転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百九 騎士団での日常

 この騎士団に、六大宿痾が紛れ込んでいるという。

 そりゃまた厄介極まりない話で、どうにかしなければいけないのは間違いない。

 とはいえ、じゃあ誰が六大宿痾なんだ? って話。

 マギナ様曰く。

 

「しょ、正直、まま、まったく……わ、わかりましぇぇん!」

 

 とのこと。

 完全に泣き言であった。

 たが一つだけ言えるのが、私だけは絶対に六大宿痾ではないということ。

 まず何より外部からやってきた人間だし、そもそも幻象を抱える私を模倣することは不可能。

 いや、私は模倣できても幻象が無理、というのが正しいか?

 とにかく、そんな六大宿痾ではない私だから、マギナさんは調査を依頼したわけで。

 なんというか、これ幻象の時と同じ感じだな?

 あの時も私だけがフリーだったから、ナティラリア様が頼ってきたのだ。

 なんか、そういう宿命のもとに私はあるのかもしれない。

 主人公補正というやつか。

 

 ――で、そんな依頼を受けた私が何をしているかと言うと。

 

「きゃっほほーい! もっともっとかかってきてくださーい!」

 

 兵士をちぎっては投げ、ちぎっては投げていた。

 境界騎士団に所属する者たちだ。

 この大陸を守る最前線だけあって、その数は万を軽く超える。

 そんな者たちを相手に、私は大立ち回りを繰り広げていた。

 何もこれは、ただ騎士団の兵士に稽古をつけることだけが目的ではない。

 

「んー、()()。こっちも()()()()

 

 兵士に飛びかかりながら、そう判断を付けていく。

 梵賦によって模倣された兵士であるかどうかを判別しているのだ。

 そんなことが可能なのかと言えば、可能。

 直接戦って、あいつの癖は見切ったからな。

 梵賦の能力が作用しているかどうかは、人読みでなんとなくだが判別をつけることができた。

 

「クソ、強すぎる! これが六大宿痾を討伐したと言う剣士の実力!」

「胸がデカすぎる!!」

 

 なんて吹っ飛ばされていく兵士の悲鳴を聞きつつ、私は趣味と実益を満たしていた。

 基本的には私の方が彼らよりも圧倒的に強い。

 だが、時折数と連携で向こうがそれを覆そうとしてくるのが面白かった。

 

「いくぞお前達! 突撃!!」

「おおおおおお!」

 

 隊長格の号令に従って、兵士たちは突撃を開始する。

 ただの突撃とバカにしてはいけない。

 これがまた見事に勢いのある突撃で、彼らの動きには何一つ乱れがないのだ。

 そうなってくると、なんともまた対処が難しい。

 吹っ飛ばしても吹っ飛ばしても襲いくる人の波。

 何より恐ろしいのは、彼らに一切のためらいがないと言うことだ。

 自分の命を惜しいとすら思っていないような、さりとて無謀というには覇気のある突撃である。

 これがこの大陸を最前線で守る騎士団の実力。

 決して侮ることはできない。

 

「だからこそ、楽しいのですしね!」

 

 私はそれを、鞘に収めた疾討で薙ぎ払っていく。

 木刀でやると木刀の方が持たないので、こうするしかないのである。

 そんなことを繰り返すこと、かれこれ()()

 尽きることのないおかわりを堪能した私は、もういいだろうと稽古を中断した。

 

「ここまでにしましょう!」

 

 いやあ満足満足。

 こんなに楽しく稽古しつつ仕事までこなせるなんて、あまりにもここは恵まれた環境だなあ。

 一生こうしてズンドコして暮らしていきたい。

 私は娯楽に飢えているのだ。

 やっぱり強さを求めるのがいちばんの娯楽だネ。

 それはさておき、稽古が終わったら次はマギナ様の私室に移動だ。

 そこは相変わらず散らかっているが、いい感じの匂いだけはしていた。

 散らかっているのを誤魔化すために、アロマを焚いているらしい。

 

「え、ええと……それで六大宿痾の方は見つかりましたでしょうか……」

「ぜんっぜん見つかりません!」

「す、すごい嬉しそうに言われちゃいましたああああ」

 

 びええ、みたいな感じで泣きそうなマギナ様。

 しょ、しょうがないじゃないですか!

 楽しかったし見つからなかったんですから!

 

「ただまぁ、そうですね。()()()()()()()()()宿()()()()()()()()と思います」

「あえっ!? なんでわかるんですか!? まだ一万人しか相手してませんけど!」

「話としては単純でして、兵士に紛れていれば他の兵士にも影響が出るはずです! それがなかったので、兵士の中にはいないかと」

「そういうのわかるものなんですか!?」

 

 まあ、私かシドウ様ならわかるはずです。

 なんというか、普通にしているとわからないんですけど、違いみたいなのを感じられるんですよね。

 幻象と直接戦っている時が顕著で、人ならざる何かが混じっている感覚というのは、常について回っていた。

 リンカねえさまと戦っている時も感じたし、多分今の私もそういう感覚を垂れ流しているはず。

 隠蔽した瘴気の雰囲気というか、なんというか。

 

「じゃあえっと、冒険者の方はど、どっどど、どうでしたか?」

「んー、そっちの可能性は低いかと」

 

 この境界騎士団には正規兵の他に雇われ冒険者の常駐している。

 私はそっちの方も調査するよう頼まれているので、冒険者ギルドに足を運んで確かめたのだ。

 

「ギルドに瘴気の気配はありませんでした。ちょうど知り合いの冒険者さんがいたので話を聞いてみましたが、そちらからも有力な情報はありません」

「そう、ですかあ」

 

 具体的に誰かというと、以前ラリスの街でご一緒した冒険者さんだ。

 あそこでは“鮮烈”の二つ名で呼ばれていた、徒手空拳と魔術を組み合わせたスタイルの女性である。

 私の個人的な感覚も、実際に冒険者として活動している人の所感からも情報を得られないなら、基本的には”いない”と見ていいだろう。

 まぁ、確実とは言えないけど。

 

「……そもそも、私たちはこの潜入しているという六大宿痾の名前すら把握していないわけですから、探し出すというのも難しい話だとは思いますが」

「は、入り込んでいるのは確実……なのです。梵賦がカグラさん達と戦っているタイミングで、わ、私の探知魔術に反応があったの……ですから」

「魔竜峰の六大宿痾が紛れ込んだのでもない限りは、そうなりますか」

 

 マギナ様の探知魔術は、六大宿痾を探知できるすごい魔術であるという。

 とはいえ具体的にそれがどの六大宿痾か、までは探知できないが現状残っている六大宿痾は三体だ。

 うち二体の居場所がはっきりしているので、残り一体が必然的に紛れ込んでいることは間違いない。

 

「梵賦の開発した人造宿痾の可能性はありませんか? アレも滅茶苦茶頑張れば六大宿痾並の存在になりえます」

「自我がないので、隠密行動がとれない……かと……はい、えっと……多分」

「なるほどぉ」

 

 何にしても、現状の私のお仕事は、兵士たちを鍛えながら六大宿痾を探すことだ。

 私が派手に暴れまわったおかげで境界騎士団本部に襲ってくる魔物は、あまりいない。

 手が空いている兵士達を、私という強大な単体戦力にぶつけて練度向上を測るには良い機会である。

 私としても、とっても楽しいのでありがたい限り。

 

 ただまぁ、宿痾探しの方はなかなか上手くいかないだろうなぁ。

 紛れ込んでいる以上、何かしら企みがあるのは確実だ。

 だったら、その企みの方を調べてみるのもいいかもしれない。

 後手に回ってしまうということではあるものの、手がかりもないまま闇雲に探すよりはいいだろう。

 しばらくは兵士の人たちと遊んでいるしかないですかね。

 とはいえ、この六大宿痾探しには、一つ大きな”報酬”がある。

 そっちのほうが、私としては楽しみなわけだけど。

 

「――ところで、マギナ様」

「ひゃいいいい」

「マギナ様のお手は、一体いつ頃空くのでしょうか」

「あうあうあうあう」

 

 具体的には――アレだ。

 

「私、マギナ様との模擬戦を、ずっっっっっっっと楽しみにしているのですが!」

「ご、ごごご、ごめんなさいいいいい。明日行われる各国重鎮との対談が終われば、手が空くと思いますうううううう!」

 

 そう、模擬戦。

 六大宿痾探しを引き受けてくれたら、マギナ様が模擬戦をしてくれることになっているのだ。

 ただ、マギナ様は忙しい。

 手が空いたら……という話だったのだけど。

 ようやく……ようやくマギナ様と戦える機会がやってきたらしい。

 あ、それはそれとして。

 

 

「その対談、私も参加していいですか?」

「えっ」

「えっ」

 

 

 ……いや、対談に参加する人の中に六大宿痾が紛れ込んでるかもしれないじゃないですか!

 なんでそんな露骨に嫌そうな顔するんですかぁ!




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