転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
ただ剣を振るうだけではダメだ。
私は本体での戦闘を再開すると同時に、疾討をぶん投げた。
これまで何度もやっているが、この戦闘では初めて使う技だ。
「読めています!」
最初から疾討がどこにくるのかわかっていたような動きで回避される。
しかしそれも、マギナ様はきちんと対策していたらしい。
騎士団の拠点にいる間は使っていなかったけれど、誰かから使うことを聞いていたんだろう。
アルケ様か他の七刀か。
まあそれはどうでもいい。
私がこれまで使ってきた技は全部対策されているということがわかればいいのだ。
「なんの!」
故に構わず突撃する。
疾討は回避されあらぬ方向に飛んでいったが、呪いの特性によって私がマギナ様と肉薄する頃には手元に戻っていた。
故に、刃は再び激突する。
私はそこで打ち合うことを避け、そのまま後方へ離脱した。
そして振り向きざまに、もう一度!
「投げる!」
疾討が宙を疾る。
私は投げ終わると同時にマギナ様へ切り掛かった。
疾討は回避され、私の攻撃も受けられる。
しかし即座に私は離脱して次の一投をぶん投げ。
縦横無尽にあちこちから攻撃を叩き込む。
「こういった動きは、今までやったことがありません! それでも受けられますか!?」
「なんの……問題もありません!」
完全初見の動きのはずなのに、マギナ様は対応してくる。
一体どこまで私の動きをシミュレートし、魔術に組み込んでいるのだろう。
しかし、やっていればわかる。
対応は完全ではない、さっきよりも余裕がなくなっているのだ。
「であれば、これはどうでしょう!」
私は少し距離をとって幻象を手にすると、腕を軽く切り裂く。
少しの痛みと共にあたりに血が滴り落ち――
「幻象が操るのは、人体であればなんでもいいのです!」
鋭い針となって、マギナ様に向け射出される。
それらをマギナ様は回避していく。
「完全初見の行動です。ですが所詮は単なる遠距離攻撃、対応は可能ですよ」
「であれば、それらが無数に重なれば!」
当然、ただ遠距離攻撃だけで終わらせるつもりはない。
私はさらに疾討を投げ放って、自分自身も突撃。
結果として起きた変化は、こちらの手数が一気に増えたという形に落ち着く。
マギナ様は、明らかに押し込まれるようになった。
「どれだけ対応が可能だろうと、マギナ様の身は一つ。こちらの手数が増えれば処理が追いつかなくなりますね!」
「そう……です、ね!」
確かに普通の剣士ならマギナ様に勝つことはほぼ不可能だろう。
剣士ができることは限られている。
どれだけ身体能力が高かろうと、事前に準備されていればそのパワーは無力だ。
だからこそ、剣以外の手段で手数を増やす。
マギナ様が追いつけないほどに――!
「これは、あまりやりたくはなかったのですが」
しかし、まだ終わらないだろう。
これくらいの小手先で勝てるなら、アルケ様は勝てないなんて言わない。
アルケ様はマギナ様贔屓ではあるだろうけど、私と戦ってことあるんだから。
「手数であれば、それこそ魔術師の本領なのですよ」
直後、マギナ様の周囲にさまざまな色の”球体“が浮かんだ。
魔術――!
それらはいわゆる”属性”が付与された球体なのだろう。
あるものは燃えていて、あるものは水が流れるように揺らめいている。
「コレであれば、手数など何ら問題にはなりません――では」
「くっ!」
飛んでくる無数の魔術を回避する。
思い返すと、魔術を回避しながら戦うというのは、これまでほとんど無かったと言っていい。
強いて言うならシドウ様との戦いで使われた稲妻の剣。
アレもかなり厄介だったけれど、今回は純粋に物量がヤバい。
しかも全て私の行動パターンを分析し、最善の軌道で突っ込んでくる。
このままでは、先程近接で追い詰められた時の二の舞だ。
「しかしきになります……ね! どうしてあまり使いたくなかったのですか?」
「理由は二つ。一つは貴方を追い詰める威力の魔術は、威力が高すぎて着弾すると城壁が壊れます」
全速力で回避に徹しながら、問いかける。
確かに言われてみると、魔術を私が回避した時、それた魔術は激突するのではなく反転してもう一回襲いかかってきているようだ。
これは術式を維持するという意味でも、合理的なんだろう。
一度着弾して効果の消失した術式を再度起動する場合、戦闘前に準備していた術式と違って詠唱などが必要になる。
「もう一つは!?」
「これは剣士の戦い方ではありません。魔術師の戦い方です。故に、カグラさんの好みからは外れるかと」
「いえ――」
私は、魔術を回避する最中、笑みを浮かべながら答えた。
同時に、足へ力を込める。
「――強くて、強くなれて、そして何より――――楽しければ! なんでもいいですよ! 私は!」
確信する。
マギナ様の手札はすべて盤上に晒された。
――ここからが、最後の攻防になる!
「な、の、で、ぇ! もっっっっっっと、あっそびましょうかぁ! ――マギナ様ッ!!」
故に、魔術をかいくぐりながら私はマギナ様に向かって飛び出した。
「無謀ですよ!」
「そうですかね!? ちゃんと対抗手段はありますよ!」
私の周囲に浮かぶ血液の針。
それらが、先程以上に素早い速度で射出された。
威力も先程の比ではない。
それらが――マギナ様の放つ魔術に直撃し、魔術を霧散させる!
「この威力は……!」
「おわかりですか、ええそうですよ。
私の血液は、私の一部。
故に私の魔力が流れていて、多重強化した状態で外に出して幻象で射出すれば、その威力は跳ね上がる。
マギナ様の魔術を吹き飛ばすくらい、なんてことはない。
なぜ先ほど使わなかったのかって? それはマギナ様と同じ理由だ。
威力が高すぎるから、人に向けると普通に殺せちゃうんですよね。
加えて、どれだけ速度が早くても向こうはそれを回避できてしまうので、威力を上げる意味がない。
だが、魔術は別だ。
流石にこの無数の魔術一つ一つに、私の攻撃を回避する術式は埋め込んでいないだろう。
というか、埋め込んでいないから吹き飛ばせているんだ。
そして――
「今の戦い方は剣士ではなく、魔術師の戦い方。そういいましたね? でしたら――」
私は、マギナ様の魔術を血液の針で吹き飛ばし、マギナ様に接近した。
ここまで使っていなかった幻象と五重強化の合わせ技。
剣士として戦っていたマギナ様であればともかく、魔術師のマギナ様には躱せないだろう。
だって――
「――マギナ様は今、
「くっ――――!」
マギナ様の鎧が動く。
しかし明らかに、先程までと比べて精彩に欠ける。
おそらくこれは、いわゆるオート操縦による回避なのだろう。
剣士として戦っていた時は、マギナ様が緻密に魔術を制御していたのだ。
ああそれは――なんという技術力。
しかし、それでも――
「私が、勝ちます!」
刃を振るった。
なんとか合わせようとしたマギナ様の剣が宙を舞う。
ただのオート迎撃では、私の刀を受け止めることができなかったのだ。
からんからんと、剣が地面を転がる音がして――
『決着だねぇ!』
アルケ様が、戦いの終わりを告げた。
――歓声。
城壁の下から響き渡るそれが、私たちのもとにも届いてくる。
遠いようで近い喧騒が、なかなかどうして心地よかった。
「マギナ様の戦い方は、確かに素晴らしいです。魔術師にして剣士。一対一の対人戦であれば、シドウ様にだって負けないのかも知れません」
私は疾討を鞘に収めながら言った。
「――ですが私、残念ながら今もなお成長中の身ですから。この戦いの中で成長してしまえば、マギナ様の事前の準備を上回ることだってできるのですよ」
満足感に包まれながらそう告げると――不意に、マギナ様が先程から反応していないことに気付く。
どうしたのだろう。
そう思いながら注意深く鎧を観察すると――
「――――びええええええ! 負けるのやあああああああだあああああああああああああああ!」
中から、そんなマギナ様の泣き言が聞こえてきた。
ええっ。