転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
――アレから、私たちは色々と忙しく動き回った。
まずは疑似宿痾が培養されていた製造場の調査。
疑似宿痾には人間の魂が必要で、その魂は現在も製造場にとらわれている。
その数ざっと数百人、もっといるかもしれない。
ほとんどは孤児で、目覚めたらそれはそれで大変な状況。
倫理的にはアレだが、一時的に幻象の中に魂を収容させてもらうことにした。
まぁ教徒相手にもやってるんだし、誤差ですよ誤差!
「ただまぁ、僕はこういう大人数を移送することに関しては、この大陸で一番だからね! 任せてくれたまえ!」
と、高らかに宣言したのはアルケ様。
百人単位で収容できる輸送用コンテナを、ゴーレムに引っ張らせることで問題を解決。
数往復で、なんとか教団まで孤児を運ぶことに成功。
とはいえ、問題はここからだ。
教団から境界騎士団の拠点まで、孤児と教徒を運ばないと行けない。
これ、結構ハードルが高いです。
「魔境をうろつく魔物がねぇ、流石に僕一人だと輸送している人たちを守りきれないかもだ」
「騎士団に援軍を頼みますか?」
「まぁそれが一番早いんだけどねぇ、楽できるなら、楽したいじゃないか。それに備蓄も心もとないから、できれば早めに事態を解決したい」
昏睡した教徒を維持するだけなら、教団には十分な備蓄が存在している。
しかし数百人の孤児の生命維持は中々どうしてハードルが高かった。
騎士団に援軍を呼びに行って、その到着を待つとなると、どうしてもそこそこ時間がかかるのだ。
……ん? まてよ?
「アルケ様がコンテナで何度も往復したのは、ゴーレムを操縦できる人員がいなかったからですよね?」
「ん、そうだね?」
「ゴーレムとコンテナ自体は、孤児を全員収容するだけの数は在るんでしたか」
「あるねぇ……あ、そうか」
私が気づき、条件をアルケ様に確認することでアルケ様も思い至る。
そう、解決方法は簡単だ。
「教徒にゴーレムを操縦してもらいましょう!」
というわけで、私は昏睡した教徒を起こした。
幻象さえ持っていれば、魂の返還は非常に簡単。
特定の人間だけを返還することも可能。
そして目覚めた教徒は――
「――幻象様の御心のままに」
私に完全なる忠誠を誓う。
そりゃ、六大宿痾を信仰する人たちなんだから、私の指示には従いますよね。
というわけで、教徒達をゴーレムの操縦者にすることで、教徒を運ぶ必要をなくし一度に移送が出来るようになった。
こうして、私とアルケ様がそんな彼らを護衛しつつ、境界騎士団へと帰還することとなったのである。
+
「……申し訳在りません、アルケ様。もう一度お願いします」
「いやだから、宿痾教団を壊滅させたんだ。六大宿痾の幻象を操る剣の里のカグラくんと協力してね? 教徒達はカグラくんに心酔してるから、暴れる心配はないよ。そして教団で囚われて疑似宿痾の餌にされてた孤児達を保護したんだ。宿痾教徒に運ばせてここまで来たのさ。あ、途中で六大宿痾の梵賦と戦ったよ。残念ながら逃げられてしまったけどね」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………マギナ様にご報告いたしますので、今しばらくお待ちください」
なんというか……
「いやぁ、僕の無茶振りなんていつものことなんだから、いい加減慣れてほしいよねぇ」
「無茶言わないでくださいよ。仮に普段の無茶振りには慣れてても、今回は絶対無理ですって。っていうか無茶振りの自覚あるんですか、最低ですね!?」
「あっはっはっはっは」
そこはもっとこう……段階を踏んで説明しましょうよ!
何も一気に全部説明する必要ないじゃないですか!
とか、色々と言いたいことは在るんだけど。
アルケ様がやばいってことは十分伝わった。
とにもかくにも、私たちは境界騎士団の拠点へと到着した。
背後に、クソデカコンテナ複数と、それを操縦するゴーレム、ゴーレムと共にあるく結構な数の教徒を従えて。
「それにしても……でかい壁ですねぇ」
「ふふふ、魔物の襲撃を防ぐためには、これくらいの壁は必要なのさ。なにせ、魔物の中にはこの壁よりでかい魔物もいるわけだしね」
「ああ、二倍くらいのデカさの魔物もいましたねえ」
「なにそれ怖い。カグラくん、新種の魔物だよ、それ」
なんて話をしながら、でかい城壁を見上げる私。
現在私たちがいるのは、境界騎士団の魔境側の入口。
全長十メートルくらいのでっかい壁を、私は呑気に見上げていた。
見た目は、如何にもファンタジーの城塞都市ですって感じ。
めちゃくちゃデカくて、果てが見えないくらい横に長いことを除けば。
「アルケ様、マギナ様にご報告いたしました。まもなく到着するとのことで、中にはいってお待ち下さい」
「いいのかい? マギナ的には宿痾教徒が大人しくしてるか、不安だと思うけど」
「魔境の外に人を置いて、警備に負担を増やす方が問題と判断したそうです」
「……このあたりの魔物、私が狩り尽くしてるんですけどねぇ」
「はい……はい?」
門番の兵士さんに訝しまれながら、私たちは拠点内部へと入り込む。
街に名前はないとこのことで、一般的には騎士団本部と呼ばれることがほとんどだそうな。
百人単位で収容できるコンテナが、なんなく入れる巨大な門を通って中へ。
城壁は横に滅茶苦茶長いだけでなく、縦……でいいのか? にも相応に長い。
ぞろぞろとコンテナゴーレムと教徒達を引き連れて中に入る途中、私はなんとも雄大な雰囲気の門を見上げていた。
「この門を、そんな都会に初めて出たばかりの子供みたいに見上げる子は君くらいだろうね」
「普通なそもそも街から出ていくための門ですしねえ。今の私にあるのは、門の大きさに対する感動と、この先に待っている街への期待感です」
「少しは子供らしいところもあったわけだ」
そうして――中に入った私を待ち受けていたのは、どこか重厚な緊張感と賑やかさが同居するこれまでに見たことのない町並みだった。
街は非常に整然としており、軍事基地というよりは軍事国家の首都といった厳かな雰囲気。
ただし、そこにいる者たちは鎧をまとった正規の騎士といった感じの人以外にも、冒険者らしいラフな装いのものも見える。
多種多様な人々が行き交うのもあって、街の重々しい雰囲気とは裏腹に活気はあるようだ。
「ここは色んな国の兵士や、傭兵たちが雑多に入り乱れているからねぇ。特にここ最近は、ラリスからやってきた荒くれ者も多い」
「ダンジョンがなくなりましたからね」
「他人事みたいに言うねぇ、君の功績だろう、それは」
確かに、行き交う人々の中にはどこかで見た覚えがあるような気がする人もそこそこいる。
多分、街を探索すれば知り合いに合うことも在るだろう。
二つ名持ちの誰かしらが、街にいると思うんだよな。
「そして……結構見られてますね」
「僕は有名人だからね。それに、このコンテナはどうみても普通じゃない」
「コンテナじゃなくて自分の方を先に説明するアルケ様は、結構見栄っ張りさんですよね」
「おやおやひどいことをいうねぇ、境界騎士団の叡智が一人、七刀アルケ様だよ、僕は」
中には、私を見てびっくりしている人もいる、間違いなくラリスの冒険者だ。
ただ、アルケ様の存在を確認できているからか、視線を向ける人たちに警戒心はない。
あるとすれば……物陰からこちらを眺める視線が一つ。
「さて、そろそろ出てきてもいいんじゃないかな、マギナ」
「んひゃい!」
そしてその視線にアルケ様は声をかけ、ちょっと情けない返事が帰ってきた。
恐る恐る、一人の女性が物陰から現れる。
ひたすら長い黒髪に目元が覆われ、何より特徴的なのは”車椅子”。
ゆったりとしたローブに、どこか卑屈そうな口元。
そして、ふわりと浮遊した車椅子が、こちらにすーっと滑ってきた。
この人が――
「紹介しよう、彼女こそ僕の双子の妹。魔術剣士のマギナさ!」
「よ、よよよよよ、よろひくおねがい……すますっ!」
どうやら、マギナ様のようだ。
めちゃくちゃ噛んでる!
+
ちょっと不思議な事が起きた。
具体的には、マギナ様がでてきたのを周囲の人間が確認するとめちゃくちゃ驚いたのだ。
私たちに対しては、そこまで視線を向けなかったにもかかわらず。
ようするにそれはなんというか……
「いやぁ、マギナ久しぶり! 外で顔を合わせたという意味では、一年ぶりくらいになるかなぁ? マギナが外に出るなんて、よっぽどなことでも起きたかな?」
「おおおおおお、おねえちゃんが、よ、よよよ、よんだんで、しょ!? あ、あんなわけの……わからない……報告で!」
マギナ様は出不精なのだろう。
この様子をみていれば、なんとなく察しはつく。
明らかにこう……陰の気配がにじみ出ているのだ。
私の前世も陰に属する立場にあったようだから、若干親近感も感じられる。
まぁ今の私は別に陰って感じでもないけど。
「あ、あの報告なに!? 教団が!? 六大宿痾が!? 疑似宿痾!? なになになに!?」
「まぁまぁ落ち着き給え、こうしてここに、色々と証拠は持ってきたんだ」
「う、うわあああああ町中を宿痾教徒が練り歩いているううううううう!」
「安心してください、彼らは人に危害を加えませんよ」
「そそそ、そんな猛獣みたいな!」
宿痾教徒そのものとしか言えない服装の連中にビビるマギナ様。
そしてビビるくらいの異常事態だから、出不精のマギナ様もこうして飛び出してきたわけだ。
なんかごめんなさい……
そこからカクカクシカジカと、アルケ様がこれまでの経緯を説明していく。
さっきの警備の人にした説明が嘘みたいにわかりやすい説明で、更にマギナ様も頭がいいのだろう、するすると理解したようだ。
――で、最後に視線を私に向けた。
「……ぴえ」
「おーよしよしよし、怖がっては行けないよぉ、カグラくんはちょっと変態的で強さに執着している以外はいい子……いい子? なんだから!」
そして泣き出す。
アルケ様が慰めているけれど、それ本当に慰めになってますか????
「ぴええええええええ」
「ほらー、カグラくんが無茶苦茶すぎるから、マギナがないちゃったじゃないか」
「ノリで私を悪者にするの、やめてくださいます?」
アルケ様遊んでるだけでしょこれ!
まったく、ひどいアルケ様だ。
「うううううそれにしても、それにしてもどうしましょうううう。この人たちをどこに置いておくんです? 教徒の人たちは余ってる牢屋でいいとして……でもでもその後の手間も大変ですしぃ……」
「諸外国に投げちゃえばいいじゃないか、はーっはっはっは」
「ね、ねえさまは適当すぎますぅ。う、うちばっかり政治のことで頭を悩ませるのは納得行きましぇん!」
それから、アルケ様とマギナ様は教徒と拾ってきた孤児たちの扱いについて相談しはじめた。
これに関して、私に話を振ってくる様子はない。
まぁそりゃそうだ、こちとら政治なんてまったくやったことないんだから。
十三の小娘なんだから。
とはいえ、完全に放置されているのも手持ち無沙汰である。
多分子供っぽく振る舞えば解放してもらえると思うけど、流石にそこまでする気はないしなぁ。
まぁ、素直に横でちょこんとして待っていよう。
こういう時に素直になるのが、私のいいところなんです。
「とととと、とりあえず。ねえさまは他の人に今回の件を説明してください! 孤児の子達と教徒の人たちの振り分けも、任せていいですよね!?」
「わかったよ。といっても教徒たちはカグラくんに従うのであって、僕に従うわけじゃないんだけど」
「そこは……か、カグラちゃんから引き継ぎとかできないんですか? う、うちはカグラちゃんと二人でお話がしたいんです、けど……」
「んー、できると思いますよ? 教団でも私の指示と言ってアルケ様が色々と教徒達を動かしてましたし」
あ、素直にちょこんとしながら五重強化状態で精神集中をしてたらこえをかけられた(すん)。
周囲がなんか私にビビるなか、私は一言マギナ様に伝える。
するとマギナ様は、アルケ様に「ほら!」といって怒っていた。
「う、うちより……ねえさまのほうが……圧倒的に政治にも、こういう処理にも向いてるんです、から! ね、ねえさまもは、働いて……ください!」
「僕は研究だけしてたいんだけどなぁ。まぁいいよ、わかったわかった。この子たちは僕がなんとかしておくよ」
「お、お疲れ様です」
なんというか、二人の関係がよく分かるやり取りだった。
アルケ様って本当に見た目通りの挙動するからなぁ、一緒に生活した期間は短いけど、それは本当によく分かる。
私は絶対に挙動が予想できない? まぁそれは……はい。
「そ、そういうことであれば……ええと、お話をするのでしたよね? どのような?」
「あ、あうあう……と、とりあえずここではアレですから……い、移動しましょうか……」
すいー、と動く車椅子に先導され、私たちはアルケ様と別れて街の中を進む。
騎士団本部の活気は、ラリスのそれに似ている。
あそこまで混沌とはしていないけど、色々な国の騎士や冒険者が入り乱れているという意味では、雑多な感じが強い。
でも同時に、どこかずっしりとした緊張感もここにはある。
というよりも、本来はずっしりしている方が普通なのか?
「……え、えとえとえと、なんとなく感じてはいると思うのですが……今の騎士団は、普段よりも落ち着いています。ぐ、具体的には、あと、えっと、その……」
「私が大暴れしたから、ですよね?」
「はいいい……ここ数日、毎日のように門を襲撃していた魔物が、ほとんどやってきて……いません。です、はい」
「良いことではあると思いますが」
「普段はもっと……緊張、して、いる……ってこ、と、ですね、はい」
少し弛緩した空気、良いことではあるのだろうけど、ちょっと弛緩させすぎかも……とは思う。
まぁ、原因の私が言えることではないんだけど。
そんなことを話していると、私たちは外れにある小さな小屋へやってきた。
「こ、こここ、ここは……私が個人的に……一人になりたい時に……使う部屋……で、です。ちょ、ちょっと……結構……かなり……とても汚れてますけど、ど、どうぞ」
「なんでそんなに妥協しようとして諦めてるんですか!」
「ほ、本来は人を通す場所ではないので、すが……どうしても、誰にも話を聞かれない場所が……ここしかなく……」
「そ、そうですか……」
中に入ると、言われた通り確かにめちゃくちゃ汚れていた。
色々と散乱しているし、下着とか。
ただ、入る時にかなり厳重な魔術のセキュリティを突破する必要があるらしく、誰にも見られない前提なら……ゴミ屋敷にならなければいいか、というのが私の感想。
清潔さは魔術で確保できるとのこと。
だから片付かないんじゃないですか?
「と、ととと、とにかく……ですね。早速本題に入らせて、い、いただくのですが」
「は、はい」
私がベッドに腰掛けて、マギナ様はそのまま車椅子に着席。
そうして向かい合って、私はマギナ様の言葉を待つ。
「――カグラちゃんは、梵賦の能力による模倣が、梵賦以外にも適用できるということは、知っていますか?」
「ええと、それって……」
なんかいきなり吃らずに話し始めたマギナ様。
雰囲気も、場所を考えなければ落ち着きを取り戻し、七刀としての威厳たっぷりだ。
場所を考えなければ。
で、そんな前フリから、私はなんとなく内容を察する。
「多分……境界騎士団本部に、魔境を支配するもう一体の六大宿痾が入り込んでいます」
なるほどこれは――騎士団本部でも、一波乱ありそうだなぁ。
なんて、そんなことを思うのだった。