転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百四 傍若無人カグラちゃん

 さて、今回の宿痾教団壊滅についてのあれやこれやをまとめておこう。

 私とアルケ様はこれから、幻象とそれを発見した教徒の一人として教団に戻る。

 そこで幻象としての立場を活かしながら、情報を集めつつ終わったら拠点を破壊するというのが作戦の簡単な概要。

 

 んで、初っ端からアルケ様はバイクで教団の拠点を一部叩き壊したわけだけど、特に何も言われなかった。

 流石に顔を出してたらアルケ様だとバレバレなので、兜はかぶっていた。

 だけどそれでも、あまりに怪しい挙動だ。

 普通は何かしらの文句でも飛んでくるはず。

 しかしそうはならなかった。

 正確に言うと、何もいえなかったのだ。

 なぜなら――

 

「頭が高いぞ! 誰の御前と心得る、無礼者! この方こそ我らが救い主にして神、六大宿痾が一角、幻象様である!」

 

 なぜなら、()()()()()()()()だから。

 

「は、ははあ!」

「う、うむ、くるしゅうないですよ」

「幻象様もこうおっしゃられている、寛大な御心に感謝するがいい」

 

 今、私の隣でなんだか勿体ぶったようなものいいでアルケ様が煽るように、六大宿痾は彼らにとって神同然の存在だ。

 そんな六大宿痾の一角である幻象を味方につけたアルケ様に、逆らえる者なんていない。

 結果として、私たちは明らか怪しい存在であるにも関わらず、なんら問題なく拠点に潜入できていた。

 と言うか……

 

「幻象様は、この拠点の詳細な情報を求めている!」

「ははー!」

「幻象様は、宿痾教団の全体の規模について知りたがっている!」

「ははー!」

 

 ちょろすぎ!

 いやほんとちょろい、幻象が知りたいといえばなんでも全部教えてくれる。

 どころかこっちが聞きたいことも含めて、あらゆることが素通しなのだ。

 

「いいんですかね? 本当にいいんですかね!? 絶対怪しいのに!? バイクでインしてきたのに!?」

「はっはっは、彼らの中にも怪しいと思っているやつはいるはずさ。でも聞けない。なぜなら君は幻象だから!」

 

 教徒たちに当てがわれた、それはもう豪華な部屋の中で、私とアルケ様は現状を確認していた。

 いや本当豪華な部屋だ。

 あちこちに高価な調度品が置かれていて、ベッドもこっちの世界どころか前世でもそう体験できないレベルのふかふか具合。

 うーん、ここで過ごしてたらダメになりそう。

 

「そもそも、私が幻象だと言う発言を、どうして彼らは無条件で信じるのでしょうか」

「それはもちろん、彼らが幻象の瘴気を判別できるからさ」

「できるものなんですか? 直接相対して何かしら記録すればいけるとは思いますけど」

「一部の六大宿痾については、記録があるそうだ。魔竜峰の六大宿痾と、幻象、そしてこの魔境を作ったとされる六大宿痾に関しては、間違いなく」

 

 狐火の瘴気を記録できているかは怪しいそうだ。

 少なくとも、シドウ様は教徒と狐火を邂逅させた覚えはないと言う。

 魔境にいるもう一体の六大宿痾については、現状不明。

 これから調査する中でわかってくるだろう。

 

「とにかく、こうして教団内部に入り込むことはできた。あとは情報を搾り取りつつ教団を解体していこう」

「お、おー」

 

 話はまとまって、結論としてはこのまま傍若無人を貫くこととなった。

 ただやっぱり、正しいことをしてるからって無茶振りをしすぎるのは、ちょっと気が引ける。

 その点アルケ様はまっっっっったくそんなこと気にしないようで、部屋には無数の錬金道具が並び初めていた。

 自分の正体を隠すつもりもなさそうである。

 

「んぐんぐ、しかし教団も結構いいもの抱えてるじゃないか。これなら暇つぶし程度の研究はできそうだよ」

「もぐ……楽しそうですねぇ」

「おーっと、カグラくんももっと食べていいんだからね? これは君に捧げられたものなんだから!」

 

 他にも、色々と豪華な食事が部屋には並んでいる。

 焼き立てのステーキから、山積みのフルーツまで、どれもこれも今まで食べたことのないような美味しい料理ばかり。 

 どこから調達してるんだ、これ……と思ってしまうくらいの代物がズラリ。

 教団の周囲は荒野となっていて、瘴気はそこまでではないけど作物が育たなそうな感じなのに。

 

「多分、ずっと保管してあったんだろうねぇ。六大宿痾が来た時の歓待用として」

「……下手しなくても、数百年単位で魔導袋の中に入ってそうですね?」

「おや、君はそういうの気にするタイプかい? すこし意外だなぁ」

 

 鮮度を保てるタイプの魔導袋に保管されていた料理の鮮度は落ちない。

 けど、気になるものは気になる。

 この世界だと、そういう人間はいたりいなかったりだ。

 気にしない人も多い。

 魔導袋が実用化して、それこそ数百年以上が経過している。

 こういうところで異世界っぽさを感じたりしなくもないなぁ。

 

「カグラくんって、基本的に真面目だよね」

「そうですか?」

「僕とは正反対だ。僕は真面目じゃないけど、真面目にしてないとマギナに怒られるから真面目なときもあるだけなんだよ」

「それはなんとなくわかります」

 

 ここにやってきて数日、情報もある程度集まってきた。

 教団には二人の中心人物がいて、その二人は現在教団にはいないようだ。

 で、教徒を一網打尽にするだけなら直ぐに可能である。

 しかし、教団はこの中心人物二名のカリスマ性で成り立っているらしく、こいつらを潰さないとまたどっかで教団が復活するらしい。

 厄介な。

 まぁそもそも、歴史上何度も教団は壊滅に追いやられては、別の指導者によって復活してきた経緯を持つ。

 殲滅してもしきれないのが宿痾教団なのだ。

 それでも、やらないわけにはいかないのである。

 そこら辺の話は長くなるので置いておくとして――

 

「まぁまぁ、こういうのは慣れだよ、慣れ。やってほしいことをやってもらうだけでいいから頼んでみるといいじゃあないか」

「やってほしいこと……と、いわれましても。大体のことはアルケ様がお願いしてしまっていますし。……うーん、でもなぁ」

 

 一応、頼みたいことは在る。

 やりたいこともなくはない。

 けど、いくら幻象の頼みだからって、受けてくれるのかっていうと少し疑問が残る頼みなのだ。

 まぁ教団の中心人物たちが戻ってくるまで、やることもないしなぁ。

 だったらちょっとくらい、試してみるのもありか。

 

「失礼いたします」

 

 ちょうどその時、タイミングよく一人の教徒が入ってきた。

 入ってきたのは結構ガタイのいいおっさんである。

 顔はフードを目深く被っているので見えないが、結構体つきはがっしりしていた。

 うん、なるほど。

 ……悪くないですね。

 

「失礼、そちらの方。少し頼み事をしてもいいですか?」

「はい! なんなりと!」

「おお、すごい前のめり。では早速なのですが――」

 

 私はそれまで、寝転んでいたベッドから起き上がる。

 何かを察したのか、アイテムをつかって部屋に持ち込んだ錬金道具をアルケ様が一瞬にしてしまっていた。

 直後――

 

 

「あっそびましょーーーー!」

 

 

 私は勢いよく、おっさんに飛びかかった。

 するとおっさんは、私のケリを正面から受け止める!

 おお、多重強化を使っていないとは言え、普通に身体強化つきのケリを受け止めるとは。

 だが、流石に――

 

「よーいしょ!」

「うぐおおああああ!?」

 

 私が地面に着地してから、更にケリを叩き込むと吹っ飛んだ。

 ごろごろと転がって、壁に叩きつけられる。

 

「まぁこんなものですね。如何でしたか?」

「幻象様に……このような……光栄……です……がくっ」

「めっちゃ幸せそうな顔で気絶しました……!」

「そりゃまぁ、そうなるだろうねぇ」

 

 ひとまず、よおくわかった。

 私が喧嘩を売れば、喜んで教徒達は買ってくれる!

 つまり、喧嘩、売り放題。

 

「――――ふひょ」

 

 私は、思わず悪い笑みが浮かんでいた。

 

「こんな……こんな素晴らしい場所があったなんて……どうして教えてくれなかったんですか、アルケ様!」

「なんていうかカグラくんって……真面目ではあるけど、ネジを自分から飛ばしてかっとぶタイプなんだね……」

 

 ふひょおおおお!

 滾ってきましたよおお!

 

 

 +

 

 

 そこからの私は早かった。

 目に付く教徒に喧嘩を挑み、了承を得たら(得てない)即座にドロップキック。

 全員喜んで、ばったばったと倒れていってくれた。

 ちなみに、倒れるとそのまま教徒達が起き上がることはない。

 何故かって言えば、幻象の効果が発動して魂がとらわれるから。

 そういえばそんな感じの効果もありましたね……

 別に解除してもいいのだけど、魂が囚われている分には生命維持さえすれば別に問題はないので、このままにしておく。

 というかなんなら、最初に気絶させた調査隊の人たちも別に目は覚ましていない。

 だって私たちは教団を制圧するためにここにいるんだから、戦力は減らしておいた方が後々楽になるのだ。

 と、アルケ様は言っていた。

 割と真面目にどっちが悪役かわっかんないね!

 で、それはそれとして、

 

「はーっはっはっは! もっともーーーっといっぱい持ってきてください!」

 

 私は盛大に暴れていた。

 傍若無人の極みにあった。

 具体的には、教団の防衛地点で暴れ回っていたのだ。

 

「うひょひょ! 次! 次ィ!」

 

 教団も魔境の中にある以上、常に魔物の脅威に晒されている。

 魔物は人類の文明を滅ぼすことを優先して、外へ外へと出ようとするため、境界騎士団が相手する量よりは少ないものの、数は多い。

 加えて教徒達は宿痾の主を信奉しているものの、魔物は信奉していない。

 むしろ彼らにとって魔物は、同担ってやつなのだ。

 そして同担拒否の教徒が多いことから、魔物に命を捧げる者は少ない。

 後単純に、彼らにとって魔物は使役する存在であるというのも関係していた。

 

「おひょおおお!」

「魔境の魔物と教団の魔物が区別なく吹っ飛ばされている……これも幻象様のお導きか……」

 

 何せ彼らは魔物を飼い慣らしているのだから。

 ヨースの宿痾教徒が魔物と宿痾の主を研究していたのと同じで、彼らには魔物を捕獲して操縦する技術があるのだ。

 でないと彼らが、魔境で生活することは不可能である。

 教徒たちの中に、境界騎士団で戦うような精鋭はいない。

 基本的に、いろいろあって表の世界では生きられなくなった者達のゴミ溜めみたいな場所なのだ、ここは。

 

「まあ、私は楽しいからなんでもいいですけどねえ! もっともっと魔物持ってきてくださーい!」

「しょ、少々お待ちを!」

 

 こうすることで、私は楽しく喧嘩をしつつ、教団の戦力も減らせる。

 一石二鳥というやつだ。

 流石に、それで防衛力を削った結果教団に被害が出るのは寝覚が悪いので、ついでに外部の魔物も退治。

 いくらこの後とっ捕まって裁かれる立場だとしても、その裁定は司法に委ねるべきなのだ。

 

「いやあしかしなんというか」

「どーしましたか? アルケ様」

 

 私の様子を見ながら、アルケ様は声をかけてくる。

 現在アルケ様は箒に乗って空を飛んでいた。

 いやそれ、魔術師のやることじゃない? と思うかもしれないが、錬金術師である。

 なぜなら箒はブースターが搭載されているから!

 それによって、ごーごーと音を立てて箒は飛んでいる。

 すごい!

 

「なんて言うか、一度タガが外れると君の方がやばいね」

「なんてことを言うんですか!」

 

 否定は一切できませんけど!

 教団の魔物はもはや底を突き掛け、教徒の大多数が昏睡してるけど!

 もはや私と幻象どっちが六大宿痾かわからないけど!

 

「いやあ、僕だって別にここにいる連中を全員昏睡させるつもりはないんだよ」

「私だってないですよ、料理をしてくださる人は残します」

「俗! いやまあ、それはそれだけの意味じゃないんだけど。なんて言うかな……ここまでやって()()()()()()()()ってのは、結構変なのさ」

「そんなものですかねえ?」

 

 ざっくばらんに魔物を切り倒しつつ、疑問符を浮かべる。

 まあ実際、喧嘩を売るときは相手に合わせているのが今の私だ。

 同じくらいの実力で喧嘩をした方が楽しいというのもあるし、うっかり全力を出すとミンチになる人がほとんどだから、というのもある。

 

「別にそれは良くないですか? どうせ最終的には裁かれるんです。一生日の光を浴びられない人もいるでしょうし、生きていても死んでいても結果は同じことが多いです」

「そうだね、だからこそ君が殺さないことには、意味があるのさ」

 

 この世界の倫理だ。

 命が軽いファンタジー世界の倫理。

 大抵の場合はそこまで影響がないから、いまだにちょっと馴染めていない。

 私が修羅であるという話もあって、人殺しは避けたい関係上、馴染むことは難しいだろう。

 

「ピンときてない顔だねえ。しかし状況判断はできている。なら問題はないさ、今はこの言葉を覚えてくれているだけでいい」

「わかりました!」

 

 さて、話を終える頃には魔物がいなくなってしまっていた。

 これでは如何せん満足しかねる。

 もっともっと切り合いたい!

 というわけで、

 

「さて魔物退治も終わったことだし、そろそろ一休み……」

「じゃあ、魔物を呼び寄せますね!」

「え?」

「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

「えっ!?」

 

 ここ二ヶ月、魔物を呼び寄せまくっていた私の雄叫び。

 魔力を込めて叫ぶことで、ここに人間がいると魔物に知らせるのだ。

 しばらく待っていると、ドタドタと遠くから音が聞こえる。

 私はさらにうおおおー、と叫んで魔物達をこっちに誘導する。

 

「ねえねえカグラくん!? なんか一部に宿痾の主も見えるんだけど!?」

「え? 魔境なら普通にいる者じゃないんですか?」

「いないよ!? 普段はもっと瘴気のこい魔境の奥の方にいるんだよ!?」

「ええ? 私はいつも相手してますけど」

「う、ううーん」

 

 アルケ様は頭を抱えてしまった。

 そんなに普通じゃないんだ……宿痾の主召喚。

 まあでも、来てくれたからには楽しく処理させてもらうとしよう。

 

「よーしでは、全速力で行ってきますー!」

「ああ、ちょっとまっ!」

「幻象様! こちらに接近する宿痾の主が多数現れたとうわあああああ!?」

 

 なんか後方はカオスなことになっている気がするが、気にせず私は宿痾の主を狩っていく。

 奥の方にいる強い宿痾の主と言っても、今の私はそれを軽く凌駕する六大宿痾級の力を持っている。

 一撃でそれらをスパスパ切り飛ばして、次に飛び掛かるのも容易いこと。

 しばらくそうして、魔物との戦いを堪能した。

 うーん、二ヶ月で流石に飽きがきたと思っていたけど、ここ数日はのんびりしていたからまた楽しいなあ。

 明日もやろう。

 というわけで、一通り魔物とかを掃除して戻ってくると……

 

 

 何やらゴーレムに取り押さえられながら咽び泣く宿痾教徒と、肩で息をするアルケ様の姿があった。

 

 

「な、何事ですか!?」

「はぁ……はぁ……教徒たちにとって、宿痾の主と六大宿痾の激突とか、まさに神話の出来事なんだよ。自分たちもそこへ飛び込みたいって暴れ出してね……」

「お、お疲れ様です」

「ここにいるのは、数少ない料理ができる教徒なんだ。彼らがいなくなったら僕達が困るんだよ!」

 

 ご、ごめんなさい……

 とりあえず、もし今度同じことをやるなら、教団から離れたところでやる、ということで落ち着いた。

 もう教団をまもる魔物も、教徒の漸減も概ね終わった。

 あとは教団の中心人物二名が返ってくるのを待つだけなのだそうだ。

 そういうことなら、数日もすれば帰ってくるだろうし、私もゆっくりしていられるだろう。

 ……多分。




書籍版の表紙が公開されました。
カグラのビジュアル初だしになります!

【挿絵表示】

結構……でかい。
なお、脱ぐとめっっっっっっっっちゃデカいです。
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