転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
やり手婆の、それなら禿するより護衛してくれよという正論によって私は護衛として雇われることになった。
ちょうど四等級に昇格していたおかげで、戦闘が発生する依頼である護衛依頼を受けられるようになったので、きちんとギルドを通しての依頼だ。
まぁ、禿に関しても五等級で受けられるギルドを通しての依頼なんだけど。
ともあれ、護衛になってもやることは変わらない。
普段は店の手伝いをして、なにかあったら仲裁に入る。
変わったことと言えば、服装がネグリジェから剣の里の旅装になったことか。
それを着ていれば私が一発で剣の里の人間と解るので、護衛するにはうってつけの衣装である。
特に冒険者は私を見ると、一瞬で大人しくなる。
剣の里出身であるということ以外にも、先日暴れた男を圧倒した事が噂になっているらしい。
何だって噂になるんだと思うが、これには理由がある。
んだけど、それは一旦置いておいて。
「こっちは終わりましたよソアナさん」
「おっと、ありがとねカグラ。そういえば、近くにいる七刀の事が解ったよ」
「本当ですか? 厨房で仕事しながらなのに、耳が早いですね」
「商人だからね」
雑用が終わったのでソアナさんに声を掛けると、何やら情報があるらしい。
なんだけど、この人って情報の出どころを「商人だからね」としか言わないんだよな。
先日暴れた男の来歴はほんとどこで知ったんだろう。
聞くのは怖いので、聞いていない。
「まず、七刀の一人。リンカって奴がこの国に食客として招かれてるらしい」
「リンカねえさまが、ですか」
「確か、七刀で一番若いんだっけ? 面識があるってことだね」
「はい、幼い頃に剣を教えていただきました」
リンカねえさま。
私が唯一顔を知っている七刀で、最年少の七刀でもある。
年は十七になるはずだ。
剣以外にも、色々と面倒を見てもらった覚えがある。
他の七刀はそもそも私が物心つく前に里をでてたりして、面識がないんだよな。
「そのリンカが、なんでも近くの港湾都市で倉庫を借りてるらしいんだよね」
「ああ、恐らく手に入れた武具を保管するためでしょう」
「武具を?」
「リンカねえさまは、大の武具マニアなんです」
基本的に、七刀というのは性格破綻者の集まりだ。
中でもリンカねえさまは、武具を集めることを命よりも優先する武具マニア。
剣に限らず、槍、弓、はてはどう考えても武器としては使い物にならない代物まで何でも集める。
その偏愛っぷりたるや、武具に囲まれてないと寝れないレベル。
里にいた頃のリンカねえさまの部屋はそこら中に武具がおいてあり、中に入ろうとすると真面目に命の危険があるほどだった。
こう、マジックアイテム的な武具も転がっているからだ。
武具大好きなわりに、扱いは雑なんだよなあリンカねえさま。
「とりあえず、そのリンカってのがヤバイ奴だってのは解ったよ」
「これでも、七刀の中では一番穏健な方なんですよ?」
「これで!?」
「武具が絡まなければ、一般的な感性の持ち主なので」
私がそう言うと、なんだかソアナさんは凄く納得したように頷いた。
「アンタが喧嘩や修練が絡まなければまともなのと、同じってことか」
「酷い納得の仕方ですね!?」
否定はできないけど。
「ああそれと、やり手婆が言ってたんだけどね」
「お次は娼館からの情報ですか」
ソアナさんはそこで話題を移す。
そもそも私が娼館で働いているのは、給金のためってのもあるけど。
この街で何かしら事件が起きていないか、情報を集めるためだ。
どうやら、有力な情報を掴んだらしい。
「ここ最近、この街の孤児がさらわれてるみたいなんだ」
「攫われてる……ですか」
「ああ、クソみてぇな話だけどね。……孤児なんて、いなくなっても一番わからないような立場じゃないか」
ソアナさんは、この街の孤児出身だったらしい。
娼館の人にお世話になりつつも、娼婦じゃないのはそれが理由か。
だからこそ、孤児を狙っているのが許せないんだろう。
「それが最近、犯罪者が街に集まってやってることと関係がある、と?」
「攫ってるのが、そういう連中だって話があるんだ。多分、何かろくでもないことをやろうとしてるんだろうが……」
「それ以上の情報はない感じですか」
そもそも孤児を攫っているという時点で、かなりこそこそとやっていることは間違いないのだ。
ギルドではそんな話一切出ていないし、こういう裏社会に近い場所じゃないと情報が集まらないだろう。
半ば気まぐれみたいな形で、犯罪者集団を追いかけているわけだけど。
思った以上に娼館で働くことに依る収穫は多かったな。
特に、あの乱暴な男と喧嘩ができたのは一番よかった。
そんな事を思いながら、ゴミ出しをするために娼館の外へ出ると――
「お、いたいた。姐さん。おはようございます!」
不意に、声をかけられた。
どこかハリのある、野太い男性の声。
姐さんなんて呼びかけてくるのがすこぶる似合わない彼は――
「ダグスさん、おはようございます……とりあえず、あの」
「なんですかい、姐さん」
先日、私が喧嘩で何発か拳を入れた男――ダグスだった。
腹は出ているけど、がっしりとした体格。
先日はだらしない浮浪者みたいな格好だったけど、今はきちんとした冒険者の格好をしている。
これで心を入れ替えたということらしい。
具体的には先日迷惑をかけた娼婦を始め、迷惑をかけた人たちに謝罪行脚をしているらしい。
そこら辺は私の関知するところではないので、頑張ってもらおう。
それはそれとして。
「……姐さんっていうのは、やめていただけます? 年も冒険者としての年季もそっちが圧倒的に上じゃないですか」
「……!?!?!?」
うわ、めっちゃ驚いた顔をしている。
「な、なんでですかい姐さん。俺は姐さんに人生を救われたんだ。敬意を払うのは当然ですぜ」
「いや、それは……まぁいいですけど」
なんだか、随分と慕われてしまった。
そこまでのことをしたつもりは、こっちにはないんだけど。
それはそれとして、私が随分と冒険者に警戒されているのは彼が原因だ。
元々そこそこ有名な冒険者だったらしいダグスさんが、突如として冒険者に復帰した。
結構それが話題をあつめたらしい。
加えて、その理由が私にあるとなれば――冒険者の間で、私をヤバいヤツ扱いするのはある意味当然なのだろうか。
何にしても、そのうちカルマンの街でも私は修羅扱いされるかもしれない。
「それでダグスさん、わざわざ娼館まで来てどうしたんですか?」
「いやもちろん、姐さんに会うためですよ」
なんだその、私を口説きにきた、みたいな。
感じからして本人に一切その気がないのは、いっそシュールだ。
私は最近、娼館の護衛ばかり請け負っている。
なので娼館に来れば私に会えるというのは、自然な発想なんだけど。
まだ開店してない娼館へやってくるのは、他にも理由があるはずだ。
「……もしかして、有力な情報が見つかりました?」
「そのとおりですぜ。実は姐さんに会う前、この街でなんかやってるチンピラ共が俺に声をかけてきてましてね」
「自分たちの悪事に乗ってみないか? と」
「そうでさぁ。まぁ、俺ぁそういうみみっちいことに興味はないんで、断ったんですが」
ダグスさんは傲慢な人だ。
だけど、この見た目で悪事に加担しないらしい。
金を持ってて、加担する理由がないからだそうだけど。
そもそも働かなくてもいい金を手に入れる以前から、別に悪事を働いたことはないらしい。
だっていうのにチンピラが声をかけてくるのは、本人の普段の印象って大事だよなぁ。
「そいつをこないだ、街で見かけやしてね。姐さんが探してる連中とつながってるんじゃないかと思って、尾けてみたんすよ」
「その巨体で、よく尾行できましたね」
「向こうが素人すぎたんでさぁ、こっちのことを警戒すらしませんでしたよ」
んで、どうやらダグスさんは、相手の拠点を発見したようなのだ。
――ふむ。
「それで、これからギルドに報告して、調査依頼を出してもらおうかと思ってたんですが。姐さんも――」
「――その場所を教えていただいても?」
「へ?」
困惑するダグスさん。
そんなダグスさんを観察して――彼の考えていることを読み取る。
「なるほど、この近くですか。であれば後は自分の足で探してみましょう」
「あ、いやちょ! 一人で行くつもりですか!?」
「他の方を待っていたら、獲物が減るじゃないですか――!」
私は即座に、やり手婆のところへ行って今日は休むと伝えた。
元々護衛はあくまで情報を集めるための手段なので、集まったらそれを優先すると伝えてあったのだ。
呆れた様子のやり手婆と、ドン引きした様子のソアナさん。
それから未だに娼館の裏口で困惑していたダグスさんを置いて、私は敵の拠点を探すべく飛び出した。
だめよ、7時半に娼館の護衛があるの!付き合えないわ
今日は休め。
みたいなノリのカグラさんです。