転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
それから私は、色々と準備をしてからヨースに向かった。
一番の準備は、私の精神統一だ。
なにせ昨日はそれはもう、長時間戦い通しだった。
何より消耗が激しかったのは、五重強化の三連続使用である。
まだまだ未熟な私では、五重強化を使うだけで疲労困憊、動けなくなってしまう。
結果、私はそのままリンカねえさまの家でぐーすかぴー。
体力を万全まで戻してから出発した。
今度は四重強化で、そこそこ時間をかけての移動である。
これもまぁ、結構疲れるんだけど、戦闘に支障をきたすほどではない。
我ながら昔と比べると強くなったなぁ、とか思いつつのヨースへの到着である。
宿痾教徒への侵入方法は三つあって、一つは正規ルート。
もう一つは合体宿痾が開けた穴。
ただ、これら二つはすでに国の行政によって塞がれてしまっている。
となると、侵入するのであればリンカねえさまの
ただ、もちろんそこにはリンカねえさまの用意した罠が待ち受けているということだろう。
つまり――
「一番楽しい侵入場所ってことじゃないですかぁ!」
そっから行くしかねぇ!
というわけで突入。
時刻は夜、寝静まった時間帯だけど、倉庫の中は明るかった。
まぁ強者は身体強化をすれば夜目が効くから、暗闇からの不意打ちはあんまり意味はない。
だからやらないだけだろう。
「――待ってたわよ、カグラ」
リンカねえさまは、堂々と私を待ち構えていた。
立っている場所が先日ピーをしていた場所であるということを除けば、実に決まっている登場だ。
とはいえ――
「――本物ではないですね?」
「あら、ひと目見て解るんだ」
「いやだって……武器が短剣じゃないですし」
幻象は短剣の形をしている。
どうやらその形は自由に変更できるらしい――普通の短剣から、ソードブレイカーまで多種多様――けど、短剣である必要はあるみたいだ。
リンカねえさまが持っているのは、モーニングスター。
ようするに――
「初めて出会った時の再現ですか。――誘ってますよね?」
「あら、別に最初から全力でいいのよ?」
私もリンカねえさまも、あの時と比べたら間違いなく強くなっている。
その状態で、敢えて当時と同じシチュエーションで戦おうというのだ。
私の場合は三重強化で、リンカねえさまの場合は……武器をわざと破壊させない方法で戦ってくる、といったところか。
まぁ、どう考えても罠なのだけど、それでも――
「
私は、警戒よりも自分のやりたいことを優先することにした!
かくして、私とリンカねえさまの戦いが始まる。
+
あの時は、私自身が未熟であるがゆえに、リンカねえさまの技術を打ち崩すことができなかった。
正直言って、技術に関しては以前からそこまで変化があったわけではない。
むしろ私は才能がない方だから、数カ月程度の鍛錬だとそうそう伸び代なんてないのだ。
対するリンカねえさまは――
「――進化してますね! 以前より!」
「そうみたい……ね!」
――私を、一方的に圧倒していた。
どれだけ疾討を振るっても、モーニングスターに絡め取られ切り込めない。
対するリンカねえさまは、こっちを一方的に攻め立ててくる。
殆ど反撃にも移れない。
隙がない、攻めが洗練されすぎている、楽しい!
ようするに、私よりリンカねえさまの方が、才能という面では圧倒的なのだ。
まったく剣術に進歩がない私と違って、リンカねえさまは日々進歩している。
そもそも努力の方向性が違うだろうっていうのはそのとおりなんだけど。
たとえ同じ努力を毎日同じだけしたとしても、私よりリンカねえさまの方が強くなるはずだ。
それでも――
「あは!」
「追い詰められて笑うところは、更に進化してるわね!」
私だって、何も進歩がないわけじゃない。
ここまでだいぶ打ち合っているが、私はまだ崩されていない。
最初の戦いは、比較的あっさり決着がついた。
私が未熟だったからだ。
あの頃と比べて剣術の腕は変わっていない。
だというのに、今のほうが長く戦えている。
その秘訣は――
「――場数が違いますからね、以前とはあまりにも!」
「そうだったわね……!」
私の経験。
あの時と比べて、強敵と戦った経験があまりにも違いすぎる。
リンカねえさま、合体宿痾、シドウ様、狐火、そして幻象。
そういった強者との死闘の末、私は経験という面で目覚ましい成長を遂げた。
その成果が、今まさにこうして結実している。
どれだけ一方的に攻め立てられようと、技術の上で劣っていようと、私は致命的な最後の一歩をリンカねえさまに踏み込ませていないのだ。
ここまで、どれだけ攻撃を受けても致命傷はゼロ。
ほぼ無傷といっていい状態で、前回の戦いよりも長くリンカねえさまを凌いでいた。
「なら結局、カグラも十分成長してるってことよ!」
「ありがとうございます、そう言われると純粋に嬉しいですよ!」
といっても、一緒に飛んでくるモーニングスターは本当に厭らしいタイミングで。
私の回避と反撃の隙間を埋めるかのような一撃だ。
ようするに、攻め手に移るのを許してくれない。
なお、前回ならここから別の得物は入ってくるだろうが――
「しかし厄介ね、この状態で手数を増やしても、カグラを捉えられない!」
「私としては楽でいいですけどね!」
経験という武器は、対応力を特に強く育てる。
ことここに至って、私の対応力は多少武器の種類が増えたところでは揺らがない。
もっと根本的な別の一手が必要だ。
だから結論を言うと、今の私達は千日手なのである。
「このままやっても、カグラが無限に喜ぶだけね!」
「ひょひょひょ! いいんですよ私は無限にやっても! 一ヶ月くらい続けましょうか!!」
「流石に無茶よ、魔力の燃費の差で私が負けるわ!」
魔力総量においてはリンカねえさまが圧倒的だけど、燃費という面で私は容易にそれを覆せるからな。
魔力の刃なんて他の人が十発ぶっぱなしたらガス欠しそうな代物を無数に連打できるのは伊達じゃないのだ。
あとはまぁ、他にもスタミナの問題もある。
多分精神力という面で、リンカねえさまの方が先に限界を迎えるだろう。
私は、戦っているだけで楽しいからな。
そのモチベーションの差が、スタミナという面で出てくるはずだ。
どっちにしても、無限に続けるつもりがないなら、ここで何か手を打たないと行けない。
「リンカねえさまから、お先にどうぞ」
「遠慮しておくわ。後輩に道を譲ってあげる」
「……まぁ、そうですよね」
ここまで普通に、お互い手加減した状態で戦うことを許容するってことは、リンカねえさまのここでの狙いはあくまで最初に出会った頃の再現をすること。
いや、正確に言うと――
「仕方ないですね、じゃあ一度ひっくり返して見ましょうか」
「……!」
とにかく、そういうことならこちらから仕掛けよう。
私は、ニイっと笑みを浮かべて後方に退く。
そして――
「当時の再現を望むなら、
私は、壊しても良さそうな安物の武具を一つ、
「カグラ――!」
途端に怒りを覚えるリンカねえさま。
自殺行為だ、こんなもの。
そう、普通なら思うだろう、けど。
「――隙あり」
私は、その怒りによってリンカねえさまの動きが変わる一瞬の”隙”をついた。
四重強化は使用していない、三重強化で。
結果、リンカねえさまの片腕――モーニングスターを手にしていた方――を切り飛ばす。
血は出ない、精神体なのだから当然だ。
「経験は、時にこういう大胆な方法を思いつくための”発想”という形で身につくのですよ」
あの時の私は、まだまだ未熟だった。
けれども強くなったことで私は経験を手に入れ、その経験から
これが、成長。
――第一ラウンドは、私の勝ちってところですかね。
なんて、考えているその瞬間を、
「――かかった」
リンカねえさまも、狙っていたのだけど。
その瞬間。
突如として、リンカねえさまの体が――爆発した。
+
私の狙いが、武器を壊したことによるリンカねえさまのパターン変化、その一瞬の隙だとしたら。
リンカねえさまは、私が勝利を確信した瞬間の隙を狙っていた。
ようするに、あの再現自体は普通に再現として楽しみつつ、その直後にリンカねえさまのもう一つの狙いが待っていたのだ。
とはいえ、これは私としても想定内。
問題は――その後だろう。
爆発をやり過ごしつつ、周囲を見渡す。
するとそこには――
木っ端微塵に砕け散った、無数の武具が転がっていた。
どれも安物だ。
私が選ぶまでもなく、倉庫には無数の安物武具しか残っていなかった。
破壊してもいい武具を、今の爆発で纏めてふっとばしたのだろう。
これで、リンカねえさまは自演で怒りを怒髪天。
おそらく怒りのボルテージを最大まで引き上げたはず。
まったく、容赦ってものがないから困る。
ただ、中には一部さっきの爆発で壊れない強度の武器も混じっていて――
「出ましたね、影のリンカねえさま」
影が、それらを手にして出現する。
先日見せてきた、幻象の厄介な使い方。
リンカねえさまは武具マニア、数多の武具を使いこなす天才だけど、腕は二本しかない。
ようするにどれだけ武具を持っていたとしても、一度に扱えるのは二つまでなのだ。
その縛りが今、解ける。
これで、リンカねえさまは一気に私を攻め立てるつもりだろう。
まったく、まだ宿痾教徒の拠点にすら侵入していないというのに。
私は苦笑混じりに、倉庫の一角に開けられた穴へと視線を向ける。
あそこに入らないことには、リンカねえさまの本体へはたどり着けない。
まずはこの影をなんとかしないと。
そう思うと私は、興奮を抑えきれなくなる。
さて、まだまだたのしくなりそうだ――!
+
私は高速で移動していた。
とにかく囲まれないように動き回り、迫ってくる影ねえさまを魔力の刃で吹っ飛ばす。
コイツラに対する有効な攻撃手段はやはり魔力の刃だ。
なにせ、影ねえさまは瘴気でできているから、魔力の刃が効果を発揮する。
これを使って近づかせないようにしつつ――
「隙あり!」
隙を見せた影ねえさまから、一撃で斬り伏せていく。
遠慮はなし、四重強化での戦闘だ。
そのうえで――私と影リンカねえさま軍団は概ね互角といったところか。
なんといっても、動きの切れが凄まじい。
すでにほぼ怒りが有頂天に達しているリンカねえさまは、さっきの比じゃないほど攻撃が正確だ。
一瞬でも二人がかりで攻められたら、そのままずるずると負ける自身がある。
だが、一対一ならそうそう負けはない。
単純にスペック差があるからだ。
今のリンカねえさまは、おそらく分身として私と戦った時のユウコさんと同レベル。
三重強化だと一対一じゃ勝ち負けが発生するけど、四重強化ならほぼ私が負けることはない、くらい。
なので逃げ回りながら魔力の刃で牽制を入れて、一体ずつ仕留めていくのが正解だ。
とはいえ、そう簡単にリンカねえさまが全滅してくれるとは思わないけど。
その時だ、私の視界の端に、影ねえさまのおかわりが出現したのが映ったのは。
「まぁ、そうなりますよね!」
瘴気が続く限り、リンカねえさまはこれをいくらでも生み出せるだろう。
さっきのスタミナと魔力総量の話じゃないが、もし持久戦になったら今度は私が押し負ける。
六大宿痾の瘴気の総量、本気でやばいんですからね。
五重強化でなければ、六大宿痾が死んだ時の爆発は本当にどうしようもない。
幻象をどうにかできたのは、私が天敵すぎたからだな、ほんと。
「こうなってくると、取れる手段は――武具を破壊し尽くすことですか」
影ねえさまの強みは、やはり武具を無限に扱えることだ。
だったら、この場にある武具を全部破壊してしまえば、影ねえさまの強みは消える。
とはいえ――私がそう口にした瞬間、とんでもねー勢いですべての影ねえさまから殺気が飛んできたんだけど。
怒りのボルテージが上がったところで、上がる技術のキレは限界があるけど。
殺意は青天井で上がっていくだろうから、あまり現実的じゃないな。
とすると、私が取れる手段は、もう一つの方に自然と決定される。
それは端的に言うと――
「はああああっ!」
私は魔力を放った。
ただし、刃の形ではなく、全力で全方位にぶっ放したのだ。
攻略法――純粋なゴリ押し。
瘴気が魔力に反発してふっとばされるなら、数を制圧するのに刃という形は不向き。
純粋にあらゆる方向へ放つことで、纏めて影ねえさまを吹き飛ばすべきだ。
私は魔力を放って影ねえさまを壁に叩きつけたまま、勢いよく飛び出してそれを一体ずつ切り捨てていく。
「あはははは! 脳筋すぎって顔してますね! 顔がないのに、丸わかりです!」
確かに、あまりに強引な方法だ。
だけど、このように魔力を無闇矢鱈にぶっぱなしてもなお、燃費に余裕があるのが私の多重強化のいいところ。
一秒魔力を全方位に叩きつけるのと、一秒四重強化で戦うこと。
どちらも消費魔力総量は同じだ。
ようするに、これだけのことをしても私は一向に消耗していない。
「武器を無数に振り回せるのは厄介ですが……単純にスペック不足でしたね!」
そもそも幻象も、あまりこの影を頼った戦い方はしていなかった。
身体ごと捉えた武芸者を操るのが、幻象の最も好む戦い方のはず。
数だけ揃えても、強者相手には無意味に終わることが多い。
リンカねえさまの場合は、普通に戦う分には私を圧倒できそうなくらいの強さがあるのだけど。
それでも、結果はこうだ。
無論、この状況で策を張り巡らせればまだできることもあるだろうけど、ここは宿痾教徒の拠点と違って地上。
あまりムリはできないってことだ。
「よし、これで……終わり!」
かくして私は、無数にいた影ねえさまを一掃する。
追加影ねえさまは――出てこなかった。
これ以上は無駄、ということだろう。
まぁ、そういうことなら早速、宿痾教徒の拠点に侵入だ。
――この時、私は思っていた。
宿痾教徒の拠点には、リンカねえさまが罠を張り巡らせているだろう、と。
リンカねえさまは武具の扱い以外は純粋な剣士である関係上、広いところより狭いところの方が強い。
破壊力が低いのだ。
シドウ様みたいな広範囲攻撃を苦手としている。
だから、入り組んだ場所で様々な罠を設置しながら待っていると、そう思っていた。
なのに――
「あら、遅かったじゃない」
私が宿痾教徒の拠点に乗り込んだ時。
そこには――短剣を構えたリンカねえさまの姿があった。
すなわち、本物のリンカねえさま。
「まさかリンカねえさま――ここからは小細工無し、完全ガチの正面対決とか……いいませんよね?」
「あら、よくわかったじゃない。まぁ色々と多彩に攻撃手段を用意するつもりだけど、それはそれとして――」
リンカねえさまは、深く深い、三日月のような笑みを浮かべて――宣言した。
「アンタとの戦いに、罠みたいな小細工は不要。むしろ策を張り巡らせれば張り巡らせるだけ、こっちが不利になる」
「まぁ、私の強みは意外性ですからね」
「それが、上の戦闘でよくわかった。だから――全力で殺しに行かせてもらうわよ!」
何一つ、遠慮容赦躊躇一切なく。
殺意の籠もった一撃を、リンカねえさまは私に見舞ってきた――!