転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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十 冒険者ギルドの定番と言えば

 冒険者ギルド。

 異世界ならばまず間違いなく存在する、定番施設。

 いや実際のところどうなのかは知らないが、少なくとも私はこれが存在する世界に転生した。

 この世界のギルドは等級制で、受けられる依頼は等級によって決まるらしい。

 下は六級、上は一級。

 だいたい三級あれば受ける依頼には困らず、私のひとまずの目標もそこになる。

 

 そんな冒険者ギルドだが、異世界の定番たるその場所には、いわゆる定番の展開というものがある。

 いくつか種類はあるのだが、私はあるイベントに期待を寄せていた。

 

「さて、行きましょうか」

 

 「カルマン」の街にやってきた次の日。

 私はギルドを訪れていた。

 気合を入れて、その中へと入る。

 異世界に転生して、初めて異世界っぽい施設に足を踏み入れたのだ。

 緊張もするというもの。

 

 中は案外、きれいな施設。

 観葉植物とか置いてあって、食堂の機能も存在する。

 もう少しむくつけき男たちの巣窟をイメージしていたのだが、そうでもなかった。

 

 とはいえ、そういう男たちが存在しないわけではないし。

 私の目立つ容姿と胸は、彼らの視線を集めるには十分だ。

 ふふふ、これなら私の望み通りの展開が起きるかもしれないな。

 

 何を期待しているのかと言えば――チンピラに絡まれる展開である。

 異世界モノなら定番と言えるくらい、こちらの実力を侮ってチンピラ大男が声を掛けてくる展開はありふれていた。

 私もそれを、体験したいのだ。

 というか――

 

 

 里の人間じゃない人間と喧嘩がしたい。

 

 

 殺し合いではない、喧嘩だ。

 外の世界の冒険者が如何程のものか興味がある。

 

 ――私は、鍛錬が大好きだ。

 強くなるための、もっとも分かりやすい手段であるがゆえに。

 そしてその次に、他者の強さを観察することも好んでいる。

 楽しいのだ、他者がいかに今の強さを築き上げてきたのか。

 それを想像することが。

 

 そうなればやはり、喧嘩しかない。

 とはいえこちらから仕掛けるのは里の評判に関わる。

 であればこそ、この容姿に油断したむくつけき男が絡んでくるのを私は期待するしかないのだ。 

 

「すいません、冒険者登録をしたいのですが」

「はい、少々お待ち下さい」

 

 ――なんてことを脳内で考えつつも、顔には出さない。

 至って平静に、ギルドの受付さんへ声をかけた。

 その後、ギルドやギルドカードの簡単な説明を受け。

 登録はトントン拍子で進んでいく。

 途中、

 

「ところでカグラ様は、見たところ剣の里の出身のようですが、証明できるものはありますか?」

「書簡を預かっております。ギルドについたらこれを提示するように、と」

「でしたら、カグラ様は五級からのスタートになりますね」

「いいのですか?」

「はい、剣の里が許可を出したということは、実力が保証されているということですから」

 

 なんてやり取りがありつつも。

 冒険者登録はつつがなく終了した。

 正直、もうちょっと色々あるかと思っていた。

 

 なにせ、十二の小娘が一人で冒険者登録をするのだから。

 しかしそれを補ってあまりあるくらい、剣の里出身という実績は大きいのだろう。

 子どもが一人で冒険者登録をしても何も言われない上に、いきなり六級を飛ばして五級とは。

 

 ……少し、私の期待に暗雲が立ち込めてくる。

 いやしかし、ギルドから評価されているということは妬みの対象になるかもしれないということ。

 その方面で、誰かが声をかけてくるのを待とう。

 

 私は次に、依頼が並ぶクエストボードへと向かった。

 さっさと等級を上げておきたいので、できるだけ等級を上げやすい依頼を受けたいのだが――

 

「六級を飛ばしても、あまりいい依頼がないですねぇ」

 

 五級の依頼も、私からしてみれば簡単なものしかなかった。

 薬草採取だの、街の工事の手伝いだの。

 戦闘に絡むような依頼は並んでいない。

 とはいえ、薬草採取は外に出るわけだから、偶発的な戦闘はあり得るかも知れないが。

 流石に街の近くでは期待できないだろうなぁ。

 

 ちなみに、六級の依頼はそもそも依頼以前の講習とか研修とかそういうやつだった。

 そもそも戦闘の経験すらない素人向けの等級なんだろう、六級というのは。

 

 とりあえず、外での魔物との遭遇に期待して薬草採取を受けることにした。

 それはいいのだ、それは。

 問題は、ここに至るまで未だに絡んでくる冒険者がいないということ。

 クエストボードの前には、結構な数の冒険者がいる。

 チラチラとこっちを見てくる奴もいる。

 視線が失礼な奴もいる。

 なのに誰も声をかけてこない。

 こっちはいつでもウェルカムなのに。

 

 という感情は心の奥底にしまい込んで、私は再びギルドの受付に戻る。

 そこで先程話をした受付さんに依頼を受けるよう伝えつつ――

 

「それにしても、先程から視線が多いですね」

「二年ぶりの、剣の里からの新人冒険者ですからね」

 

 なんとなく、話を聞きたいことへ持っていこうとする。

 剣の里が百鬼夜行で半壊して以来、里から外に出た人間はいない。

 加えて、「カルマン」の街は里の近くで一番でかい街だ。

 基本的に里の人間は、この街で冒険者登録をするんだという。

 

「だから余計に、知名度も高いんでしょうね」

「それにしたって……なんとも警戒しすぎに感じますが。この見た目の子どもですよ? 私は」

「いやあだって――」

 

 そうして本題に踏み込んだ私の言葉に――

 

 

「剣の里の人ってことは、喧嘩売られたがってますよね? 誰だって警戒しますよそんなの」

 

 

 ――こちらの狙いを見透かしたかのように、女性は笑っていった。

 思わずドキっとしてしまう。

 

「あ、いえ……そのようなはしたないことは……」

「そうですか? やっぱり、お嬢さんはすっごく美人さんですから、楚々とした感じだと思ってたんです」

 

 ごめんなさい、ちっともそんなことありません。

 私も喧嘩を売られたがってました。

 ――そもそも、里の人間にとって殺しは理由がなければご法度だ。

 だけど、腕試しの喧嘩や仕合は大歓迎というのが、里の価値観。

 私に対して修羅だなんだと言ってる彼らだが、私が仕合を求めたらこぞってやらせてくれと言ってくる連中だ。

 どの口が私を修羅だというのだ、どの口が。

 

 そんな特性は、里の外でもそう変わらないらしい。

 結果として売られた喧嘩は全部買う、みたいなことが横行し。

 最終的に「カルマン」の街で里の人間に喧嘩を売る冒険者はいなくなったとか。

 

「二年間、里からやってくる人間はいなかったのに、未だに忘れられていないのですね……」

「そりゃあ昔から定番でしたから、剣の里の人が絡んできた冒険者をボコボコにする展開」

 

 ――この世界の中で、テンプレがテンプレとして認識されている。

 なんだか変な気分になりつつ、仕方なく私は薬草採取の依頼を受けるのだった。

 

 

 +

 

 

 さて、私は腹いせに魔物が出ることを期待して、街の外にある薬草がある森の奥まで入りこんでいた。

 しかし残念ながら魔物の出現はゼロ。

 正確に言うとゴブリンがソロでうろついていたが、あんなもの修行の足しにもなりはしない。

 倒して討伐部位を持っていけば、昇級が近づくので一応倒すけど。

 成果といえる成果はゼロだった。

 

 喧嘩を売ってくる冒険者が弱いのはいいのだ。

 弱くても、弱いなりに戦い方を考えて戦っているだろうし。

 そこから学ぶこともあるだろう。

 でもゴブリンは武器を構えて正面から突っ込んでくるしか能がないので、何の参考にもならない。

 

 しかも悪いことに、帰り道に雨が降り出した。

 ぬかるんだ道と降り注ぐ雨は、せっかく仕立ててもらった里の旅装を汚してしまう。

 事前に用意していた、雨よけのローブを被って街に戻る。

 全身をすっぽり覆うもので、フードで顔まで隠れるような代物だ。

 

 ――するとここで、私はある変化に気づく。

 

 私が当初カルマンの街にやってきた時、周囲からかなりの視線を集めていた。

 この容姿なのだから当然だろう。

 だが同時に、なんだか遠巻きにされているようにも感じた。

 冒険者になった今なら解る。

 アレは剣の里の人間を、カルマンの住人が避けていたのだ。

 

 しかし今は、そんな私の視線を集める要素も、避けられる要素もすっぽりローブに覆われていて。

 よく見れば腰に刀を差しているし、見た目もいいことは解るのだろうけど。

 覗き込まなければわからないくらい、私は容姿を隠せていた。

 故に。

 

 周囲から視線を集めなくなった代わりに、周囲の人間が私に対して無遠慮になった。

 すると何が起きるか。

 

 道行く乱暴な男と、不意に肩がぶつかったのだ。

 

「失礼しました」

「もっとよく見て歩きやがれ!」

 

 残念ながら、男はそう言ってそのまま去っていってしまったけれど。

 私はそこでピンと来た。

 

 

 ――――これだ。




これだ、じゃないんですよ。
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