転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百十六 怪奇デカパイぺろぺろ

 ――それから数日、境界騎士団内部ではある噂が広がっていた。

 どこからともなくふらりと現れたデカパイが、無造作にいろいろなものをぺろぺろして去っていくという噂だ。

 ついたあだ名は、怪奇デカパイぺろぺろ。

 デカパイをぺろぺろできるのか!? と期待して話を聞いていた人間をがっかりさせるためのネーミングである。

 恐ろしいですねぇ。

 

 それはともかく、私は探し方を変えて六大宿痾を追いかけていた。

 本当はぺろぺろした方がいいのだけど、ばっちいからという理由でアルケ様とマギナ様から許可がおりなかったので、別の方法である。

 いや、魔力で身体を強化すれば多少のバイキンはどうってことないのだけど。

 まぁ、そういう問題ではないですよねぇ。

 じゃあどうやって探しているのかといえば、匂いを辿っているのだ。

 極端に顔を近づけてくんくんすれば、舐めなくてもまぁなんとか痕跡をたどることが可能。

 結果として絵面がぺろぺろしているのとそう変わらないから、怪奇デカパイぺろぺろの名前が広まってしまったが。

 まぁ何にしても、ここはささっと六大宿痾を発見したいところだ。

 マギナ様の探知によれば、未だ境界騎士団内に潜伏しているらしいし。

 というか、本当になんで潜伏したままなんでしょうね。

 行動を起こすにしろ、一時退却するにしろ、あまり時間をかけてもしょうがないとおもうのだけど。

 むしろこうやって、こっちが少しずつ向こうに近づいているのだから、ただ静観しているだけでは状況を悪化させるだけだ。

 まぁ、私としてはありがたい話だけど。

 

「ひとまず、兵士さん達の道具に、敵が憑依している可能性は低そうですね」

 

 以前の会話で道具に()()()と表現したけど、敵の能力は憑依というのが正しい。

 いろんな道具に取り付いて、あちこちを飛び回る敵。

 なかなかどうして、尻尾を掴むのが難しい。

 

「次は冒険者ギルドです。何かわかるといいのですが――」

 

 つったかたー(移動の際の脳内効果音)っと冒険者ギルドに向かう私。

 中に入ると、相変わらずギルドは盛況のようだ。

 この中から探すとなると相当骨が折れるけれど、私にはくんくん作戦があるわけで。

 多少怪しいのだけ、ピックアップして嗅ぎ取っていけばいい。

 

「それにしても、改めて意識すると案外ここにも瘴気が蔓延しています。人ではなく空間に目を向けるべきでしたね」

 

 いいながら、とりあえず深呼吸。

 すぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 はぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

「ひぃ! 怪奇デカパイぺろぺろだ! 深呼吸でデカパイが脈動している!」

「よし」

「行くのか?」

「死ぬなよ」

「デカパイに何度夢を見たかしれないよ」

 

 なんかどっかで聞いたことのあるやり取りをしながら、一人の女性がこっちに近づいてくる。

 でも残念ながらあの人の私物からは匂いがしない。

 ので、別の場所を目指して私はつったかと駆け出す。

 残念そうに女性は膝から崩れ落ちたけど、六大宿痾をその身に宿してからまた来てくださいねー。

 介錯は盛大にして差し上げますから。

 

「えーっと……あったあった、これですね!」

 

 私が目をつけたのは、ギルドの依頼ボード。

 その中にある一つの依頼。

 ――を、書くために用意された羊皮紙。

 こいつだ。

 こいつから匂いがする!

 ぷーんぷんにおいますよぉ!

 

「くんくんくん……匂いが濃くなっています。近くなっている証拠!」

 

 ここまでの調査で、なんとなく六大宿痾の足取りは掴めるようになってきた。

 まず馬の鞍からここに侵入した後、兵士の私物に憑依。

 それから兵士の私物を幾つか転々としつつ、次は冒険者ギルドへとたどり着いたらしい。

 で、それがわかったら次はどこへ行くのか。

 境界騎士団の行政区画だ。

 ここは境界騎士団に関わるいろいろな政治的あれこれを処理する場所。

 以前見学した会議も、ここで行われている。

 

「くーんくんくんくん! ふーほふほふほふほ! いやぁこういう場所って、なんだか独特な匂いがしていいですよね」

 

 ちょっと高級感のある、どこか外界と隔絶した香り!

 ――の中に瘴気。

 ええい、邪魔をするなこいつ! こいつ!

 瘴気は微細なものであるため、人体に影響はないけれど、あると臭いのでキレイにしましょうねぇ。

 どうやるかといえば、魔力で吹き飛ばします。

 ふおおおおお!

 

「んで、ギルドの行政職員を辿って……会議室にやってきました。もしかして、あの場に六大宿痾はいたのでしょうか」

 

 いや、それはないな。

 あんな重鎮の集まる場所、もしそこに潜り込めるなら、もっとヤバいことになっているはずだ。

 潜り込めたとしても、行動を起こせなかった?

 そんなことがあるのだろうか。

 でもここまでの六大宿痾の動きを見ると、なんというか――違和感がある。

 それはとても些細な違和感なのだけど、見逃すととんでもないことになりそうな、そんな違和感。

 時系列を少し整理してみよう。

 

「まず、六大宿痾がここにやってきたのは、私がやってくる一日前です。怪我をした馬の鞍に取り付いてやってきました」

 

 そこから兵士の私物へと移動している。

 んで、このタイミングで私がやってきて、マギナ様から調査を依頼され……

 

「私は、兵士を片っ端からボコりつつ、調査をしましたね」

 

 あの時、私は兵士の私物に取り付いた六大宿痾に気付けなかったけれど、兵士に取り付いていれば確実に六大宿痾がどこにいるか感じ取れたはずだ。

 現にこうやって、探すべき対象を見つければきちんと後を辿れている。

 つまり、あの時六大宿痾は――焦ったんじゃないか?

 

「私に気付かれるかもしれないと考え、冒険者ギルドに場所を移した」

 

 ――けど、私は次に冒険者ギルドを調査した。

 まぁ順序としては当然なんだけど、六大宿痾は完全に私が自分を察知していると判断したかもしれない。

 結果、続けてギルドの行政区画、そして会議室へ――

 

「――もしかして」

 

 私は次の場所へ向かう道すがら、思う。

 おそらく次が最後の場所だ。

 私はマギナ様とアルケ様に連絡して、そこへ三人で向かうことにした。

 んで、最初に()()へたどり着いて思う。

 

「私……無自覚に六大宿痾を追い詰めてました?」

 

 この境界騎士団には、六大宿痾ですら入り込めない場所がある。

 マギナ様の私室だ。

 最高級のセキュリティが施され、ここでの会話は絶対に外で聞かれることはない。

 じゃあもしそこに、六大宿痾が紛れ込み――マギナ様が鍵をかけたら?

 そして、この境界騎士団には私室の他にもう一つ――マギナ様が全力でセキュリティを施す場所が存在する。

 

 

「わ、わわわわ、私の鎧保管庫ぉ!?」

 

 

 そう、そこに。

 私は確かに気配を感じ取った。

 

「ははぁ、マギナの会議で使った鎧は、会議で使う専用の鎧なんだよねぇ。主に度胸をつけるためにメンタルバフの調整がされてるから。で、会議で使ったらそのままずっとこの部屋の中にしまいっぱなしになるわけだ」

「で、デザインこそ普段使いのものと同じですが……それ以外は全くの別物なんですぅ」

 

 どうやらここには、普段使われない鎧達が保管されているらしい。

 会議用の鎧と、それから過去に開発して今は使われなくなった型落ちの鎧。

 通常の鎧は――

 

「こ、このように……いつでも装着できるようになっています……」

 

 がしゃこん、がしゃこん。

 車いすが変形して、鎧になる。

 どうみても質量が増えているけど、そこを気にしてはいけない。

 素直にかっこいー! と目を輝かせておきましょう。

 

「それにしても、まさか、そんなことはないと思いたかったのですが―ー」

 

 マギナ様がセキュリティを解除していく中、私は疾討を抜き放つ。

 ここに六大宿痾がいるとなれば、この後に待っているのは戦闘以外にありえないからだ。

 

 

「……閉じ込められていたんですか、この宿痾の主。ずっと……ここに」

『やめろォ!!』

 

 

 そしてそうつぶやいた途端、扉が開き。

 私の言葉を聞き取ったらしい六大宿痾―ーマギナ様の会議用鎧にとりついたそれが、とびかかって来た!

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