転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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今回お知らせがあります。


鮮烈だから、手を伸ばしたくなる

 嫉妬と羨望ていうのは、結局のところ同じ言葉を別の方向から言い換えただけだとリンカは思う。

 才能を持って生まれて、だけど天才の中では一番才能がなかった。

 結局、人っていうのはどんな立場になったとしても、上を向いてしまうものなのだ。

 すくなくとも、幻象の一件に関わった剣士は、誰もがそうだっただろう。

 一般的な里の剣士の中でも、才能がないとされているユウコも。

 リンカより更に才能があるはずのフヅキでさえ、上を見てしまっていた。

 

 結果としてそれは嫉妬という形で幻象に利用され、詳らかにさせられたのだ。

 どうしたって、人は上を見てしまうから、嫉妬という感情がつきまとう。

 それを普段は羨望と言い換えて心に秘めて、時には挑んで時には諦め、日々を過ごす。

 本来なら、それが爆発することは非常に稀だ。

 自分の中で抱えるか、爆発する前に誰かに話してガス抜きをする。

 剣士なら、剣を振って発散するのが一番自然だ。

 リンカの場合は、あのアレだ。

 

 だから何が悪いかと言えば、結局全部幻象が悪いのだけど、それはそれとして嫉妬という感情は拭えない。

 リンカの場合は特に、長い間比較対象とともにいたことで、その感情は積もり積もっていた。

 その結果が、あの発露ということだ。

 

 正直、カグラには迷惑をかけたと思う。

 いくらカグラがああいうのを大歓迎だからといって、ひどいことをしたのは事実だ。

 でも同時に、これはカグラにとっても必要な戦いである。

 最強を目指すうえで、カグラはいずれ単独で六大宿痾を倒す必要があるのだから。

 というかそもそも、カグラならあの不意打ちは躱せただろう。

 カグラの人読みであれば、それくらいの芸当は余裕なはず。

 その警告をきっと、面白そうだからという理由で無視したんだ。

 カグラという少女は、そういう少女である。

 

 そして同時に、カグラの諦めの悪さをリンカは見誤っていた。

 それはきっと、かつて何の楽しみも抱かず虚無のように生きてきたカグラを見ていたからだろう。

 何よりカグラは変態だけど聡明で、物わかりのいい少女だったから。

 勝てないと解ったら、一旦諦めて勝てると確信してから挑むものだとばかり。

 実際、シドウとの戦いは、相当に準備をしてから行っていた。

 でも違うのだ、もし仮に準備をする前に戦闘になっても、カグラは諦めないのだ。

 思い返せばカグラは、最初にシドウと腕相撲をしようといい出した時、勝機があった。

 多分、五重強化を使うつもりだったのだろうけど、無茶もいいところだ。

 だが、たとえどれだけ無茶だとしても、カグラは勝つための手段を見出すだろう。

 

 それもこれも、カグラが修羅だから為し得ることだ。

 リンカ達は修羅になりきれなかった。

 だから、嫉妬もするし、羨望も抱く。

 そんなこと関係無しに駆け抜けるカグラが、眩しくて眩しくて仕方がない。

 ああでもやっぱり、ここでもリンカはカグラを見誤っていた。

 カグラが嫉妬も羨望も抱かないのは、修羅だからというだけではない。

 カグラがただ強さだけを求めるのは修羅である以前に――

 

 

 +

 

 

 カグラとリンカが最高速でぶつかり合う。

 速度、威力、技のキレ、その全てにおいてリンカはカグラを上回っている。

 だというのに――

 

『――勝ちきれない!』

 

 リンカは、思わず叫んでいた。

 意識を失った本体を幻象の中に格納し、分体だけで得物を振るいながら。

 まるで最初のやり取りの焼き直しだ。

 どれだけ攻め立てても、最後の一撃をどうしても叩き込めない。

 ギリギリのところでカグラはリンカの手を逃れ、仕切り直しを測ってくる。

 もうすでに、戦闘時間は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 まさか、と思ってしまう。

 

『……本当にスタミナ勝ちを狙うつもり!?』

「あはは、さぁてどうでしょう!」

 

 ――狙いは別にある、しかしスタミナ勝ちでもカグラは絶対に勝つと確信していた。

 勝つつもりなのだ。

 リンカはカグラが距離を取ったタイミングで、手数を増やす。

 遠距離攻撃を放ち初めたのだ。

 ほとんど予備動作のない投げナイフは、もう一つ腕が増えたかのような錯覚すら覚えるほど。

 しかし――

 

「どれだけ手を増やしても、私は負けません!」

 

 カグラはそれを最小限の動きだけで躱し、続けて襲い来るリンカもまたギリギリで捌く。

 それは、そう――

 

『動きが洗練されてきている……!』

 

 こちらの動きに対して、カグラは即座に動きを最適化させている。

 極限化の戦闘で、カグラがより高みへ登ろうとしているのだ。

 否、それだけではない――

 

「はぁ――ッ!」

 

 カグラが()()を加えてくる。

 それは、回避するなり弾くなり、対処は容易な一撃だ。

 しかし、そもそも先程まで防戦一方だった相手から反撃が飛んでくるなど、完全な想定外。

 でも確かに、今の自分は少しだけ隙がある。

 今のリンカの動きに追いつければ、反撃自体は可能な状態だろう。

 それでも、いや――

 

 気付く。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ありえない。

 動きを最適化することはできても、身体スペックを上げることは不可能だ。

 なにせ、今この場には幻象の弱体空間を反転させたものが展開されている。

 カグラは常に精神を高揚させて己を奮い立たせるタイプ。

 この弱体空間を無視することは不可能。

 

 ――違う。

 

 カグラの精神が凪に近づけば、この弱体化は無効化される。

 ならば、今のカグラは――

 そう考えて、カグラの瞳を覗き込んだ時、理解した。

 意識を、研ぎ澄ませている。

 高揚を抑え、極限まで思考を平行に保ち。

 明鏡止水の境地へと、いたろうとしているのだ。

 それは、すなわち――

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!?』

 

 

 その言葉に、普段ならカグラは笑みを浮かべていたはずだ。

 しかし今は――笑みを浮かべず、感情を感じさせない顔で返す。

 

「ようやく気づきましたか」

 

 端的に、凍てつくような声音で、返した。

 

「ようは、単純な話です。戦闘中に意識を研ぎ澄ませる。普段の私の戦い方とは異なりますが、戦闘においては有効な手段です。明鏡止水、剣の里で教えられる境地へ至ることで――」

 

 そして、カグラが動く。

 その動きは――完全に幻象の弱体空間の影響を脱していた。

 

 刃と刃がが鳴り合う。

 火花を散らして、闘志を燃やして。

 ただ、純粋に両者が激突するのだ。

 速度、威力、技のキレ――全てにおいてリンカが上回っていても、なお。

 剣戟は成立している。

 カグラの、究極的なまでの”人読み”によって。

 

『読みが、正確すぎる! 普段のカグラの読みは、本気の半分も出てなかったとでもいうの!?』

「楽しかったですからね、刀を振るうのが。それに意識を取られすぎていたことは否めません」

 

 意識が研ぎ澄まされきった今のカグラは、完全にリンカの次の一手を読み切っている。

 もはやどれだけリンカがカグラの意表を突こうとしても、それを先んじて読み切ったカグラがそれを完封するだろう。

 無論、スペック差までは埋められないため、リンカが負けるということはない。

 なんだったら、ずっと逃げ回っていればカグラもどうしようもないだろう。

 だが、それでも――

 

『ここまで来て――逃げられないわよ!』

 

 その言葉とともに、周囲に無数の影に包まれたリンカが出現する。

 どれもがリンカのお気に入りの武具を手にしていて、カグラに狙いを定めていた。

 

「影ねえさまはスペックが低いですし、これだけの数を戦闘しながら操るのは難しいでしょう」

『ある程度なら、自動操縦ができるのよね。それに使い方は――思考が必要な使い方じゃない! ()()()()()()()、私たち!』

「――!」

 

 無数のリンカは、一直線にカグラめがけて突っ込んでいく。

 切り払われたらまた出現し、躱されたらもう一度狙う。

 ただそれだけのギミックとしてリンカは影を使った。

 いくらなんでも大量の飛び道具が四方八方から飛んでくれば、カグラもやりにくそうだ。

 今のカグラは、スペックがリンカに届いていない状態で無理やり先読みによって攻撃を捌いている。

 だが、その先読みも読まなくては行けない相手が増えれば、対応が間に合わなくなるのだ。

 結果、押し返し初めていたカグラが、再び押され始めた。

 ――ここまでくれば、後は時間との戦いだ。

 

 カグラが五重強化に到達するか。

 リンカがそれより先に押し切るか。

 

 リンカは振るう、勝利のために無数の得物を。

 カグラは舞う、勝利のために意識を氷のように研ぎ澄ませ。

 

 もはや、どちらが上ということはない。

 互いに互いの最強を押し付けて、自分こそが強者なのだと名乗りを上げる。

 意地と意地のぶつかり合い。

 もし、両者の差をほんの少しだけ分けるものがあるとしたら。

 

「――思うんですよ。リンカねえさまと、ずっとこうしてたいなって」

 

 激しい打ち合いの中で、ぽつりとカグラが零す。

 そんな心の余裕、研磨仕切った精神のどこにもないはずなのに。

 どうして、そんな言葉がこぼれ落ちるのか。

 

「もちろん、また戦うことはできます。でも、この戦いはもうすぐ終わっちゃうじゃないですか。そうなった時、思うんですよ」

 

 リンカの槍が最速で突き出される。

 カグラはそれを、十体の影を連続で捌きながらギリギリで回避した。

 その表情は氷のように凍てついていて――そしてどこか、

 

「――楽しかったな、って」

 

 笑っているように思える。

 ああ、人って笑わなくても笑顔を他人に伝えられるものなんだ、と。

 そんな、本当にどうでもいいことをリンカはふと、考えた。

 でもそれは同時に、カグラという存在を端的に表しているようで。

 

『ああそっか、カグラは――』

 

 ふと、口にする。

 その時には、カグラはリンカの後ろを取っていた。

 

 ――疾い、あまりにも。

 これが、五重強化。

 

 

『ただ、楽しみたいだけなのね。強くなることも、勝つことも、――生きることも』

 

 

 あまりにも、当然すぎるカグラの生き方を、口にする。

 それは、いうなれば――

 

 ()()()()

 

「ええ、楽しいですよ。とても――とても!」

 

 カグラがただ強さだけを求めるのは修羅である以前に――天衣無縫の修羅なのだ。

 

 たん、と軽い音が室内に響く。

 カグラは、リンカの腰に提げたれた幻象を、ケリ抜いていた。

 それからしばらく短剣は宙を舞い、やがて地に転がる。

 幻象を手放したことでリンカと幻象のつながりが消え、幻象によって行われていた身体強化も、影も、そしてなにより分体も。

 ゆっくりと、溶けるように消えていく。

 

 ――かくしてリンカは、ここに敗北した。

 だけど不思議と、その胸にはどこか楽しさが余韻として残るのだった。




本作の書籍化が決定しました!
KADOKAWA様より出版します。

また、それに合わせてタイトルが変更になります。
あんまり変わってないですが、今後とも天衣無縫をよろしくお願いします!
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