転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
ダグスが「カグラが単独で犯罪者集団の拠点に乗り込んだ」という報告をギルドにした時。
反応は主に二つへ分かれた。
「まぁ、剣の里の連中だしなんとかするだろ」
という反応と。
「いやでも流石に十二の少女を単独で向かわせるのはまずいのでは?」
という反応だ。
カグラは現在、「カルマン」の街でそこまで知名度が高いわけではない。
ダグスを素手で叩きのめしたという噂を、知っている人間がちらほらいる程度。
ただ、二年振りに剣の里の人間が冒険者になるべく「カルマン」の街にやってきたという噂を知らない冒険者はいなかった。
それくらい剣の里の人間は、「カルマン」の街で認知度が高いのだ。
剣の里の人間を知るモノが、里の旅装を身にまとったカグラを見た時。
ああ、この少女も剣の里の人間だ、と思うことだろう。
剣気とでも呼ぶべき、剣士としての闘争本能を瞳に宿しているのだ。
剣の里を知らない人間も、カグラの常軌を逸した美貌と風格から。
否応なく「剣の里の剣士」がどういうものか理解させられていた。
とはいえそれでも、流石に応援に行かないのはまずいだろう、ということで。
ダグスを中心として動ける冒険者が、カグラの応援へ向かうこととなった。
そして拠点にたどり着いたダグス達は――
――既に、拠点に屯していたチンピラのほぼ全てが制圧された状態の、拠点を見た。
その様子は、あまりにも無惨としか言いようがなかった。
一方的な戦闘の痕。
ああ、ここは剣の里の女が通ったのだ。
そう思わされるような痕だった。
その場にいた冒険者は、皆一様にチンピラたちの冥福を祈る。
ただ、一つ。
カグラのことを直接知っているダグスだけは、ある事実に気付いていた。
このチンピラ達――
力の差は歴然だ、殺さずに昏倒させることは容易。
だが、ダグスにはカグラが、敢えてそうしている様に見えたのだ。
なにせ彼女は、ダグスを制圧する時も持っていた剣を娼婦に預けたほどだ。
――人殺しに忌避感があるのでは?
ふと、そんな考えが脳裏をよぎる。
この世界は物騒な世界だ。
魔物との戦いが日常で、野盗の類も旅をしていれば襲ってくる。
そんな時、やむなく襲ってきた人間を殺すことはどうしてもあるのだ。
そしてそれがどうしてもできない冒険者は、一定数いる。
殺さないことは悪いことではない。
だが、結果として殺したときよりも恨みを買ったり、敵が増えたりするためリスクが高かった。
そして何より、人を殺せない人間は、どうしてもどこかで詰めが甘くなる。
こういった単独での潜入で、思わぬ形で足を掬われることがあるのだ。
もしもカグラが、黒幕に卑劣な手を使われていたら。
ダグスは不安に思い、拠点の中を探し回り――
「おや、もう来たのですか。早かったですね、ダグスさん」
余裕で魔物と思しき”何か”を制圧し、ついでに黒幕らしき魔術師を捕獲したカグラを発見した。
+
――この拠点を任されていた魔術師は、突然の侵入者にあわてて拠点に戻ってきていた。
本当に偶然、拠点を離れている時に襲撃を受けたのだ。
結果としてせめて肉の盾にでもできればと思って雇ったチンピラ共は既に制圧されており。
侵入者は魔術師が製造した虎の子の魔物と対峙している。
本来なら、侵入者などありえないはずだった。
魔術師が構築した拠点は広く、数しか役に立たないとは言えチンピラも多くいる。
それを攻略しようと思うなら、徒党を組むことが必須だ。
であれば、自然とどこかで噂が漏れる。
魔術師の情報網なら、どこかしらで動きがあっても察知が可能のはずだった。
誰にも相談せず、単騎で侵入する阿呆が出てこない限りは。
そしてその阿呆が、単騎で拠点を制圧できるくらい強くない限りは。
いた。
カグラという少女が、そこにいた。
剣の里の修羅。
次代の七刀候補。
そんな怪物が、嬉々として拠点に乗り込んでくることなど。
一体誰が想像できただろう。
魔術師が何とか拠点に戻ってきた時には、既にカグラは魔物と戦っており。
蜘蛛型魔物の足を――切り飛ばしていた。
――ありえない。
あんな小娘が、ああも容易く魔物の足を切り飛ばす?
できるわけがない。
いや、現実にはできているわけだが。
仮にできたとして、どうしてそのようなことが可能なのだ?
理屈はわかる。
あの小娘の身体強化はおかしい。
まるで、多重に自身を強化しているかのようだ。
故に身体強化の出力が高いということは間違いなく。
あの魔物を討伐できるほどの強さであっても、おかしくはない。
だが、納得には多大な精神的負荷が必要だった。
有り体に言って頭がオカシイ存在は、理解に苦しむのだ。
とはいえ、小娘が蜘蛛の足を切り飛ばした時。
動きが止まった。
あの蜘蛛には、攫って実験に使った孤児たちの”怨念”のようなものが詰め込まれている。
蜘蛛そのものに取り込まれたわけではなく、その残滓のようなものが練り込まれているのだ。
それは、蜘蛛を切り飛ばした時、少しでも相手にストレスを与えるための小細工だったが。
どうやら、上手く行ったらしい。
ここに来るまで、チンピラが一人も殺されていなかった。
その事実を合わせて考えれば、あの小娘はもう
そうなれば、この理不尽をひっくり返す目が出てくる。
現に、動けなくなった小娘に、蜘蛛の足が迫っている――!
魔術師は、勝利を確信して――
直後、少女は迫りくる足を、剣の峰で
純粋な腕力によって、蜘蛛を圧倒し。
そのまま、激しく蜘蛛を攻め立てる。
唖然とする魔術師の前で、蜘蛛は半ば一方的に峰で打たれた。
ただひたすら、蜘蛛を追い詰めていく。
そこに一切の慈悲はなく。
やがて、叩きのめされた魔物は動かなくなった。
「――さて」
そして、そんな少女の瞳が。
物陰で息を潜めている魔術師へと、向けられる。
バレている――!
「そこの方。答えていただけませんか? この蜘蛛型魔物。別に
当然、答えるわけがない。
もしここで肯定したら、眼の前の少女から生き残るための手札がなくなる。
しかし少女は――
「ああいえ、答えなくても結構です。貴方のその態度と、魔物の挙動から推察できました」
――おかしなことを言う。
こちらの態度? 顔すら見せていないのに?
魔物の挙動? 知恵のない魔物に挙動の”パターン”なんてあるものか?
もし少女の言うことが本当なのだとしたら。
少女には、一体何が見えている――?
「この魔物に人は取り込まれていない。人の声が聞こえるのも、たんなる嫌がらせですね。とはいえ、あまり愉快ではないのでこのまま斬らずに制圧してしまいますが」
当たりだ。
故に男には、眼の前の少女が恐ろしく思えてならない。
そうだ、あの旅装。
覚えがある。
アレは――
「……そうか、貴様が
リンカ。
剣の里と呼ばれる、人類の守護者と剣のことしか考えていない異常者を同時に排出する場所の。
最強にして、最も異常とされる七人の剣士。
”七刀”。
その一人にして、「カルマン」の街や剣の里が存在する国の王国に食客として招かれている女。
なぜわざわざそんな事をしているのかは知らないが、現在そのリンカが国の命を受けて魔術師達を探っているという。
そんなリンカが、ここを攻めてきたのだとすれば。
概ねの事態に納得がいく。
眼の前の異常な光景も、小娘の異様なまでの観察眼も。
だが――
「え、違いますけど」
違った。
「えっ」
魔術師の間抜けな声が響く。
しかも――
「というか、リンカねえさまがあなた達の事を探っているのですか? ちょっとそれについて、色々聞かせてもらってもいいですか? 強制的に」
やぶ蛇だった。
敵の計画を偶然無自覚に破壊するのは頭おかしい主人公の特権だと思います。
次回で一章のカルマン編が終了になります。二章は港湾都市ヨース編です。
大変ありがたいことに、水霞様よりカグラのファンアートをいただきました。
https://syosetu.org/?mode=url_jump&url=https%3A%2F%2Fwww.pixiv.net%2Fartworks%2F128604910
小さくて可愛いですねうおデッカ。
ありがとうございます!
感想には時間がなくて返信できていませんが、全て目を通しております。
いつもありがとうございます!
今後ともよろしくお願いします!