転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
アルケ様とマギナ様が剣の里に生まれたのはもう二十年以上も前のこと。
二人は剣の才能に恵まれていた。
どちらも七刀にふさわしい才能を持っている。
なんともめでたいことだろう。
しかし、アルケ様は魔力が乏しく、マギナ様も足が不自由。
二人は普通の剣士になることができなかったのだ。
七刀は実のところ、すべての席が埋まっていることは限りなく珍しい。
だがここしばらくは里の外でフヅキ様、里ではアルケ様とマギナ様。
少し年代がズレてリンカねえさま……と、結構な数の天才が同時期に生まれていた。
これなら久しぶりに七刀が全員埋まるのではないか。
そんなことを、里の人間は期待していたのだ。
しかし、そのうち二人が剣士としては致命的な欠陥を抱えており、私の母上はすでに命が風前の灯火。
残念ながら今回も七刀は揃わないのだろう。
期待以上に、里の人達は諦めのほうが強かったのである。
そのことに憤ったのが、アルケ様とマギナ様当人だ。
自分たちには才能があって、七刀と呼ばれるに十分な存在である。
だというのに、ただちょっと剣士になれないからというだけで七刀を諦めろだなんて。
そんなの、絶対に認められない。
――根底にあるのは、私の母上への憧れだったという。
母上は剣士として、里が開かれて以来最高の天才と言われている。
私とシドウ様、それからレイナさんの三人がかりでやっと倒せた六大宿痾を、たった一人で倒してしまう。
そんなことができるのは、里の歴史を見ても母上以外に存在しない。
私も今なら単独で狐火を倒せるかも知れないけれど、それも幻象の存在あってのこと。
完全単独での勝利となると、今もなお私には届かない境地だ。
そんな強くてすごい母上が、里にいた。
普通、七刀は里にいないことの方が多い。
各地で六大宿痾が暴れていて、それを抑えるのにどうしても必要な戦力だからだ。
だからこそ母上が里にいた時代、里の人間は七刀の存在を間近で感じられたわけで。
その母のすごさに感化された人間の代表が、アルケ様とマギナ様だったんだ。
二人は諦めなかった。
なんとか母上が亡くなる前に七刀として認められ、七刀の枠を埋める。
正確にはリンカも七刀に認められないと行けなかったけど、そっちは七刀になった自分たちが無理やり推挙することで七刀の枠を埋めるつもりだった。
何にしても、現状をどうにかするには剣とは別の手段を模索する必要がある。
そこでアルケ様がたどり着いたのが錬金術で、マギナ様は魔術だった。
――それが、始まり。
二人の天才が、一人の天才錬金術師と、一人の天才魔術師になる物語の、すべての始まりである。
剣士だけでなく、錬金術師としても、魔術師としても才能のあった二人。
アルケ様は突飛な発想力で、様々な錬金アイテムを作成していく。
マギナ様には膨大な演算能力と、膨大な魔力が備わっていた。
才能の強大さという意味では母上が剣の里一かもしれないが、才能の多彩さという意味ではアルケ様とマギナ様は里で一番かもしれない。
何しろ、剣士としても天才なのに、それぞれ別の分野ですら大陸随一の才能を発揮できるのだから。
二人が特に心血を注いだのは、マギナ様の鎧である。
ぶっちゃけて言えば、アルケ様に関しては比較的早々に七刀になる目処がついていた。
あのヤバい錬金アイテムの群れの原型は、すでにこの頃から出来上がっていたのである。
特に高速で飛び回れるジェットパックはアルケ様が戦場に出るための必須アイテム。
まず最初に、そこからアルケ様は完成させていた。
けど、マギナ様の鎧はアルケ様より遥かに厄介だ。
そもそも歩行が出来ないというのは、マギナ様にとってはハンデすぎた。
空を浮かびながら戦う、という選択肢もあった。
しかしその場合、マギナ様は剣よりも魔術で戦ったほうが強い。
剣士として以上に、魔術師としてマギナ様は才能がありすぎたのである。
要するに――マギナ様は剣士として戦う意味が、残念ながらなかった。
そこでこの矛盾を解決するために開発されたのが、あの鎧。
正確に言うと、その雛形か。
現在使っている鎧は、四代目の鎧で、鎧はアルケ様が時折新しいものを作っては代替わりさせているという。
そう、鎧はアルケ様が作ったものだ。
正確に言うと、ガワとなる鎧そのものをアルケ様が作成し、それを動かすための術式をマギナ様が担当している。
ハードをアルケ様が、ソフトをマギナ様が作った合作というわけ。
だからこそ、アルケ様はマギナ様の強さを疑っていないし、マギナ様はとことん負けず嫌いなのだろう。
心血を注いで鎧を作った。
術式を編んだ。
作られた鎧は、まさに傑作と言って過言ではなく。
私の母上と戦っても、戦闘になる程度の強さをしていた。
負けてしまったけれど、これならきっと七刀としても問題はないはず。
アルケ様もマギナ様もそう思ったという。
けれど母上は、マギナ様とアルケ様を七刀とは認めなかった。
――曰く。
「七刀とは、そもそも埋めることに意味のある称号ではない。そして、ただ強ければいいというわけでもない……あの人はそう言っていたねぇ」
そうぽつり……とアルケ様は零した。
長い長い昔話だ。
きっと、いろいろなことがあったのだろう。
これだけ騙っても、なおまだ語り足りないくらいの思い出がマギナ様たちには眠っている。
まぁ、それを掘り起こすのは野暮というものだ。
「――結局、サクラ様が僕たちを七刀に認めてくれたのは、あの人が亡くなる間際のことだった」
「……薄っすらとではありますが、母上に語りかけられたことは覚えています」
「里に集まっていた者たち全員に、一人ひとり声をかけていったんだったね」
母上は変な人ではあったけど、律儀な人でもあった。
自分がもう数日でなくなると判断してすぐ、里を巡って色々と声をかけていったんだ。
アルケ様とマギナ様には、なんて声をかけたのだろう。
「七刀になることを認める。ただしそれは、僕達が七刀にふさわしいと認めたからではなく僕達が七刀としてふさわしい存在になるために、七刀の称号が必要になるから認めるだけ……そう言っていた」
「称号が必要になるから……境界騎士団の長になるには、確かに七刀である必要がありますよね」
「そういうことさ。サクラ様が言うには、ここで七刀をしていれば、いずれは僕達に足りなかったものが見えてくる……とかなんとか」
正直、未だにその答えはよくわかっていないという。
強さという意味でも、実績という意味でも、そもそもアルケ様とマギナ様はもう十分に七刀らしい七刀だ。
母上がこの二人を七刀として認めないのなら、現在七刀をしているほぼすべての人間が七刀としてふさわしくないということになってしまう。
「実際、それはそのとおりらしいよ。里長曰く、サクラ様が七刀として認めているのは魔境を守るシュウゲン様だけらしい」
「シドウ様ですら七刀として認められていないのですか」
「それと同時に今の――狐火を倒したシドウさんなら、サクラ様も認めるだろう……と」
シュウゲン様。
私が出会ったことのない、七刀最後の一人。
魔竜峰を守る番人にして、七刀最年長の剣士。
ただそうなると、少し不思議だ。
六大宿痾を倒したことが七刀の条件なら、シュウゲン様はその条件に合致しない。
母上は、一体何を理由に七刀を七刀と認めているのだろう。
「ええええと、えと、えと。……サクラ様が、どうして私たちを七刀に認めなかったのか……は、わからない……ん、ですけど。私たちが七刀としてやりたかったこと……は、今なら……できます」
「ふむ。七刀を全員揃えること……ですか」
現在の七刀は六人。
ここに、私が入るかどうか。
父上は私に、七刀全員から許可を得るよう条件を出した。
リンカねえさま、シドウ様、フヅキ様。
三人は、すでに許可を出している。
残るは――マギナ様、アルケ様、そしてシュウゲン様。
「わ、私たちと……一緒に、梵賦達を倒しま、しょう。そうしたら――私と、おねえちゃんは……貴方を七刀と……み、認めます」
「同じく、だねぇ」
「……わかりました」
こうして願いを託されては、私としても断る理由が見つからない。
特に、あれだけ七刀を揃えたいと言っていたのに、ちゃんと自分たちも条件を出すところが好印象だ。
そして何より――
「私も、梵賦達を倒したいです。その方が……楽しそうですからね!」
私としてもその条件が願ったりかなったりである以上、受けない理由は皆無なのであった。