転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
ある程度の位置さえ解ってしまえば、後は頑張ればなんとかなる。
具体的には、魔力を探知するのだ。
街中には、様々な人が無意識に垂れ流す魔力で満ちている。
その中でも、魔力の密度が濃い場所を探していく。
犯罪者達はなんやかんや肉体労働に身体強化を使うから、他人より魔力総量が多い。
なので、密度が濃い場所は当たりの可能性が高かった。
ただ、あくまでこれは”可能性が高い”程度の話。
普通にやったら一番魔力が濃いのは冒険者ギルドか、この街を守る衛兵の詰め所だ。
加えて探知には非常に時間がかかる。
とてもではないが、カルマンの街全体を探知するには時間がいくらあってもたりなかった。
なので、どうしても場所を絞り込む必要があったのだ。
結果――
「――ここ、ですかね」
私は娼館が立ち並ぶエリアの裏路地に隠された、地下への入口を探し当てた。
しばらくそこに張り込んで、チンピラが中に入っていくのも確認済み。
そうと決まれば――
「乗り込むしかないですね……!」
かくして私は、悪鬼はびこる巣窟へと足を踏み入れるのだった。
+
「アハハ! アハハハハハハ! アハハハハハハ――――!」
「くそ、何だよこいつ!」
「来るな! 来るなああああ!」
そしてそこには、一人の悪鬼が立っていた。
というか私だった。
逃げ惑うチンピラたちを追い立てながら、その後頭部を殴って意識を刈り取っては次に飛びかかる。
これを悪鬼と呼ばずなんというのか。
しかしいいのだ、たとえ今私が悪鬼だとしても。
この至福とも言える時間を、私は楽しみたいのだから。
――結果から言って、この場所は黒だった。
とりあえず侵入直後、近くにいたチンピラの一人を捕まえて尋問。
孤児を攫っていることを確定させ、以降は拠点を制圧するべく暴れまわっている。
ここで大事なのは、向こうが冷静になる前に制圧を終えることだ。
なにせ相手は誘拐犯、何時子どもを人質にされるか解ったものじゃない。
私が敢えて大げさに暴れまわっているのも、向こうを冷静にさせないがためだ。
ほんとほんと。
「もっともっと、一気に攻め立ててくださいよぉ! 私の全身を舐め回すように、私に群がってきてくださいよぉ! 全部全部全部! 潰して切って叩いて切り捨てて切り落として切り刻んで切り結んであげますから!」
目前のチンピラを斬る。
命は取らぬ程度に、しかし腕や足程度なら軽く切り飛ばす。
この世界の治癒魔術は優秀だ、このくらいなら命に別状はない。
それ以外にも、蹴って、叩いて、意識を刈り取って。
存分に彼らを喰らっていく。
「くそ! 誰かアイツを止められるやつはいねぇのか!」
「駄目ですアニキ! 胸が大きすぎて戦闘に集中できません!」
「流石にそこまでじゃねぇだろうがよ!!」
なんて、アホみたいなやり取りをしている男どもの股間を蹴り飛ばし。
そのまま次のチンピラに斬りかかる。
斬る、斬る、斬る。
ただただ餌を喰らう獣に成り果てる。
ああ、こんなにも心地よい空間がこの世界にあっただなんて。
至福に溺れ、私はただただ暴れまわった。
「さぁさぁさぁ! 次はどなたがお相手をしてくださるのですか!?」
「やめろ、近寄るなぁ!」
「誰かなんとかしてくれよぉ!」
悲鳴が響き渡る犯罪者たちの拠点。
私は蹂躙と共に、先へ先へと進んでいく。
+
いくら私が悪鬼の如き修羅と振る舞っているとは言え。
いくらなんでも、チンピラ達は逃げ惑いすぎていた。
それは、彼らに対抗する手段がないということ。
もっと言えば、今この場に誘拐された孤児たちがいないということ。
攫われた孤児を確保するべく、施設の中を歩き回り。
時には制圧したチンピラを尋問するも、結果は出ず。
最終的に私は、地下にしては広い空間へと足を踏み入れる。
「さて、何が出ますか――」
ここにはいった時から、私はひしひしと私を見ている”何か”の気配を感じていた。
何かがあるなら、ここだろう……とも。
ただここには、私を見ている”何か”しか存在しない。
孤児がいるわけではないのだ。
であればこそ、何がでてくるのかはさっぱり予測がつかないのであった。
まあ、だからといって遅れを取ることはないのだけど。
「――来る!」
直感が警鐘を鳴らし、私は距離を取りながら刃を構える。
すると私のいた場所に落ちて来た
刃を、迫る
「……重い!」
途端、腕に走る衝撃から私は即座に多重強化を行うと、距離を取るべく後方に飛んだ。
ただの身体強化では受けきれないほどの威力。
相手が尋常でないと、即座に把握できる。
そして私は、そこでようやく相手する”敵”を認識した。
――蜘蛛だ。
八足の、蜘蛛型
特徴的なのは、その肉体がどろどろに溶けて今にも腐り落ちてしまいそうな様子。
見るものに嫌悪を抱かせるフォルムだが、私には関係ない。
敵だ。
二年前の剣豪鬼以来の、多重強化が必要な敵だ。
「それにしても、人が魔物を使役しますか。尋常ではないですね」
魔物は人類の敵だ。
瘴気から発生する、人を害そうとする意思の塊。
それを人が操ろうというのだから、それはいうなれば自然の摂理から外れた所業だ。
一体どの様にこれを外へ漏らさずここにとどめているのか、私は不思議でしょうがない。
とはいえ――
「今は、ただこの死闘に酔うとしましょう。……我が名はカグラ、流派は森羅。推して参ります……!」
言葉とともに、腐れ落ちた蜘蛛型魔物と打ち合う。
接近し、刃を振るう。
すると即座に蜘蛛はその場を飛び退き、別の足を私に突き刺そうとしてくる。
それを返す刀で弾き、踏み込み。
足の一本を切り落とそうと刃を奔らせる――が、躱される。
飛び退いた蜘蛛が天井に着地、そのままもう一度迫ってきた。
特徴的なのは、八本足を自在に操る器用さと。
部屋の中を文字通り縦横無尽に飛び回る俊敏性。
三次元的な動きで攻めてくるのだ。
速度ではこちらも負けてはいないのだが、どうしても天井に張り付いた蜘蛛を追おうとすると遅れが出る。
結果必然的に、こちらは動かず受ける態勢になる。
それが向こうの狙いだろうか。
「――いいえ、ただ自分の強みを押し付けているだけですね」
しばらく向こうの出方を伺っていると、動きに変化が見られないことに気がつく。
宿痾や人間に対し、魔物は単純に知性がない。
人間に使役されていても、それは変わらないのだ。
故に自分の得意とする動きしかできないのだと、結論付けた。
それが向こうの狙いかもしれないが、それを含めて警戒すればいい。
全方位に警戒を張り巡らせなければならないよりは、ずっと楽だ。
――そのまま私は、意識を研ぎ澄ませていく。
相手の動きを理解し、把握していく。
他者の観察こそが私の得意分野。
たとえ知性のない魔物相手でも、相手の得意とする戦術や狙いくらいは見定められる。
故に――
「――――そこ!」
私は迫りくる蜘蛛の足一本を。
半ばカウンターの要領で――切り落とした。
直後。
『あああああああ痛いいいいいいいいい!!』
『いや! いや! 死にたくない!!』
私の脳裏に、悲鳴が響き渡った。
――一瞬、理解できずに思考が止まる。
隙を晒す。
蜘蛛がこちらへ迫ってきた。
その中で――私はある考えに行き着く。
――攫われた孤児の姿が見えなかったのは、どこかへ運ばれたからではない。
もし、そうだとすれば――眼の前の蜘蛛には。
今も、こんな悲鳴を響かせる孤児達がいるということになるのではないか?
そんな推測へ至った私に、蜘蛛の足が迫る――――!
無惨様のことではないです。