転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百六 宿痾教徒にも歴史あり

 アルケ様との模擬戦が終わって、二日後のことだった。

 模擬戦で使ったアルケ様の錬金アイテムを補充したり、教団の外で魔物をボコボコしていたりと、穏やかな時間……穏やか……? な時間を送る私たち。

 そんな私たちのもとに、知らせが入る。

 

「幻象様、ニールネイ様とラフア様が帰還いたしました」

 

 食べたお菓子が歯に詰まったので、爪楊枝でカリカリしている私のもとに、残った数少ない教徒の一人がやってきた。

 結局、詰まったお菓子は取り出すことができず、なんとなくムズムズしつつもアルケ様と共に中心人物二名の元へと向かう。

 

「さて、既に何度か話をしたけど――この教団の中心人物、()()()()()()()宿()()だ」

「ええと……”梵賦(ぼんふ)”でしたっけ」

「ああ。この魔境を統べると言われる僕達の宿敵。()()()宿()()さ」

 

 梵賦。

 古くから、こいつは人類と敵対してきた。

 その歴史はとても古く、アルケ様達がここへやってくるよりもずっと前から、梵賦は人類の敵なのだ。

 その特性はとても単純。

 

「何より厄介なのは、その能力。相手の力を()()()()ことで梵賦は無限に強くなる」

「コピー能力、ですね。模倣できるのは、強さだけでなく姿までそうなのでしたか」

「ああ、だからヤツは人間になりすまし、時に教団を――時に騎士団を翻弄するのさ」

 

 模倣の他にも、他者に対する扇動能力というのは、凄まじいものが在るらしい。

 何しろ相手は長い長い年月を生きた、老獪な宿痾の主。

 人の感情というものは、ヤツにとって玩具でしかないそうな。

 

「現状、僕達騎士団は僕とマギナがそれぞれに梵賦を看破する技術を開発したから、入り込んでいる心配はない。変わりに、ここ最近の宿痾教団の動きからして、梵賦は教団に紛れ込んでいる可能性が高い」

「擬似的な宿痾の主を作り出すのも、梵賦の差配なのでしたっけ」

「そのとおり。でないと教団に宿痾の主に関するノウハウなんて転がり込むわけないからね」

 

 というわけで、とにかくわっるーいことばかりしているのが、その梵賦というわけだ。

 六大宿痾に序列のようなものはないとはいうが、一般的に梵賦こそが六大宿痾の頂点に位置する存在だと人類は考えている。

 そんな梵賦がなりすました人間と、私たちはこれから邂逅する。

 

「教主ニールネイ、及び教団の一切の事務を取り仕切るラフア。一体どちらが梵賦なのでしょう」

「さてね、情報を集める限りでは……正直どちらも怪しいからね」

「あと、両名が何を目的に、わざわざ二人で教団を離れていたのかも気になります。教徒は結局、だれも知りませんでしたし」

「まぁ、おかげで僕達も教団に入り込みやすかったとも言える。柔軟に対応しよう」

 

 ここからの目的は、ニールネイとラフアの捕縛。

 ただ、どちらかを捕縛しようとするともう片方に逃げられる可能性が高い。

 それを避けるためにも、同時捕縛が必須。

 加えて、どちらが梵賦かを見極める必要があった。

 捕獲するとなると、私とアルケ様が、それぞれ片方に飛びかかるのが最善手。

 この時、アルケ様が梵賦を引き当ててしまうと、大変なことになる。

 私が梵賦を抑えている間に、アルケ様がもう片方を捕まえるという面倒な手順が求められていた。

 

「で、どうやって見極めるんですか?」

「そうだねぇ……一言で言えば……」

 

 とか、なんとか。

 そんな話をしていると、教団の入口へとたどり着く。

 そこには二人の男女が立っていた。

 

「――当たって砕けろ」

「ちょっと?」

「出たとこ勝負さぁ。事前情報で何もわからなかったからね、しょうがない!」

 

 ええい、まぁこれまでも出たとこ勝負だったんだから、今回だってなんとかなるさ。

 こういうときのために、私は人読みを磨いてきたんだから。

 というわけで、私たちは二人に話しかける。

 

「失礼します」

「……何者だ、貴様ら」

「あらあらぁ、可愛いでかぱ……新入りちゃんねぇ。どうしたのぉ?」

 

 一人はしごできって感じの、ビシッとした雰囲気のおっさん。

 豪華な教主っぽい服に身を包んでいる。

 彼がニールネイだろう。

 もう一人は、いかにもえっちなお姉さんって感じの人。

 タイトなスカートに、胸元あけっぴろげなスーツっぽい服。

 紫髪の美女、ラフアと言ったか。

 ところでラフアさん、デカパイっていいかけました?

 

「何者……? まさかわからないのですか? 情けない」

「……何?」

 

 そして、私は事前に相談していた通り、自信満々な態度で幻象を抜き放つ。

 続けてデバフ空間も起動した。

 これで片方が昏睡してくれれば、一発でどっちが梵賦かわかるのだが――

 

「この瘴気を見て、わからないとはいいませんよ」

「あらあらあら、まぁ! 教主様、この子――幻象様のようですわ!」

「……何?」

 

 残念ながら、ふたりとも全く倒れる様子をみせなかった。

 何かしらの道具で対策を取っているのだろう。

 まぁ、これ自体は予測できたことだ。

 

「そうです、私は幻象――あなた達が崇める六大宿痾が一画は、こうしてここに降り立ったのです」

「まぁ、なんて素晴らしい……!」

「……」

 

 私が啖呵を切ると、ラフアという女性は眼を輝かせながら、私の前に跪く。

 対するニールネイは、なんとも威厳のある視線をこちらに向けていた。

 

「……そちらの者は?」

「彼女は、私をここに導いた信徒です」

 

 不意にニールネイが、アルケ様に視線を向けた。

 アルケ様は兜を被っており、ただ恭しく一礼するだけ。

 言葉は発さない、万が一にでもアルケ様の声が知られていたら、面倒なことになるからだ。

 しばらく、ニールネイは何やら無言で私たちを見た。

 警戒しているのだろうか。

 対するラフアは、今にでも私の足を舐めそうな勢いで、地に額をこすりつけていた。

 怖い。

 

「――他の信徒はどうした?」

 

 そうして、長い沈黙を破ってニールネイが問いかけてくる。

 私は別に隠すことでもないので、何気なく――

 

「昏睡していますよ? 私の力で眠らせています」

「えっ」

「えっ」

 

 返したら、なんか意外な反応が帰ってきた。

 いや、幻象に襲われたら意識を昏睡させるのは、流石にこの二人だって知っているはずだぞ?

 

「何をそんなに不思議そうなのですか? 私は幻象として、彼らに六大宿痾の力を振るったにすぎません。ああ、安心してください。命に別状はありません。幻象が奪うのは魂のみですから」

「待て待て待て」

「あと、全員昏睡させたわけではないですよ? あなた達お二人を待つ間、食事の世話をしてくれる方々は必要でしたから」

「いやいやいや」

 

 なんで二人して、そんなに困った様子なのだろう。

 なんとも人間味のある反応で、どっちかが六大宿痾だという事実が信じられなくなりそうだ。

 いや、完全な確証はないんだけども。

 

「え? というか、幻象様なのですよね!? ……受けました? 歓待」

「ええ、料理はとても美味しかったですよ?」

「百年溜め込んだ料理――――!!」

「そういえば、魔物はどうした。警備の魔物の姿も見えんが」

「暇なのでボコボコにしました」

「苦労して飼いならした魔物――――!!」

 

 二人は崩れ落ちた。

 え、なんですか。

 なんでそんなたそがれてるんですか!?

 アルケ様に助けを求めても、ぷるぷると震えているだけで反応はない。

 っていうか思いっきり笑いこらえてますよねこの人!?

 

「というか、教主様……」

「なんだ……」

 

 ふと、ラフアとニールネイが崩れ落ちたまま、言葉を交わす。

 

 

「……完全に乗っ取られてませんか? 教団」

「…………言うな」

 

 

 ああうん、それはまぁ、はい。

 この状況で仮に私が教徒達を解放しても、彼らは完全に幻象の薫陶を受けたと思っているから――従うのは私ですね、ええ。

 

 

 +

 

 

「ひいいい、昏睡している教徒の生命維持と、幻象様への接待で倉庫が空になっておりますうううう」

「本当に何をしても起きんなこいつら……おいところで倉庫にしまっておいた錬金道具はどこへ行った」

「これを補填するとなると……あああああああ! 教団の維持が不可能なダメージですわああああああ!」

「あれは儂が溜め込んだ歴史的にも価値のある……ぬううううううううう」

 

 やいのやいの。

 戻ってきたらニールネイとラフアは、それはもう嘆き倒していた。

 あっちへ行ってはあれがないと叫び、こっちへ行ってはもうおしまいだと崩れ落ちる。

 なんか、見ていて可哀想な感じもするけど。

 

「頑張って略奪した食糧がああああ!」

「貴族を謀殺してようやく奪い取ったというのに……!」

 

 同情の余地はないね、うん。

 それはそれとして、なんというか随分と俗っぽい崩れ落ち方だなあ、とぼんやり思う。

 隙を見計らってこそりと、アルケ様に問いかけた。

 

「これ、どっちも普通の人間だったりしません?」

「そんなはずはないんだけどねえ、梵賦が模倣したとされる人間が教団に出入りしているという偵察からの報告は確かに来てたんだ」

「その確認された方は見つかりませんでしたが」

「別の誰か……ニールネイかラフアになりすましているとは思うんだけどねえ」

 

 ふーむ、何にしてもこのままじゃ埒が開かないな。

 私はそう考えて、一応前々から考えていた作戦を開始するようアルケ様に伝えた。

 アルケ様はといえば、やっぱりそれ実行するのかい? みたいな顔でこっちを見てくるけど。

 でも、これが一番確実な情報だと思うのだ、私は。

 具体的にいうと……

 

 

「ところでお二方、どっちが梵賦なのですか?」

 

 

 ()()()()()()()こと。

 え? と思うが考えても見てほしい、私は現在幻象ということになっている。

 

「梵賦様……い、一体何のことでしょう!?」

「そ、そうだ! 梵賦といえばこの魔境を作り上げた六大宿痾! こんな場所にいるはずがない!」

 

 こんな場所て。

 自分で行ってどうする、自分で!

 

「あなた達のどちらかが梵賦であるということはわかっています。私は幻象なのですよ? きちんと正体を表して話をするべきではないですか?」

 

 そう、ここは教団。

 私が幻象であるという事実は絶対。

 教徒ほど熱心に信仰はしていなくても、幻象を無視することはできないだろう。

 

「そ、そもそも……お前は本当に幻象なのか!? 話に聞く幻象はここまで横暴だとは聞いていないぞ!」

「そ、そうです! あの方はとても臆病な方という話です! このようなことできるはずもありません!」

 

 まあ、かなり暗躍するタイプだったのは間違いない。

 それを彼らも知っていれば、私を幻象かどうか疑うのも無理はないのだ。

 でもだからと言って、物的証拠は否定できないだろう。

 

「しかし現にここに幻象はあります。その瘴気に偽りはなく、また教徒達もこうして幻象に取り込みました。すなわち、仮に私が幻象ではなかったとしても、私が幻象ということになるのです!」

「お、横暴な……!」

「もはや自分が幻象ではないとほぼ口にしているではないか……!」

 

 はっはっは。

 アルケ様もやれやれという様子だが、教団と教徒を乗っ取った時点でこっちはほぼ勝ちを確定させているんだ。

 であれば、多少強引でも有利に交渉を運ぶことは可能。

 

「さて、早速ですが」

「ま、まだ何かあるのですかぁ!?」

「お二人は、教徒に隠れて何をコソコソと()()していたのですか?」

「ぬう……!」

 

 二人が教団を離れて何をしていたのかは、完全にはわかっていない。

 でも個人的には、これかな? という要素が確かにあったのだ。

 以前、宿痾教徒が行なっていた外道な研究。

 てっきり本部でもやっているかと思ったら、全然そんなことなくてびっくりしたのを覚えている。

 すなわち、

 

「人造宿痾、私って以前それと出会したことがあるのですよ」

 

 その言葉に、二人はより一層顔を青くしていた。

 

 

 +

 

 

 人造宿痾、以前ヨースの街で対峙した怪物。

 人間の魂を利用して人造の宿痾の主を作り、それらを合体させることでより上位の宿痾の主に至ろうとした実験。

 あれと同じ実験は、本部でも行われていて然るべきだ。

 しかし本部で情報を集めても、全然そんな話出てこない。

 どういうことかと疑問に思っていたが、別の場所で幹部だけが関わっていたなら納得は行く。

 

「そもそも、どうして教徒を材料にせず孤児を狙ったのです? いや、教徒を使うのもどうかとは思いますが」

「……教徒に材料になることを求めたら、一人残らず材料になるだろう。特に教団本部にいる教徒は自身の人生を全て捨て、教団と宿痾の主に捧げているからな」

「ははあ」

 

 そして、そんな擬似宿痾の製造場に向かう道中、私はニールネイ達に色々と質問をぶつけていた。

 案外、両名は普通に質問に答えてくれるらしい。

 というか製造場にも普通に案内してくれた。

 これ、多分色々と諦められてますね。

 

「まあでも、孤児を利用したのも一つの慈悲でもあるのですよお。宿痾教団に加わる教徒は、皆人生に絶望した者達です。孤児もまた、そうして人生に絶望していずれは教徒となるのですから、遅かれ早かれですよ」

「ゲスい話ですねえ」

「幸福な生活を送っている人間にとってはそうでしょうけれど、教徒になるものにとっては、その方が幸福なのですよ♪」

 

 ちなみに、アルケ様は後ろからコソコソついてきている。

 ニールネイが兜頭のアルケ様を訝しんだからだ。

 賢い。

 でもまあ、そこは色々と便利な道具を持っているアルケ様。

 後ろからコソコソついてくるのも、お手のものって感じだろう。

 

「そもそもなぜあなた達は宿痾教団を組織するのです。それしかなかった教徒達ならともかく、あなた達にはそれ以外の道だってあったはずです」

「ふん、お前にはわからんだろう。そもそも私が教主に成り上がったのは、たまたま集まったもの達の中で最も才能があったからだ。最初からそれができていれば、ここに儂はいない」

「人に歴史あり、ですか」

「苦労の方が多い歴史だ」

 

 やがて、私たちは何もない荒野へと案内された。

 若干騙された気もするけれど、騙されなくても擬似宿痾をぶつけられるのはほぼ確定なので、まあ別に構わないだろう。

 

「それに、宿痾教徒は教徒になる以前より、なった後の方が幸福でしょう? でしたら、布教にも身が入るというものです」

「楽しそうに語りますねえ」

「ええ、実際人を幸福に導くのは楽しいですから」

 

 ふむ、と考える。

 なんとなくここまで二人の会話を聞いて、どちらが梵賦なのかは概ね想像がついた。

 教主であり、現行の教団を立ち上げ教主となったニールネイ。

 それを補佐し、教徒になることの幸福を楽しげに説くラフア。

 どちらが梵賦であるか、という問いは思いの外難しいものではなかったのだ。

 アルケ様は、おそらく準備ができていることだろう。

 そしてニールネイとラフアも、この後の私たちの動きは、なんとなく想像がつくはず。

 

「お二人の話を聞いて、教団にも色々歴史があったのだろうことはわかりました。さぞかし苦労されたことでしょう」

「……それで?」

「教徒たちが、救われているということも理解しています。少なくとも、私に対する信仰と、それによって彼らが安寧を得ていることは、疑いようもなく」

「まぁ♪」

「ですから……」

 

 怪しいのは、間違いなくラフアだ。

 ニールネイは自身の体験を語ったが、ラフアはあまりに他人事である。

 その上で、私は……

 

「こうします!!」

 

 ()()()()()に、切り掛かった。




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こちらは口絵の一枚。
温泉回です!
うお……でっか……
このデカさを視た時、本作が本にできてよかったと心から思いましたよ……
温泉回ってソアナさんとか出てくるタイミングにあったか?
と思うかも知れませんが、本作めちゃくちゃ改稿入ってます。
具体的に言うと温泉回を……先の展開から持ってきました。
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