転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
境界騎士団は、複数の国家からの出資で運営されている組織だ。
魔境を抑え込むことは大陸の平和につながる大事な役目。
それを国が負担するのは至極当然なお話。
とはいえまぁ、そこに面倒な政治があれこれ絡んでくるのは、致し方ない話。
幸いなことは現在この境界騎士団を取りまとめるマギナ様が優秀であること。
そして何より、境界騎士団の存続に関わるような政治的混乱が起こっていないということだ。
「いやぁ、もしカグラくんが幻象を倒せていなかったら、騎士団は大混乱に陥っていたかもしれないけどねぇ」
「ナティラリア様が幻象に乗っ取られるとか、考えたくもないですね……」
まぁ、実際にはそんなことになっていないので、私とアルケ様はのんびり雑談していられるわけだが。
――さて、現在私たちがいるのは、対談が行われる会議室。
続々と各国からおえらいさんがやってきて、席についているところ。
場合によっては私の父様やナティラリア様が出席することもあるのだけど、今回は残念ながらそうではないらしい。
二人とも、元気にしてるかな……
「おや、今回は珍しくアルケ様も参加しておられるのだな」
「隣りにいる小娘は誰だ? 見たところ剣の里の者のようだが……」
「あ、アレは……変態修羅カグラ!? 六大宿痾を討伐したという!」
「なんだと!? あの変態修羅!?」
――呑気に会議が始まるのを待っている私とアルケ様を他所に、お偉いさんは何やらひそひそと話をしている。
しかし聞こえていますよ、お偉いさん方。
私だから許しますけど、変態修羅は普通に失礼なので控えましょうね。
ぷんぷん。
「有名人だねぇ、カグラくん。六大宿痾を二体も討伐したんだから当然と言えば当然だけど」
「なんだかむずかゆいです」
「ちなみに、例のアレは潜んでいそうかい?」
「……手合わせしないと、確実なことは言えませんが、今のところいそうな気はしませんね」
六大宿痾の潜伏を知っているのは、私とアルケ様とマギナ様だけだ。
先日話を聞いた鮮烈のお姉さんには、色々と誤魔化した上で聞き取りを行っている。
さて、そんなこんなで人が集まり、いよいよ会議の始まり。
真面目な会議であるためか、「もうすぐ始まる」という気配が流れると、自然と会議室は静寂に包まれた。
ところで、マギナ様の御姿が見えないのですが――
「失礼致します」
と思っていると、何やら扉がゆっくりと開いて、クソデカ鎧が入出してきた。
全長2メートルくらいはあるかというデカイ鎧で、がっちゃんがっちゃん言いながら会議室の中央へと向かっていく。
アレは――
「――アレがマギナさ。人前に出る時は、あの鎧を身にまとっている」
「威圧感ありますね……でも何故鎧を?」
「人見知りをごまかすためさ。別に歩けないことを隠しているわけじゃないからね、性別も誤魔化してないし」
「そうですか……」
そのためだけに、あんなごっつい鎧を……
なお、鎧は歩いているように見えるが、マギナ様本人が歩いているわけではないらしい。
本人は鎧の中に操縦席があって、そこに座っているのだとか。
ロボットだぁ!
「皆様、お集まり頂き大変ありがたく存じます。それでは、定例の会談を始めさせていただきます。進行はこの七刀のマギナが勤めさせていただきます」
くぐもった声が会議室に響く。
見た目も相まって、実に威厳のある姿だ。
本人的にはあくまで人見知りをごまかすためなのだろうが、この鎧があってこそマギナ様は境界騎士団を纏めるカリスマとして認められているんだろうな。
「では、まずはすでにご存じの方もおられるかもしれませんが、宿痾教団が七刀のアルケと剣の里のカグラによって制圧された件から……」
そうして、厳かに会議は進行していく。
最初の話題は私とアルケ様だが、ここで私達が発言する必要はないとのこと。
私はまぁ、ともかくとして、アルケ様は人前で喋らせては行けないタイプだからとかなんとか。
……私はまぁ、ともかくとして!
「……マギナ様、堂々としておられますね。剣の里の人間とは思えないくらい、しっかりしています」
「失礼なこと言うなぁ。いやまぁ、剣の里でこういう場に出せるのはマギナと君の父君しかいないけどさぁ」
「シドウ様はだめですか」
「ダメだねぇ、やろうと思えばできるけど、本人にやる気がないからね」
会議の最中は暇なので、アルケ様とおしゃべりをしている。
周囲には聞こえないようアルケ様の錬金アイテムを使っているので、おしゃべり仕放題だ。
こういうことをしてるから人前に出せないんだよ、という突っ込みが飛んできそう。
「マギナ様って、どうして境界騎士団をまとめておられるのですか? アレだけ引っ込み思案なのに」
「他にできる人がいないから。……真面目なんだよ、あの子は」
普段の様子を見ていると、とてもじゃないけどあんなふうに堂々と会議を進行できるとは思えない。
今だって、相当無理をしているのではないだろうか。
アルケ様もどこか複雑そうに、そんなマギナ様を見ていた。
「ふぅーむ」
少し、一人で思索にふける。
マギナ様とアルケ様は双子の姉妹だ。
アルケ様は見ての通りのマッドサイエンティストで、不真面目な性格。
こういう会議の場にもあまり出席せず、自分の好きなことばかりをしているという。
対するマギナ様は、真面目一辺倒だ。
人見知りが激しいという特徴こそあるものの、七刀としてはあまりにまともすぎる。
それだと、なんとなくこれまでの話と一致しない。
七刀で一番まともなのは、武具が絡まないリンカ様のはずだ。
マギナ様にも、何か秘密があるのだろうか。
「はあ、早くマギナ様と模擬戦、やりたいですねぇ」
「……話には聞いていたけれど、本当にやるのかい? 僕が言うのもなんだけど、おすすめはしないよ」
「え? いや、逆になんでやらないと思うのですか? 私、模擬戦大好き修羅のカグラちゃんですよ?」
「うーん……まぁなんというか……なんて言ったらいいのかなぁ。あんまり話しすぎると、カグラくんの楽しみを奪うことになるし……」
マギナ様とアルケ様。
なんとなく、どちらも表面上の性格がすべてという感じはしない。
アルケ様はまともじゃないけど、こういう時は結構まともにアドバイスをしてくれる。
逆にマギナ様は、なんというか結構大胆だ。
そういうところを知るためにも、模擬戦というのは大事である。
あとなんと言うか、そうすることが今回魔境で大事になる
完全に直感だけど。
アホ毛がういんういん唸るので、きっと間違ってはいないはず。
「まぁ、一言で言うなら――」
そんな私の考えを他所に。
「勝てないよ、カグラくんは」
アルケ様は、私に本気でそう言い放った。
「それは――」
「単純な強さなら、七刀で一番つよいのはシドウさ。そして今のカグラくんはそのシドウより間違いなく強い。でも、君とマギナが戦った時。勝つのはマギナなんだ」
堂々と、自信満々に。
警告するというよりは、自慢するように。
「僕の妹は――世界で一番すごいのさ」
ああ、なんというか、まったく。
滾ってしまうじゃないか。
そんな事言われたら、我慢できなくなってしまう。
あの鎧、間違いなくあれを身に着けているときのマギナ様こそが本気のマギナ様なんだろう。
それくらい、マギナ様には”自信”が感じられる。
ああ、ああ――たまらない。
我慢ならないのだ。
だから私は――
「……それ、会議中に言うの本当にやめてくださいね? 私がすごい顔しちゃって周りから変な目で見られますよ」
「自分から言っていくのか――」
恍惚としてしまう頬を抑えながら、普通にアルケ様に注意した。