転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百十九 ただただひたすらに面倒

 なんとなく思っていたけれど――この憑威という六大宿痾……迂闊だ!

 ここまで偶然込とはいえあっさり追い込まれることといい、策がことごとく失敗することといい。

 あまりにも……あまりにも迂闊!

 本当に、よくこれでやってこれたな……と思うけど、やっていけないからいままでずっと梵賦が矢面に立ってたんじゃないか?

 少なくとも人類は今に至るまで、憑威の名前すら知らなかったのだから。

 一応梵賦は、これまで何度か歴史上にその名前が現れたこともあるというのに。

 とはいえ、それでもこいつは間違いなく六大宿痾だ。

 いや、迂闊でも六大宿痾だからこそ――こいつは厄介なのかもしれない。

 

()()!」

 

 マギナ様が叫んだ。

 すると、保管庫内にあるすべての鎧が、一斉に爆発する。

 威力はそう大したものではない。

 私もマギナ様もアルケ様も、これで傷を追うことはないだろう。

 無論、憑威も。

 しかし――憑威が取り付ける武具はすべて失われる。

 

『面倒だな!』

「さぁこれで、次は一体何に憑依するのです?」

『グハハ! 決まっている――()()()()()()()があるではないか!』

 

 すると、破片が勢いよく私たちに向けて飛んできた。

 無数に――その速度は、一つ一つが憑威の膂力と同等!

 私たちは慌てて回避し、弾き、防御する。

 爆発で視界が覆われているのもあって、かなり厄介だ。

 

「こいつ、一度に憑依できるのは一つだけのはずなのに、器用なことをするねぇ!」

「射出の瞬間だけ破片に憑依して、その後は即座に別の破片に移ってるんですか、これ!」

「一つ一つの射出が、本当にごく短い時間ですがズレています。おねえちゃんの言う通り、器用」

 

 ただこれ、まず間違いなく憑威本人の考案したものではない。

 梵賦の入れ知恵だ。

 

「でしたら……こういうのはどうですか!」

「ぬう!?」

 

 私は室内に勢いよく魔力を放出した。

 弾丸を放つには憑威が取り付く必要がある。

 つまりその瞬間には瘴気が発生するため、一瞬だが私の魔力と拮抗するのだ。

 

「破壊してください!」

「わかっているとも!」

「ええ」

 

 そこに対応するのは、手数の面で圧倒的に優れるマギナ様とアルケ様。

 即座に再び動き出そうとする破片に、ミサイルだの何だのをぶつけまくって破砕していく。

 これにより見事破片は砂粒レベルまで小さくなり、質量による殺傷能力を失った。

 これはこれで別の殺傷力を発揮しそうだけど、多分問題ないだろう。

 

『ええい、これでは対して威力が出ない! 梵賦からは何も聞いていないぞ!』

 

 梵賦もそこまで入れ知恵はしていないだろう。

 何せ――

 

「でしょうね、貴方に言っても理解出来ないでしょうから!」

『なんだとぉおおお!?』

 

 憑威がちょっとおバカさんだから。

 何にしても、これで憑威が動かせる道具はなくなった。

 一瞬の静寂が周囲に満ちる。

 しかし私たちは、この状況がまだまったく好ましくないことを理解していた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのために、憑威がどういう存在なのかを、ここで見極めないと。

 

「――最悪な想像をしてしまうのですが」

「あまり聞きたくない話だねぇ。というか、すでにわかってるから口に出さなくても大丈夫だよ」

「……ですよね」

 

 ――ここまで私たちは、憑威の本体を探るべく行動してきた。

 道具に取り付き、動かす。

 必ずどこかにその本体がいるはずだ。

 しかし、取り付くのにまったく予備動作を必要とせず、憑威自身が動いた形跡すら見つからない。

 最悪な想像。

 すなわちそれは――憑威に実体はないということ。

 

 憑威とは、すなわち空間そのものなのだ。

 この保管庫内にあるすべての道具を、自分の支配下に置けてしまう。

 いや、一応実体のようなものはあるとは思う。

 思うのだけど――

 

「――ふっ!」

『ぬおっ!?』

 

 私は再び、魔力を室内に放つ。

 するとある一箇所で明確な”手応え”があった。

 やはり先程瓦礫を押し留めたときのそれは間違いではなかったのだ。

 故にそこへ疾討を投擲するのだが――

 

『ぬおお!?』

 

 ――すり抜けた。

 物理的な攻撃が、まったく当たっていない。

 即座に魔力の刃を放ってみるも、ぶつかったそれはただ弾かれるだけにとどまる。

 ようやくわかった、憑威の正体。

 

『貴様!』

「憑威……貴方は要するに、()()()()()()なのですね! 実体はなく、物理的な攻撃は一切通用しない!」

 

 また、とんでもない六大宿痾がいたものだ。

 これでは、剣の里の剣士はまったく刃が立たないではないか。

 とはいえ――

 

「であれば、貴方を叩くべきは私ということですね」

 

 ――対抗手段がないわけではない。

 魔術だ。

 マギナ様が、無数の魔術を浮かべて憑威へと向ける。

 現在この場に、憑威が操れるものは存在しない。

 今なら一方的に攻撃が可能――

 

『ふん、魔術師風情が、我をどうにかできると思うなよ?』

 

 ――しかし、憑威は嘲るように笑う。

 

『魔術とは、魔力を劣化させて現象を起こしているに過ぎない。本質的に、純粋な魔力、瘴気の方が圧倒的に純度が高い』

「……と、梵賦が言っていたのですか?」

『黙れ! そして、魔力とは抗体、瘴気を弾くことしかできない出来損ない。より優れた力を持つのは、すなわち瘴気。瘴気の主たる我々宿痾が、この世界の頂点に立つべき存在なのだ!』

「自分で言っていることを理解できていますか!? その発言の本質が何かわかっていますか!?」

『黙れ黙れ黙れぇ!』

 

 ――ようするに、魔力は瘴気を弾くことしか出来ないが、瘴気は攻撃にも転用できる。

 すなわち――

 

『死ね、人間ども!』

 

 憑威は、自身の瘴気を攻撃手段として射出してきた!

 マギナ様の魔術と激突し、撃ち合いに発展する。

 ――それらは、ほぼ互角。

 上位互換だと豪語して放たれた割には、互角でしかないと見ることもできる。

 しかし、マギナ様の顔は優れない。

 当然だ、マギナ様の魔術はすでに準備がなされたもの。

 それら一つ一つが、上位の魔術であり、非常に強力な一撃だ。

 それを、ただ息を吐くように放っただけの瘴気の連射で拮抗する。

 たしかにコレなら、梵賦が憑威にそう吹き込むのも頷けるな。

 

「……ダメですね、決定打になりません」

「私の魔力で瘴気を弾きましょう」

「ええ、それがいいです。――けど」

『グハハハハハ!』

 

 憑威が高笑いし、マギナ様が苦虫を噛み潰す。

 

「――――時間切れです」

『――――時間切れだなぁ!』

 

 マギナ様の行動が、そこで停止した。

 

『支配したぞ! 貴様のその鎧! これでもう魔術は使えまい!』

「く、動かないです……!」

 

 憑威の支配能力が、マギナ様の鎧にも到達したのだ。

 他にもアルケ様のジェットパックなど、この場にあるあらゆる道具が憑威の支配下に置かれる。

 一度に操作できるのは一つまでだが、それでもまともに戦闘することは叶わなくなるだろう。

 故に――

 

『これで貴様らは、もう何もできまい!』

 

 そう言いながら、憑威は瘴気を私たちに向け――

 

 

「いえ、まだですよ」

 

 

 私がそれを、魔力で弾く。

 

『っ!!』

 

 そして――五重強化にて、憑威へと肉薄すると疾討でそれをぶっ叩いた!

 

『ぬおお!?』

「もう一発!」

『ぬぐおお!!』

 

 魔力が瘴気を弾く特性故にノックバックが激しいが、そこを無理やり詰めよりもう一発。

 何度も、何度も叩く。

 

「――確かに、魔力は瘴気を弾くことしかできません。故に普段は武器にすることはないのです。効率が悪いですからね。ですがこうして――」

『ぬ、ぐお!』

「殴打するための武器とすることは、可能です!」

『き、さま……なぜ……!』

 

 吹き飛ばされながら、憑威は叫ぶ。

 

 

『なぜ、その武器は支配できない!!』

 

 

 私の疾討を、操作しようと試みながら――!

 

「なぜって、簡単ですよ。この武器は呪われています。貴方の支配よりも更に、更に強い――強い”想い”によって」

『ぐ、おおおお!』

「さぁ! やりましょうかぁ! 殴り合い、殴り合いですよ殴り合い!」

 

 かくして、戦闘は最終局面だ。

 ――憑威、残るは貴方の瘴気と私の魔力だけ。

 最高の殴り合いを、始めようじゃないですか!

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