転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百七 似た者同士

 ざっくりとニールネイを切り飛ばし、胸元に浅い切り傷が作られた。

 それは生死に関わるような傷ではないが、あるものを破壊しているのだ。

 

「貴様! 何……を……」

「教主様!?」

 

 ニールネイの体ががくりと崩れ落ちる。

 それにラフアは、どこか本気で焦った様子を見せた。

 原因は、ニールネイが()()()()()()()()()()()()からだろう。

 

「胸元に、瘴気を遮断するアイテムが隠されていると判断して、破壊しました。これでもう、教主が私の幻象を防ぐ手段はありません」

「ぬ、う……やって……くれ、たな……」

 

 ばたりとニールネイが倒れ、意識を失う。

 私はニールネイとラフアの間に割って入り、剣を抜き放ったまま視線を向ける。

 ラフアはこれ以上ニールネイをどうこうするのは無理だと悟ったのか、苦々しげに私へ視線を移した。

 

「正体を表したらどうですか、梵賦」

「……あいにくと、今の私の正体はこの体ですよお。気に入っているんです。美しい女の体は、色々と便利ですから」

「なるほど、女装趣味の変態でしたか」

「自認も女ですよう! ああでも、貴方の肉体は良さそうですね。模倣させてくださいませんかあ?」

 

 勝手にできるのでは、と思ったので答えない。

 

「特にその胸! デカすぎます! でかい胸はいいですわよねえ。見ていて目の保養になります!」

「……視線がおっさんすぎます」

「んごっほん、まぁ実際に模倣はしませんけどねえ、貴方のそれ、ほとんど技術じゃないですかぁ。だから模倣しても意味ないですし、きっとまだまだ育ちますし」

 

 いやだから、もうその話題はいいんですって。

 とにかく、これ以上梵賦の与太話に付き合う理由はない。

 

「行きますよ! ようやく見つけた次の六大宿痾! 戦いたくてずっとウズウズしていたのですから!」

「ご遠慮願いたいですわねえ! 一応拒否してみましょうか! やっておしまいなさい、擬似宿痾!」

 

 地面から、ぼごっと腕が飛び出してくる。

 私はニールネイが奪われるのを避けるため、その体を蹴っ飛ばして上空にあげつつ、こちらに迫る擬似宿痾の腕を掻い潜った。

 

「あらまあひどい!」

「ちゃんとアフターケアは用意してありますよ、アルケ様!」

「待ってましただよ!」

 

 物陰から飛び出したアルケ様がゴーレム(ジェットパック装備)で、ニールネイを確保。

 さらにはアルケ様自身も、擬似宿痾へと切り掛かった。

 

「まぁ当然、こういう組み合わせになりますよねえ。面白みのない展開だこと」

「全てお見通しということですか」

「ニールネイを確保できなかったことは残念ですけれど、まぁ致し方ありません」

 

 言いながら、梵賦はあるものを取り出す。

 あれ、三鈷杵じゃないですか?

 密教とかで使われるやつ。

 ……あ、ビームサーベルになった。

 にゅいんって音と共にビームが出て、剣の形になったのだ。

 

「ニールネイにこだわるのは、少し意外ですね」

「アレが野放しになっていれば、またどこかしらで教団を築きますもの」

「まあそうかもしれませんけどお」

「何にしても、便利な道具を失うのは痛手である……ということですわ!」

 

 いきなり、梵賦が飛び出してきた。

 速い!

 当然の如く、狐火と遜色ない速度で突っ込んで来る。

 とはいえこっちも、当時と違って戦闘力は格段に上がっているぞ!

 

「結構貴方、教団に入れ込んでいますね!?」

「ええ、手塩にかけて育てたんですもの! 当然ですわ!」

 

 ビームサーベルを疾討で受け止める。

 凄まじい熱量で、疾討が不壊の特性を持っていなかったらそのまま焼き切られていただろう。

 梵賦も刀身を焼ききれなかったことを意外に思っているようで、少し目を見開いてから笑みを深めた。

 多分、早々に刀の方は焼き切って、幻象だけで私を戦わせるつもりだったんだろうな。

 そういうことをして、こいつは喜びそうだ。

 

「丁寧に築き上げた積み木が、どこの誰とも知らないデカパイに崩されたのです。これを憤らずに、何に憤りましょう!」

「おもちゃ感覚で愛でていた、ということですか!」

 

 そこからは、剣戟だ。

 お互いの刃が激しくぶつかり合う。

 しかし何というか、梵賦の剣は鋭さこそあるけれど、そこまで高い技量は感じない。

 というか、どっかで見たことあるような剣筋だ。

 

「ええそうです。そもそも教団は古くから、わたくしが人々を唆せて作り上げてきたのですわ! その度に、様々な教団が生まれ、滅びました」

「まあ教団の在り方を考えれば、一度滅んでもまた別の誰かが創設するという話は、前にも聞きましたけど!」

「うふふふ、私が人になりすまし、その背を押せばより確実になるのは疑いようもないでしょう?」

「そうです……ね!」

 

 勢いよく剣をビームサーベルに叩きつけながら叫ぶ。

 私は四重強化と幻象のデバフを使用している。

 五重強化は切り札だし、何より安定しないのでいきなりぶっつけで使うのは、不安が残るのだ。

 そんな私と、梵賦はビームサーベルだけで互角に渡り合っていた。

 梵賦は明らかに手札を出し惜しんでいる。

 こちらの全力とあちらの全力、上に立つのはどっちだ?

 

「そして、使い道がなくなれば壊して、時期を見て再興させる……と、厄介な話ですね」

「いいでしょう? 便利なんですもの。貴方達秩序側の人類に対する嫌がらせ、情報収集、何より研究。実に扱いやすい手駒なのですわ!」

「研究……ですか!」

「ええそうです。擬似宿痾をはじめとして、私は宿痾の主や魔物を用いた技術に興味があります。いうまでもないですが、教団で飼われていた魔物も元を正せば私の成果ですわよ」

「でしょうね!」

 

 状況を動かす。

 魔力の刃を飛ばしたのだ。

 これが梵賦とビームサーベルに通用するのかみたい。

 しかし、梵賦は回避を選択。

 一旦距離を取ってから、魔力の刃を掻い潜り突っ込んで来る。

 とことん情報を渡すつもりはないようだ。

 でも、ほぼ互角のスペック同士で殴り合っている現状、行動が歪んだらそれだけ不利になるぞ!

 

「な、に、よ、りい! 私は人類をもっともっと堕落させたいのですわ! 人類の尊厳が、矜持が、魂が、生命としての最下層で這い回るところを見てみたいのです!」

「本当に趣味が悪いですね!?」

「あら、そもそも魔物と宿痾の主は人類を滅ぼすために生み出されたのですよ? 人類は数が多すぎます。どれだけ殺しても殺しても増え続ける。だったら、ただ全滅させるだけでは意味がありません!」

 

 私は一気に連撃を叩き込む。

 少しでも退けば、魔力の刃を浴びせつけるぞ、という脅し。

 結果、それを梵賦は受けざるを得ない。

 だっていうのに、語る内容も相まって、その顔はとても愉しげな笑みに染まっている。

 底が見えないな!

 

「ですからぁ! 種としてのあり方を貶めて差し上げるのです! 宿痾の主という共通の敵がいるにも関わらず、団結できず内輪で滅びを加速させる愚を、貴方達に味合わせて差し上げます!」

「残念ながら、上手くいっているようには思えませんけどねえ、少なくとも今の人類は随分と団結しているように思えますよ? 貴方が苦慮している境界騎士団がそうでしょう」

「うふふふ、そうですねえ」

 

 だが、情報を与えないための無茶が祟って、隙が見えた。

 底を見せないつもりなら、そのまま底を抱え落ちしてもらおう!

 そう思い、決定的な隙へ刃を突き立てる直前、

 

「っっ!!」

「……あら」

 

 私は、勢いよく後方に飛んだ。

 

「惜しかったですわねえ、今ので隙をつこうと踏み込んで来たら、いいものをお見せするつもりでしたのに」

「……人の心というものがよくわかってらっしゃる。……ようやく分かりましたよ、この既視感」

 

 私は梵賦の剣が誰かに似ていると感じていた。

 技術はないが、人読みは巧み。

 才あるものの剣に喰らいつく()()の剣。

 すなわち、

 

 

「貴方は……私に似ているのですね」

「やめてくださいます?」

 

 

 そして指摘したら、ガチ目に拒否られた。

 解せぬ。

 

 

 +

 

 

 だって、似てるって言っても別に戦い方だけの話じゃないか!

 相手のことを観察し、隙を見つけ、攻略する。

 そういう戦い方を得意としてるってだけで、別に性格が似てるとかそんなことは全然ないのだから。

 

「そもそも、私だって別に貴方と似てることが嬉しいとか、そういうわけじゃないですよ!?」

「いやほんと気持ち悪いんでやめてくださいね? わたくし、この世の人間はそのすべてが堕落の可能性を秘めていて好きですけど、貴方だけは例外なんですから。なんでそんなに前向きなんですか? 気色悪すぎます、生きてちゃ行けない人間ですわ」

「そこまでいいます!?」

 

 再び近接での打ち合いに戻りながら、私たちはあーだこーだと言い合う。

 先程までは私の方が押していたが、今度は梵賦の方が積極的に攻勢を仕掛けてきていた。

 距離を取れば魔力の刃が飛んでくるから、それを避けるためには近接戦かつ自分がイニシアチブを握るのが最善だからだろう。

 やっぱり、私の戦い方をよく見ている。

 

「まず幻象の意識を握りつぶすっていうのが、意味がわかりません。一介の人間が、数百年生きた宿痾の主の意識を上回れるはずがないでしょうに!」

「それはまぁ、色々あるのですよ。そしてその理屈を貴方は理解できないでしょうし、理解したところで私がどうなるわけでもありません!」

「わかっていますわ。ええ、よくよく解っています。貴方のことは、この二ヶ月きちんと観察してきましたもの!」

 

 私が、魔境で蛮族をしていたときのことだろう。

 見られている気はしなかったが、そもそも魔境という場所自体に何か仕掛けがあるかも知れないな。

 何にしても、状況はあまりよろしくない。

 動かそうと思えば動かせるんだけど、正面からの打ち合いはどうにもならなそうって感じ。

 まぁさっきの梵賦も同じ状況だったしなぁ。

 

「強さだけを求める戦闘狂、剣鬼でないのがおかしいとすら思える剣への狂いっぷり、二ヶ月も魔物を一方的に叩きのめすのはさぞかし楽しかったでしょう、この変態!」

「いやぁ、随分よく観察されていらっしゃいますねぇ。えへへ」

「嬉しそうにしないでくださいまし!」

 

 勢いよく振り下ろされる梵賦の刃。

 それを幻象によって受けることで、少しだけ私に隙ができる。

 先程と状況は同じだ。

 梵賦が踏み込んでくるようなら、私はそれに反撃を行う。

 この隙は、相手を誘う隙。

 私は退いたが――

 

「踏み込んできますか!」

「ええっ!」

 

 梵賦は突っ込んできた!

 即座に私は反撃する。

 何をするのかと言えば単純、普通に魔力を放出するだけだ。

 全体に、ごお……! と。

 しかし梵賦は――

 

「その程度、お見通しですわ!」

 

 ビームサーベルを一旦消したうえで、無視して突っ込んでくる。

 

「なるほど、肉体は完全に人間というわけですか! 相手を乗っ取ったんですか!?」

「それだと幻象と同じになってしまいますわ。”成った”の……です!」

「っ!」

 

 ビームサーベルを生み出すためのエネルギーは瘴気、しかし梵賦の肉体そのものは純粋な人間。

 概ねこんな感じだろう。

 なんというか、こういうところも微妙に似ている。

 今の梵賦は私が幻象の瘴気を取り込んで力にしているように、人間の肉体で瘴気を体内に通して自身を強化しているのだ。

 そして魔力の刃は人間の肉体部分に触れた時点では、梵賦に何の影響もなく通り抜ける。

 体内の瘴気に触れないと、効果がないわけだ。

 とか、そんな考察をしている場合ではない。

 梵賦は再びビームサーベルを生み出し、それで私を突き刺そうとしている。

 

「あは、ちょっとくらい驚いてくれると、切りがいがありますねぇ!」

「それはこちらの……台詞です!」

 

 先程、私は一撃を幻象で受けた。

 これによって態勢を崩しているけれど、もう片方の手に在る疾討はフリーである。

 故に、こういう事が可能だ。

 

「そおら!」

()()()!?」

 

 疾討が、勢いよく射出される。

 いつものやつだ、これによって若干だが梵賦の動きがずれた。

 そして前方に刀を投げるということは、私の腕が前に突き出されたということ。

 回避して、再びビームサーベルを振るおうとする梵賦の前に、私の疾討は転移してくる。

 

「っ!」

「……驚いてくれると、戦いがいがありますよねぇ」

「ほんっと、生意気ですわね!」

 

 結果として、隙をついたはずの梵賦の一撃は防がれ、激突。

 お互いにお互いを弾き飛ばすようにして距離をとり、仕切り直し。

 だがそこで――梵賦は剣を収めた。

 

「……ここまでですわね」

 

 原因は――

 

「はーっはっはっは! これで終いさぁ!」

 

 隣で戦っていたアルケ様の戦闘に、ケリが付きそうだから。

 アルケ様、複数の合体疑似宿痾が出てきたにもかかわらず、なんなくそれを撃破したようだ。

 多対多の戦闘に強いがゆえだろう。

 ヨースの街にいた頃の私は、一体倒すのに苦労してたんだけれども。

 まぁ、昔の話か。

 

「流石に、二体一は分が悪いですか」

「こちらは本領ではありませんもの。それに、貴方の手札は概ね把握できました」

「デカパイだけに?」

「はっ倒しますわよ」

 

 ――先程の攻防、私は自分の手札を二枚切った。

 対する梵賦は魔力の刃に対する自分の反応だけ。

 それ以外の能力は、一切見えてこない。

 向こうに巧いこと色々一方的に見透かされてしまったわけだ。

 

「もともと、貴方がここに来ることは読めていましたの。ですからこうして、少しでも情報を引き出そうと手を尽くしたわけですわ」

「なるほど、貴方は策士タイプの宿痾の主なのですね。この巨大な魔境を維持しつつ、教団を何度も作っているわけですから、当然と言えば当然ですが」

「お褒めに預かり光栄ですわね」

 

 にやり、と笑みを浮かべる梵賦。

 ああなんというか、こういうの好きなんだろうなぁというのが伝わってくる。

 私が修羅と呼ばれて喜ぶように、こいつは策士と言われて喜ぶタイプだ。

 

「今、なにかとてつもなく失礼なことを考えませんでした?」

「いえ、私と貴方って似た者同士だなぁと思っただけです」

「口に出さないでくださいまし!」

 

 まぁ、だからこそ、どうしても疑問に思ったことが在る。

 いや、別に梵賦にとっては使い捨ての駒なんだから、捨ててもいいっちゃいいんだろうけど。

 それにしたって、勢いよく捨てすぎじゃない? と思うものが一つ。

 

「……それにしても、教団を私に乗っ取られることに関しては何の策もなかったのですか?」

 

 対する梵賦は――

 

 

「…………世の中には、策を持ってしてもどうしようもないことくらい……あります」

 

 

 あっはい。

 まぁ、私が幻象の化身みたいになっている時点で、自分を梵賦だと明かしていないこいつにはどうしようもないよな。

 仮に自分たちがその場にいても、教団がバリバリジャンジャン乗っ取られていく光景が目に浮かぶのだろう。

 

「あえて私が来るタイミングで席を外していたのは疑似宿痾の準備というのもあるのでしょうが、策の通じない理不尽を眼の前で見たくないという意図もあったのですね」

「口に出していうことないでしょうに!」

「へっへーん」

「こいつ……!」

 

 勝ったつもりで撤退されるのは、気に食わないのである。

 まぁ何にしても――

 

「――覚えてなさい。今回は様子見ですが、次は貴方に本物の”策略”というものを教えて差し上げます」

「なんか、負け惜しみに聞こえますねぇ」

 

 私の言葉に答えることなく、梵賦はその場から掻き消えた。

 案の定、転移系の能力も持っているようだ。

 アルケ様の方も完全に終わったらしく、こちらに手を振っている。

 何にしても――六大宿痾”梵賦”との初戦は、こうして幕を閉じた。




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書籍版がまもなく発売になります。
是非とも手にとっていただけると嬉しいです。
デカパイ!
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