転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
教団へ足を踏み入れてから、数日。
いよいよ私とアルケ様は、やることがなくなり始めていた。
魔物の掃討は完了し、宿痾教徒から聞き出すべき情報は聞き出せてしまったのだ。
今なら、即座にこの教団を制圧することができるだろう。
ただし、中心人物がいないため、その中心人物二名に逃げ出されたら、また別の場所で教団を作られることになる。
教徒達は、ぶっちゃけただここにいるだけの狂信者なのだ。
そんな狂信者を心酔させて、徒党を組ませることの出来るカリスマ的な指導者のほうが、どう考えても厄介だろう。
「というわけで、暇なのですがー」
「外へ魔物を退治しに行く、というのはどうだい?」
「それはもう朝のうちに済ませてきまして……今日は叫んでも魔物がやってこないかと」
「そっかぁ」
先日から、少しアルケ様の私にたいする態度が、諦めに近くなっている気がする。
そういうアルケ様だって、普段は傍若無人もいいところって感じなのに。
具体的には、ここは幻象である私にあてがわれたはずの部屋なのに、部屋の七割くらいをアルケ様と錬金道具が占有しているのだ。
まぁ、私としてもこの部屋にはベッドと食事のスペースがあれば十分なので、文句はないけど。
暴れるなら、外に行って暴れればいいんだよ、うん。
「とすると、やっぱり五重強化の練習ですかねぇ。もうあまり成果は見込めないのですが」
「ふむ、五重強化か。……君の多重強化には、前々から興味があったんだよね」
「お、見学しますか? 人に見られて意見を求めるという鍛錬も、嫌いではないですよ?」
「そうだねぇ」
アルケ様は、先程までなにやら書き物をしていた。
んで、何やら考え事をしながら筆を置き、散らかった錬金道具の中を歩き回る。
錬金道具が部屋の七割を占有する理由の一つが、整頓されてないからだ。
本人曰く、これが最適な状態らしいけど。
まぁ、私もそこまでマメなタイプではないから、あまり人のことは言えないんだけどね。
「……よし、ただ見せてもらうだけじゃ悪いからね、こうしよう」
「どうするのですか?」
「私がもぎせ――」
「やりましゅううううう!」
私は即答した。
そして、しゅばっとアルケ様に飛びつく。
「ひっ」
アルケ様はちょっとビビった。
うら若き乙女にたいして、失礼な!
何にしても、模擬戦だ、模擬戦!
七刀のアルケ様と、もっぎせーん! ひゃっほーい!
+
一応、最初にアルケ様と邂逅した時も、軽く手合わせはしている。
しかしあれは、お互い全く本気ではなかった。
だからこうして、命さえ取らなければ何をしてもいいガチの模擬戦というのは、燃える。
何よりアルケ様の方から提案してくれた、というのが最高だ。
剣の里の人間が試合を挑む以上、そこには勝算がある、ということなのだから。
ましてや錬金に詳しく、頭のいいアルケ様なら、きっと素敵な策を構えているはず。
ふふふふ、滾ってしまいますねぇ!
「さあさあ、やって行きましょうか!」
「テンションたっかいねぇ〜、まぁ若さってことで、それも良しとしておこうか」
現在私たちがいるのは、教団の側にある荒れ果てた荒野。
教徒たちには、外に出ないよう厳命して、間に挟まることのないようにしておく。
流石にガチのアルケ様と正面対決をしてる最中に、教徒達まで面倒は見切れない。
というか幻象デバフ空間を展開するので、近づかれると昏睡してしまう。
すでに昏睡した教徒のお世話も考えると、これ以上人員は減らせない。
個別で起こせばいいんだけど、面倒なので。
「じゃあ早速だけど、始めようか!」
「はい!」
私は自身の得物二本を抜き放ち、アルケ様は無骨な西洋剣を構える。
ただしその西洋剣は、今目の前で生成されたものだ。
なんとなくアルケ様の剣に対するスタンスが察せられる。
そして私は、デバフ空間を発動した。
しかしアルケ様に、デバフに対する影響は見られない。
「それにしても、どうやって幻象の結界の影響から逃れているのですか?」
「簡単だよ、おクスリさ。バチバチにキメてメンタルをひゃっはーにしてるわけ」
「ええ……副作用とか大丈夫なんです……?」
「そらあ!」
「答えてください!?」
私の問いかけを無視して、アルケ様が突っ込んできた。
速い!
アルケ様の魔力を考えると尋常ではない速度だ!
どういうことかといえば、背中を見れば答えがある。
「ジェットパック!?」
「はははは、この程度で驚いていてはいけないよ!」
なんてこった。
この人だけ完全にSFへ片足突っ込んでいる。
背中には、ブースターをごーごー吹かす機械。
これをジェットパックと呼ばずなんという!?
「まだまだ行くよ!」
「うわぁ、腕が増えるやつ!」
リンカねえさまも使っていた、腕が増えるタイプのアイテム。
錬金術で作られたのだろうそれは、かなりメカメカしいフォルムをしていた。
厄介なのは、それら一つ一つが剣の天才”七刀”の技術によって振るわれること。
威力で言えば、四重強化を使いこなす今の私なら、問題なく対処できる。
加えて、アルケ様の振るっている剣がどれも量産品であることから、剣をへし折るという選択肢も私にはあった。
「そらそら!」
「ぬうう!」
ただ、戦闘は成立している。
現在の私が使用しているのは四重強化と幻象のバフ、それからデバフ。
このうちデバフはおクスリで無効化され、今のアルケ様の速度は四重強化にギリギリ追いつけるかどうかといったところ。
幻象のバフ分で、こちらが優位に立っているのを、アルケ様は剣術の腕だけで抑え込んでいる形。
「お強いですね……剣士として!」
「シドウには劣るけれども、七刀の中では上から数えたほうが早いくらい強いからね!」
七刀の現在の最強はシドウ様。
この一つ下に、アルケ様と魔竜峰で六大宿痾を抑える最年長の七刀が並ぶという。
その次がフヅキ様とマギナ様とかなんとか。
最近のリンカねえさまは、お強くなられましたし、幻象抜きでもフヅキ様と並ぶくらいにはなっていると想いますけどね。
まぁ、それは余談だ。
話を戻すと……結構厄介なのだ、現時点でもアルケ様は。
そして、まだ本気を出していないだろう、この方は。
「さぁ、上げていくよ!」
「っ!」
しかも、ジェットパック以外はここまで、本人の剣術しかみせていない。
つまり、まだ上があるってことだ。
たとえば――
「捕まえたぁ!」
「地面から手がぁ!?」
地面から、ぼこっとゴーレムの手が生えてきて私を掴んだり。
とはいえこれは、強引に掴んだ手を破壊してそのまま下がるだけなんだけど。
テンポがずれる。
それが結構やりにくい。
「遠距離攻撃も当然完備さ!」
「遠距離ってかミサイルですよねこれ!?」
ジェットパックから、ずどんとミサイルが飛んできた。
ホーミングしてくるから、やり過ごすことも難しい。
これ、こっちが対処するまでずっと追いかけてくるぞ!?
仕方なく切ったら、今度は爆発に飲み込まれてしまった。
ダメージは少ないけど、爆風でふっとばされる!
「ぬわーっ!」
「貰ったぁ!」
そこへ斬りかかるアルケ様。
態勢が悪く、サイドアームの二振りをそれぞれ疾討と幻象で捌くが本命の剣が防げない。
両手で振り下ろされた剣を、私は何とか身を捻って回避した。
けど、これ以上は体が稼働しない。
「――もう一発」
「んぎゃあ!」
そこを更にミサイルでふっとばされた。
とにもかくにも、様々なアイテムでアルケ様はこちらを追い詰めてくる。
そのスタイルはリンカねえさまにも近い手数型。
だけど何をしてくるか解らない感じは、圧倒的にアルケ様のほうがやばい。
こちらの方がスペックで上回っているから何とかなっているけれど、向こうは更に手数を増やして追い詰めてくるだろう。
ダメージを蓄積させて粘り勝ちをするか、こっちも想像していないような手段で圧倒するか。
「――いいですね、これは」
思わずこぼしていた。
ああ、いい。
こういう強敵との対決は、リンカねえさまとの決戦以来だ。
最近は格下相手との戦闘ばかりで、こういう経験に私は飢えていた。
だったら――こっちも、一段ギアを上げていくべきだろう。
「……五重強化」
ぽつりとこぼし、私はそれまで使っていなかった五重強化を解禁する。
本番はここからだ。
――そして、それを察したアルケ様もまた、二イっといたずらっぽい笑みを浮かべて私にせまってきていた。
+
――アルケ様の剣は、センスの剣だ。
七刀の剣はどれも天才的。
私みたいな人読み一辺倒だと羨ましく感じられるくらい一つ一つの動きが冴えている。
中でもひときわ才能という面で振り切ったものを持っているのが、アルケ様。
シドウ様を頂点とする現行の七刀において、才能という面でそれに並び立つのがアルケ様だという。
そこに錬金術師としての頭の回転の早さも加われば、本来ならばアルケ様こそが次世代の七刀最強と言っても過言ではなかったはずだ。
魔力が乏しいという、根本的な欠陥さえなければ。
魔力の総量は、基本鍛えれば鍛えるほど増えていく。
しかし身体強化に使える魔力量には限りがあるため、ある一定以上の量があれば剣士としては問題ないはずなのだ。
私はこの一定以上の量に、成長すれば届くだろうというくらいの量。
剣士としては平均的で、多いとも少ないとも言えない。
だけどアルケ様はそれ以下。
そもそも、アルケ様の場合、ある一定の年齢から魔力が育たなくなってしまったのだという。
そういう体質的な問題は、この世界でも時折発生する。
中には魔術や錬金術で治療できるものもあるそうだが、アルケ様のそれは現状治療不可能とされている体質だった。
「――魔力さえあれば、と言われたこともあったけどね」
多種多様なビックリドッキリウェポンで、私を追い詰めるアルケ様。
先程まで使用していたものの他に、ドローンと爆弾を投入してきた。
特に前者は、剣で切りかかってきたり爆弾を投下してきたりとやりたい放題。
ただ、こちらも五重強化を切っている。
とにかく向こうのペースに飲まれないよう動き回りながら、時折牽制のように切りかかっては一撃離脱を心がけていた。
膠着している。
しかし、それでも問題ないと私は考えていた。
ここ二ヶ月戦ってきた魔物達との戦いよりも、戦況は激しい。
五重強化に慣れる絶好のチャンスである。
そのうえで、向こうが手を打ってくるのを待つべきだと、私は考えた。
すると、この膠着が、会話の機会を与えてくれるわけだ。
「僕自身、どうにかできないかと錬金術に手を出したのが、今の道を進むキッカケの一つではある」
「そうして、今の形に落ち着いたわけですね」
「ああ、七刀になって、君ともこうして戦えるようになった」
刃と刃がぶつかる。
私が全力で振り切った一撃を、アルケ様は見事に受け流して見せた。
そのまま、私が離脱することで攻防は終了。
お互いに振り返って、向き直る。
「私たちは……似ていますね。私の場合は、才も魔力も平凡そのもの、色々な要因がなければ修羅となっていた、と母上にも思われていました」
「あの人か……僕にとっても、あの人は恩人なんだ。僕とマギナが今の道を見出したのも、あの人のおかげだ」
お二人にとって、母上は少し年の離れた姉のような存在だっただろう。
同年代のフヅキ様は外部の出身だからあまり面識はないそうだけど、アルケ様とマギナ様にとって母上の存在は切っても切れないはずだ。
私もまた、そうであるように。
そして――アルケ様がぽつりと、その名を口にした。
「――――サクラ様」
サクラ、それが私の母上の名前。
母上は私と同じ白い髪色で、雪がよく似合う人だった。
でも、どこか雪の上に立つ母様は場違いなくらい美しくて、恐ろしい。
冬に咲くサクラのようだと、父上は言っていた。
「アルケ様は、どのように今の生き方へ至ったのですか?」
「どのように、かぁ。難しいね。幼い頃は才能を周囲から褒められて、天狗になっていた。でもすぐに、今の体質が判明した。マギナが
アルケ様が魔力に問題を抱えているように、マギナ様も身体に問題を抱えている。
とは、リンカねえさまから聞いていた。
「――世界を呪ったね」
端的に、呪詛がアルケ様の口から飛び出す。
あっけからんと何気ない様子で、けれどもその言葉には実感があった。
「カグラ、話は随分と変わるけれど――宿痾教徒がどうして宿痾を信奉するか、知ってるかい?」
「本当に随分と変わりますね? ……まぁ、なんとなくわかりますよ。そうするしかないからでしょう」
「宿痾を信奉するようになる人間は、色々な理由で人生を落伍してしまったり、爪弾きにされた者たちなんだ」
要するに、弱者がカルト宗教にハマってしまうようなものだろう。
それはどんな世界、どんな場所でも、一定数発生してしまうものだ。
彼らに対する同情の余地はある。
――ただ、だからといって人を攫って宿痾の主を再現するために使ったりすることが許されるわけではない、という話で。
「僕や君がそうならなかったのは、色々なめぐり合わせがあったからさ」
「私は……どうなのでしょう。仮に強さを求めていなければ、何事もなく空虚な人生を歩んでいそうですが」
少なくとも、前世がそうだったという実績があるからな。
まぁ、そういう話ではないということは解っている。
「どっちにしても……僕は、宿痾の主にすがる彼らの気持ちが、決してわからないわけではない……ということさ!」
「……っ!」
話をしながら五重強化の鍛錬をするというのは、中々有意義ではあったものの。
そろそろいいタイミングだと、アルケ様も判断したのだろう。
動きに変化が見られた。
無数のゴーレムが、地面から這い出してくる。
やはり錬金術師の王道はゴーレム、決着にからめてくるつもりだろう。
というか――
こいつ、ジェットパックで飛行しながら斬りかかりつつミサイルぶっぱして、切られたら爆発しやがる――!
「全部載せじゃないですかー!」
「ははははは! 魔境で宿痾の主に対抗するためには、これくらい必要なのさ!」
飛び交うゴーレム、一体一体の強さは何とかならんこともない。
ただどうやらアルケ様が並列して操作しているらしく、剣の冴えだけは超一流。
油断したらずんばらりと切られそうで怖かった。
対するこっちは、切ると爆発するせいで迂闊に踏み込めない。
爆発自体でも微妙にダメージを受けるうえ、爆風を隠れ蓑にアルケ様が突っ込んできたら普通に一本取られる可能性もある。
かといってアルケ様を狙おうにも、向こうはゴーレムを壁にとにかく逃げの一手を打ってきた。
ええい、ゴーレムが鬱陶しい。
「さぁ、どうするかいカグラくん!」
「むう、そうですねぇ……!」
なんとも派手なことだ。
アルケ様の強さがよく分かる。
シドウ様も、これには随分と手を焼かされるのではないか。
いや、あの人は爆発を全部無視して、一直線にアルケ様へ向かうだろうな。
爆風で視界が閉ざされても、直感で何とかするタイプの人だ。
私もアルケ様の行動を読むことで、爆風を逆手に取ろうかとも思うが……ダメだな、私はまだアルケ様を完全に理解できたわけではない。
なんだかんだ破天荒なんだもの、この人……!
だからどうしたものか、と考えて……ふと、思い至る。
「そのゴーレム、手動で操作してるんですよね?」
「ん? ああまぁ、そうなるねぇ」
「なるほど、つまり。
「……ん?」
そして――アルケ様本人はおクスリを決めているけれど、流石にその手足であるゴーレムに流れ込んだ意思まではどうにもならないだろう。
だから、ちょっと幻象の周波数みたいなものをいじることで――
――
「なっ」
「――隙あり!」
空中に浮かんでいたゴーレムが落下していく中、私はそれを足場に勢いよくアルケ様へ飛びかかり――
「どうですか?」
「……まいったよ」
アルケ様に疾討を突きつける。
「最後の最後で奇策だなんて……やってくれるね」
「私、意外性が強みなものですから」
かくして、模擬戦は私の勝利で幕を閉じるのだった。