転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百十三 ばぶばぶ!

「やだやだやああああああだああああああああああ! 負けるのやああだあああああ!!」

「あわわわわ」

 

 アレから数分、未だにマギナ様は泣き続けていた。

 それはもう鎧をガッチャンガッチャン言わせて、地団駄を踏みながら。

 そしてこれは先程気付いたことなのだが、アルケ様の用意した中継がすべて消えている。

 多分、泣き出すことがわかっていたのでその前に撤収させたんだろう。

 城壁の下はまだアルケ様がマイクパフォーマンスをしているのか、歓声が響いていた。

 

「もういっかいいいい! ねぇもういっかいいいいいい! やだやだやだやだ! あああああああああああ!」

「完全に駄々っ子ですねこれもう!」

 

 多分アルケ様が未だにマイクパフォーマンスを続けているのは、その間に私がマギナ様を落ち着かせてくれってことなんだけど。

 どうしろっちゅうねん。

 このレベルの超駄々っ子をあやしたことなんてないんですけど……

 というかアルケ様ってば、マギナ様が負けたらこうなるって教えてくれてもいいじゃないですか!

 え、ガチで負けると思ってなかった?

 それならうーん……まぁ……しょうがないかなぁ……

 

「と、とりあえずどどど、どうしましょう」

「びえっ!!」

 

 おろおろしつつも、どうにかするべくマギナ様に近づこうとする。

 すると途端に鎧が跳ねて、マギナ様が私から遠ざかった。

 ですよね!

 

「やだ!!!! カグラちゃんきらい!!!」

「子どもの癇癪!」

 

 あなたもう二十歳越えてますよね!?

 とりあえず、なんというか。

 マギナ様が七刀の一人であるということが、これでよぉくわかった。

 あまりにも真面目すぎて、武具が絡まないリンカねえさまが一番まとも、という評判が正直信じられなくなっていたのだけど。

 まぁうん、マギナ様もやっぱり七刀なんですね。

 

「なんといいますか……マギナ様って、負けず嫌いが極まってあんなに人見知りなのに騎士団のトップやってるんですか?」

「ううううううっ! 私が一番強いんじゃないとやあああらあああああ! 一番じゃないとやらああああああああ!」

「でしょうね!」

 

 そんなこったろうと思いましたよ。

 まぁ、マギナ様が騎士団の団長をやってる理由はこれで解りました。

 問題はこれをどうやって静かにさせるか。

 うーん、一応案は無くはないんですが……

 

「てぇい!」

「にゃああああああ!」

 

 私は勢いよく、マギナ様に飛びかかろうとする。

 しかし避けられた。

 嫌いな人間が飛びかかってきたら、そりゃ避けますよね。

 模擬戦に勝利したとはいえ、鎧の機能は健在だ。

 こうなると、そうそうマギナ様に追いつくことは叶うまい。

 本気を出してもいいんだけど、そうだなぁ。

 ここは――こうしてみよう。

 

「あ、後ろにシドウ様!」

「きしゃあ! シドウ! シドウ嫌い! シドウ! ふぅうううう! 覚悟ぉおおおおお!」

 

 士道不覚悟!!

 私がマギナ様の気をそらすために後ろにシドウ様がいると嘘をついたら、ものの見事にマギナ様が連れた。

 完全に意識のそれたマギナ様に、私は全速力で飛びかかり――

 

「今です!」

 

 鎧を引っ剥がした。

 兜をこう、すぽーん……と。

 

「んにゃあ!」

「逃がしませんよぉ!」

 

 それだけで鎧が機能を停止するわけではないだろうが、中に入り込んでいたマギナ様を引きずり出すことはできるようになる。

 暴れるマギナ様を中から引きずり出すと、私は次の工程に入った。

 

 

「ほーら、ママでちゅよー!」

「あんぎゃあああああああ!」

 

 

 ぎゅうううううう。

 なんかミシミシ言ってるけど気にせず、私はマギナ様を抱擁する。

 頭を撫でながら、胸でマギナ様を圧迫させるのだ。

 

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「よーしよしよしよしよしよし!」

 

 必殺、母性で黙らせる大作戦!

 これは結構上手く言ったようで、暴れていたマギナ様がだんだん大人しくなっていく。

 最終的に私に抱えられながら、すぅ、すぅと寝息を立て始めた。

 

「ふーーーー」

 

 ミッションコンプリート。

 そしてこの様子はアルケ様も把握していたようで、マイクが再びこちらにも聞こえるように。

 

『さぁそれでは、激戦を繰り広げたカグラくんに一言もらおうか!』

「大変たのしかったですーーーーー!」

 

 それに何事も無かったかのように返して、模擬戦は終了となった。

 さぁて、起きた後のマギナ様、どうしようかなぁ。

 

 

 +

 

 

「たたたたたたた、大変申し訳ありませんでしたあああああああ!」

 

 と思ったら、起きたマギナ様に速攻土下座された。

 足が不自由だからか、わざわざ宙に浮かんでの土下座である。

 剣の里には土下座の文化は当然ながらあるわけだけど、宙に浮かんで土下座するのはマギナ様だけではないだろうか。

 

「ししし失礼なことばかり言って申し訳ありませんでしたあああああ!」

「ええと……あれですか、鎧を着てると強気になっちゃう感じですか」

「はひぃいぃ」

 

 なんともかんとも、戦闘中の言動はともかく、負けた後の我儘も鎧の影響らしい。

 とにかく強くなりすぎてしまった感情が、負けによって溢れてしまうのだそうな。

 なんとも難儀だなあ。

 

「いやいや、別にそこまで難儀ではないよ。だって実際、普段のマギナは負けないんだから」

「アルケ様はなんだか適当ですねえ」

 

 そんな私たちの様子を、部屋の隅でお菓子を食べながら見守るのがアルケ様。

 マギナ様にしてもアルケ様にしても、めちゃくちゃビッグマウスだったけど、実際戦って勝てる相手がいないのなら、それは正しい自認というものだ。

 

「少なくとも、この間遊びに来たシドウとは引き分けだったんだ。カグラくんにだって負けるとは思わないじゃないか」

「シドウ様来てたんですか、引き分けてたんですか。色々聞きたいことが多いですね!?」

 

 シドウ様が魔境に来ていたというのは完全に初耳だ。

 いやまあ、ラリスのダンジョンを攻略してからすでに半年以上が経過している。

 時間はいくらでもあるんだろうけど。

 だったら魔境に残って、六大宿痾退治を手伝ってくれてもいいのに。

 いや、シドウ様も忙しいんでしょうけども。

 

「シドウさんとは千日手による引き分けでした。カグラちゃん相手でも、最低でも同じように引き分けることは可能だと思ってたんですううう」

「流石にそれは幻象の機能を舐めすぎてましたね。身体強化だけが本領ではないのですよ」

「うううう、反省ですううう」

 

 へにょり、マギナ様は空中で横になった。

 なんだかシュールだ。

 ちょっとツンツンしておこう。

 

「いままで……わ、私が勝てなかったのは――サクラ様だけでした」

 

 ほっぺたをツンツンされながら、マギナ様がぽつりとこぼす。

 それは少し、意外な話だ。

 

「シドウ様にも負けたことがないのですか?」

「……シドウさんと戦ったのは、この間が初めてだったんですう。あ、あのひと……里に帰ってこないので……」

「ああ……」

「おねえちゃんとは毎回引き分けだし、他の人には負けたことないですし……」

 

 アルケ様は……まぁ、割と泥沼に陥りそうな感じだよな。

 お互いに手数が多く、事前に準備しておける点も同じ。

 決着がつかなそうなのは、何となく分かる。

 

「あ、でも……もう一人勝てない相手がいました」

「ほほう、どなたですか?」

「……さ、里長様……つまりカグラちゃんのお父さんです。だだ、だってあの人は……指導者として私より……う、上ですから」

 

 確かに、その土台に立って考えると、すごいのは父上の方だ。

 父上に境界騎士団の長は致命的に向いてないから、比べるのもまた違うけれど。

 何にしても――

 

「で、でも……そう考えると納得です。……勝てない二人の娘に、負けたわけ、ですから……」

「ふふん」

「うううううう、で、でもでもでも、やっぱり悔しいですうううう」

 

 こうやって悔しがっているマギナ様を見ると、なんとなくマギナ様の人となりもわかってきたような気がする。

 しかしそう考えると、なんだ。

 

「マギナ様って、どうしてそんなに負けず嫌いなんですか?」

「えう!? え、えっとえと、それは……」

「それは……?」

 

 浮遊しながら、三角座りに移行するマギナ様。

 私がその顔を覗き込むと――

 

「それは僕が応えようかねぇ!」

 

 間にずいっと、アルケ様が割り込んできた。

 顔ちかっ!!




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ばぶ。
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