転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
「いまだ! カグラくんがそいつを抑えているうちに、中に押し込めるよ! マギナ!」
「は、はい! お姉ちゃん!」
私の疾討と、大剣を振りかぶる鎧が激突する。
そこに、よこからアルケ様とマギナ様の両名が突撃。
勢いよく六大宿痾を鎧保管庫の中に叩き込む。
そのまま、私たちも中に突入した。
「扉を閉めます!」
直後、ばたんと扉は閉まり、マギナ様によって施錠がなされる。
これでこの場には、私たちと六大宿痾以外が入ってくることはない。
保管庫の中は非常に広く、全力で戦闘しても問題は起こらないだろう。
ちょうどいい戦場だ!
『グ、グググググ、厄介な……!』
「さて、感想を聞かせていただきましょうか。私に追い詰められた結果、自分から閉じ込められて何もできなかった六大宿痾さん!」
『殺すゥ……!』
六大宿痾が私に再び切りかかってくる。
上等だ。
私もまた刃をふるい、正面から六大宿痾とぶつかり合った。
『我が名は……
憑威。
なるほど、それらしい名前だ。
六代宿痾はなんというか、名は体を表すよな。
梵賦はよくわからないけど。まぁなんかしら意味があるんだろう。
それはそれとして、今は目の前の憑威だ。
「うおっと」
憑威に押し飛ばされる。
今のところ憑威に関してわかっていることは二つ。
道具に憑依することができるという点、そしてもう一つは――思った以上にパワーが強い。
こちとら幻象と四重の合わせで打ち合ってるんだけど、普通に押し返される。
五重は一応ある程度習熟できているけれど、やっぱり制御が難しいのでできれば四重で対応したかった。
まぁそこは、他人に補ってもらえれば問題はないのだけど。
「カグラくん!」
「カグラちゃん!」
アルケ様とマギナ様が、私に声をかけながら憑威に切りかかる。
まずアルケ様が切りかかり、憑威はそれに対応した。
アルケ様の剣は量産型のロングソード。
打ち合うだけでバキッと憑威はそれをへし折ってしまう。
膂力に関しては本当にすさまじいな。
しかし、これで動きが制限された憑威に、今度はマギナ様が一閃。
こちらは専用にアルケ様がこしらえた逸品。
ちょっとやそっとでは壊れない。
『ふん!』
それを憑威は後方に退避して躱す。
反撃は難しいと判断したのだろう。
なぜなら、あまりにも二人の攻撃が絶妙なタイミング過ぎたから。
素晴らしい連携だ。
完全に呼吸が一致している。
「逃がさないさ!」
「食らいなさい!」
そしてさらにアルケ様がミサイルを、マギナ様が魔術を放って追撃。
私との模擬戦では魔術の使用をためらっていたマギナ様も、今は構わず魔術を行使する。
これまたすさまじい弾幕だが、憑威はそれらすべてを完璧に回避して見せた。
とはいえ――
「私を忘れてもらってはこまりますね!」
そんな憑威の背後に、私が出現するのだが。
五重と幻象を掛け合わせている。
今の私が出せる最高速。
さすがに憑威でも、これに反応することは難しいだろう。
結果――鎧は一撃で砕かれた。
「ああ、あの鎧高かったんですけど……」
「ま、仕方ないさ。ここで憑威を倒せればおつりが出る。とはいえ――」
「……倒し切れてませんね!」
手ごたえがなさ過ぎた。
私には、ただ鎧を砕いた感覚しか手に残らない。
敵はまだ健在!
『この程度……!』
声がしたかと思うと、鎧保管庫にずらりと並ぶ鎧、その一つが動き出した。
いつの間に乗り移った!?
『く、くくく……! お前たちは我をおいつめたつもりだろうが……ありがたいことにここには、いくらでも我の器が貯蔵されている。貴様らではどうにもなるまい!』
「厄介だね……」
「ああ、その鎧も高かったんですよ……!」
「今は気にしてる場合じゃないねぇ!」
マギナ様的には深刻なんだろうけれど、それどころではないのでアルケ様にすら突っ込まれている。
さもありなん。
とにかく、今の攻防だけでも十分に敵が厄介であるとわかった。
「憑依した道具が壊れても、なんら意味がないのは厄介だねぇ」
「そのうえ、壊れた後にどうやって憑依したのかが見ても全くわかりませんでした」
これでは、憑威の本体に手の出しようがない。
完全に無敵じゃないか!
いや、実際にそんなことはありえないだろう。
何かしらからくりはあるはずだ。
とりあえず、今は情報収集!
「でしたら、こういうのはどうでしょうか」
動きを見せるのはマギナ様だ。
片手をかざすと、途端に鎧たちが動きを見せる。
マギナ様の強みは術式の”準備”。
すでに使われなくなった鎧に対しても、こうしていつでも自律できるよう準備を整えておく。
結果として、鎧はマギナ様の手中に入った。
これでどうなるか――
「蹂躙してください」
『はは、蹂躙するのはこちらだ!』
言葉通り、多数で憑威を圧倒しようとするマギナ様の鎧を、憑威が一方的に叩き潰していく。
さすがに中身のない自動操縦で、六大宿痾という最強の一角を崩すのは難しい。
『これは貴様の作品だろう、惜しくはないのか!? 先ほどはずいぶんと嘆いていたが』
「惜しいのは、これが資材として価値があるからです。鎧を保管していたのも、私以外にこれを扱えるものがいれば戦力として有用だからです。失うことそのものに悔いはありません。なぜなら――」
とはいえ、決して自律鎧の動きも悪くない。
ちょっとずつではあるが、憑威のとりついた鎧を削っていき、最後にはボロボロにしてしまう。
「――こんなもの、また作ってしまえばいいからです」
ついには、憑威の鎧が動かなくなった。
ここで「やったか」と叫びたくなってしまうのをこらえる。
フラグはダメ、絶対。
「やったか!?」
「アルケ様!?」
アルケ様が言っちゃった!
いやまぁ、やられていないのは私の直感がなんとなく察していたけれど。
直後――憑威はマギナ様が手中に収めているはずの鎧を乗っ取って再起動した。
「人の鎧を……!」
『ははは! この世の道具はすべて我の手足よ!』
こちらの手中にあっても、向こうはそれを支配下に置いてしまう。
厄介極まりない話だ。
これでは、いつ幻象が奴の手にわたるか分かったものではない。
まぁ一応対策はあるんだけど、とりあえず向こうの能力を図らないことには……
「ふむ、であれば交替だ。マギナ、僕が受け持とう」
「おねえちゃん……!」
そこで、アルケ様が前に出る。
その周囲にゴーレムが出現し、憑威へ向かってとびかかった。
『この程度!』
「だが、数は先ほどの鎧以上だ」
憑威はそれらを一撃で吹き飛ばしていくが、アルケ様の言う通り数が多い。
脆いという弱点こそあるが、数以外にも鎧より利便性で上回る部分がある。
「そして、動きも鋭いだろう!」
『チイ!』
アルケ様のゴーレムは自動操縦ではない。
アルケ様が操っているのだ。
ゆえに、一撃の鋭さは先ほどとは比べ物にならない。
というかなんなら、私たちが三人で攻撃しているときよりも、攻撃の勢いは苛烈じゃないか?
――とか思っている間にも、アルケ様はさくっと鎧を破壊して見せた。
結果、次なる鎧が起動する。
キリがない。
「――ゴーレムには憑依しないんだねぇ」
『それがどうかしたかな?』
「いやなに、憑依しないんではなくできないんだと思ったんだけど、どうやら正解のようだ」
だが、アルケ様にとって今のは、ちょっとした検証程度のものだったらしい。
憑依しないのではなく、できない。
「憑依するには、多少なりとも”準備時間”が必要というわけさ。……さて、この場にある鎧をすべて使い切った場合……君はどうするつもりだい?」
『……なるほどな。しかし、心配はいらない』
すると憑威は、ちらりと視線を私に向ける。
そして、手を伸ばし――
『我がとりつくために必要な時間は、そう長いものではない。先日の会議と、今回の戦闘』
「……まずいね!」
『――幻象にとりつく準備を終えるには、それだけの時間で十分だ!』
そう、高らかに宣言した。
――――ので。
「マギナ様!」
「わかりました」
幻象が、突如としてこの場から掻き消えた。
転移したのだ。
場所? マギナ様の私室ですよ。
『…………』
「…………」
一瞬、沈黙が広がった後――
『覚悟するがいい、人間!』
「開き直りました!」
憑威が再び襲い掛かってきた!