転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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九十七 幻象を追い詰めろ!

 幻象の討伐は、私たちにとって一番優先すべきことだ。

 リンカねえさまの話をして、少し脱線する流れだったのが、リンカねえさまの言葉で一瞬にして幻象討伐へと意識が向いた。

 

 このあたりで、幻象と私たちの現状についてまとめておこう。

 幻象だけに。

 

 人を取り込み、取り込んだ人間に化けることのできる六大宿痾。

 巣を持たないタイプに見えるが、取り込んだ人間を捉えておくための場所は、要するにイコール”巣”なのかもしれない。

 取り込まれた人間は情報をコピーされ、幻象の手足となる。

 このうち、完全に取り込まれるか情報を抜き取られるだけに終わるかで、微妙に幻象の起こせる”現象”に違いが出てくるのだ。

 幻象だけに。

 

 一つは影だけを生み出す場合。

 幻象がザクっとやると、そこから情報を盗み取り、ザクっとやった相手を昏睡させる。

 このときに盗んだ情報をもとに影を生み出すのだ。

 あくまで生み出せるのは影だけで、強さも正直大したことはない。

 ちなみに、リンカねえさまいわくこの情報を盗んだ場合の昏睡は強者なら抵抗可能とのこと。

 まぁでも一撃もらった時点でだいぶ趨勢は決してるのが強者の戦いだけど、一撃死確定の極悪攻撃を幻象が持ってるわけではないというのは、悪い話じゃない。

 

 もう一つが分身を生み出す場合。

 こちらは本人をそのまま取り込んだ場合に使えるようになる能力。

 今まで分体と思われていた幻象――ユウコさん等――も、本体と思われていた幻象も、こうして作られた分身だ。

 その強さは、分身のもととなった人間の強さに応じて変わる。

 幻象がその分身にどれだけ瘴気を詰められるかが、強さを決めるのだとか。

 ユウコさんはただの里の剣士だからそこまでだけど、七刀のフヅキ様となると六大宿痾の水準程度の実力になるわけだ。

 

 とまぁ、これが幻象の能力になるわけだけど。

 問題は――()()()()()()()()()()って話。

 これがさっぱり見当がつかないから、私は困ってしまっているのだ。

 

「とりあえず、幻象の今の目標についておさらいするわよ」

「はーい」

「幻象の目的はナティラリアの捕獲、私の捕獲、そして逃走。この3つでしょうね」

「でしょうねぇ」

 

 問題は、その3つのうちどれを今の幻象が選択するか、だ。

 ぶっちゃけ、一番有り得そうなのは逃走である。

 だってこれ以上天敵である私とやり合う理由がないし。

 まだ私を追いかければリンカねえさまを捕獲できるかもしれないから、私の追跡を選択したんだろうけど。

 それも四重強化で私が幻象を撒いたことで、ほぼ不可能になった。

 

「ナティラリアを狙わないのは、リスクがあるからでしょうね。現状、幻象はその手のうちをほぼヤーファンにバレている。本気でやり合った場合、被害はデカいでしょうけどヤーファンが勝つはずよ」

「ほんっとうにすごい被害が出るでしょうけどねぇ」

 

 とにもかくにも、幻象は今すぐヤーファンから逃げようとするはずだ。

 そして私たちの寿命が尽きるのを待つなり、別の国で暴れるなりすればいい。

 六大宿痾の寿命はほぼ無限なのだから、時間はいくらでもある。

 

「――逆に言えば、今ここで幻象を奇襲できれば、ほぼ確実に決着をつけられるわ」

「そのための問題は2つありますよ」

「一つは移動手段ね。でもこれは――カグラにアテがあるでしょ」

「ありますけどぉ」

 

 一応、今この瞬間私は全力を出せば幻象のもとに即座に駆けつけることができる。

 ただしこれには、もう一つの問題がつきまとうのだ。

 

「でも、やっぱり幻象本体の居場所がわからないことには……」

「まぁ、そうね」

「この広大なヤーファンの領土から探し出せと?」

「――いいえ、もっと単純な方法があるわ」

 

 ふふ、とリンカねえさまが不敵な笑みを浮かべる。

 なんだか珍しい光景だ。

 こういう事態を解決する方法を思いつくのは、いつだって私だったのだけど。

 でも、今回ばかりは――

 

 

「そもそもどうやって、私がフヅキと一回あっただけで、二度幻象と戦ったカグラと同じだけの情報を得られたと思う?」

 

 

 リンカねえさまの”領分”なのだろうと、私は納得せざるを得なかった。

 

 

 +

 

 

 で、移動方法に関して。

 これはまー、非常に単純な方法だ。

 

「アテはあるとはいったけど」

「はい」

「……マジでこれ?」

「マジでこれです」

 

 真剣と書いて、マジ。

 剣の里に古くから伝わるナウなヤングにバカウケの言葉を交わし合う。

 んで、何をしているかといえば、私とリンカねえさまはヨースの街から離れて、だだっぴろい草原の上に立っていた。

 私がリンカねえさまを背負って。

 

「で、方向はどちらでしょう」

「……多分、あっちよ」

「はーい。では少し集中しますので」

「……が、がんばって」

 

 私は目を閉じて、呼吸を整えてから意識を自身の奥底へと鎮める。

 それは一言で言うと、私がかつてたどり着いた”境地”に、限りなく自分の意識を近づける儀式のようなものだった。

 シドウ様とともに六大宿痾”狐火”を討伐した際、私はそれを始めて実戦で使用した。

 

 ”五重強化”。

 

 私の全神経を集中させ、呼吸と体の動きを完全に合一させ、更には天運に恵まれたことで成功させることのできたあの極地。

 それを、一度の成功をきっかけとして、私は集中に集中を重ねた状態であれば”再現”できるまでに成長した。

 ようするに、実戦ではまだ使えたもんじゃないけど、こういう場なら使()()()のだ。

 そう、私は――

 

「じゃ、このまま()()()()()()()()()()()()()()ますよぉ!」

「私、果たして生きて幻象のところまでたどり着けるかしら……!」

 

 五重強化による移動でゴリ押しすることにした。

 

「よし、集中完了。じゃあいっきま――」

「ああちょっとま――」

 

 

 その瞬間、私たちは音になった。

 

 

 キュイーーーーーーーーん。

 なんともまぁ、とんでもない速度でかっとぶ。

 おそらく足場にした地面は、陥没していることだろう。

 でっかいクレーターが突如として草原に出現、すわ魔物か――みたいな。

 そんな事件がおきそうだなぁ、とか呑気に考えつつ。

 ()()で私は地面に着弾した。

 そうしてできる2つ目のクレーター。

 

「――というわけで、とりあえず王都とヨースの中間まできました」

「……し、死ぬかと思ったわ」

「ご無事で何よりです」

 

 さて、問題はここからだ。

 ここから私はもう一度五重強化を使って空をかっとび、幻象の元を目指す。

 問題は、相変わらず幻象の居場所が不明なところ。

 でも、リンカねえさまには一切の迷いがない。

 そこに”いる”と、確信を持っているようだ。

 

「あっち、さっきの感じの四割くらいの跳躍でお願い」

「……わかりました。では!」

 

 私は足に力を込めて、再び大地を蹴り飛ばす。

 一瞬で身体が音を超えてかっ飛んだかと思えば、宙に私とリンカねえさまの姿がある。

 空には、とてもとてもきれいなまん丸の月が浮かんでいた。

 ああ――いい月だ。

 

「――あは」

 

 そして、リンカねえさまも笑みを浮かべる。

 二人して、そこにそれが”ある”とわかってしまった。

 私は、強者が。

 であれば、リンカねえさまは?

 

 リンカねえさまは言った。

 どうして自分が、一発で私と同じくらい情報を読み取れたのか。

 そしてリンカねえさまは、幻象の居場所を嗅ぎ取ることができる。

 一体幻象の本体が”何”なら、リンカねえさまはそれを察知することができるのか。

 私は、強さに飢えている。

 だから、強者に対して嗅覚を発揮できる。

 なら、ねえさまが――

 

 

「あははは! あははははは! 見つけた、見つけた見つけた見つけた! 六大宿痾! 幻象! 私の知る最高の()()!!」

 

 

 武具の在り処を、見つけることができるのは、あまりに自然なことと言えるだろう。

 自然で、そして変態的なことである――と。

 

 

 +

 

 

『ド変態どもがぁあああああ!』

「逃さないわよおおおお! 武具! 武具でしょう貴方! 今すぐ私の得物になりなさい! さぁさぁさぁ!」

「逃がしませんよおおお! 強者! 強者でしょう貴方! 今すぐ私と切り結び、そして一つになりましょう!」

 

 幻象の罵声を受けながら、私とリンカねえさまは自身の得物を振るう。

 私は刀を、リンカねえさまはあらん限りの武具を。

 フヅキ様の姿を取った幻象が、それをなんとか受け流している。

 その手には、2つの剣。

 片方はレイピアで、片方は短剣。

 今にして思えば、ユウコさんもフヅキ様も、”短剣”を必ず得物にしていた。

 無論、普段から二人はそれをメインに戦うのだろう。

 だが、同時に剣の里において、短剣を使う剣士は珍しい。

 どちらかといえば長剣、それも刀のような曲刀を操る剣士の方が、圧倒的に多いのだ。

 なにより――

 

「ユウコさんが落として、貴方が回収しようとした短剣。あれこそ、幻象の”一部”だったんですねぇ」

『ふん、本当に小さな”欠片”にすぎんさ。あんなもの、捨ててしまっても何ら惜しくない』

 

 もうそのものずばり、あれが答えだったのだ。

 もし仮にリンカねえさまがあの短剣を直接見ていたら、一発で幻象の正体に気づいていただろう。

 だからこそ、ユウコさんが倒される前に幻象は慌ててリンカねえさまを狙った、とも言えるけど。

 何にしても、幻象の正体は”短剣”だ。

 今まさに、フヅキ様が持っている短剣こそ、幻象の正体そのもの。

 私が腕を切り飛ばしたあと――いつの間にか消えていた、あの短剣が幻象だったのだ。

 

「流石にそこまでは、私も思い至りませんでしたね。いやはや、我ながら未熟でした」

「仕方ないわよ。幻象は徹底して自分の本体を悟られないようにしているもの。私でなければ、気付くことは不可能だったはずよ」

『……天敵すぎるだろうが、貴様らぁ!』

 

 私は言うに及ばず、一発で自分の正体を看破してくるリンカねえさまも、幻象にとっては頭の痛い存在だろう。

 とはいえ幻象にとってリンカねえさまはついさっきまで”直接戦えばなんとかなる”相手だったのだが。

 

『貴様ぁ! リンカと言ったなぁ! 以前あったときあった心の揺らぎ、負の感情が薄まっているのはなぜだ! まさか、お涙頂戴の猿芝居で立ち直ったとでも言うつもりか!?』

「さてどうかしらね、ただ一つ言えることがあるとすれば……今の私には私なりの()()があるのよ!」

 

 幻象は現在、デバフ空間を展開しながら戦っている。

 私を強化してしまうというデメリットはあるものの、リンカねえさまを弱体化させて取り込めば、状況はひっくり返るのだ。

 だけど、今のリンカねえさまは精神的にかなり充実しているらしく、デバフの効きが悪い。

 こうなると、デバフ空間は完全に私たちへ利するだけになる。

 

『ちぃ、ならばこの力は却って邪魔になるだけだ!』

 

 当然ながら、幻象はデバフ空間を打ち切ってきた。

 これにより私の強化がなくなり、戦いやすくなる――

 

「残念!」

「舐めないでください!」

 

 ――わけではなかった。

 私とリンカねえさまが、抜群のコンビネーションで幻象を追い立てる。

 こちとら半年は一緒に行動してきたのだ。

 力を合わせて戦えば、素の能力は六大宿痾最弱だろう幻象ともまともに打ち合える。

 

 私が斬りかかり、幻象がそれをレイピアで受け流す。

 かと思えば、受け流しによって生まれた極細の隙をリンカねえさまがモーニングスターを振るって潰しにかかる。

 当然それも幻象は短剣で、受け流すものの、そこへリンカねえさまが更に責め立てるのだ。

 周囲に無数の短剣を浮かべ、そして幻象に向けて射出する――結果、幻象の体に何本かナイフが突き刺さった。

 

『ぐ、ああああああ! 貴様らぁあああ!』

「もうおしまいですか? 情けないですねぇ」

「あはは、こいつは六大宿痾においては”最弱”なのでしょう。仕方ないわよ、こればっかりは」

「ぐ、ぐぐぐ、あああああ! おおおおおおおおっ!」

 

 私たちが挑発すると、幻象は怒りのままに得物を振るう。

 しかしそれこそこちらの思う壺。

 私は一気に踏み込んで、幻象の首目掛けて刃を振るう――!

 しかし、その時。

 

 

『ちい、こればかりは仕方あるまい! 止まれ! こいつがどうなってもいいのか!?』

 

 

 幻象は、黒い影を自分を守らせるように配置した。

 私は慌てて、刀を止めて後方に下がる。

 その黒い影は――おそらく、幻象が短剣を刺して情報を抜き取った人間だろう。

 いや、まさか――

 

『こいつは俺が盗んだ”魂”だ。いいか? こいつを殺せば、魂は二度と飼い主の元へもどせねぇぞ!』

 

 魂。

 幻象はそれを人質に取ったのだ。

 私とリンカねえさまは、少しだけ距離を取る。

 

『いいぞ、そのまま動くなよ』

「その間に、逃げるつもりですか」

『当たり前だろ、てめぇら見てぇな頭のおかしい女どもの相手なんざしてられるか!』

 

 とんでもない話だ。

 私たちを頭のおかしい女だなんて、心外である。

 リンカねえさまと二人で視線を合わせて、その不満を顕にしながら私は返した。

 

 

「残念ながら、読めてるんですよ、それ」

 

 

 言葉とともに魔力の刃を幻象へ飛ばす。

 それは()()()()()()()、幻象だけに直撃する!

 

『ぬ、ぐ、ああああ!』

「リンカねえさま!」

「わかってるわよ!」

 

 そしてリンカねえさまが前に出る。

 手には、棍棒とムチ。

 端的に言えば、剣に比べたら致命傷が発生しにくい武器である。

 だからリンカねえさまは、盾にされている魂を気にせず、幻象へ殴りかかった。

 

 そう、魂は人だから魔力の刃を飛ばしても影響はない。

 だから私にたいする人質は無意味。

 リンカねえさまもまた、人を殺しにくい武器を選択することで人質を気にせず攻撃できるようにした。

 ここからはリンカねえさまが前衛を務め、私が魔力の刃を飛ばしまくる後衛として役割を分担する。

 これもまた、私たちのコンビネーションが為せる技。 

 とはいえ、まぁ。

 

『ひ、人の心がないのか貴様らぁああああ!』

 

 幻象の言うことは、尤もといえば尤もなんだけど。

 でもなんか、ちょっとネットミームみたいになっててシュールなのと、あとあれだ。

 

「人質を取っておきながらその言い草、呆れちゃうわね」

「そうですよそうですよ!」

 

 人のこと全く言えないだろ、こいつ。

 

『俺は人じゃないからいいんだよ!』

「詭弁にも程があります!」

 

 そう言われるとそうなんだけどさぁ!

 

「ふん、なんと言われようと――私は私の目的を果たすだけよ」

『胸がデカいだけのガキにすら勝てない、三流剣士が、舐めたことを言ってるんじゃないぞ!』

「あら、今の私は剣士ですらないわよ。見なさいよ、この武器を!」

 

 影を遠隔ドローンみたいに周囲へ配置してリンカねえさまへの盾にしつつ、レイピアで隙を狙う幻象。

 私が魔力の刃をぶっ放し続けているとはいえ、幻象が最弱の七刀であるとはいえ。

 それでも、リンカねえさまにとっては荷が重い相手だ。

 だけれども、リンカねえさまは臆さない。

 ただ愚直に得物を振るう。

 

「それにね、私はいつだってカグラに負けっぱなしでいるつもりはないわ」

『ぐ、おおお……!』

 

 そして、ついにリンカねえさまが人質になっていた影を踏み越えて、棍棒を振るう。

 

「いずれ、カグラを超えて見せる。どんな手を使ってでも!」

『きさ、まぁ……!』

「そのためには、まず――アンタをぶっ叩いて倒さないと、カグラに勝てるなんて大言吐けないのよ――!」

 

 その一撃が――幻象へと突き刺さった。

 本体である短剣が、宙を舞う。

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