転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
私はその日、一人で馬小屋へとやってきていた。
敵が狙うのが幻象なら、私を一人にするのはまずいんじゃ……と思うけれど、マギナ様は忙しいしアルケ様は同行を拒否ったのである。
臭いからやだって……お風呂に入ってないときのアルケ様もにたようなものじゃないですか!
と言ったら激しく消沈しそうだったので、心の奥にひめておく。
まぁアルケ様本人はこなかったけど、アルケ様のゴーレムは大量に貸し出してくれた。
そもそも単独戦力としては、私が一人いれば十分なんだ。
アルケ様にやってほしいのは、数での対応と不意打ちの警戒。
その点は、ゴーレムを操縦してもらえば、十分対応可能。
というわけで、まぁ来なくても元々問題ないから、臭いって理由を言い出しても大丈夫だったわけ。
それに――
『じゃ、僕は君の指示通りに動かすからねぇ、好きに使ってくれたまえ』
「はーい」
こうして通信しながら、リモートで動かしてくれるから会話の相手には困らない。
というわけで、やってきました馬小屋。
この騎士団には騎馬隊も編成されているので、その規模は馬小屋と表現するより厩舎と表現するほうが正確だ。
放牧地まで完備しており、かなり大規模な感じである。
遠方からやってきた人が滞在する場合も、ここで預かって放牧とかしてくれるんだとか。
至れり尽くせりだなぁ。
「その分、中からも外からも入り込める可能性があるってことですよね」
『まぁそうなるねぇ。とはいえ騎士団内部で活動するなら、すでに敵はここを離れていると考えるべきだけれど……』
「――さて、どうでしょう。面白い痕跡は見つかるかもしれません」
言いながら、厩舎の中へと入っていく。
私と数体のゴーレム。
ここ最近、境界騎士団内部でめちゃくちゃ話題になってる私と、この騎士団のトップであるアルケ様のゴーレムだから、まぁ目立たないはずもない。
見知らぬ存在が複数入ってきたことで、馬達も緊張気味だ。
「大人数だと、お馬さんを無駄に警戒させてしまうかもしれませんね」
『ゴーレムを小さくしておこうか? 一瞬で伸縮できたりする機能を付けてあるんだよ』
「いえ、お構いなく。――こうしておきましょう」
そうして私は、腰の幻象を少しだけ抜く。
そして厩舎全体に、精神を落ち着けるよう幻象の力を行使した。
人に対しては使わない。
あくまで、馬だけを落ち着ける。
『だいぶ静かになったねぇ』
「……これを人相手に使えれば、だいぶ楽なのですが。向こうにも使われたと伝わってしまうのが少しまずいのですよね」
『この騎士団で何かが起こっている、と喧伝しているようなものだからねぇ』
流石に、騎士団の人間全員を幻象の精神干渉にかけることは難しい。
それができれば、他の六大宿痾に支配されている人間を見抜くこともできるのだけど。
片っ端からやるとなると一日仕事だし、多分大騒ぎになって六大宿痾どころじゃなくなる。
困ったものだ。
『これを使って、この騎士団にいる人間全ての敵意を集めたいとか考えちゃダメだよ?』
「考えませんよ! 私をなんだと思っているんですか! 合法的に襲ってもらえるならともかく、無理矢理は主義に反します!」
私の性質が剣鬼と誤解されやすいせいか、分別なく闘争を求めていると周囲からは思われやすいのは困りもの。
私はやっちゃダメなことに興奮するタイプではありません。
それはそれとして――
「
『おや……それは意外だな』
「でも確かに、むんむんと感じるんですよ。六大宿痾の残り香とでもいうべき瘴気が!」
『機器では何も探知できないんだけどねえ』
そりゃ、探知できてたらそもそも私は必要ないのだ。
ただよう残り香は本当に微小な代物で、探知できるとしたら私かシドウ様くらい。
向こうは相当気をつけて、今回のことを起こしてるみたいだ。
「もしかすると、私に気づかれるのは想定内だったのかもしれません」
『狙いが幻象なら、そうだろうね。本来は君を一人で誘き寄せるか、騎士団全体で大騒動に発展させるつもりだったのか。どっちにしてもマギナはすごいってことさ』
もし私が一番に気付いた場合、人に知られないってことは中々難しい。
マギナ様の私室という、誰にも聞かれる心配のない場所で話をできないから、向こうは盗聴ができたはずだ。
さらにはマギナ様が気づいたことで、私が一人で調査するということもなくなった。
案外、向こうの狙いをずらせているのかもしれない。
「とにかく行ってみましょう!」
『何かあった場合は即座にバックアップに入るからねえ』
「お願いします!」
私はさささっと、気を張りながら残滓の濃い場所へ向かう。
今のところ怪しい気配はどこにもなし。
向かう先に瘴気こそ感じられるけれど、私の直感は危機を感じ取ることはなかった。
「……多分、この子ですね」
『怪我してるねえ、早く元気になってほしいねえ』
「……それ以上に言えることがないですね」
私たちがたどり着いたのは、怪我を負ったらしい馬のところだった。
痛そうに脚を気にしてはいるものの、他におかしなところはない。
アルケ様に確認をとってもらったところ、この馬は騎馬隊に馬で、少し前に魔境内部で怪我をしたらしい。
怪我をした時期は、六大宿痾が入り込んだ時期と一致する。
つまり、侵入元はこの馬で間違いないが、この馬が六大宿痾というわけではなさそうだ。
「ここに六大宿痾はいませんね」
『とすると、どこかに移動したわけだ。……さて、どういうことだと思う?』
「考えられる可能性は二つありますが……我々はとんでもない思い間違いをしていたのかもしれません」
『なんにせよ、次に確認するべきは決まっている。この馬の騎乗者だ』
「急ぎます!」
つったかたー!
私はアルケ様からその騎獣者のいる場所へ案内してもらう。
あの馬に乗っていたのは、騎馬隊の兵士の女性だった。
しかし、彼女に六大宿痾の気配は感じない。
隅々までくんかくんかしたから間違いないのだ。
おっと私を変態みたいな目で見ないでください!
これはあくまで調査のためです!
ちょっと舐めてみてもいいですか!?
あ、逃げられた!
それから色々あって、私は六大宿痾が彼女のどこに引っ掛かっていたのか突き止めた。
私室にあった私物である。
特になんてことはない手鏡で、一体どうしてここに瘴気が感じられるのか。
私も少しよくわからない。
騎馬隊のお姉さんは、なんか色っぽい目で私をみてくるようになった。
こわい!
まあ色々あったのだ、うん。
「とりあえずわかったことをまとめます」
「は、はひぃ」
そして場所はマギナ様の私室。
先日掃除したはずなのにすでにそこそこごちゃっとしているマギナ様の部屋のテーブルには、あるものが広げられていた。
一つはお姉さんの部屋から持ってきた手鏡。
こいつに六大宿痾は化けていたのか、憑依していたのか。
どちらにしても、六大宿痾が確かに存在していた痕跡だ。
もう一つは
どうやら六大宿痾は、こいつにひっついて騎士団内部に侵入したらしい。
「今回忍び込んだ六大宿痾は人に化けていません。
「そそそ、それでええええっっと、梵賦って……
「そうだねぇ、そのようだった」
――すなわち、私たちは盛大に見誤っていたようだ。
多分、宿痾教団で梵賦が姿を見せたのは、私たちに自分の力を誤認させたかったからというのもあるのだろう。
結果、大事なことを見落としてしまうわけだから。
向こうもなかなかやってくれる。
「六大宿痾は梵賦の力によって侵入したわけではなく、自分の力で侵入した、ということですか」
色々と、前提をひっくり返す必要が出てきた。
ただ、一つだけはっきりしたことがある。
どうやって六大宿痾を見つければいいのか。
その方法を、私は見出したのだ。
「というわけで、ちょっとこの拠点にある道具を片っ端からペロペロしてみます」
「――――なんて?」
なのでそれを口に出したら、アルケ様が割と素で聞き返してきた。