転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百十五 それで結局犯人は

「――それで、結局境界騎士団に紛れ込んでいる六大宿痾はどんな存在なのでしょう」

 

 さて、マギナ様とアルケ様のことは、なんとなくわかってきた。

 そのうえで、目下の問題はやはり入り込んでいる六大宿痾なのだ。

 タイミング的に、アルケ様が私と一緒に宿痾教団を壊滅させているタイミングで入り込んだのだと思われる。

 騎士団の要が一つ本拠地を離れているわけだから、チャンスと言えばチャンスだろう。

 向こうも梵賦が私たちの襲来を察知していたのだから、そのタイミングで送り込むことのは何もおかしくない。

 

「向こうとしても、ここで決着をつけるつもりで動いているのだろうねぇ。まず間違いなく、こちらの急所を狙っているはずだ」

「急所ですか……この場合、私たちの急所ってなんです?」

「騎士団そのもの、というのが一番ありえる話だけど」

 

 魔境を包囲する長大な城壁と、それを守護する騎士団。

 これを内側からなんとかできれば、戦いは一気に魔物勢力の優位に傾くはずだ。

 しかしそれも変な話だ、と私たちは思う。

 

()()そんなの狙いますかね? この境界は、ずっと前からこの魔境と人の生活圏内を分断してきたのに」

「まぁそうだねぇ。正直、それができるならもっと早くから行動を起こしているはずさ」

 

 何より今はアルケ様とマギナ様の他に、私という第三の厄介な個人戦力が在中している。

 そんな状況で城壁そのものをどうにかするのは、ほぼ不可能だ。

 まったく城壁を狙っていないということはないだろうけれど、本気で城壁を狙っているわけではないはず。

 

「ただまぁ一つだけ、現在の戦況を決定的に有利へ傾けるものが、なくはない」

「ほほう、それはなんですか?」

「――()()さ。それを君から引っ剥がして自分たちのものにすれば、魔物側はほぼ勝利を盤石のものにできるだろう」

「あっ!」

 

 それは確かに。

 幻象は、人間に対して非常に有効に効く”武器”だ。

 多分これまでは、幻象自身の意思が梵賦達への協力を拒んでいたのだろう。

 プライドが高そうだからな、六大宿痾はどいつもこいつも。

 でも今は違う。

 その自我は私によって完全に塗りつぶされ、単なる一つの武具に過ぎなくなった。

 使い方は、使い手次第だ。

 

「とすると、いっそ私が一度この場を離れるのもありかもしれませんねぇ。幻象が向こうの手にわたるのは、それこそ最悪の可能性ですし」

「まぁ、いざとなればそうだね。でも今は、より被害を小さくすることを考えたいところだ。君がいなくなると、六大宿痾相手に僕とマギナ、それから兵士たちだけで相手することになる」

 

 流石にそれは厳しいだろう、とはアルケ様の予測。

 まぁもし普通に撃退できるようなら、境界騎士団は私の存在がなくとも魔境を宿痾の主から奪還できているかもしれない。

 そう考えると、六大宿痾を単独で打倒しうる私と幻象の存在が、まぁ大きいんだなぁと実感する。

 

「一番の理想は、ここで六大宿痾を討伐することです。頑張りましょう」

「そうだねぇ。――さて」

 

 で、話をしている私たちなのだが、現在どこにいるかというと――マギナ様の部屋だ。

 ここ以外で、絶対に安全だと断言できる場所はないという。

 アルケ様の部屋は、割と研究のために他の人を入れることが多いそうな。

 そしてマギナ様は現在、仕事のために外へ出かけている。

 で、残った私たちは、というと。

 

「――――掃除の方も頑張るとしようかぁ」

「……ですねぇ」

 

 マギナ様の汚部屋を掃除していた。

 本人曰く。

 

『ぜぜぜ、絶対この部屋を掃除するの、やめてよねおねえちゃん!』

 

 とのこと。

 この部屋は見るも無惨な状態なのだが、これはこれで調和が保たれているのだとか。

 えぇー、本当ですかぁ?

 そしてその言葉にはアルケ様も懐疑的。

 

「私をこの部屋に残した時点で、マギナも部屋が掃除されることは想定済みさぁ!」

「うーん、典型的姉仕草」

 

 横柄な姉というのは、どうしてこうも唯我独尊なのか。

 とはいえ今回はアルケ様が一方的に正しいので、私としても掃除するのには賛成だ。

 ただいかんせん量が多い。

 なのでこれまでのことから色々状況をまとめていたわけだけど、話もなんとなく一段落してしまった。

 ので、清掃の方に意識を向ける。

 

「しかしねぇ、なんだね! 下着が転がりすぎているねぇ! 仮にも淑女の部屋なのだからもう少し貞淑にしてほしいものだねぇ!」

「すいませーん、下着の上と下の数がいっちしませーん」

「あの子、今上下を適当に着てるんじゃないだろうねぇ!!!!!」

 

 アルケ様は激怒した。

 

「あと、服がいつも着ているローブと下着しかないんですけど。もしかしてあのローブの下って直下着なんですか……?」

「ローブを着るだけで外に出れるようにしているだね、横着だね! 足が不自由だから仕方ないとはいえ、君浮かべるだろう、一人で履けるだろう!!」

 

 アルケ様は妹思いだなぁ。

 なんて思いつつ、粛々と掃除を進めるのだった。

 

「――リンカねえさまの部屋もひどいものでしたけれど、こっちも大概ですね」

「あっちは掃除に命の危険が伴うから更に厄介だけどねぇ。いや、こっちも触ったら呪われる魔道具とか転がってるかもしれないな……数が少ない分警戒心が薄れて、その方が厄介かも」

「ははぁ。掃除ができない七刀はこれだから……案外シドウ様の部屋はきれいなんですけどね」

 

 レイナさんが定期的に清掃しているというのもあるだろうけど、単純にシドウ様が汚さないように気を使ってるんだな、という感じ。

 フヅキ様はそもそも基本旅烏なので、部屋を汚すという概念がない。

 うーん七刀の整理整頓術も千差万別。

 母上はどうだったのでしょう。

 

「サクラ様は、そもそも物をあまり持たない主義だったね。部屋がずっとこざっぱりしてるんだ」

「ははぁ、物欲とかない感じなんですかねぇ」

 

 なんかこう、人間離れした感性してらっしゃるでしょうし、そういうものなのかも知れない。

 まぁそういう私も部屋にあまりものは置かないタイプだ。

 でもこれは非常に理由が単純で、置くものがないんだよね。

 前世と違って娯楽が乏しすぎる。

 私には剣と鍛錬さえアレばいいんですよ!

 母上も、もしかしてそんな感じだったり?

 まぁとにかく。

 

「これで一段落、です!」

「つかれたねぇー、美味しいものが食べたいねぇー、教団にいた頃が恋しいねぇー」

「そういうところは横着ですよね……アルケ様」

 

 二人してキレイになったマギナ様の部屋の絨毯に寝転がる。

 高級な絨毯なので、これがなんとも心地よい。

 このまま眠りについてしまいそうだ。

 

「……そうだ、もうちょっとだけ、調べなきゃ行けない相手がいます」

「うーん、誰を調べるんだい? 君の直感が正しければ兵士でも、貴族でも、お偉いさんでもないんだろう?」

「それに、結構ここで生活していますが、非戦闘要員にもそれらしい人はいませんね」

「じゃあ、一体どこを調べればいいって言うんだい。もうお手上げじゃないか」

 

 さて、何にしても現在目下の懸念事項は六大宿痾がどこに潜んでいるか。

 これまでの調査で、ぶっちゃけことごとくが空振りに終わり、こっちとしてはてがかりがなくなりつつある。

 こうなったら向こうが行動を起こすことを前提に防御を固めるしかないのか。

 そんな状況に陥りつつあった。

 ――というか、マギナ様は完全にその方向で動いている。

 そもそもの話、私に捜索の話を振ったのも、手が空いていて頼めそうだったからだ。

 前提としては、発見による撃退ではなく防衛による撃退をマギナ様は想定している。

 そのうえで私も、他にすることがないから捜索の方で考えを巡らせていると言うだけの話。

 さて、そんな私が考える新しい選択肢。

 それは――

 

 

()()()()を、私たちはまだ確かめていません」

 

 

 要するに、移動とかに使う馬とか、そういうところを見てみよう……という話だった。

 

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