転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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九 この親にして子あり

 それから、商人一家の馬車に同乗するような形で私は数日旅を続けた。

 それまで一人で身軽な旅をしていた上に、鍛錬を兼ねて身体強化をしながら移動していたものだから、移動速度は極端に落ちたものの。

 代わりに、腰を落ち着けて鍛錬をしながら、他者との交流ができるというのは悪いことではなかった。

 

 特に商人の男性から、ここ最近の商業都市「カルマン」周辺の事情を教えてもらったのは大きい。

 最近魔物があちこちに出ているため、街道の治安は魔物を撃退できるなら逆に安全であるらしい。

 対して、街の外で活動できなくなったごろつきが、街の中を闊歩していて街は治安が悪いのだとか。

 

 まあそれに関しては大変だなあ、とは思うものの。

 それ以上は絡まれた時に考えればいいか、と私は楽観的だ。

 そうそう遅れをとることはないだろうし、遅れを取るような相手との死闘は大歓迎だから。

 強いて言うなら寝込みを襲われるのは勘弁なので、多少高くても安全な宿を取るようにしようと決めた。

 そういう宿にはお風呂がついてることも多いし、一石二鳥だ。

 

 さて、他にやったことといえば、商人一家の子どもにせがまれて剣の手ほどきをしたことか。

 といっても、やってることは単純なものだ。

 子どもは幼く、まだ剣の鍛錬をするには身体ができていない。

 だからその年頃でもできる簡単な運動方法を教えた。

 一般に「剣の里の体作り」と呼ばれるものだ。

 

 これ、凄く考えられた効率的な運動方法で、提唱したのはなんと父上である。

 もともと、剣の里には「外部の人間に教えていい鍛錬」と「教えてはいけない鍛錬」があった。

 前者は基礎的なもので、後者は剣の里のブランドを維持するための専門的なもの。

 このうち、前者を更にわかりやすく改良し、広めようと父上がいい出したのである。

 結果として、現在大陸中で「剣の里の体作り」は大流行。

 国の軍隊のウォーミングアップにも採用されているとかなんとか。

 まあ、剣の里の人間は軍隊に所属することも多いし、自然な成り行きかもしれない。

 

 さて、そうこうしているうちに私達は商業都市「カルマン」に到着。

 商人一家とはお別れになる。

 最後に、結構な謝礼金をいただいた。

 父上から預かったお金を含めて、しばらくは安定した暮らしができそうだ。

 

 なお、他にも七刀に関する情報とかを聞いたが、成果はなかった。

 まぁ急ぐものではない。

 ゆっくりと情報を集めていけばいいだろう。

 なんてことを思いながら、商人一家に薦めてもらった宿を目指していると――

 

「――おや、剣の里の子かい?」

 

 ふと、屋台の人に声をかけられた。

 美味しそうな揚げ物を揚げているお姉さんだ。

 匂いにつられて、まんまと屋台の方へと歩いていく。

 

「はい。剣の里を出て旅をしているカグラと申します」

「へぇカグラちゃん。まだ小さいのに、立派だね」

「むぅ……否定したいところですが、まだ十二ですからね。小さいというのはその通りです」

「えっ、十二!?」

 

 自分には前世の記憶があるのだから、子供扱いはされたくない。

 なんていう、明らかに子どもみたいな感情が私の中を駆け巡る。

 わけだが、どういうわけか小さいと言ったお姉さんが私の年齢で驚いていた。

 いや、背丈はかなり小柄な方だし、十二歳といって違和感はないと思うが!?

 どこを見てもうちょっと年上だと思ったんだ!?

 どこを!?

 

「こほん。そうですよ、里の人間が外に出られるようになる年齢は下限が十二。私は実力が認められて、幼いながらも外の世界へ出ることが許されたわけです」

「は、ははぁ……幼いにしてももう少し年上かと……」

 

 ジロジロと、視線がサラシに押さえつけられた胸に向いている。

 お姉さんじゃなかったらセクハラもいいところだ。

 そうじゃなくてもセクハラと言われたら否定できない。

 

 それから、いくつかお姉さんと世間話をする。

 屋台で売られていた揚げたてのお肉に舌鼓を打ちつつ。

 色々と話がはずんだ。

 

「そういえば、剣の里は二年くらい前に百鬼夜行の襲撃を受けたんだっけ。よく無事だったね」

「そこはまぁ、剣の里ですから。といっても、家屋はほぼ全壊してしまいましたけどね」

「商人界隈じゃさぁ、そこからの立て直しがあまりにも早いってんで話題だったんだよ」

 

 ふむ。

 そういえば、先日助けた商人一家の人ともそんな話はしたな。

 剣の里は傭兵の輸出みたいなことを生業とする特殊な集団だ。

 そこらの田舎村と比べて、持っている金の額は段違い。

 なのだが、それにしたって二年で里の再建が終わるのは、金の回りと物の回りが良すぎるというもので。

 これには実は、色々と理由があった。

 

「そもそも、剣の里は二十年前にも百鬼夜行で壊滅しかけてるんだろ? いくら傭兵稼業が儲かるにしたって、随分と余裕があるよねぇ」

「そこは父……里長の才覚が大きいかと」

 

 そうなのだ、先程言った「剣の里の体作り」を始めとして、父は色々と剣の里の改革を行っている。

 二十年前の百鬼夜行の前後で、父は色々あって里の運営側に回った。

 そこで、色々となんかこう、ずさんな帳簿を見てしまったらしい。

 我慢できなくなった父は改革を断行。

 二十年の間に、だいぶ財政は改善された。

 

「まあ、それはそれとして結構無茶をしたのも事実なので、外貨がほしいのもまた事実。それを稼ぐのも私の役目の一つなわけです」

 

 里の復興を七刀に知らせるのも、その話が七刀が関わっている人たちに伝わって、里への依頼とかが増えるよう計らうためのものだし。

 

「へぇ、色々考えてるんだね……ん? 父?」

「あっ」

 

 おっと、余計なことを言ったのが聞こえてしまっていた。

 別に自分の父親を自慢したかったわけではない。

 なので誤魔化そうとしたのだけど。

 失敗してしまったみたいだ。

 

「んー、そんなに経営の才能がある人の娘なら、ちょっと相談に乗ってよ」

「……私は父と違って、ただの剣士ですよ」

 

 なにせ父は、「集団」を統率し運営する才能に長けている。

 剣の腕は凡人でありながら、その才能だけで七刀候補にまで上り詰めた男だ。

 まあ、候補止まりだったという話でもあるが。

 私みたいな商才に関しては完全な凡人とは違う。

 というか、仮に才能があっても前世の記憶のせいで発想が凡庸になるのだ。

 

「実は、ここ最近揚げ物の新メニューに悩んでてさぁ」

「……経営の相談ではないではないですか」

「まぁまぁ、何かアイデアの一つでも出しておくれよ。もし当たったら、今後店に来た時にそれを毎回一個おまけするって契約で」

「活用されなさそうな契約ですね……面白そうだと思ったら、今ここでもう一個揚げ物追加してくれる……というのも契約に含めてくれれば乗りますよ」

「乗った」

 

 そういうことになった。

 ともあれ。

 まあ、私みたいな一般人の出せるアイデアは大したことがないと思うけど。

 

「んー、肉以外のものを揚げてみますか? 甘いものとか」

「甘いものぉ?」

 

 こう、ドーナツみたいなイメージだ。

 お姉さんの揚げ物屋は肉がメインである。

 なのでまぁ、それ以外のものをあげてみるというか。

 そんなことをつらつらと語ってみる。

 

「ふぅん、まぁ面白そうだけど。うちの設備で作れるかしらね」

「さあ……言ってみただけなので。それで、採点のほどは」

「うーん」

 

 しばらく、お姉さんは考え込む。

 こちらとしては、正直ダメでもいいのだけど。

 

「じゃあ、この鳥で」

「わあ、ありがとうございます。お姉さん」

「ま、そうやってお姉さんって呼んでくれたから、そのおまけってことで」

 

 それはまた、何事も年齢は若く見積もってみるものだ。

 お姉さんから直接唐揚げを、餌付けされるような形で貰い味わう。

 ジューシーなお味で、大変よろしい。

 満足した私は、お姉さんにお礼を言ってその場を立ち去るのだった。

 

 ――これは、それからしばらくしてのことなのだけど。

 考えてみれば、私の感性は前世の記憶故に少しズレている。

 今回の場合、私が上げたドーナツ案は、私の中では普通の案だったのだが。

 異世界、特にカルマン周辺ではそういったドーナツ菓子がほとんど出回っていなかったのだ。

 

 結果、お姉さんの売り出したドーナツ菓子は売れに売れた。

 しかもお姉さんは私の名前を出して宣伝するものだから、それが父上の耳に入り。

 商魂たくましい二人は、そのドーナツを「剣の里」印として販売することになるんだけど。

 それはまた、別のお話。

 というか、私とこのお姉さんは、これからも何度か顔を合わせることになるんだけど。

 それもまた、別のなんとやらだ。

 

 というか、アレだ。

 もしかしてこういうのも、商機を生み出す才覚ということになるのだろうか。

 この親にして子あり、なんていうけれど。

 もしかしたら私達もその御多分に漏れないのかもしれないな。




設定だけ列挙すると、普通に主人公やれそうなくらいには濃いですが、未だに名前がでてこない父上です。
主人公のそれは転生者ゆえの感性のズレなので、才能とはまた違いますが。
結果的にそれが機を掴むきっかけになるのであれば、それもまた才能かもしれません。
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