転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
九十六 リンカねえさまを探せ!
私が戦っていたフヅキ様は本物であり偽物だった。
正確に言うと、アレは幻象が最もリソースを割いていたフヅキ様だったのだろう。
幻象の能力下の私は、明らかに狐火と同じくらい強かった。
そんな私と互角程度にやりあっていたんだから、あの幻象が偽物ってことはないはずだ。
ただ、本当の意味での本体ではなかったというだけで。
では、本体は一体どこにいるのだろう。
これを私は、できるだけ早めに探す必要があった。
「このままでは、幻象がどこかへ逃げてしまうかもしれません」
「ああそうだねぇ」
ぶるん! ぶるん!
現在の時刻は夜。
しかし前回訪問した時よりは常識的な時間だったこともあって、ナティラリア様はしゃきっとした顔で応対してくれた。
ご迷惑おかけします!
んで、私とナティラリア様は、私の持ち寄った情報を元に今後の対策を立てているわけだ。
「自分にとって天敵である私との直接対決を、幻象は望まないでしょう。とはいえ、そう簡単に移動できるものでもないとは思います」
「ふむ、その理由は?」
「幻象は人にしかなれないから、移動速度も人間のそれに準拠すると思うんですよ。んで、本体も首都の近くにはいるはずです。これまでの歴史上、幻象が複数箇所へ同時に出現したことはないですもんね?」
「そうだね。首都の近くに潜伏しながら、自分の力を切り分ける感じで暗躍してたんだろうねえ」
ぶるん! ぶるん!
ここで幻象の能力について振り返ってみよう。
幻象は他人に取り付いたり、変身したりすることができる。
これは単純に言うと、人を取り込んで複製を作れるようになる能力ではないだろうか。
ポイントは、幻象が他人を乗っ取るということ。
今まで人類は、それが幻象の能力だと考えていた。
しかし実際には、それは幻象の分身を生み出す能力の”サブ”でしかなかったのだ。
本命は、分身――強さ自体は自在に変化させられる――を生み出す能力だった。
「こうすると、幻象が分身を使って人を襲う理由もわかります。襲われた人間は眼を覚まさない――おそらく、その情報が抜き取られているからでしょう」
「ふーむ、いまいちピンと来ないけどね」
「まぁ、そのうち直ぐにわかります。問題は、本体を見つけなくてはいけないということです」
ぶるん! ぶるん!
私的には、情報を抜き取るっていうのはパソコン上のデータをコピーしたりするイメージで簡単に理解できるんだけど、ファンタジー世界の住人はその辺りの知識が疎いからピンと来ないみたいだ。
まぁ、これに関しては一旦置いておくとして。
私は話を進める。
「本体は私から逃走を図りながら、リンカねえさまを追いかけるはずです。フヅキ様が本体であり、先の戦闘でリンカねえさまを幻象が召喚しなかった時点で、リンカねえさまは無事だとわかります」
「追いかける理由は、七刀級の人間を二人以上取り込んだ方が、強くなれるからかい?」
「はい。純粋な出力勝負では私とどっこいでも、二人がかりで攻められたら流石に私だって勝てません」
ぶるん! ぶるん!
数の差というのは、それだけ厄介なのだ。
二人同時に出したら力が分散する気もするけど、おそらくそれは防御力を他に回すことで補うのではないだろうか。
身体強化の比重変化と同じ用に。
なにせ幻象にとって、呼び出した偽フヅキ様と偽リンカねえさまは本体じゃない。
いくら切られても問題ない、捨て駒と同じだ。
こっちとしても、切ってそのまま死んじゃうことがないっていうのは、ありがたい話ではあるんだけど。
「何にしても、リンカ姉さまの居場所に関して、情報は見つかりましたか? ナティラリア様」
「あ、ああ。……概ね検討はついたよ。あの子の考えそうなことは、妾にかかれば一発だ」
「本当ですか!? ぜひ教えて下さい!」
「それはいいんだけどさ……さっきからなんだって、デカパイを上下にゆっさゆっさしてるんだい?」
ぴたっ。
私は今までやっていた運動を止めて、神妙な顔で零す。
「これはスクワットという一種の運動なのですが……」
「妾には、豊満なパイをゆさゆさしてるようにしか見えなかったよ」
「こうしているのには、深い……深いわけがあるのです」
そして、私は力強い瞳で叫ぶ。
「欲求不満ですうううううううう!」
「……やっぱりパイをゆさゆさしたかっただけなんじゃないかい?」
「いや違うんですよ! 幻象に逃げられて、私の高ぶりは最高潮から降りれなくなってしまっているのです! それをこう! 発散して! 落ち着けるためには! こうするしかないんです!」
ぶるん! ぶるん! ぶるん! ぶるん!
「……どっちにしても、卑猥な意味にしか聞こえないよ」
「ええー」
そんなぁ。
と、年齢相応な反応をしつつ、私はナティラリア様からリンカねえさまの行き先について聞く。
それから幾つかナティラリア様と相談をしてから、私は急ぎそこを目指すことになった。
リンカねえさまが、後生大事に武器をしまい込んでいる倉庫がある場所――ヨースの港町へ。
+
まあリンカねえさまがヨースの街にいるっていうのは、実際ありそうな話だ。
んでもって、リンカねえさまが姿を消したのは、幻象から逃げるためだったのだろう。
幻象がどうして王都を狙ったのかについては色々と理由があるけど、一番に考えられる理由がナティラリア様だ。
もし仮に、ナティラリア様が幻象に囚われてしまったら。
この国はそれはもう大変なことになりかねない。
そしてリンカねえさまはナティラリア様の下まで顔パスできる。
リンカねえさまを囚えることが、ナティラリア様確保の最短ルートだったわけだ。
でも、それは失敗した。
リンカねえさまがいなくなってしまったから。
もちろん、リンカねえさまを追いかけるという選択肢も幻象にはあっただろうけど、それはしなかった。
他にも選択肢はあったからだ。
んで、おそらく幻象は――私を狙った。
私のことを剣鬼だと思っていたみたいだから、精神的に御しやすいと思っていたのだろう。
心外な、ぷんぷん。
んで、これもまた失敗した。
であれば幻象の取りうる選択肢は二つに一つ。
これからリンカねえさまのところへ向かう私を追いかけるか、手勢を集めて王都を攻めるか。
答えは――おそらくどちらもだろう。
「あはは! 楽しいですねぇ!」
私は刃を振るって黒い影を叩き切っていく。
人の形をして、私を追いかけてくる怪物。
分体の亜種みたいな感じだろう。
それらが複数、一斉に私へ襲いかかってくるのだ。
――これらは、おそらく幻象に襲われ意識を失った人たちである。
幻象に襲われると昏睡し眠ったままになるが、その魂というか情報は幻象の中に格納され、こうして使われるわけだ。
んで、私はそれを一撃で切り捨てる。
こいつら、強さはそこらの魔物とそう変わらない。
私が相手にした分体――ユウコさんよりも弱いくらいだ。
「さて、このまま相手をしていてもいいのですが――」
それはそれで楽しそうだが、あまり歯ごたえのない相手なので、さっさとこいつらを振り切るに限るな。
私は現在、王都からヨースへ向かって移動している。
普通に移動すれば一ヶ月はかかる距離を、一日で移動するつもりだ。
方法は単純、四重強化で突っ走るのみ。
幻象の放った影達が、それを妨害している。
私が相手をしていたのは、幻象の本体が襲いかかってくるのを警戒したため。
これは私自身に、ではなく
なにせ王都は私がいなくなれば、王都を護る七刀級の個人戦力がいなくなる。
王都を攻めるなら今……だと思うのだが、幻象は動かなかった。
ナティラリア様に、王都が襲われたら連絡するよう頼んでいるから、それは確実。
とすると狙いは――
そう判断すると私は足に力を込めて――四重強化でその場を離脱しする。
おそらく、幻象は私の速度に面食らって、私を見失うことだろう。
四重強化をわかるところで使ってこなかった利点を、思わぬところで活かすことに成功するのだった。
+
それから、駆けること数時間。
影を振り切って、ヨースの街へたどり着いた。
丸一日の移動だったので、今の時刻は夜だ。
私は、自身の嗅覚の赴くままに、夜のヨースの街を征く。
リンカねえさまはこの街にいる、それは間違いない。
私の感覚が、そう告げている。
逸る気持ちを抑え、リンカねえさまの元へ向かう。
数日の間、リンカねえさまは幻象に見つからないよう息を潜めて潜伏していたことだろう。
寂しくしていないだろうか、そんなことを考えながら、リンカねえさまの潜伏先――リンカねえさまが所有する倉庫にたどり着き、扉を開ける。
「リンカねえさま、大丈夫で――」
そこで私が見たものは――
「■■■ーーーーーッ!」
……ちょっと、人には見せちゃ行けないタイプのリンカねえさまでした。
閑話休題。
「あのですね」
「はい」
「人が心配して探しに来たらこの始末。いくらなんでもひどいと思いますよ?」
「はい」
「十二の女児に見せていい光景じゃなかったですよ?」
「十二の……女児……?」
ばしぃ。
私は勢いよく正座しているリンカねえさまの頭をはたいた。
ここは港にある倉庫、リンカねえさまが武具を大量に溜め込んでいたあそこだ。
「……一つ言い訳をさせてもらっていいかしら」
「言い訳という自覚はあるんですね。どうぞ」
「これでも……ほんっっっっとうに頑張って我慢したのよ? カグラといっしょに旅を初めて半年間、ずっとずっと我慢し続けてきたのよ? それを一人になれたこのタイミングで発散するのは、とても自然なことじゃないかしら」
「……失踪してから数日経ってますよね?」
「ひゅー、ひゅー」
ばしぃ。
私は勢いよくリンカねえさまの頭を二回目。
まぁ、言わんとしていることはわかる。
私としても、普段は私ばかりいろんな欲求を発散しているのに、リンカねえさまだけ発散できないというのは申し訳ない状況だ。
でも私のそれは性欲じゃないじゃん??????
「はぁ……とりあえずリンカねえさまがご無事でなによりです」
「悪いわね……ここを見つけたのはナティラリアでしょう? 手間をかけさせちゃったわ」
「それに関しては構わない、とナティラリア様から伝言を預かっています。なんだか浮気相手に伝言を頼まれたみたいで複雑ですね……」
「私にとっては、ナティラリアもカグラも浮気よ」
ばしぃ。
私は勢いよく三回目。
いい加減痛みがひどくなってきたのか、頭を抱えてリンカねえさまはうずくまっている。
まぁうん、元気そうでなによりだ。
「じゃあ、早速本題に入らせていただくのですが、フヅキ様――幻象と何を話したのですか?」
「ああ、ええ、はい。とりあえず幻象の正体とかについては、説明はいらないわよね」
「むしろ、ねえさまが把握しているならこっちとしても話が早くて助かります」
どうやら、リンカねえさまはフヅキ様と相対して、色々と幻象について看破したらしい。
こっちが掴んだ情報は、ほとんど把握しているようだ。
これで潜伏せずに合流できてたらもっと話は楽だったのだけど、そうさせないために幻象が王都に潜伏してたところもあるだろうからなぁ。
さて、ここからはねえさまの回想になる。
数日前、リンカねえさまのもとに突如としてフヅキ様が現れた。
私の情報からフヅキ様が怪しいのはわかっていたので、リンカねえさまは警戒していたところ、案の定フヅキ様は黒。
んで、それが判明した結果リンカねえさまは――
というのも――
「だってあいつ、どう考えてもカグラが天敵でしょ」
とのこと。
まぁはい。
リンカねえさまは直ぐに判断したそうだ。
こいつは私に任せておけばいい、と。
逃げ出したあとの捜索もナティラリア様ならなんとかしてくれる、と。
実際、それはそのとおりになった。
ただ、リンカねえさまが逃げ出した一番の理由は、別にある。
「何があっても、私が幻象にとらわれるべきじゃないと思ったのよ」
「私が勝てなくなるかもしれないから、ですか」
「それだけじゃなくて――私が幻象に襲われたら、アンタと違って何一つ抵抗できずに”堕ちる”から」
「……」
「フヅキだって、最終的には囚われてしまったけど、ちゃんと抵抗はしたはずよ。でも、私にはそれすらできないってわかっちゃったの」
――それは、なんというか。
告解のようにも、聞こえた。
「ナティラリアから色々聞いてるんじゃない? 私はカグラが思うほど大層な人間じゃないわ」
「それは……」
「七刀の中では一番才能がなくて、弱くて――そしてアンタにもすぐに追い抜かれちゃう。そのことに、思うところがないわけじゃない」
「むしろ、そうやって言葉を選べるリンカねえさまこそ、立派だと思いますけど」
私の言葉に、リンカねえさまは苦笑しながら立ち上がる。
「そうありたいと思ってるだけよ。カグラやナティラリアには、期待されてるから」
「リンカねえさま……」
「――でも、私はアンタや他の七刀と違って、特別じゃない」
いいながら、ねえさまは倉庫の中を見渡した。
「ねえ、カグラ。私がナティラリアにパトロンになってもらって、何をしたいか……わかる?」
「いえ……ねえさまから直接聞くつもりだったので、ナティラリア様には聞きませんでした」
「アンタらしいわね」
そうして、リンカねえさまは倉庫の入口から外に出る。
私も、その後に続いた。
外には明かりと呼べる明かりもなく、真っ暗闇が広がっている。
でもその闇の奥にあるものが何かを、私たちは確かめるまでもなく知っていた。
「私、別の大陸に渡りたいの」
それは、なんというか。
意外、というまでもなく。
考えてみれば、あまりに腑に落ちる目的だった。
「――刀を、探しに行くつもりですか」
「ええそう。里の原点となった異国の文化、異国の武器――刀。それを手に入れるつもりだった」
「それは……」
私とリンカねえさまの視線が、私の腰に向けられる。
疾討、私が手にする得物であり、この大陸に唯一現存する”刀”だ。
「ほんとうに――アンタには、何もかもあっという間においていかれちゃうわねぇ」
「……リンカねえさま」
「私は……まだ、大陸に渡るための許可を、国から得られていない。きっと、まだ数年かかるわ」
リンカねえさまがナティラリア様のもとで働く理由は、別の大陸へ渡るための使節に加えてもらうためだろう。
この大陸と別の大陸は、もう長い間交流がない。
その交流を復活させようという動きは、歴史の中で定期的に起きては、頓挫している。
原因は宿痾の主や魔物の存在、時には国同士の不和なども原因に挙げられるだろう。
今回の使節も、危険だということで準備が遅々として進まない……そうな。
「その間に、カグラはもっと遠いところに行ってしまう。私があなたに追いつけるのは、いつになるのかしら」
それが――リンカねえさまの抱えているものだった。
嫉妬と、羨望と、それから疎外感。
言葉にすれば、そういった名前をつけられる感情。
しかし、実際に渦巻くそれは――もっと複雑なものだろう。
正直私は、それに正しい言葉をかけられるかわからない。
でも、一つだけ――確かに言えることがある。
「だったら、どんな手段を使ってでも、私に追いついてみるというのはどうでしょう」
その言葉に、リンカねえさまは疑問符を浮かべる。
「どんな手段でも?」
「無論、間違っている手段や人を傷つける手段はだめです。でも、例えば――私を利用する、というのはどうでしょうか」
「利用って……たとえば?」
「
そして、リンカねえさまが目を見開いた。
「それって……」
「私には、六大宿痾を討伐した実績があります。今回幻象を討伐すれば、その名声もかなり高まるでしょう。そんな私が
「……!」
話としてはとても単純で、なにより私としても願ったりかなったりな話だ。
異大陸には、まだみぬ強敵がいるかもしれない。
もっともっと楽しいことが待っているかもしれない。
私は娯楽に植えているのだ。
そういう話には、多大な”興味”を向けている。
「利用するって、何も道具みたいに使えって話じゃないですよ。お互いにとって都合の良い提案をして、それを承諾させるのも立派な”利用”です。他には――」
「……カグラに、私の特訓相手になってほしい?」
「とかですです。リンカねえさまにはこの半年間、ずいぶんとお世話になりました。その恩返しができて、
それから、しばらくリンカねえさまは考え込む素振りを見せる。
きっと、色々と言いたいことはあるだろう。
思考を巡らせて、言葉を選んでいた。
そして――
「ねえ、カグラ」
「はいな、なんでしょうリンカねえさま」
待っていまいたと、私が聞く態勢に入ると――
「――幻象を倒す方法を思いついたの、聞いてもらえる?」
思っていない方向から、今最も解決すべき課題に対する”答え”が飛んできた。
というわけで再開していきます。
再会直後からこの温度差。
多分週一くらいの頻度で投稿すると思います。
よろしくお願いします!