転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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修羅になれなかったものたち

 ”合舞鉾弧(あいまいもこ)”フヅキは、現行七刀の中では唯一、里の外部出身の親を持つ七刀だ。

 もともと剣の里は小さい集落だから定期的に外部から血を入れるのが普通だし、七刀の親が外部出身であるということも普通のことだ。

 ただ現在の七刀のうち、フヅキ以外の全員が里の人間同士の婚姻から生まれた子だった。

 まぁ、そのうちシドウと魔竜峰に住まう七刀最年長の老人に子という表現はおかしいのだが。

 ともかく、フヅキの同年代にあたるリンカや魔術師と錬金術師の双子姉妹は、どちらも親が剣の里にいる。

 対するフヅキは、剣の里の外で生まれた存在だ。

 それが”才能がある”という理由で剣の里へ向かうことになり、そこで修行して七刀になった。

 

 だから、フヅキの家族は剣の里の外にいる。

 普通の両親と、普通の妹。

 そんな家族が幻象に襲われて昏睡したと聞いたのは――もう数年ほど前になるか。

 ちょうど七刀になってすぐのことで、家族にそれを報告するべく帰郷しようとした矢先のことだ。

 以来、フヅキは幻象を追いかけている。

 

 そんなフヅキには、時折思うことがあった。

 才能とは、強さとはなんだろう、と。

 そのたびにあんまり物事を深く考えるのが得意ではないフヅキは、すぐに別のことへ意識を向けてしまうのだが。

 だとしても、疑問は残り続ける。

 強くなったとて、大切な人を守れるわけではない、取り戻せるわけではない。

 どころか、こうして幻象に囚われて自分が幻象の悪事の片棒を担がされる始末。

 

 そもそもフヅキには、剣の才以外に特筆するほど優れた才能があるわけではない。

 むしろ普段からずぼらで、他人に迷惑をかけてばかりの毎日だ。

 これで強さすら、幻象に及ばないとあっては、フヅキは自分に生きる価値はないのではないだろうかと思わずにはいられなかった。

 

 ――そんなときだ、幻象がヤーファンの王都に狙いを定めたのは。

 

 ちょうど、ヤーファンを守護する七刀のリンカが、ヤーファンから離れているそうだ。

 それもあって、幻象はヤーファンに狙いを定めたのだろう。

 ヤーファンは大陸随一の王国だから、ここを抑えれば宿痾の主が大陸を制したのも同義だ。

 といっても、幻象は慎重すぎるきらいがある。

 もし少しでも無理だと思えば逃げてしまうだろう。

 この慎重さのおかげで幻象はここまで生き延びれたとも言えるし、慎重すぎるせいでろくに成果もないともいえるのだが、ともかく。

 

 何にせよ、事態は幻象の思ってもいない方向に進んだ。

 

 まず、想像以上にリンカが早く帰ってきたのだ。

 しかも、あの狐火を討伐したうえでの凱旋だという。

 これは逃げるか? 幻象の中で逃走ポイントが高まっていく。

 しかし、リンカとともにやってきた剣士のカグラが、挙動はおかしいが強さは()()()()()()()()()()()()()()()だったことで、風向きが変わった。

 あの時カグラは、フヅキが介入していなければ負けていたはずだ。

 であれば、御せる。

 幻象はそう考えた。

 

 幻象は次にリンカを狙った。

 ここを抑えれば、ナティラリアまでほぼ顔パスだからだ。

 ようするに、一気にチェックメイトまで持っていける。

 しかしどういうわけか、リンカは全力で幻象から逃走した。

 まさか自分の正体がバレたとは思わないが、それにしたって潔すぎる逃走だ。

 フヅキが怪しいと思われていたにしても、ここまで警戒されるのはおかしい。

 そのままリンカを追いかけるか、リンカという最大の障壁がいなくなったことで狙いやすくなったナティラリアを狙うか。

 迷っているうちに、自体はどんどん動いていく。

 

 ユウコが、カグラに打倒されたのだ。

 といっても両者の実力はほぼどっこいだったから、これは致し方ない。

 しかしその後、ユウコにもたせていた自身の一部を持ち去られたのはまずかった。

 これにより、幻象は更に判断を迷ってしまう。

 リンカを追うか、持ち去られた一部を使ってナティラリアを狙うか。

 もしくは、撤退。

 正直、幻象としては半ば撤退に傾いていた。

 しかし答えを出すには情報が足りず、考える猶予が発生してしまったのだ。

 本来ならば、それは何も問題はないはずだった。

 一日くらい潜伏して考えたところで、幻象がみつかることはほぼありえない。

 だけど――

 

 

 だけど、そいつは違った。

 

 

 カグラ。

 幻象の天敵。

 呪いも、デバフすらも無効にするどころかバフに変えてしまう怪物。

 それが突如として、幻象の本体を見つけてしまったのである。

 しかも、ほぼ敗北といっていい形で幻象は撤退することになった。

 本物の本体である短剣に気づかれなかったことは僥倖だったものの、それ以外は何もかも完敗である。

 

 これはもう逃げるしかない、と思いつつも幻象は影にカグラを追わせた。

 すでに幻象の手品の種は割れている、この程度のちょっかいならかけていいだろう、と。

 これでリンカの元へ向かうカグラに追いついて、リンカを捕獲できればまだ巻き返しの芽はある。

 とはいえ、それまでカグラが使ってこなかった身体強化を使って振り切られたことで、完全に芽も潰えてしまったのだけど。

 

 なくなく逃げることを選択した幻象。

 今回は踏んだり蹴ったりだったと考えているところに――最後の天敵が降ってきた。

 

 幻象の正体が武具であることを見抜き、しかも武具に対する嗅覚でめちゃくちゃ遠くにいる幻象を囚えるもう一人の変態、リンカである。

 そしてリンカとカグラはついに幻象を討伐――フヅキと、そして家族は解放された。

 フヅキはそれを囚われながら、幻象の間近で見ていたのだ。

 ――見せつけられて、いたのだ。

 

 

 +

 

 

「ん……ここ、は」

「おや、目が冷めましたか」

 

 フヅキは、不意に目を覚ます。

 そこは幻象が敗れたときにいた草原ではなかった。

 どこかの部屋のようだ。

 豪奢な宿――いや、これは宮殿の中だろうか。

 正直フヅキにはそこら辺の違いなんてよくわからないが。

 

「ここは王都ヤーファンの宮殿ですよ、ナティラリア様がご用意してくださいました」

「きみ、は……」

「おっと、まだ名乗っていませんでしたね。カグラと申します。同じ剣の里の出身で――」

「ああ、大丈夫。ふふ、()()()()()()だね」

「……ほんとにわかってます?」

 

 本当にわかっているのだけど、カグラから疑われてしまった。

 まぁこれは、フヅキの普段の言動が悪いのだけど。

 何にしてもカグラとフヅキは、それまでのお互いの情報をすり合わせる。

 胡乱なフヅキの言い方もあって、完全に情報が一致するまで結構な時間がかかったものの。

 なんとかカグラはフヅキが”幻象の中にいてもある程度の意識はあった”と理解できた。

 

「それで、ご家族も幻象が消えたことで目を覚ましたそうですよ。ナティラリア様が最新の魔術を駆使して情報を集めてくださいました」

「ああそれは……うん、まずは、ありがとう……そう伝えさせてくれ」

「フヅキ様……」

 

 カグラの言葉で、フヅキの事情はほぼすべてカグラに伝わっているだろう、とフヅキは判断した。

 家族のことが分かれば、フヅキがどういう感情を抱いているかはカグラの”人読み”であれば感じ取れてしまうはずだ。

 そのうえで、フヅキはカグラに感謝の言葉を伝える。

 そうすべきだと、フヅキが強く思ったから。

 

「これは何も、ただ感謝の言葉を伝えるためだけの言葉ではないんだ。物事にはいくつもの側面があって、僕の感情だって一つではない。見方を変えれば、きっと無数に答えは出てくるし、いっそ永遠に答えはでないかもしれない」

「ええと……」

「君が、どう受け取るかが肝要さ。僕は、そう合ってほしいと願っている」

「……とりあえず、私から話しますね」

 

 フヅキは頷く。

 言いたいことは、すべて口にしたあとだからだ。

 これで。

 

「フヅキ様が、色々と悩んでいることはわかります。それを、私が図らずも一つ解決してしまった。幻象を倒すというフヅキ様の目的を、私自身が果たすことで」

 

 カグラは上手く言葉を選びながら、自分の考えを整理しているようだ。

 すごい、この子はとても頭がいい。

 フヅキはシンプルな思考でそう思った。

 

「君はとっても真っ直ぐで、そして誰よりも透き通っているようだね。それはまさしく、剣の閃きに発想というなの栄養を与えるかのようだ。芽は育ち、そして花開くだろう。今まさにここにいる、君のように」

 

 なお出力。

 

「これはフヅキ様以外の方にもいえることですが、皆さんいろんなことで悩みを抱えてらっしゃるんです。今回、幻象の一件で私はそういう方と多く巡り合いました」

 

 カグラは語る。

 ユウコのように、フヅキのように、リンカのように。

 最強になれなかった者たちをの存在を、カグラは見てきたのだ。

 これまで、カグラは最強になるべく一心不乱に強さを求めてきた。

 シドウに勝ったことで、人としてカグラは最強になったといえる。

 それにより、カグラは周囲に視線を向ける機会を得たのだ。

 隣で努力するリンカ、才能の無さに打ちひしがれるユウコ、才能がありながらも本懐を果たせなかったフヅキ。

 誰もが、最強になれなかった者たち。

 否、もっと言えば――

 

「皆――私のように修羅になることは、難しいのですね」

 

 修羅になれなかった者たち。

 カグラは修羅そのものであり、最強だったシドウは修羅に尤も近い存在だった。

 だからこそ、カグラとシドウは純粋に強さだけを求められる。

 しかし他のものは違う。

 才能のないものも、あるものも――皆等しく修羅になりきれない。

 いろいろな悩みを、抱えてしまう。

 

「でも、だからこそ私の答えは決まっています」

「それは――?」

()()()()()()()使()()()()なのです。強くなるために、手段なんて考えては行けません」

 

 ある意味でそれは、剣鬼の考え方だ。

 人には理性というものがあり、理性ゆえにどこかで諦めを覚えてしまう。

 フヅキがそうであったように。

 ただし、カグラは剣鬼としても、普通ではなかった。

 

「ただし、人様に迷惑をかけることはダメです。……まぁ結果として、これに感化されたリンカねえさまは私から幻象を強奪して逃走、これから私はそんなねえさまとの決戦に赴く事となったのですが……」

「……独特だね」

 

 フヅキは短い単語を口にしようとすると迂遠になるが、長い単語を言葉を選ぼうとすると端的になる変な癖があった。

 それはそれとして、カグラが色々とぶっとんでいることは事実。

 リンカの裏切りとも言える行為も、むしろ楽しそうに受け入れている。

 

「リンカの手練手管は、幻象のそれと結びつき、絡み合い、そして深淵へと繋がっていくことだろう。きっと、単純な戦いとは言えなくなる。それでも君は――」

「行きますとも! だって相手はとっても強くて、私はそれに勝ちたくて仕方がない。強くなりたくて仕方がない――修羅なんですから!」

 

 かくして、カグラは幻象にまつわる最後の戦いへと赴く。

 リンカはきっと、最高の準備をしてカグラを待っているだろう。

 そのことに、ワクワクを抑えきれず、子どものような笑みを浮かべながら。

 

「そういうことなら、僕からも一つ助言をさせてもらおうかな」

「構いませんよ。ナティラリア様からもいい案を一ついただいていますし。……理解できるようにお願いしますね?」

「それは君が決めることさ。いいかい? リンカは――」

 

 そんなカグラの様子に、自分の考えを口にしながらフヅキは思う。

 ああ、なんというか。

 カグラは修羅だから、どんなことをしてでも強くなろうとするのだろう。

 でも、それと同時に――どんなことにも純粋にたのしく前を向いて挑むその様子は、子供らしい幼さの伴ったもののように、フヅキには思えてならなかった。

 胸以外。




ちょっと書き足さないと行けない部分で詰まっていましたが、出ました。
残り半分くらいです、よろしくお願いします。
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