転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百一 二人は二人の道を征く

 私は、澄み切った意識をゆっくりと正常へと戻していく。

 こんなふうに、心を落ち着けて刀を振るうことがあるなんて、人生とはわからないものだ。

 無論、それは決して悪いことではなく、自分がまた一つ成長したということでもあるのだけど。

 幻象を回収してから、リンカねえさまが目を覚ますのを待つ。

 あまり強く叩いたわけではないから、復帰は早かった。

 

「ん……カグラ」

「おはようございます、ねえさま」

「……負けちゃったわねぇ」

「勝ちましたよ、ええ」

 

 起き上がるリンカねえさまの横に、私はそっと腰を下ろす。

 ボロボロになった宿痾教徒の拠点で、特に何をするでもなく座り込む私たち。

 なんだか不思議な光景だ。

 リンカねえさまも同じことを思ったのか、少しおかしそうに苦笑した。

 

「別に、ここで座り込んで話す必要はないんじゃない?」

「なんとなく、話すなら今かな、と思いまして」

「……そうね」

 

 それから私たちは、今回の戦いやらなんやらについてを、ぽつぽつと語り合う。

 幻象のこと、ナティラリア様のこと、フヅキ様のこと、ユウコさんのこと。

 ソアナさんとデカパイプリンのことにも、話が及んだりした。

 まぁようするに、今回起きたことを概ね全部振り返ったのだ。

 そうして最後にこぼした言葉は――

 

「いやぁ……色々ありましたねぇ」

「色々合ったわね……」

 

 という、なんともぼんやりしたものだった。

 でも、色々あったというのは本当だ。

 滞在期間で言えば、シドウ様とラリスの街にいた時の方が長かった。

 だけど濃さでいえば、二つは甲乙つけがたい濃密なものである。

 特にこっちは、日数が短い分より過密だったと言えるのではないだろうか。

 まぁ、ラリスの街にいたころは、これ以上濃密な経験を今後得られるか心配していたのだけど。

 多分、それに関しては今度一切、心配はいらなそうだな。

 

「……さて、と」

 

 ふと、そこで空気が変わる。

 振り返りが終わり、次に話題に登るのは、当然――

 

 

「これから、リンカねえさまはどうするんですか?」

 

 

 ――これからのことだ。

 ここまでリンカねえさまは、長く私と一緒に行動してくれていた。

 でもそれは、リンカねえさまにそうする余裕があったからだ。

 多分、今後はそうではない。

 

「――異大陸への渡航の準備を進めようと思うの」

「……やっぱりですか」

 

 前を向いて、今後のことを語るリンカねえさま。

 私は、少しだけ寂しさから視線を逸らす。

 今までずっと一緒にいてくれた人が、これからは別の道を進もうとしているのだ。

 リンカねえさまは、ナティラリア様に使える七刀。

 立場ある人で、そして自分なりの目的を持っている。

 

「割と、溜まってる仕事が色々あるみたいだしね。幻象の一件もあって、更に仕事が増えちゃった」

「あはは……ご迷惑おかけします」

「いいのよ、むしろ迷惑かけたのはこっちでしょ。幻象、いきなり奪っちゃってごめんね」

「いえいえ。その方が楽しそうだなぁ、と思った私にも原因はあります」

 

 リンカねえさまは、異大陸に行く。 

 私もそれについていきたいけれど、はっきり言って私にやれることはあまりない。

 ヤーファンで立場があるわけでもないし、七刀でもないのだから。

 それに、異大陸にリンカねえさまが行くのは数年後だ。

 その間に、私は私でやることがある。

 

「カグラは、これから六大宿痾を倒すために、魔境と魔竜峰……だったわね」

「ええそうですね、リンカねえさまが渡航準備を終える頃には、全部終わってるはずです」

「随分大きく出たわね……まぁ、幻象があればそれくらい言えそうだけど」

 

 すごかったですからねぇ、パワーアップねえさま。

 あんな感じでぎゅんぎゅんぎゅんと強くなれるなら、色々とわっくわくです。

 

「……まぁ、幻象は魔境だとちょっと使いにくいかもしれないけどね」

「……というと? あ、いえ、試してみれば解りますので、後でやってみます」

「そうね。あとまぁ、七刀なのに勝手に離脱しちゃってごめんね。戦力がほしかったらフヅキを連れて行くか、シドウに声かけなさいよ」

「そこは、実際に魔境に行ってみてから考えます」

 

 確かに、リンカねえさまが離脱すると戦力が低下する、という問題はなくはない。

 でもまぁそれに関しては、必要ならリンカねえさまの言う通り、他の七刀に援軍を頼めばいいから問題はないだろう。

 六大宿痾がすでに三体倒され、残るは三体。

 手の空いた七刀に援軍を頼めば、まぁいい感じになんとかしてくれるだろう。

 

「……じゃあ、後始末が終わったら本当にリンカねえさまとは一旦お別れですかぁ」

「そうねぇ。なんか、もう半年近くカグラと一緒にいたから、全然実感わかないわ」

 

 それは確かに。

 リンカねえさまは、だいたいいっつも私の隣にいてくれたから。

 もう、すっかりそれが普通になってしまっていた。

 一人旅かぁ、思い返すと殆ど経験ないんですよね。

 剣の里を出てから、襲われている馬車を助けるまでのほんの短い区間だけだ。

 

「そういえば、一度剣の里に帰るのもいいかもしれませんね」

「ああ、確かに。せっかく近くまで寄ってるんだから。このまま魔境を目指すと、早々帰ってこれなくなるわよ」

「五重強化で全力で飛ばせばすぐなんですけど、それはそれで情緒もないですしね」

 

 六大宿痾復活までは猶予があるわけだから、一旦剣の里に顔を出すのも悪くはない。

 色々と、やりたいことはある。

 幻象を”慣らす”のも必須事項だ。

 今後、六大宿痾と渡り合うなら、特に。

 なにせ次の六大宿痾は――二体同時に相手をすることになるのだから。

 

「あとアレよ、宿痾教徒にも気をつけなさいよ。魔境は連中の総本山なんだから」

「言われてみればそうですね。ラリスは魔境から遠いですし、ヤーファンはこの間国内から一掃されたばかりなので、意識することありませんでしたけど」

 

 現在自分たちがいる場所を思い出して、リンカねえさまが指摘してくる。

 宿痾教徒。

 宿痾の主を信奉する邪教集団。

 魔境には、彼らが聖地と崇める教団の総本山がある。

 六大宿痾と戦うということは、当然彼らと激突するということでもあるのだ。

 正直、対人戦は面倒なのだけど、やらないわけにも行かない。

 

「ま、そいつらのことをアルケとマギナにまかせて、自分ひとりで六大宿痾の相手をするって選択肢も、カグラにはあるかもしれないけど」

「アルケ様とマギナ様――錬金剣士と、魔術剣士」

 

 ふと、リンカねえさまから魔境で活躍する二人の七刀の名前が出た。

 双子の姉妹で、一人は錬金術に、一人は魔術に精通する剣士。

 錬金剣士のアルケ様と、魔術剣士のマギナ様。

 魔境では、自然とこの二人が私と関わる七刀になるだろう。

 

「あとそうだ。フヅキに七刀になる許可、もらっときなさいよ。ここでアイツを逃がすと、行方不明になって見つからないなんてこともあるかもしれないから」

「あはは……」

 

 なんというか、こうやって色々と指摘されると、やることが多いなぁと言う気持ちになってくる。

 ただそのかわり、時間もたっぷりあるのだ。

 やりたいことから、手を付けていけばいいだろう。

 まずは、そうですね――

 

「……よし、このまま寝ましょう!」

「え、ここで?」

「リンカねえさまの倉庫まで戻って寝ましょうか。何か、寝る場所ってありますよね?」

「まぁあるけど……いやダメよ、洗濯してないし」

「…………」

「そんな目で見るのはやめてちょうだい!」

 

 いやだって、流石にそれは……アレでしょう。

 まったく、本当にまったく。

 

「……ふふ」

「……はは」

 

 なんて、いつも通りのやり取りをして、私たちは笑い合う。

 さっきまで、本気で戦っていたのはウソみたいに。

 ああ本当、やりたいことは盛りだくさん。

 今後のことが楽しみで仕方ない。

 

 娯楽に飢えて強さを求め、ここまでやってきたけれど。

 

 

「――私、楽しいです」

 

 

 今、この瞬間は。

 生きていてよかったと、心の底から思うのだ。




というわけで本章も終了となります。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
次回は魔境編、多分三章構成位になるとおもいます。
長さはラリスよりちょっと長いくらい。
次回は結構早めに開始できると思います、遅くとも今月中には。
書籍もそのうちでます、よろしくお願いします。

評価、感想いただけますと幸いです。
特に高評価が入るとカグラの胸が更に大きくなっていきます!
よろしくお願いいたします!
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