転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
もともと、旅に出ることは嫌というわけではない。
娯楽に飢えた結果が、今の修羅という立場。
ならば外の世界を知るという娯楽を楽しむのもまた一興。
旅の最中では鍛錬にかけられる時間が減ってしまうものの、そもそも最近は鍛錬も行き詰まりを感じている。
これ以上魔力の制御を上達させるには、日々の鍛錬よりも実戦のほうが効果的なのではないかという思いもあった。
問題は、七刀になるか否か。
正直に言えば、少し荷が重い。
私はまだ十二の小娘で、私より幼く七刀になった人間は母しかいないというほどに、七刀は重い立場だ。
そもそも七刀になるには、まず里の推挙を得て、それから七刀のうち誰か一人の認可を得る必要がある。
つまりここで父が私を七刀に推挙し、それから私が七刀に会いに行くことになるのだ。
この二年間、里が崩壊しても一度も帰ってこなかった人たちのところへ。
まぁ、リンカ姉さまは手助けがいるかという手紙を送ってくれたけど。
他の人は……うん。
とにかく、私が七刀になるなら七刀の誰かに会いに行く必要がある。
そこで父上は私にもう一つ頼み事をした。
七刀に、ここ最近起きた異変を尋ねるというものだ。
なぜそんなことを尋ねるかと言えば、今回の百鬼夜行に”なにかがある”と父が考えているためだ。
他にも、里が壊滅から復興したことを七刀に伝えてほしい、という頼み事も。
……一つ一つは細かいが、結構頼み事が多かった。
ともあれ、私はそれを承諾した。
確かに七刀となることは荷が重い。
何より私は剣士というよりは、ただ戦うことが好きな修羅なのだ。
七刀という、剣の天才と肩を並べるに相応しいかは難しいところ。
だが、それを判断するのは私ではない、七刀だ。
彼らがいいというのなら、まぁいいのだろうし。
ダメだと言うなら、それでもいいという判断。
父上に言ったら、「カグラはそういうところが適当だな」などと苦笑されてしまったが。
とにかく、私は里を出ると決め、準備を行い。
戻って来た冒険者の剣士たちに魔物のことを引き継いでから、旅立つことになった。
服装もこれまでの落ち着いたものから、軽やかな旅装へと変化している。
髪をポニテにしてみたのも特徴だ。
そして当日――
「カグラねえさま……」
「もう、そんなに悲しそうな顔をしないでください。――ヒオリちゃん」
私は、里の見送りを受けていた。
修羅だなんだと言われているものの、百鬼夜行を退けたことでなんだか里の人達の私に対する評価は高い。
多くの人が、見送りに参加してくれた。
そんな中でずっと悲しそうに私を見ているのが、先日私に声をかけてきてくれた女の子。
ヒオリちゃんだ。
黒髪の、和服が似合う私の一つ年下の少女。
背丈は……私より少し高い。
見上げるような形でヒオリちゃんの頭を撫でながら。私はヒオリちゃんを慰める。
「何も、これが今生の別れではないのですから。むしろ、最近のヒオリちゃんは本当によく上達しています。いずれ、私に追いつくことだってできるでしょう」
「そう……でしょうか」
「少なくとも、里を出て旅をすることは、今の貴方にとってそこまで難しいことではないと思いますよ?」
二年前の百鬼夜行以前にも、ヒオリちゃんは私を慕ってくれていたけれど。
百鬼夜行を乗り越えて以来、随分とヒオリちゃんは稽古に励んでいた。
最中に街の復興も手伝いながらの鍛錬で、かなりいそがしかっただろうにも関わらず。
ヒオリちゃんは私を除けば里でもトップクラスの有望株だ。
それだけ、私のことを慕ってくれているということなのだろうけれど。
「それに、私はヒオリちゃんが私に追いつく時が楽しみなのです。その時の貴方は、きっととびきりの美人で、すごい剣士になっているでしょうから」
「え、あ、う……」
顔を真赤にしたヒオリちゃんに、笑みを浮かべながらもう一度頭を撫でて離れる。
そうして、私が最後に里の人達へ挨拶をしようとすると――
「……カグラ。お前がその年で外の世界でも一人でやっていけるだろうことは、私も解っている。だが、その……なんだな」
「なんでしょう、父上」
「そういうところは……心配になるな、将来的に」
「なんて失礼なことを言うのですか父上! ……皆も、少しは否定してくれてもいいのではないですか!?」
そんな、父上の呆れたような本気で心配しているような言葉を受けて。
場に和やかな空気が広がる。
私はそんな彼らに見送られて、里を旅立つのだった。
+
外の世界は広く、色々なものがあった。
まず剣の里は相応に閉ざされた山奥に作られている。
あまり整備されていない道路が、そこそこ舗装されたものになるのも新鮮だった。
通りかかった村々は、明らかに私達剣の里の人間とは着ているものも、建物も様式が違う。
とはいえ、ぶっちゃけ剣の里のそういった文化は一種のブランドだ。
着ている服は違えども、着ている人間はそう違わない。
そもそも異国――いわゆる日本っぽい国からやってきたのは開祖であるシンラだけだそうで。
そんな開祖と結婚して子どもを作ったり、開祖に弟子入りして集落を形成した人間は大陸の人間だ。
顔立ちだって、そう違うものではない。
それでもまあ、和装のやたらと美人な少女が街道を歩けば、それなりに目立つのは道理。
行き交う人々から、声をかけられたり珍しいものを見る目でみられたり。
そんな立場に置かれながら、私はしばらく旅を続けた。
目指すは、剣の里から最も近くにある商業都市。
そこには多くの冒険者や商人、他にも様々な人物が集まっている。
このあたりの要所といえる場所。
なのだが、一つ私には不満があった。
それは――
「しかし、やはり魔物の出現は剣の里ほどではありませんねぇ」
旅の間、魔物に出くわした回数は一日に一回がせいぜいだった。
剣の里ではここ最近、毎日数回は魔物が現れるというのに。
なにより、それは百鬼夜行の影響によるものだが、それ以外にも剣の里周辺には魔物が多かった。
それが今では、この始末。
剣の腕も鈍ってしまうというものだ。
「魔力制御の練習を、旅の最中でもできるようにしたのはやはり大正解でしたね」
そう言いながら、私は手の中で適当に拾った小石二つをぶつけ合っている。
それらはさながらベイゴマのように激しく回転しながらしのぎを削っているのだが、これは私が魔力制御で回転を加えた結果だ。
どう考えても回転する形状ではないものを、きれいに回転させる行為はなかなか魔力制御の特訓としては有効だった。
今後は数を増やして、精度を上げていこう。
「他に気になるところは……野盗の類も現れないというところですか」
この世界は治安の悪いファンタジー世界だ。
いわゆる山賊野盗の類は、当然ながら存在する。
だというのに、ここに来るまで一度も私は襲撃を受けていない。
もともと、剣の里があるこの近くで大きな野盗の集団が活動することはない。
依頼を受けてやってきた剣の里の人間が壊滅させてしまうからだ。
それでも少数の野盗が、街道を狙っていたりすることはたまにあると聞いていたのだが。
「うーむ、話が違うと言いますか……やはりこれも魔物が増えた影響?」
色々と、思うところはあるものの。
とりあえず野盗の類も現れないとなると、想定以上にこの旅は安全なものに
そんな私の懸念を晴らすように――
「――人が襲われている?」
私の強化された感覚が、遠くで人が魔物に襲われている気配を察知した。
複数の魔物が、行商人らしき人たちを襲っている。
まずいな、このままだとその人達は全滅だ。
それはあまりよろしくない。
「とはいえ、死人は出ていないようですね。となれば――」
ふむ、と私は感覚から状況を理解する。
死人が出ていないということは、つまり――
「存分に暴れてもいい獲物がそこにいるということです!」
人が死ねば、気楽に魔物を屠ることなんてできない。
だけど今は違う。
ここ数日の飢えを満たすためにも、ここは是が非でも魔物を狩らねばならない――!
大きい胸が戦闘にジャマだという人にはこう! ですよ(ヒオリちゃんみたいにする、のジャスチャー)