾討を裏切らずに済む。
え、いやこれも浮気じゃないかって? いや浮気じゃないんじゃないでしょうか……多分浮気じゃないですよ……
まぁ、そこら辺のアレヤコレヤは後で疾討と話し合うとして。
こうなれば狙いは一つ。
「ひゃっほおい!」
『ありえないだろう! こんな!』
そう言いながら、先程地下水道から地上に出てくるまでの間に落としていたはずのレイピアを、再び幻象が取り出す。
多分、何かしらの力で”召喚する”ことができるのだろう。
そうして、再び二刀流になった幻象と私は、正面から剣戟を開始した。
現状、私は四重強化を使用している。
相手は腐っても六大宿痾、反転バフがあっても流石に三重だと足りない。
ただ反転バフのおかげで、私自身のバフが強化されていることに幻象は気付かないはず。
分身戦一回目から、四重強化を見せてこなかったアドバンテージは、どこかで活かしたいものだ。
何にせよ、基本は私の疾討を、幻象が受け流す感じで戦闘は進む。
レイピアとソードブレイカーの二刀流は、とにかく受けに特化している。
こちらの攻撃をいなし、捌き、回避し続けるのだ。
剣でただ闇雲に切りかかっても、幻象はそれをレイピアを這わせたり、ソードブレイカーの”溝”で絡め取り軌道を反らしたりしてしまう。
おそらくこの戦い方は、フヅキ様のそれに準拠しているはず。
「いやぁ、六大宿痾とも、フヅキ様とも戦えるなんて、今日はついてますねぇ!」
『僕は人生最悪の日だよ、クソッ!』
対するこちらは、とにかく勢いで幻象を圧倒し続けている。
現在の身体能力は、私と幻象でほぼ互角。
これは単純に、幻象が六大宿痾としてのスペックはかなり低いからだろう。
狐火と比べたら、圧倒的にやりやすい。
とはいえこれはそのスペックの低さをバステ空間で補っているからで――それを無視するどころか反転させる私が”天敵”すぎるだけなのだろう。
「きひひひひーっ!」
『だから怖いって!』
そのうえで、私は意図して幻象を圧倒する選択を取っていた。
とにかく手を止めない、考えるよりも先に手を動かす。
突き詰めてきた反射の一手を、常に幻象へぶつけ続けるのだ。
これには当然理由があって、幻象を冷静にさせないためである。
というのも、現状幻象がフヅキ様の能力と、デバフ空間しか使っていないのが気がかりなのだ。
後者に関しては常時発動だからともかくとして、他にも何か能力はあってもおかしくない。
というか、未だに幻象がどうして人を刺して魔力を乱しているのか、その理由が一切不明なのだ。
まったく検討もつかなかったから、そもそも聞くことすらしなかったけど。
この戦いで、その理由を何かしら掴みたいところである。
「ずっとずっと、一つになりたかったんですよぉ!」
『なろうって決意したの、どう考えてもついさっきではないか! 適当なことを言うな!』
ちなみに、口では発情しまくってるわけだけど、思考が冷静なのはマルチタスクである。
いやだって、普段ならともかく六大宿痾相手に油断とかあり得ないし。
全力で挑むのが、礼儀というものだ。
それはそれとしてうっひゃほおおおおおい!
――剣と剣がぶつかり合う。
疾討を振るうと、それを幻象はレイピアで弾く。
恐ろしいのはその精度で、縦一文字に迫ってくる私の剣を、全く同じ角度からレイピアを差し込み、流れを巧みに横へ逸らす。
結果、疾討は空を切る。
最終的に、幻象の肩を1ミリだけ掠めていくのだ。
あまりにも芸術的な受け流し。
それを全ての攻撃に対して行って見せる。
ソードブレイカーでも似たようなものだ。
刃の間の溝で疾討を受けると、こちらの動きに逆らわずそのまま弧を描くようにしていく。
当然、刃は幻象に当たらず、むしろ絡め取られたことでこちらの隙となる。
しかしそこは私も読めているので、ソードブレイカーの受け流しが始まった時点で体ごとその流れを受け入れるようにしていた。
結果、私は幻象から少し遠くに着地。
そのまま間髪入れずに幻象に切りかかった。
「あは! あはははははは!」
『……チィ!』
もはや言葉少なになった幻象と、今も勢いを維持する私。
どちらが有利かと言えば――まぁ、互角だろう。
受け流しに特化したレイピアを扱う幻象は、それはもう受けのスペシャリストだ。
いや、正確にはそれはフヅキ様で、幻象は”使って”いるだけなのだけど。
そう考えると、なんだかムカムカしてきますね。
ともあれ、そのせいでこちらが一気呵成に打ち込んでいるにもかかわらず、まったく崩せない。
そしてこのままただ打ち合いを続けるのも、それはそれで楽しいのだけど。
何かしら手を打たないと、ほんとにただただ膠着状態が続くだろう。
――幻象が手を打ってこないということは、こちらの動きを誘っているのか?
なら、その誘いに乗るとしよう。
「まーりょーくーのー! やーいーばー!」
『そんな呑気な言い方をしていい代物ではないがな、これは』
言いながら、私は剣に魔力を乗せる。
私の選択は、ここまで使っていなかった”すでに見せたことのある手札”を見せること。
まずは魔力の刃だ。
放った魔力を幻象は――
『だが、この男の体なら、こういうこともできる』
剣を受け流す時と同様に、芸術的なまでの受け流し技術。
そういえばレイピアは何かしらの能力で生成したものだから、魔力の刃に触れるんですよね。
いやそれにしたって、そんなキレイに受け流さないでほしいのだけど。
ともあれこれは、なんというか……かなりの持久戦を想定しなくてはいけないのだろうか。
+
状況の硬直を打開する方法は単純だ。
これまでにない一手を打てばいい。
そして何より、この硬直を私は十分堪能した。
惜しい気持ちもあるけれど、ここは一気に行動を起こすべきだ!
すなわち――
「――本気で一緒になりましょうかぁ!」
『今までが本気じゃなかった……だと!?』
だってそりゃ。
フヅキ様との戦いを満喫したかったんですもの。
私の技術的な部分で、フヅキ様の守りを打ち崩したかったけど仕方ない。
人読みをしようにも、全く隙がないんだから。
ともあれ、ここからは更に色々とやっていこう。
具体的には――
「そらぁ!」
『武器を……投げた!?』
疾討をぶん投げる!
最高速ですっ飛んでいったそれは、難なく幻象のレイピアに弾かれるものの――
「うっひょおう!」
『!?』
直後に襲いかかる
フヅキ様の受けは、相手の武器を流すことで成り立っている。
その武器の質量が大きければ――少なくとも受け止めることは不可能だ。
『こっの……!』
結果、幻象はギリギリで私を回避する。
そしてそれを前提にしていた私は、即座に右足を軸に反転。
そのまま勢いよく再び突っ込む。
「あっっはああああ! 融合融合! 合体合体!」
『卑猥なんだよ!』
「しっつれいな! 純粋な気持ちの発露ですよ!」
それを幻象は、ケリを放つことで防ごうとする。
私はそれを――正面から受け止めた。
「つか、まえ、ましたよおおお!」
『いっ!?』
なにせ、今の私は幻象と身体スペックが互角なのだ。
受けようと思ったら、いくらでも攻撃を受け止められるぞ。
そしてそのまま、勢いよく足を掴み、地面に叩きつけようとする。
『この!』
「あはァ――!」
続けて幻象はソードブレイカーを投擲。
私はそれを、
掠めた刃が頬を切り、そこから血が流れる。
なぜそんなことをするのかって言えば、そっちのほうが雰囲気が出るからだ!
「幻象――――!」
『うわああああ! その顔をやめろおおおお!』
叫びながらも、幻象は身を捩る。
どうやら今のソードブレイカーは、私の動きを止めつつ自分の体を動かすためだったらしい。
こちらの叩きつけの流れを利用しつつ身を捩り、いい感じにすぽっと私の手から抜け出してしまった。
ちえ。
『この、異常者が!』
だが、惜しんでいる暇はない。
幻象は即座に体制を立て直すと、私にレイピアを振るってきた。
最速の一突き。
ここに来て、ようやく幻象が攻撃に転じたのだ。
私はそれを――
「貰いました!」
横からの急な力によって、レイピアの刃は折れ、吹き飛ぶ。
そのまま私が幻象にきりかかかると――
『貴様、さっき投げた武器をどこから!』
「さぁて、どこでしょう! それに、幻象も人のことは言えないではないですか!」
ソードブレイカーで受け止める。
新たに再生成したのだろう。
とはいえ、武器の質量の関係でお互いの力関係が同じなら、短剣で刀を受け止めるのは無茶だ。
故に私が、少しずつ幻象を押していき――
『……クソ!』
「……!」
不意に、気配。
空から何かが降り注いでくるのだ。
それは――私が叩き折ったレイピアの刃……!
だけど、こういう不意打ちが”苦しい”ことは幻象も理解しているだろう。
私は身を捻ってそれを回避。
結果として幻象が私の刃から逃れ、距離を取ることでお互いに、相手に何の一手も与えられず攻防は終了したことになる。
ただその結果がお互いにどのような意識を与えたかは、それぞれの表情を見れば一目瞭然だ。
『こちらの手札を暴いたか』
「んふふふふ、楽しいですねぇ、楽しいですねぇ!」
私もまた、疾討の特性という手札を切った。
そのうえで、感触としてはこちらが有利だ。
何と言っても、勢いで私のほうが勝っている。
ここまで勢いを途切れさせることなく、ずっと流れに乗り続けてきたかいがあった。
さぁ、見れるものは概ね見た。
もう満足としか言いようがないから、ここでケリをつけに行くとしよう。
『ああまったく、末恐ろしい話だ。仮にもフヅキは七刀、この世界の人類最強の一角なのだから。それをこうも簡単に上回るとは』
「おやおや、この期に及んで随分と余裕ですねぇ。まだなにか手を打つ余地があるということですか?」
『――いや? 残念ながらフヅキのスペックではこれが限界だ。身体能力と武器を生み出す能力以外は、フヅキのスペックをそのまま使っているのだから』
ふむ、そう考えると今の私は随分と強くなったものだ。
旅に出た当初はリンカねえさまですら、加減ができないという理由で勝てると声を大にして言うことは不可能だった。
それがシドウ様と出会い、強くなり――正面からシドウ様を打倒できるようになったのだ。
無論、他の七刀だって今回のフヅキ様のように、正面対決なら私は負けない。
多少おまけが付いていても、結果は明らかだ。
そう思うと、なんだか強くなったことに対する感慨が湧いてくる。
『君は強いねぇ、カグラ。強さを求めているのだろう? そのためなら何だってしても構わないと、本気でおもっているのだろう』
「ユウコさんとの話を盗み聞きとは、趣味が悪いですね」
『君が油断しているのが悪いのだ。――そして君は、非常に強い精神力を持っている。僕の侵食をはねのけ、僕が展開する空間の中でも、それを力にすら変えてしまう』
言いながら、幻象は笑みを浮かべる。
何か、嫌な予感。
私は疾討を構え――
『だからこそ、わからないのだろうね。弱者の感情など。――人を
飛び出そうとした、直後。
私達の周囲に、魔法陣が出現する。
これは――
『はははは! 今までの茶番は全て時間稼ぎだ! 本命はこれ! これを貴様にぶつけるためでしかない!』
「……」
『楽しかったか? 力を振るうのは、傲慢に振る舞うのは、弱者を甚振るのは!』
そして魔法陣は、怪しく光。
私を飲み込もうと――
『ゆえにこそ、この”呪い”で貴様は朽ち果てるのだ!』
「あ、すいません。すでに別のものに呪われていて、その呪いが他の呪いを弾くんです」
――しなかった。
いや、だって。
呪いといえば疾討、疾討といえば呪いだ。
すっかり忘れがちな疾討の呪い(一瞬で矛盾)だけど。
本質は、自身を認めた人間にしか使わせたくない、あるいは認めた人間に自分以外を使わせたくないという執着によって発生する呪いである。
結果――それは呪いを弾く呪いとなった。
ようするに、アレだ。
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
沈黙が流れる。
そして――
『……………………天敵すぎるだろうが、貴様ァ!』
「隙あり!」
『貴様!?』
我慢できずに幻象が叫んだ瞬間、私は幻象に切りかかった。
腕一本なら飛ばしてもセーフなのがこの世界、というわけでレイピアを握る幻象の手を勢いよく切り飛ばす。
『が、ああああああ!』
「もう一本言っときますかぁ!」
『ふざけ……ぐっ!』
かくして、私は幻象の両腕を吹き飛ばす。
フヅキ様は剣士、これで戦力は著しくダウンするだろう。
と、思っていたら――
『……やって、くれたな。やってくれたなカグラ!』
「……ん、アレ。どうして透けているのですか、幻象!」
『だが、次はないぞ。次は、必ず……』
「待ってください、血が出てない? というかこれもしかして――
幻象は失血していなかった。
ユウコさんは、本人だったから勘違いしていたが――幻象には他人の精神を乗っ取る以外にも能力があるのだ。
すなわち、変身能力。
最初はそっちが本命だと教えてもらったが――
『必ず……貴様を血祭りにあげてやる……!』
「待ってください!」
そう言って、幻象に手を伸ばすが――その手は空を切り。
私だけが、この場に残された。
というわけで前半戦の第五章終了です。
後半の六章はもうしばらくお待ち下さい。
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よろしくお願いいたします!